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東京芸術文化創造発信助成【長期助成】活動報告会

アーツカウンシル東京では平成25年度より長期間の活動に対して最長3年間助成するプログラム「東京芸術文化創造発信助成【長期助成】」を実施しています。ここでは、助成対象活動を終了した団体による活動報告会をレポートします。

第19回東京芸術文化創造発信助成【長期助成】活動報告会「文化生態かんさつ~創作の在り方と多様性について、時間・空間・人間(じんかん)から考える~」(前編)


開催日
2025年12月18日(木)19:00~21:00
開催場所
アーツカウンシル東京
報告団体
円盤に乗る派、合同会社UPN
登壇者[報告者]
円盤に乗る派
カゲヤマ気象台(劇作家・演出家/円盤に乗る派代表)
日和下駄(俳優/円盤に乗る派プロジェクトメンバー)
合同会社UPN
坂田ゆかり(演出家/合同会社UPN代表・テラジアメンバー)
渡辺真帆(ドラマトゥルク/合同会社UPN共同代表・テラジアメンバー)※ビデオ登壇
稲継美保(俳優/テラジアメンバー)
コメンテーター
大澤寅雄(合同会社文化コモンズ研究所代表・主任研究員)
グラフィックレコーディング
阿良田蓉
手話通訳
石川ありす、小原郁子
司会進行
立石訓人(活動支援部助成課 シニア・プログラムオフィサー)

今回の報告会は、東京芸術文化創造発信助成【長期助成】で採択された団体の活動報告をとおして、創作のきっかけや成果・課題を参加者と共有し、今後の活動のアイデアとすることを目的として行われた。報告を行った2団体は、作品創作のためのリサーチなど創作プロセスも含めた芸術創造活動に対して最長3年間の支援をするカテゴリーIIの助成を受けた団体で、コロナ禍によって社会が変化した同時期に、それぞれ異なるアプローチをしながら新たな創作の在り方について考え、取り組んだ団体である。

登壇したのは、2021年度から助成を受けた「円盤に乗る派」と、2022年度から助成を受けた「合同会社UPN」の2団体である。共同アトリエの運営を中心に、地域コミュニティも巻き込んだプロジェクトを実施した円盤に乗る派と、国際的協力関係の下で独自の広がりをみせるプロジェクト『テラジア』を展開する合同会社UPNが、それぞれの形で創作に取り組んだ様子を報告した。

報告会はニ部構成となっており、第一部では各団体から活動内容の報告が行われた。第二部では、各団体の活動報告を受けて、合同会社文化コモンズ研究所の大澤寅雄をコメンテーターに迎え、参加者からの質問も交えながら、トークセッションを行った。トークセッションでは、時間・空間・人間(じんかん:人と人との関係性を指す造語)という3つの切り口から、各団体の活動の振り返りや、論点の探求が行われた。それぞれの団体が助成を受けた期間が、コロナ禍と切り離せない時期だったこともあり、コロナ禍以前の創作環境とコロナ禍以降の創作環境の変化についても話題に挙がった。

第一部:活動報告

円盤に乗る派「円盤に乗る場」(令和3(2021)年度採択事業/3年間)

現代社会における芸術文化の意義を刷新するような新たな言説の創出を目指し、円盤に乗る派のアトリエ及びそのウェブページをプラットフォームとして複数の芸術家の創作の過程、アイデアの実験、交流の様子等、通常は表に出ない部分を公開する取り組みを行った。円盤に乗る場参加団体の活動報告会、発表会(「NEO表現まつり」、「NEO表現まつりサテライト」、「NEO表現まつりZ」)、創作過程を掲載したフリーペーパーの発行、3年間の取り組みをまとめた冊子制作を行い、個々の芸術家がそれぞれの興味・問題意識をベースに、互いに刺激を与え合いつつ交流し、さらに具体的な取り組みを繰り返しながら、それぞれ従来の手法を超えた新たな表現方法を模索した。
https://noruba.net/

登壇者(左から):日和下駄、カゲヤマ気象台(撮影:kabo)

創造的な鑑賞体験とは

今回の活動報告会では、円盤に乗る派から代表で劇作家・演出家のカゲヤマ気象台(以降:カゲヤマ)と、グループ内で助成事業を推進する役割を担った俳優の日和下駄(以降:日和)が発表を行った。円盤に乗る派は、「複数の作家、表現者が一緒にフラットにいられるための時間、あるべきところにいられるような場所」(カゲヤマ)というコンセプトで活動を展開しており、「円盤に乗る場」という共同アトリエを2021年から運営している。この場所は、アトリエでありつつ、アーティストのコミュニティという意味合いも大きい。今回の発表の中心となる「NEO表現まつり」は、円盤に乗る派が円盤に乗る場という共同アトリエ・コミュニティをプラットフォームとして行った事業の一つである。

