2022年より毎年夏に開催しているワークショップ「記録から表現をつくる」では、参加者が自身の関心に基づいて、残された記録を集めたり、自ら記録したりすることからはじめ、たがいにプロセスを共有し、対話しながら、記録やリサーチをひらいていくための表現を実践しています。
本展は、これまでのワークショップ参加者が当時から向き合っているテーマについて、あるいは現在関心のあることがらについて、リサーチをもとに制作した作品や記録資料等を構成しながら、現時点での表現の形を模索し、発表する展覧会です。
それぞれの生活実感に即したテーマは多種多様ですが、隣り合って並べてみると、類似する課題が見つかったり、反対に、似たテーマなのにずいぶん細部が異なったり、といった発見があります。
それぞれがライフワークとして長期的に向き合っていく(かもしれない)プロジェクト。節目節目で立ち止まって形にして発表し、さまざまな人と共有することで、より豊かな活動へとつながっていく予感がしています。
個性豊かなプロジェクトの“いま”の形を、ぜひ楽しみにいらしてください。
※プログラムは変更になる可能性があります。
記録を通して、遠い存在へ歩み寄る。あるいは、適切な距離をとり、そっと、自分へひきつけて見つめる。そうして、その存在の質感や重さ、感情を、焦点を変えてたしかめる。
本展では、風景、場所、コミュニティ、ルーツなどをテーマに、11名の参加者が表現に取り組みました。さまざまな試みをともにたどる時間となれば幸いです。
無料
阿部修一郎、大木諒也、亀川ふみか、鬼神丸信濃、櫻井絵里、柴田成、関口太樹、濱井恵海、日野比奈子、藤本遥香、舟之川聖子
【阿部修一郎】
震災後の能登半島では現在、建物の公費解体が急速に進められています。石川県は2025年10月を完了目標として定めており、私が訪れている珠洲市ではすでに60%の解体が終わりました。空間や風景の変容は、身体的な記憶の喪失も意味すると考えます。いつか何かを思い出すためのよすがとなるように、家屋や風景の記録撮影を行いました。
【大木諒也】
かつて中国東北部に存在していた「満州国」。満蒙開拓とは何だったのでしょうか。知れば知るほど、この問いに対する「語りにくさ」に直面します。
何がどのように語られてきたのか、そして語られてこなかったこととは何か。
リサーチを元に表現を試みます。
【亀川ふみか】
昨年から距離について考えています。「記録から表現をつくる」に参加する中で、人と人との距離だけでなく、当事者性が生む物事との心理的な距離にも関心が広がりました。出来事に対して常に同じ近さではいられない自分の在り方を見つめたいです。
【鬼神丸信濃】
誰にでも、目で見ることの出来ない傷があるのかもしれない……。本人も見ることの出来ない傷は、知らないうちに誰かと共鳴したり、誰かに同じ傷をつけたり、癒えないまま子に受け継がれたり……。癒されるには、どうしたらいいんだろう?と考えながら、日常で触れた語りを作品にしました。
【櫻井絵里】
「家族」の、普遍的でありながら一つとして同じ家族などないところに興味がある。その複雑さのために家族との問題に何とか向き合う人の話を聞くことは少ない。そのような誰も知らないところで家族と一生懸命生きようとする人を讃えるための作品を作りたい。
【柴田成】
物心ついた頃から、プールという場所を愛している。水の中では重力からも社会的役割からも解き放たれ、泳いでいるときだけはどんな痛みも忘れられた。しかしプールが常に、すべての人にとってそのような場所であったわけではない。太平洋戦争下、プールは泳ぐための場から防火用水や避難所に変わり、空襲の際には多くの人がプールで命を落とした。戦争によって変容する場所性とその記憶に近づいてみたい。
【関口太樹】
最近、父とも母とも、僕には似ているところがあると言われる。振る舞いや、想いに。それは嬉しいことだ。だってそれは、会えない人が僕の中に生きてるってことだから。
死んだら故人に会えると考えている。
