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アーツカウンシル東京ブログ

アーツカウンシル東京のスタッフや外部ライターなど様々な視点から、多様な事業を展開しているアーツカウンシル東京の姿をお届けします。

アーツアカデミー

アーツカウンシル東京の芸術文化事業を担う人材を育成するプログラムとして、現場調査やテーマに基づいた演習などを中心としたコース、劇場運営の現場を担うプロデューサー育成を目的とするコース等を実施します。

2018/02/07

アーツアカデミー2017レポート第6回:~中間発表~ 現場に根ざした問題意識と文化政策とをどうつなげるか?

アーツカウンシル東京が2012年から実施している「アーツアカデミー」。

1年を通してアートをめぐるリサーチを行いながら、東京都の文化政策や助成制度を知り、芸術文化活動の評価のあり方について考え、創造の現場が抱える問題を共有するアーツアカデミーは、これからのアートの世界を豊かにしてくれる人材を育てるインキュベーター(孵化装置)です。

当レポートでは、アーツアカデミーの1年をご紹介していきます。


調査研究員たちは、各自この一年に取り組む研究テーマを決めて1月の最終発表に向けた作業を進めています。10月10日は、ここまでの成果と問題意識をお互いに共有しあうため、各調査研究員による中間発表が行われました。

今年度のアーツアカデミー調査研究員は、劇団主宰者、劇場制作者、ダンサー、音楽家、批評家、研究者など、アートをめぐる様々な現場ですでに活躍していることもあり、それぞれが選んだテーマは、いずれも当事者としての深い問題意識に基づくものでした。

たとえば、首都圏の小劇場では、現在発表されている作品の数に対して創作のための稽古場と作業場の不足が指摘されており、「稽古場難民」という言葉も聞かれます。小劇場の公演を中心に制作に携わっている調査研究員は、「制作プロセスへの助成のあり方を考える必要があるのではないか」と問題意識を語りました。

「演劇批評は必要か」という問いを投げかけるのは、自らも演劇批評家として活躍する調査研究員です。たしかに近年、SNSの発達や演劇批評誌の減少に伴い、批評家の発言の場は少なくなってきています。「批評」の意義と新たな可能性の模索は、美術、音楽など他の分野においても重要なテーマといえそうです。

アートの領域では、近年、既存の展示施設とは異なる場を通じて、また公的な支援とは関わりなく自発的に生まれるアートの発信源「オルタナティブ・スペース」がよく話題となります。二人の調査研究員は、欧州諸国や東南アジアの事例、あるいはスキルや知見、人脈をシェアするビジネスのしくみを参考に、オルタナティブ・スペースの維持や発展についての提言を目指します。

このように、どの研究テーマも各自の日々の専門的な活動領域に深く根ざしているため、問題意識を語る言葉には重みと熱がこもっています。お互いの発表に対して意見を交わすなかで、その課題の背景と課題解決の意義、そして発表内容は専門領域の外にいる人が聞いても説得力のあるものになっているか等、精査すべきポイントが徐々に見えてきます。また、どの課題も深く取り組んでいけば、東京の芸術文化状況にジャンルを超えて潜在する問題に触れる部分がありそうです。この日も終了時間ぎりぎりまで熱心な議論が続きました。「このテーマには、共同で取り組んだほうがもっと深みと広がりが出るのでは?」「もっと問題点を整理しないと、多くの人を納得させられる提言にならないのでは?」など、調査研究員同士で厳しい意見が交わされました。

問題意識が明確となり提言の方向性が見えてきたら、ここから先はインタビューやメールでのアンケートなど各自が選んだ調査手法による、データ収集という実務的作業が待っています。種々の調査データを活用しながら、現在の芸術が直面しているさまざまな課題に対して、それをいかにして文化政策としての提言に結びつけていけるのか。最終発表は一般公開はしておりませんが、2018年(平成30年)1月30日に関係者を招いて行われます。ここからが、まさに研究の佳境といえそうです。

最終発表の模様は、当レポートの最終回でお伝えしますので、どうぞお楽しみに!

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