「円盤に乗る場というアトリエを通してより大きな事業ができるのではないかという思いが助成を受けたプロジェクトの着想の源になった」と、カゲヤマは言う。利用するメンバーのゆるやかな共同性をもとに特色ある運営を行っているアトリエを、外部の人に開くこと自体が表現活動になるのではないかと考えたという。元々、アトリエはオープンデーという形で定期的に開放していたが、より大きなものを実施したいという意識が運営側の中で芽生えてきた。「アトリエ自体がオープンデーっていう形で月に1回とかですね、一般の人でも来れるようなイベントっていうのを定期的に開催してはいたんですけど、やっぱりどうしてもちょっと小規模なイベントの連続のような感じになるので。何かそうじゃなくてもっと大きくですねドンとやっていくっていうのをやってみようということで今回のプロジェクトに至りました。」(カゲヤマ)

登壇者:カゲヤマ気象台(撮影:kabo)
活動報告スライドより(作成:円盤に乗る派)

こうした構想を抱く背景には、「アトリエ」という場に対するカゲヤマなりの考えがあった。アーティストの視点から見たとき、アトリエは創作する場であり、演劇の稽古場という意味ももっているが、利用するアーティストを中心とするコミュニティでもある。このようなゆるやかな連帯に支えられたアトリエという場所では、普段できないことをしようと背中を押されることがある。「ちょっとやってみたいんだけど、1人だとなかなか大変だなみたいなことも、コミュニティとしてのアトリエがあることによって実現ができるようになる。そうしたことを期待してやっています」(カゲヤマ)。劇場と劇場といった環境で観客を前にして公演を行う手前にある、そこまで気負うほどでもないが、やってみたいこと・実験してみたいことが、コミュニティとしてのアトリエでは実現できるのではないか。また、創作に関わる悩みだけでなく、経済的な問題、時には精神的な問題もシェアすることのできるコミュニティが、アトリエという形で実現できるのではないかという思いもカゲヤマにはあった。「観客の視点から見たとき、アトリエは特別な鑑賞体験が生まれる場所だといえるかもしれない」と、カゲヤマは言う。アトリエでは劇場空間や一般的な展示空間とは異なる形での作品との出会いが提供できるのではないか。受動的な形ではなく、心の中で創作的な何かが湧き上がってくるような鑑賞体験を引き起こすことができるのではないか。アトリエの利用者であるアーティスト側、アトリエを訪れる観客側の両面から、カゲヤマは新しい形でのアトリエの活用方法を構想した。

活動報告スライドより(作成:円盤に乗る派)
活動報告スライドより(作成:円盤に乗る派)

活動の昇華:「まつり」への着目

カゲヤマの構想をもとに活動を開始し、半年が経った段階で活動報告会が行われた。そのあと、日和が事業を推進していく形となった。日和は沢山の活動を並行して行うことはできないという制約の中、活動の方向性を集約する必要を感じ始めていた。そこで、カゲヤマの構想をもとに、「まつり」という形で具体的目標を設定することにした。日和が事業の中心になった頃には、共同アトリエである円盤に乗る場の位置する荒川区西尾久地域に住む人々とのつながりができ、利用可能なスペースにも見当がついていた。「地域の人々とは、”干渉しないけれど、協力的な』関係を結ぶことができていた”と日和はいう。そして地域とのネットワークを活かしつつ、具体的なイベントとして実を結んだのが、2023年に開催した「NEO表現まつり」および2024年に開催した「NEO表現まつりZ」である。

登壇者:日和下駄(撮影:kabo)

「まつり」という形で活動が昇華していったのには理由がある。「まつりって屋台が並んでいますけど、屋台って売っているものは全然違う。けれども、同時に同じ空間にある。これはいろんな意思があるものが並んでいても大丈夫だっていうことだなと思った。あとは神事とかを行うと思うんですけど、神事って具体的に喜びを与えるかは別にして、ある世界に対して必要なことをやっているのだと思っています。これは、必ずしもみんなにとってわかりやすいわけではない作品を作っている円盤に乗る派や円盤に乗る場参加アーティストの作品作りとも近いと感じたんです」(日和)。「NEO表現まつり」ではそれぞれのアーティストが自らのスキルを活かした形で出しものを考える。円盤に乗る派はゆるやかに全体を見渡しているが、個々のアーティストの活動に指示を与えるわけではない。また、まつりは出展者だけでなく、参加者がいてこそ成立する。これは、観客が参加する形で創造的な鑑賞体験を行うという当初の目標とも合致した。

