ライブラリー

アーツカウンシル東京ブログ

アーツカウンシル東京のスタッフや外部ライターなど様々な視点から、多様な事業を展開しているアーツカウンシル東京の姿をお届けします。

ACT取材ノート

東京都内各所でアーツカウンシル東京が展開する美術や音楽、演劇、伝統文化、地域アートプロジェクト、シンポジウムなど様々なプログラムのレポートをお届けします。

2024/10/23

街なかで伝統芸能を気軽に楽しむ「伝承のたまてばこ~多摩伝統文化フェスティバル2024~」

八王子をはじめとする多摩地域には、古くから行商人や旅人が往来する街道がいくつもありました。宿場町としても栄え、人々の往来によって文化交流が盛んになったことで、多摩地域には様々な伝統芸能や文化が地域に根づき、いまもなお時代や世代を超えて受け継がれています。
そんな多摩地域の伝統文化や芸能を街なかで気軽に体感できる「伝承のたまてばこ~多摩伝統文化フェスティバル2024~」が、2024年9月28日(土)、29日(日)に開催されました。

野外に設えられたステージで歌舞伎の演目や芸妓衆の舞踊を鑑賞したり、昔ながらの遊びを体験できたり。多種多様な催しもの(プログラム)を通じて、興味を持っている方はもちろんのこと、馴染みがなかった方たちも気軽にふれあいながら伝統芸能や文化を楽しめるフェスティバル。その2日目(29日)の様子をいくつかピックアップしてご紹介します。


華やかな衣装でお目見え~人力車「お練り」巡行~

JR八王子駅から徒歩3分ほどで到着した全長500mの商店街、西放射線ユーロードの入り口には、粋ないでたちの車夫さんが引く6台の人力車が並んでいました。人力車に乗るのは、このあと横山町公園で歌舞伎を上演する「秋川歌舞伎保存会 あきる野座」の演者たちです。

演目や演者をひとりひとり紹介する口上が終わると、拍子木(柝)の力強い鳴りを合図にお練りがスタート。歌舞伎化粧をし、艶やかな衣装を身につけた役者姿を日頃はなかなか目にする機会がないだけに、商店街のなかを人力車で巡行する一行に興味津々といった様子で道を空け、家族連れや若者たちなど、世代を超えて多くの人たちが足を止め見物していました。

秋川歌舞伎|仮名手本忠臣蔵 三段目 足利館 松の間刃傷の場

明治32(1899)年に秋川市(現あきる野市)の二宮神社で始まった「二宮歌舞伎」。その復活と伝統継承を目指し、平成4(1992)年に発足された「秋川歌舞伎」は、平成12年(2000)年に東京都無形民俗文化財に認定されました。
あきる野座が上演する演目は、「三番叟」と義太夫三大狂言のひとつ「仮名手本忠臣蔵」の三段目「足利館 松の間殺傷の場」。開演前には舞踊や歌舞伎を知らない方たちにもこれから始まる舞台を楽しめるようにと、「三番叟」はもともと五穀豊穣を祈願する狂言の神事舞だったことや「忠臣蔵」の大まかなあらすじ、登場人物たちの関係など、とてもわかりやすい説明がありました。

ひとつひとつの振り付けが重要な意味を持つ「三番叟」や、動きにくい長袴姿での演技や長台詞などが披露される「忠臣蔵」は、それらを覚えるだけでも大変なのに、舞台に登場した役者たちの演技はとても素晴らしいものでした。あきる野座は、学生や会社員など職業も様々、年齢層も園児から80代までと幅広い座員たちが役者だけでなく裏方までも務め上げているとのことで、秋川歌舞伎125年の歴史が、芸や文化を磨き続ける保存会の方々によって大切に紡がれてきたことがうかがえました。

茶会~街なかで日本のおもてなし~

ユーロードから少し脇道に入ったところにある桑都テラスの特設ブースでは東京都立大学茶道研究会の大学生たちによる野点(のだて|屋外でお茶を楽しむ茶席)が開かれていて、参加者たちにお抹茶と和菓子がふるまわれていました。朱色の大傘やコスモスとワレモコウが活けられた竹籠の花入れなど、風情あるしつらえからは、茶会を主催する大学生たちのおもてなしの心が伝わってきます。
茶室や和室などで行われる茶会では作法が細かく決まっていますが、野点は肩の力を抜いてカジュアルに楽しめることもあり、子供たちも参加していました。こうした体験がお茶に親しむことや茶道に興味を持つひとつのきっかけになれば、私たちの日常の中に自然と伝統文化が育まれていくのだと思いました。