僕は祖父に会いたくなった。だから、祖母の話や祖父の書き残したものを見て、僕は、祖父に会いにいく物語を書いている。
【濱井恵海】
能登半島地震後、定期的にボランティアなどで能登を訪れてきました。そして能登に関わる中で、私が住む富山県も大きな被害を受けていることを知りました。県内で特に被害の大きかった氷見市は、私の父のふるさとでもあります。本展では、能登と氷見の2つの地域で、「被災地」や「被災者」という言葉に隠れてしまったその土地の生活や暮らす人に出会いなおし、私が被災地にどう関わっていくかの過程を作品にします。
【日野比奈子】
書きたいときに、書きたいだけ書いていた日記が、あるとき急に書けなくなった。
自分らしい言葉づかいや、いままであった言葉のリズムを取り戻すべく、今の自分にできることが「青色を塗る」だった。
毎日青色を塗っているうちに「いいじゃん」と思って、いろんな色で、知らない形で実験していった積み重ねが、今回展示している冊子たち。
毎日「今日色塗る?どうする?」と自分に問うていて、たまにサボるのも自分にとっていい感じ。
【藤本遥香】
昨年から被災地として知られるようになった能登。
よく訪れていた時の面影すら希薄になってしまったその場所は、今も崩れた所から更地になっていき、景色は変わり続けている。
そんな中でも、能登を訪れ、そこで暮らす人と話し、変わらないものを見つけては少し嬉しい気持ちになる。
あの場所はどんな場所だったか。ここはどんな場所か。
能登で暮らす人たちがみている風景を、消えてしまう前に描き出しておこうと思う。
【舟之川聖子】
かつて、日本の高度経済成長の陰で、公害や食品汚染の問題に立ち向かった人々がいた。暮らしの中から生まれたかれらの声は、多くが記録されずに消えていった。私は、数年前から両親にインタビューを重ねる中で、偶然その記憶に触れた。残された手がかりに刻まれた切実な思いや選択の跡は、今どこへ続いているのだろうか。
ギャラリートーク
展覧会をより楽しんでいただけるよう、本展参加者が作品のテーマや制作過程について紹介しながら、会場をご案内します。会期中に2回開催します。
2025年4月26日(土)14:00~16:00
展示案内:大木諒也、亀川ふみか、鬼神丸信濃、濱井恵海、舟之川聖子
2025年5月3日(土・祝)14:00~16:00
展示案内:阿部修一郎、 櫻井絵里 、柴田成、関口太樹、日野比奈子、藤本遥香
会場:Studio 04(東京都江東区大島4-1-1 大島四丁目団地1号棟106)
入場料:無料
※予約は不要です。直接会場へお越しください。
トークイベント①「はなして、みる」珠洲に3日間行ったこと、みんなとおしゃべり
「記録から表現をつくる2024」のワークショップで出会った5人が、11月に石川県珠洲市へ行った3日間のこと、その後のことを話します。住む場所もこれまでの震災との関わりもバラバラな5人がこの滞在で感じたこと、考えたことを記録とともに振り返りながら、参加者のみなさんとこれからの能登、震災に対する向き合い方から今考えていることなど、気軽に話してみたいと思っています。
日程:2025年4月27日(日)14:00〜16:00
タイムスケジュール:14:00〜15:00 珠洲報告会
15:00〜16:00 座談会
会場:Studio 04
話す人:亀川ふみか、関口太樹、濱井恵海、日野比奈子、藤本遥香
入場料:無料
定員:20名(先着順)
申込み方法:こちらのフォームからお申込みください。
https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSddqXrtYYwU837r4ePGlEoOhBe8v3pVvr7406ElKwaARu3g9A/viewform?usp=dialog
申込締切:4月26日(土)
※お申込み受付は定員になり次第、締め切ります。
トークイベント②「珠洲の風景をながめて」