「NEO表現まつり」という名前にも工夫がある。過去を否定するようなニュアンスを持つ「NEW」という言葉ではなく、過去をゆるやかに継承しつつ新規性も抱くような「NEO」という言葉を用いることにした。「皆で考えて『NEO表現まつり』という名前にしました。”NEO”は”NEW”とは違ってこれまでの活動を引き継ぎ、引き継ぎつつ新しいことをやるという意味があると思うので。そして、”芸術”を使わないというのが結構大事だなと思っていたから”表現”という言葉を使いました」(日和)。「芸術」とも「作品」とも違う、けれども各アーティストが有するスキルを活用したことを示すことのできる「表現」という言葉をあえて用いるという意思決定が、「NEO表現まつり」の背景にはあった。

活動報告スライドより(作成:円盤に乗る派)
活動報告スライドより(作成:円盤に乗る派)
活動報告スライドより(作成:円盤に乗る派)
活動報告スライドより(作成:円盤に乗る派)

「NEO表現まつり」は年々規模を大きくする構想で始めた。拡大する事業を支障なく運営するためには、チームビルディングを強化する必要があった。最終的に、2024年に開催した「NEO表現まつりZ」には約600名が集まり、一定の成果を実感することができた。ただ日和は、「NEO表現まつり」はあくまで自然発生的に生まれたものだという。置かれた状況や自分たちのリソースをもとに展開していった結果、「まつり」という形にたどり着いたのだという。

自己評価について

「NEO表現まつり」を実施したことに対して、当事者である日和とカゲヤマはどのように考えているのだろうか。日和は「僕の評価としては、何か大きなことになっちゃったなっていうのが率直なところです。そもそもまつりをやることは、この事業を助成申請したときには決めていなかった。置かれた状況から考えた結果、まつりになったっていうのが大きい。自分自身も、ある種、事業に巻き込まれている感じがあります」と振り返る。助成をきっかけにしつつも、自然発生的にまつりという出来事・表現が生まれたことが重要だったということだろう。カゲヤマ「形にならないものをいかに形に出来るのかということを、最初のコンセプトで立てていた。劇場とか、美術館とかで出す作品ってのは、一つの形式としてあるのだけれど、アトリエにある状態っていうのは、まだ形になってないものなわけです。アトリエにある段階の形になってないものをいかに世の中に出して、それがちゃんと人から見ていいものだってなるような形にするっていうのが、この事業の目的だったんじゃないかと、振り返ってみると思うんです」と語る。まつりという形式は、アトリエと劇場の中間にあるような発表の場といえるのかもしれない。

活動報告スライドより(作成:円盤に乗る派)
活動報告スライドより(作成:円盤に乗る派)

なお、「NEO表現まつり」、「NEO表現まつりZ」の様子は、以下のアーカイブで参照することができる。
NEO表現まつり:https://noruba.net/neo-hyogen-festival/
NEO表現まつりZ:https://noruba.net/neo-hyogen-festival-z/

合同会社UPN「テラジア|隔離の時代を旅する演劇」(令和4(2022)年度採択事業/3年間)

新型コロナウイルスの世界的な流行とともに始まった新時代の国際協働プロジェクト。日本・タイ・ミャンマー・ベトナム・インドネシアのアジア各地で現代の信仰や死生観をテーマとした作品『テラ』を展開した。インドネシア滞在リサーチ、映像作品の制作、国際フェスティバルの開催、「テラジア」のアーティストを対象としたインタビュー等(日英)のウェブ公開、ドキュメンタリーブック電子版の制作を行い、「互いに異なる文化をどのように尊重するか」「離れていても協働は可能か」「困難な状況下でいかに連帯し関わり続けることができるか」という問いに対して、芸術を介してこれからの時代の国際パートナーシップにおける一つのモデルケースを社会に示すことを目指した。
https://upn-jp.com/

登壇者(左から):稲継美保、坂田ゆかり(撮影:kabo)

隔離の時代を旅する演劇

「テラジア」と呼ばれる国際的なパフォーマンスプロジェクトを行った合同会社UPNからは、代表で演出家の坂田ゆかり(以降:坂田)と俳優の稲継美保(以降:稲継)が登壇し、共同代表でドラマトゥルクの渡辺真帆(以降:渡辺)はビデオで登壇した。

