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東京芸術文化創造発信助成【長期助成】活動報告会

アーツカウンシル東京では平成25年度より長期間の活動に対して最長3年間助成するプログラム「東京芸術文化創造発信助成【長期助成】」を実施しています。ここでは、助成対象活動を終了した団体による活動報告会をレポートします。

第19回東京芸術文化創造発信助成【長期助成】活動報告会「文化生態かんさつ~創作の在り方と多様性について、時間・空間・人間(じんかん)から考える~」(後編)


第19回東京芸術文化創造発信助成【長期助成】活動報告会「文化生態かんさつ~創作の在り方と多様性について、時間・空間・人間(じんかん)から考える~」(前編)はこちら

第二部:トークセッション

トークセッションのグラフィックレコーディング(作成:阿良田蓉)
トークセッションの様子(撮影:kabo)

第二部は、円盤に乗る派の2名と合同会社UPNの会場参加した2名に文化政策・アートマネジメントを専門とする合同会社文化コモンズ研究所代表の大澤寅雄(以降:大澤)を加えてトークセッションが行われた。トークセッションにあたっては、時間・空間・人間(じんかん)という3つの切り口が提示され、3つの着眼点から2つの事業について、大澤が質問を行う形式で進行した。トークセッションに入る前に、大澤が円盤に乗る派や『テラジア』に関わったアーティストと個人的なつながりがあると述べ、なごやかな空気で始まった。

時間:長期助成について

登壇者:大澤寅雄(撮影:kabo)

まずは、「時間」についての議論が行われ、長期助成のプログラムに関する質問が投げかけられた。3年間の長期にわたる創作活動を支援する助成は珍しい。3年間という時間で事業は計画通りに進んだのか。計画通りに行ったとしたらどのくらい計画通りだったのか。イメージしていた景色と振り返って見える景色はどのように異なっているか。大澤から2団体に対して問いかけがあった。

円盤に乗る派のカゲヤマは「3年という時間は演劇作品を創作する時間としては長いが、スタジオの運営のような場を構える時間としては短いと考えていた」と語った。場がどうなるかはわからないが、場が変化していくこと自体は予期していたという。カゲヤマの発言を受けて、日和は「カゲヤマが示したコンセプトを実現することが重要であって、計画の細部は変化するものだと考えて事業を実施していった」と語った。つまり、“着地点は変わっていないが、着地までの方法が決まっていない状態”だったという。円盤に乗る場という共同スタジオでの実践を成果として発表し、言説として残る状態にすることが目標にあったため、それを実現するための具体的な方法を考えていく日々だったという。

「テラジア」に関して、坂田は「初期にやりたいと思ったことは、3年経って叶ったんじゃないかなと思うことが大きいですね」と語った。先にも触れたように、コロナ禍がいつあけるのか見通せない時期に、「テラジア」メンバーのひとりであるインドネシアのディンドンW.S.が明瞭なビジョンを持っていたことは大きな支えになったという。加えて、暗中模索の中、現在の形までプロジェクトが進展することができたのは、3年という長期助成があってこそのものだったとも語った。3年という長期助成の期間のうちに、変化をするのはプロジェクトだけではない。3年間という時間はプロジェクトの参加者自身にも大きな変化をもたらす期間である。稲継は「やっぱり人間を1人増やしたってのが、すごい変化ですよね」とユーモラスに語った。先にも触れたように、稲継は助成期間中に出産を経験し、演劇の現場から離れる時期があったという。しかし、キャリアの中断の後でも戻ってくることができたのは、長期助成によって活動の場が守られていたからだと、俳優としての立場から真摯な言葉で振り返った。

トークセッションの様子(撮影:kabo)

時間:計画変更について

大澤から「計画変更のために、アーツカウンシル東京に何回ぐらい相談したのか。長期助成に関して、どのぐらい計画が変わることを、助成元とやり取りをしたのか」という、将来の申請者も視野に入れた、助成の実情に踏み込む質問があった。