本展参加者の藤本遥香が、作品でも取り上げる石川県珠洲市の風景について、トークイベントを行います。会場には珠州焼作家で珠洲市在住の中島大河さん、オンラインでは映像作家で本展参加者の阿部修一郎さん、アーティスト・作家でNOOKの瀬尾夏美さんをお迎えします。
参加者コメント(藤本遥香)
大学生から通うようになった珠洲。初めて訪れた時から、海と山と人が共にあり、青く透明な空気に包まれている珠洲の風景に引き込まれました。2024年1月1日に能登地震が起こり、各地の風景は変化しました。珠洲もその場所のひとつです。私が所属していた大学のプロジェクトで多くの時間を過ごした珠洲の拠点も崩れ、変化に見舞われました。そして、今も沢山の人々が、大きな変化の中で過ごし続けています。
私は、風景は目に見える光景だけでなく、「個人の見ている/見てきたもの、経験によって成ってるもの」としても考えています。それぞれの置かれた状況で、風景はどのように見えているのでしょうか。
大学の先輩で珠洲焼作家の中島大河さんを珠洲からお迎えし、珠洲で解体される家屋や風景の撮影をしている阿部修一郎さん、様々な土地の人々の声や風景を記録している瀬尾夏美さんと共に、それぞれの視点からながめる珠洲の風景とその関わり方について、言葉にしてみます。
日程:2025年4月27日(日)18:00〜19:30
会場:Studio 04
話す人:中島大河、藤本遥香、阿部修一郎、瀬尾夏美
※阿部さん、瀬尾さんはオンライン参加となります。
入場料:無料
定員:20名(先着順)
申込み方法:こちらのフォームからお申込みください。
https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSfRWRHOTHhUcwa9JtIYvPV-92Q7UFppLQ0vMqTN-ZR6HLNIWg/viewform?usp=dialog
申込締切:4月26日(土)
※お申込み受付は定員になり次第、締め切ります。
中島大河
1994年石川県金沢市生まれ、珠洲市在住。珠州焼作家、陶芸家。珠洲焼を軸に土、釉、焼成の原初的な表現からなる焼き物を制作しています。主な展示に、「満月会アートエキシビション’22」(石黒ビル、石川)、「かないわ楽座」(金石・大野地区、石川)、「フード」(atelier&gallery creava、石川)など。
阿部修一郎
1996年青森県生まれ。場に堆積した記憶や、場所に居る身体感覚を記録するための映画制作を探している。主な作品に《Hear the Place Sing》(2022)、《うどを植える》(2024)など。主な上映・展示に、「第25回写真「1_WALL」展」(ガーディアン・ガーデン、東京)、「反復のレッスン」(シネマハウス大塚、東京)など。2025年現在、東京藝術大学大学院美術研究科先端芸術表現専攻修士課程在籍。
瀬尾夏美
1988年東京生まれ。アーティスト、作家。土地の人びとの言葉と風景の記録を考えながら、絵や文章をつくる。さまざまな地域やコミュニティと協働しながら記録し、表現するコレクティブ「NOOK」を立ち上げ、災禍の記録を掘り起こし、それらを用いた表現を模索する「カロクリサイクル」に取り組みながら、語れなさや記憶の継承をテーマに旅をする。主な著書に『あわいゆくころ』(晶文社)、『二重のまち/交代地のうた』(書肆侃侃房)、『声の地層』(生きのびるブックス)など。映像作家の小森はるかとの共同制作として、《波のした、土のうえ》(2014)、《二重のまち/交代地のうたを編む》(2020)、「11歳だったわたしは」(2021-)など。
一般社団法人NOOK
E-mail:karoku.nook@gmail.com
2025年4月22日(火)~5月6日(火・祝)
※火・金・土・日・祝のみオープン
火・金 13:00~20:00
土・日・祝 11:00~18:00
開室カレンダー
Studio 04
〒136-0072 東京都江東区大島4-1 大島四丁目団地1号棟1階106
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