今回、連続ワークショップ「多摩の未来の地勢図を共に描く2023―re.*生きることの表現」のゲストの一人であるアーティストのピョトル・ブヤクは、小金井アートスポット シャトー2Fでの約1か月の滞在制作と、5回の実験的ワークショップの実施を通じ、参加者と共に「抵抗」と「表現」についての考察を深めました。
その中で1つのキーとなったのが「抽象化」という概念です。ブヤクとのワークショップでは、「抵抗」を様々なレイヤーから考察し、参加者それぞれが「言葉」に囚われず、自身の主張を「抽象化」して表現することを試みました。ブヤクと参加者は異なる国の出身で、異なる言語を話すため、言葉での意思疎通が難しい場面がよくあり、「抵抗」についても違った感覚を抱いていました。その中でも「抽象化」が興味深い役割を果たしました。
本展の素材となった「呼吸」は、ブヤクと参加者が作業と対話を通して、様々なズレや誤解、また共感を経験しながら録音されたものです。
この最小限の要素で構成されたサウンドインスタレーションは、人間の「呼吸」とその行為に着目している。芸術人類学(*)の文脈を用いて、異なる文化や政治、社会背景、世代を超えた視点から「呼吸」について考えることを試みている。
「呼吸」は、言葉や行動ほど明確で直接的ではないが、私たちの存在やその持続を示すことができる。「呼吸」は柔らかく詩的で、少し抽象的である一方で、非常にシンプルかつ純粋で反抗的な「抵抗の手段」の一つとなりえるのだ。
本展の素材(**)となった呼吸音は、アーティストが録音機を持ち、参加者/協力者と1対1で向き合った環境で録音された。その空間はある意味親密で、セラピーセッションのようだった。また、その過程は、音楽の編集作業のようでもあり、プロテストソングを作曲しているようでもあった。しかし、力強い言葉を携えるプロテストソングとは異なり、「呼吸」によって形作られるその曲/音は刹那的で儚なく、その一方で参加した一人一人の存在を確かに感じられるものだった。
(*)芸術人類学とは、人類学とアートの文脈を組み合わせたアプローチ。「人間とは何か」という根本的な問いを、人類学とアート、両方の視点から考える。
(**)本展で用いられている素材は、2023年12月2日、12月6日に小金井アートスポットシャトー2Fにて行われた録音と対話から得られた経験に基づく。
ピョトル・ブヤク
ピョトル・ブヤク|Piotr Bujak
1982年生まれ。東京とクラクフ在住。映像、インスタレーション、立体、テキストなど多様な技法を用いて制作を行う。アクティビストでもある。ヤン・マテイコ美術アカデミー(クラクフ、ポーランド)とサンフランシスコ・アート・インスティチュート卒業。対抗的パンク文化、ミニマリズム、コンセプチュアリズム、ネオ・アヴァンギャルド、批評的言説に関心をもつ。「低予算、素早く雑に、DIYで、打って走る(Low Budget, Quick and Dirty, Do It Yourself and Hit and Run)」を戦略としつつ、新自由主義の病理、暴力、同一性、文化や政治領域と関連する作品を制作している。
https://culture.pl/en/artist/piotr-bujak
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一見、遠く離れた、自分とは無縁に思える出来事を、自身の生きる場や日常とどのように結びつけることができるのか。急速に変化し続ける流動の時代、抗えない流れの中で、自分の時間を取り戻し、自分なりのささやかな方法で流れに抗ってみることが大切なのではないでしょうか。今の状況を、社会そのものを、より考え、そこで生きていく/抗っていく術、すなわち<生きることの表現>を「re」が頭につく3つの英単語、<retrace/再訪する, resist/作業する, record/記録する> をキーワードとしながら、集まった参加者、そして様々な背景を持つゲストと共に模索していく半年間の連続ワークショップです。
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