これに関して円盤に乗る派の日和は「事業の主旨は変えられないが、事業として何を行うのかは変更の余地がある」という認識でプロジェクトを進めていたと語った。1年目は計画書に記載した事業を行い、2年目は現状に合わせて主旨に則った計画に変更したという。そのため、2年目の計画変更が最も大変だったという。3年目は2年目に行った事業を拡大する形で計画を練り、順調に活動を拡大できたそうだ。「テラジア」は、当初は細かく変更申請をしていたが、助成担当からのアドバイスもあり、2年目と3年目からは、目標は大きく立て、活動をその中に収めるように組み立てていったと語った。

支援する側に立つアーツカウンシル東京の立石からも補足があった。長期助成ということで、目的に向かって一直線に進むのではなく、紆余曲折し、途中経過やチェックポイントは、当初予定していたところから変わりうるものだと一定の認識を共有している。ただ、最終的なゴールや目標が、申請した内容と合致しているかどうかは、長期助成の上で重要なポイントになるという。

時間:コロナ禍での創作活動

続いて「時間」という切り口から、コロナ禍での創作について質問が飛んだ。これまでの創作活動の中で流れていた時間と、コロナ禍での創作の中で流れていた時間はどのように違ったのだろうか。

カゲヤマは「コロナ禍が1年あるいは2年先には収束するだろうという見込みを持って活動し、適宜、状況に合わせて軌道修正するような形で創作を進めていた」と語った。“今はコロナ禍だから表現活動ができない、できるようになってから活動を再開しよう”というマインドセットではだめだと思っていたという。日和は、円盤に乗る場ができたのがコロナ禍中であることに触れ、当初の計画がコロナ禍で再考をせまられたと語った。当初は、パーティなどを通して関係性を深めることを想定していたが、そのような形でのアトリエ運営は不可能だったと振り返った。

坂田は『テラ』と「テラジア」での創作の在り方の違いについて述べた。『テラ』を初演した際には、創作期間は2か月ほどだったという。関係者が集まって稽古もできる環境だった。一方で、「テラジア」の創作の際には、集まること自体が大変なものだった。せかされながら、即興的な感覚で、1日や4日といった短い期間で完成させることが求められていたという。

また、坂田はコロナ禍とコロナ禍以後の時間感覚の変化にも言及した。コロナ禍には、参加メンバーに時間のゆとりがあり、オンラインミーティングもスムーズに設定できたという。しかし、今では、みんな忙しくなってしまい、なかなかオンラインミーティングを設定することができないという。逆説的に聞こえるかもしれないが、今では、直接会ったほうがやりやすいとすら感じているという。

オンラインに戻りたいかという質問に対する2団体の反応は大きく分かれた。「テラジア」側の反応は明確で、今は考えていないというものだった。一方で、円盤に乗る派は、私たちを取り囲むメディア環境は演劇を構成する一部だという認識を示した上で、ネットを介して常に接続している状況にあることを劇場での公演と結びつけることはあるかもしれないと答えた。

空間:上演の場所

会場に貼られた「テラジア」の紹介ポスター(撮影:kabo)

大澤から、今回報告を行った2団体は、「演劇・舞台芸術を専門としながらも劇場という場所とは離れた場所で活動を行っているのではないか。」という言及がなされた。劇場という場所についてどのように考えるのか、2団体にとっていまだに劇場という場所は魅力的な場所なのかという問いかけが行われた。

カゲヤマ曰く、円盤に乗る派にとって、劇場はいまだに重要な場所であるという。一方で、劇場以外にも演劇的な経験ができる場所があるというのが、円盤に乗る派の活動の指針となっている。その意味で、共同アトリエである円盤に乗る場のような場は重要だという。アトリエには、完成品を作る過程が常にある。また、アトリエは半分は開いているが、半分は閉じてもいる。このような場所から表現を広げていくときに、鑑賞環境を劇場的にしてしまうと、過度に演劇的になってしまうと感じるとカゲヤマは語る。第一部での報告を引き継いだ形で議論を接続すれば、「演劇的な経験を日常の中に忍び込ませていくという実践を、アトリエを中心に行おうとしたときに“まつり”という形になったのだろう」とカゲヤマは振り返った。