「テラジア」とは国際的なプロジェクトの名前でもあり、プロジェクトを実施するアーティスト・コレクティブの名前でもある。このプロジェクトの中心的な問いは、「国境をまたぐ移動をせずに、国際共同制作は可能か」というものである。従来は、国際的フェスティバルに作品を出品し、開催地で関係者が一緒に稽古をして創作するといった形が一般的であった。こうした従来型の国際共同制作モデルに対して、「テラジア」はコロナ禍で移動が制限される中、どのような形での創作が可能なのかを探索するプロジェクトだった。「テラジア」がたどり着いた答えは、人が移動できないのであれば、作品に旅をさせればよい、というものである。

活動報告スライドより(作成:合同会社UPN)

「テラジア」の活動は、2018年から2019年にかけての「テラジア前史」、2020年から2022年にかけての「オンライン期」、2022年から2023年にかけての「オンサイト期」、2024年から2025年にかけての「SuaTERASIA」の大きく4つの時期に分けて考えることができるという。このうち、助成を受けたのは2022年度に入ってからのオンサイト期以降の活動になる。

活動報告ビデオプレゼンテーションより(作成:合同会社UPN)
登壇者:坂田ゆかり(撮影:kabo)

まず、「テラジア」の活動を理解するためにも、「テラジア前史」からみてみたい。「テラジア」の原型になったのは、2018年のフェスティバル/トーキョー※1で上演された『テラ』という作品だった。坂田は「劇場ではなく、実際の寺院で上演されたこの作品は、仏教的要素を多く含み、”わたしたちは何者か””何を信じ、どこに向かうのか””生きるとは、死ぬとは?”といった問いを喚起するものだった。死生観や信仰のあり方といった文化・宗教に関わる人間の核になるような問いかけが作品の中心にはあった」と語った。

活動報告スライドより(作成:合同会社UPN)
活動報告スライドより(作成:合同会社UPN)

『テラ』は国際的な移動の中で変化していった。まず、2019年にチュニジアのカルタゴ演劇祭※2でも上演されることになる。その後も海外ツアー公演の機会を探っていたところに、新型コロナの流行が始まった。「また渡航ができるようになったら」と、渡辺がタイの演出家に現地での『テラ』共同制作を提案したところ、「自分たちでやりたい」という予想外の申し出があった。この申し出は、通常の上演の許諾を求めるようなものではなく、タイのアーティストたちの解釈で、タイの寺院で上演するという改変を前提としたもので、ここから「人の代わりに作品が旅をする」というコンセプトが生まれた。

活動報告ビデオプレゼンテーションより(作成:合同会社UPN)
登壇者(左から):渡辺真帆、稲継美保、坂田ゆかり(撮影:kabo)

オンライン期に「テラジア」はオンラインミーティングなどを積極的に活用し、海外のアーティストとのつながりを深め、活動の輪を広げていった。コロナ禍で演劇に関わる人々が移動するのは難しかったため、作品の台本と映像を共有し、参加アーティストが現地の社会的文脈に合わせて大胆に作り変え、上演する。各地でのクリエーションに対しては、日本のメンバーはほとんど口を出さなかったという。「各地で上演を行うだけでなく、オンラインのプラットフォームを使って各々のリサーチ結果を発表するなど、小さなフェスティバルのような機会も設けていた」と渡辺は言う。

※1 フェスティバル/トーキョー・・・フェスティバル/トーキョーは、東京芸術劇場をはじめ池袋エリアに集積する文化拠点を中心に開催された、日本最大級の舞台芸術のフェスティバル。2009年から2020年までに13回開催され、先鋭的なラインナップとフェスティバルならではの参加型プログラムで大きな話題を集め、東京、日本、そしてアジアを代表する国際舞台芸術祭として開催された。
※2 カルタゴ演劇祭・・・チュニジアで開催される国際演劇祭。芸術家や劇団が作品を発表し、アイデアを交換し、演劇芸術を称えるためのプラットフォームとなっている。この祭典では、演劇作品、公演、ワークショップ、ディスカッションなど幅広いプログラムが用意されている。

オンラインからオンサイトへ

コロナ禍によってオンラインでの交流が強いられるなか、インドネシアから「テラジア」に参加していたディンドンW.S.はコロナ禍が収束した後の時期に対する明確なビジョンを持っていたという。「2023年頃には、コロナ禍は収束しているだろうから、『テラジア』のサミットをインドネシアでやろう、という話をしていました」(渡辺)。オンサイト期を見つめた発言は、「テラジア」のメンバーがオンライン期でも活動を継続し、未来を見据える上で重要なものだったという。