八王子芸妓衆の華と粋~艶やかにおもてなし~

八王子には今でも多摩地区唯一の「花街」が残っていて、芸妓さんたちはお座敷だけではなく、様々なイベントにも出演し、日頃から八王子の花街文化継承に貢献しているそう。八王子では13名の芸妓さんが今も活躍されていて、「伝承のたまてばこ」で行われる公演には10名の芸妓さんが参加されていました。
中町公園の特設ステージ前に用意された椅子は開演前から満席。人力車でのお練り巡行を終えた芸妓さんたちが到着すると、さらに人だかりができ、人気の高さがうかがえました。

開演時間になると、特設ステージ横の山車で芸妓さんの長唄と鳴り物(三味線、太鼓、笛)の生演奏が始まり、艶やかな着物姿の芸妓衆による華やかな踊りが次々と披露されました。秋の踊り「秋の七草」では、5人の芸妓さんが舞っていると、どこからか虫の音が聞こえてきたのですが、実は山車の芸妓さんのひとりが小さな笛を吹き、虫の鳴き声を模していたのです。和楽器にこのような虫の音を出す笛があるのを初めて知り、とても興味深かったです。

体験コーナー|昔も今も子供の遊び/織物体験~昔と今とが織りなす世界~/音響彫刻『Kinon』の旅~音の鳴るひろば in たまてばこ~

ユーロードにはいくつもの特設テントが並び、「八王子お手玉の会」によるお手玉作りをはじめ、昔なつかしい独楽まわしやけん玉、大正時代から使われてきた、八王子で作られた手織り機を使う機織り体験ができるプログラムなどが用意され、どのコーナーにもたくさんの子供たちが参加していました。ほかにも椿や檜の枝、解体したビルの破片を使用して製作された楽器を自由に演奏できるコーナーもあり、大人と一緒に楽器を楽しそうに叩いている子供たちの姿がとても微笑ましかったです。8回目の開催となる「伝承のたまてばこ」の今年度のテーマは「あそぶ、たまてばこ」ですが、このコーナーには“あそぶ、たまてばこ”がいくつもありました。

八王子車人形・薩摩派説経節~魂宿る車人形~

横山町公園の特設ステージに向かうと、170年の歴史を持つ人形芝居「八王子車人形」の公演が始まりました。令和4年(2022年)に国の重要無形民俗文化財に指定された「車人形」を、まち中の特設ステージで、こんなにも至近距離で鑑賞できるなんて!
文楽では1体の人形を3人の遣い手で動かすのですが、八王子車人形は3つの車輪がついた「ろくろ車」をいう装置を使い、それに腰かけた1人が人形の手足や身体を操ります。

演目は西川古柳座による人形遣いと説経節の会の薩摩派説経節による“安珍・清姫”の悲恋物語。思いを寄せた僧の安珍に裏切られた清姫が大蛇になって川を渡って彼を追っていくシーンでは、川に見立てた大幕や波に揺れる船が登場するなど、迫力ある背景や場面転換も見どころのひとつ。
太夫の説経節に合わせて動く人形たちの動きは、遣い手の足が人形の足の踵につけられたカカリを挟み、右手で人形の右手と人形の左手に付けた輪状の紐、左手で人形の左手と首、さらに指で目、口、眉まで動かすという仕掛けになっているのだとか。そのようにして遣い手が人形を動かしているとわかっていても、舞台上で感情をあらわにしていく清姫は、まるで魂が吹き込まれて生きているかのよう。そんな人形たちの姿を舞台の近くで微動だにせず食い入るように見つめていた子供たちの姿もとても印象的でした。

“たまてばこ”には大事なものが詰まった箱という意味があるそうです。まさに「伝承のたまてばこ」は、多摩地域の方たちが何百年も前からずっと大切にしてきた伝統文化や芸能を受け継ぎ、それらを未来へつなげていきたいという熱い思いが詰まっている“たまてばこ”だと思いました。と同時に、「伝承のたまてばこ」が担う役割の大きさ、素晴らしさをあらためて感じました。


伝承のたまてばこ~多摩伝統文化フェスティバル2024~
・日程:2024年9月28日(土)・29日(日)
・会場:JR八王子駅北口エリア 西放射線ユーロード、中町公園、横山町公園、まち・なかギャラリーホール、桑都テラス、網代園・南側カフス蔵ほか
・主催:公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京/八王子市/公益財団法人八王子市学園都市文化ふれあい財団
・イベントページ:https://www.artscouncil-tokyo.jp/ja/events/68579/


撮影:中山裕貴
取材・文:松浦靖恵

最近の更新記事

月別アーカイブ

2024
2023
2022
2021
2020
2019
2018
2017
2016
2015
2014
2013
2012