作品の舞台は、2015年秋に新聞を賑わせた横浜の「傾きマンション」。唯一の賃貸住人であった若い夫婦はすんなりとマンションの欠陥を受け入れ、退去を決める。ただしその判断は寛容さからではない。あるいは卑屈さからではない。その理由としてあり得るのは「穏やかな不安」と呼べそうな彼らの日常的な態度である。「不況しか知らない」と形容される1980年代後半以降に生まれた世代が手にした“熱をもたない”不安感は、どこまでも現実的な生き方を選び取っていく。彼らが男女間の愛情に持ち込んだある在り方〈不安と共にあるためのノウハウ〉を通して、偏見と妄想に浸った「普通の生き方」の不誠実さを露見させる。
【新聞家(しんぶんか)】
演劇作家の村社祐太朗による演劇カンパニー。2014年から都内で活動を本格化し、翌年には関西進出を果たす。3331千代田芸術祭2014パフォーマンス部門で中村茜賞を受賞。「テキストを真に現実的に扱う」ということを、人が現実において他者と真に対話する困難さと重ね合わせ、作品制作を行っている。また2016年4月からは〈真の対話は偏見と妄想によって阻害される〉という問題意識に端を発し、毎週金曜の夜に15分ほどのコメディを上演する「連続演劇」を中目黒にて開始。朧気な一人語りを毎週積み上げて物語が育っていく中、「語り」を偏見無く聞き続けるとはどういうことか、という問いを観客に投げかけている。
新聞家
主宰:村社祐太朗
e-mail: yutaromurakoso@gmail.com
NICA(東京都中央区)
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