活動報告ビデオプレゼンテーションより(作成:合同会社UPN)
登壇者:稲継美保(撮影:kabo)

2022年には「テラジア」のメンバーはインドネシアで一堂に会することになる。「オンサイト期」の始まりである。インドネシアでは「テラジア」のメンバーのひとりであるディンドンW.S.が主催するTeater Kubur(テアトル・クブール、墓場劇場)を見学したり、オンラインでやり取りをしてきたメンバーがひざを突き合わせて議論を重ねたりした。実際に会うことで、やりたいことのアイデアが爆発的に増加し、オンラインウィークを開催することになった。このオンラインウィーク期間中には、ヤンゴン、チェンマイ、ジャカルタ、東京での対面のイベントも同時に行われた。「今までは何となく元の『テラ』をやっていた日本の私達が『テラ』とは何か、『テラジア』とは何かというプレゼンをすることが多かったんです。ただ、このテラジアオンラインウィーク2022とオンサイトでのイベントを通して、それぞれの思っている『テラジア』の形を、それぞれの場所でそれぞれのお客さん達に対しても紹介していくっていうことができました」(渡辺)。これ以降、対面のイベントをそれぞれの地域で強化することになった。2024年1月、2025年1月の2回に分けて開催された「テラジア」に参加するアーティストが一堂に会する「Sua TERASIA」(Episode 1、 Episode 2)という芸術祭は、オンライン期から続く「テラジア」の活動の結晶である。「プロジェクトの最後に、グヌン・パダン(Gunung Padang)という巨石遺跡があるんですけど、満月の夜にここにみんなで登って、一夜を共に過ごしました。実はこれも、2020年か21年頃からディンドンさんが、描いていた青写真だったんです。この経験をみんなで共有して、一旦の隔離の時代の共同制作に終幕を迎えたという形です」(渡辺)。

活動報告ビデオプレゼンテーションより(作成:合同会社UPN)
活動報告ビデオプレゼンテーションより(作成:合同会社UPN)

長期助成と作品の変容

3年間という長期にわたる助成期間の間に、プロジェクトはダイナミックに変化をとげる。プロジェクトに初期から参加する稲継は、俳優としての自分にとって長期の助成がいかに重要だったかを2つの点から振り返った。まずは、帰る場所があるという視点である。「長期でプロジェクトを発展させていくと、出産などのライフイベントで一度離脱しても戻って来れるっていうのがある。やっぱり俳優って一度現場から離脱しちゃうと、なかなか簡単には戻れないので、戻る場所があって、その場所が共通する言語を共有している人たちによって作られていたのは大きい」と振り返る。また、自分が演じた京極光子というキャラクターについても海外のプロダクションから大きな刺激を受けたという。「キャラクターは、新解釈で全く別のものと言っていいくらい作り変えられていました。けれども、明らかに自分がやったことがそこに受け継がれていて、それを見て、自分が改めて新しいバージョンを作るという創作のあり方が初めての経験でした」(稲継)。

長期にわたる国際的な創作の場は、稲継をはじめ、参加者一人一人にとっても重要な影響を残したようだ。
参考:テラジア 隔離の時代を旅する演劇:https://terasia.net/

活動報告スライドより(作成:合同会社UPN)

(構成・文:岡俊一郎)

第19回東京芸術文化創造発信助成【長期助成】活動報告会「文化生態かんさつ~創作の在り方と多様性について、時間・空間・人間(じんかん)から考える~」(後編)につづく


プロフィール

円盤に乗る派

「複数の作家・表現者が一緒にフラットにいられるための時間、あるべきところにいられるような場所」を作るための演劇プロジェクトとして2018年にスタート。劇場を訪れ、帰っていくまでに体験する全てを「演劇」として捉え、冊子の発行やさまざまなイベントの開催など、上演作品の発表だけにとらわれない活動を展開している。2021年にはコミュニティとしての共同アトリエ「円盤に乗る場」を設立し、表現にまつわる新しいつながりを探究している。近年の上演作品に『仮想的な失調』(2024年、東京芸術祭 2024プログラム)など。現在のメンバーはカゲヤマ気象台(劇作家・演出家)、日和下駄(俳優)、畠山峻(俳優)、渋木すず(アドバイザー/ウォッチャー)の4人。

合同会社UPN

フリーランスとして活動してきた坂田ゆかり(演出)と、渡辺真帆(ドラマトゥルク・通訳・翻訳)が、分野横断的な文化芸術事業を行うため組織した法人である。アートイベントの企画運営、作品制作、編集・出版など、領域にとらわれない活動を展開している。