円盤に乗る派は、2021年ごろから公演活動を再開していた。当時は劇場の感染対策は厳しく、公演を行うのに大きな緊張感を伴ったという。ただ、この時期に作られた作品は、その環境にあった、その時の身体感覚にフィットした作品だと考えているので、今見返してみると見え方、感じ方が大きく変わるのではないかとカゲヤマは分析する。「劇場という場所の意味が変化した部分もあるが、私たちの身体性が変わってしまった部分がある。そして、変わってしまった身体性は完全に元に戻ったかというと、変わっていない部分もあるのではないか」と指摘した。

「テラジア」の稲継は、コロナの前から脱劇場的な実践を行っていたという。寺院という場所を舞台にしたのも、日本には7万を超える寺院があるといわれており、劇場とは異なる形で作品を展開できるのではないかという期待があったことが一因だという。一方で、コロナ禍では寺院でも感染対策をする必要があり、劇場という場所と変わらず上演のうえでの制約は存在した。また、脱劇場的な活動を行っている一方で、実際に劇場に俳優として立ってみると、劇場でしか感じることのできない魅力もあるなと感じる瞬間を否定できないという。

人間(じんかん):アーティストのオーサーシップ

大澤から、作品のオーサーシップに関する質問が投げかけられた。「NEO表現まつり」の場合、まつり全体を誰かが所有できるわけではない。また、「テラジア」の場合、海外のアーティストに改変を許すなど、作品に対する強いオーサーシップを主張していない。このような状況の中で、アーティストは何を所有していて、何を所有していないといえるのだろうか。

会場に置かれた「円盤に乗る場」関連グッズ(撮影:kabo)

日和は「円盤に乗る場に集まったアーティストは、もともと『NEO表現まつり』のために集まっているわけではないという大きな前提がある。そのため、円盤に乗る派が、各アーティストが何をやるのかを決めるわけではなく、何をするのかはアーティスト自身の裁量にゆだねている。各アーティストのアウトプットの性質やそれぞれどれくらいアウトプットに対して主導権を握っていると感じるかも、アーティストごとに異なる」と言う。カゲヤマは「ただ、参加アーティストは、円盤に乗る派が主催しているイベントだという認識は持っていると考えている」が、円盤に乗る派として表現したのかといわれるとそれも違うように感じるとも語る。しいて言うならば、「円盤に乗る派の公演とも違う形で、自分の仕事をやったという言い方がしっくりくるかもしれない」とのことだ。

坂田は「タイの演出家であるナルモン・タマプルックサーゴップ(通称ゴップ)の提案がなければ『テラジア』は始まらなかった」と振り返る。「テラジア」が展開していく様子は、自分たちは作らないで、バトンを受け取った人が面白くしてくれるのを待つようなものだった。作品を売ったり、演劇祭などに呼ばれてクリエーターとして世界に打って出たりする形とも違う、作品を無償で明け渡すという形。「このプロジェクトを通して、オーサーシップを握っていなくてもいいんだと感じることができた」と坂田は言う。「テラジア」は個人としては、何も所有していない感覚で、所有を手放すプロジェクトという言い方ができるかもしれない。活動の集大成的な位置づけにある「Sua TERASIA」に際して、参加アーティストとこのプロジェクトを通して何が残ったのだろうという話になったときに、「友情(フレンドシップ)が残ったという話になった」と稲継は感慨深げに語った。

情報保障(手話通訳・UDトーク)の様子(撮影:kabo)

人間(じんかん):地域との関わり

最後に、地域とのつながりやアーティストではない人々との関係がどのように変わったか質問が投げかけられた。円盤に乗る派は地域との関係は大きく変わったという。最初は、地域とは距離をとろうと考えていたが、実際に地域の人と話してみると、興味を持ってもらっていることが分かった。当初は自分たちも、地域の人も、気にはなりながらもお互いが距離をとっていた。距離が縮まってから、スペースや人を紹介してもらえるようになり、プロジェクトの始まりと終わりでは、地域との関係性が全く違うものになったのだという。

「テラジア」は、当初、オンラインで各アーティストがつながっていた。ただ、アーティストは地元の観客に対して常につながりを持っていた。その意味で、ローカルな観客とのつながりは常に持っていたことになる。コロナ禍があけて、インドネシアで集まったときに、ローカルへのアプローチについて、参加者がそれぞれの地域での次の展開に関する活発な意見交換がされたのはこのような背景があったからだった。

今後の展開

最後に、両者の今後の展開についての質問が投げかけられた。「まつりは始めるよりも、続けることが難しいと思うのですが、今後の展望はどのように考えていますか」という問いかけに対して、円盤に乗る派の2人は「NEO表現まつり」を継続することが望ましいと思っているが、継続するための体制を整えるのが難しく葛藤していると話した。「『NEO表現まつりZ』が終わったとき、もうニ度とこんなことやりたくないって、本気で思ったんですけど、でもやった方がいいとは思ってる。やった方がいいとは思っているが、実際にやれるかっていうのは葛藤ですね。やっぱり、端的に言うと、人と金と体力ですよね。やれる方法は探りたいねっていう話は、したりはしています。」(日和)。また、「テラジア」を展開する合同会社UPNの2人は、先日、ミャンマーとインドネシアとベトナムのメンバーが来日し、面会したことに触れながら、各々がアイデアを持っているので、今は次の展開を待つ時だと感じているとまとめた。このトークセッションは、3年間という助成期間を終え、それぞれが成し遂げたものを振り返りながら、次の創作の方向を見出す機会になっているように感じられた。

グラフィックレコーディング:阿良田蓉(撮影:kabo)

第二部の様子は阿良田蓉がグラフィックレコーディングで記録した。参加者のかわいらしい似顔絵を中心に議論の様子や要点が視覚的にまとめられ、議論の全体を把握し、後日振り返るきっかけになっていた。また、最後には交流の時間を設け、創作のアイデアや登壇者・参加者の新たなコラボレーションが生まれる兆しの見られる時間となった。

今回のトークセッションのように、助成する側と助成を受ける側が率直に助成の実情について語り会う場はなかなか珍しいのではないかと思う。助成を受けた側が自らの活動を振り返る機会として、また、助成を受けたいと考えているアーティスト等が長期助成事業の実情にイメージを抱けるように、このような場が継続的に持たれることは望ましいと思われる。これに加えて、助成の申請を考える方々には、助成事業の相談の機会も活用していただきたい。

登壇者(左から) : 日和下駄、カゲヤマ気象台、大澤寅雄、坂田ゆかり、稲継美保
(撮影:kabo)

(構成・文:岡俊一郎)


プロフィール

円盤に乗る派

「複数の作家・表現者が一緒にフラットにいられるための時間、あるべきところにいられるような場所」を作るための演劇プロジェクトとして2018年にスタート。劇場を訪れ、帰っていくまでに体験する全てを「演劇」として捉え、冊子の発行やさまざまなイベントの開催など、上演作品の発表だけにとらわれない活動を展開している。2021年にはコミュニティとしての共同アトリエ「円盤に乗る場」を設立し、表現にまつわる新しいつながりを探究している。近年の上演作品に『仮想的な失調』(2024年、東京芸術祭 2024プログラム)など。現在のメンバーはカゲヤマ気象台(劇作家・演出家)、日和下駄(俳優)、畠山峻(俳優)、渋木すず(アドバイザー/ウォッチャー)の4人。

合同会社UPN

フリーランスとして活動してきた坂田ゆかり(演出)と、渡辺真帆(ドラマトゥルク・通訳・翻訳)が、分野横断的な文化芸術事業を行うため組織した法人である。アートイベントの企画運営、作品制作、編集・出版など、領域にとらわれない活動を展開している。