2022年より毎年夏に開催しているワークショップ「記録から表現をつくる」では、参加者が自身の関心に基づいて、残された記録を集めたり、自ら記録したりすることからはじめ、たがいにプロセスを共有し、対話しながら、記録やリサーチをひらいていくための表現を実践しています。
本展は、これまでのワークショップ参加者のうち有志8名がそれぞれワークショップ当時から向き合っているテーマについて、あるいは現在関心のあることがらについて、リサーチをもとに制作した作品や記録資料等を構成しながら、現時点での表現の形を模索し、発表する展覧会です。それぞれの生活実感に即したテーマは多種多様ですが、隣り合って並べてみると、類似する課題が見つかったり、反対に、似たテーマなのにずいぶん細部が異なったり、といった発見があります。
それぞれがライフワークとして長期的に向き合っていく(かもしれない)プロジェクト。節目節目で立ち止まって形にして発表し、さまざまな人と共有することで、より豊かな活動へとつながっていく予感がしています。
個性豊かなプロジェクトの“いま”の形を、ぜひ楽しみにいらしてください。
※プログラムは変更になる可能性があります。
展覧会のタイトルは「キロクヲヒラク」。
震災、戦争、家族、街のこと……多岐にわたるテーマと向き合う8名が参加しています。
私的で、密やかに存在する記録をそっとひらく。声に耳を傾け、対象をじっくりみて記録する。そんな“始まり”に焦点を当てました。
小さな疑問や日常の関心ごとに立ち止まってゆっくり考えたり、ここで出会った方々の語らいの場となることを願っています。
無料
大瀧芽衣、小田嶋景子、北美悠里、島田芽依、田中有加莉、宮田恵、向井天一、ワン・イチェン
【大瀧芽衣】
学生時代、被爆者の方から「マレーシアでは思うように平和運動ができなかった」と伺ったことが、ずっと心に引っかかっていました。それがいつの話で、マレーシアのどの地域での出来事なのかは分かりませんが、「戦争は嫌だ」「戦争はいけない」という思いの背景は、人それぞれ異なるのだと気付かされました。作品では、私が無邪気に歩いてきたマレーシアの土地で戦争があったこと、そしてそこにさまざまな記憶が残されていることを表現できればと思います。
【小田嶋景子】
私は自分の地元である東京都中野区にどんな歴史があり、どんな人が住んでいるのかを知りたいと思っています。
そのきっかけは、震災後の東北で出会った方々が自分たちの土地について語ってくれたことでした。
ただでさえ変化が早い東京の街、さらには災禍がいつどこで起こってもおかしくない昨今。地元のことを調べて、記録を残しておきたいと思い、聞き書きを始めました。
もしこの先、街のかたちが変わっても「ここはこんな街だったんだよ」と語れるように私もなりたいです。
【北美悠里】
曾祖父が晩年に書いた手記を出発点に、彼の娘、息子、その妻、その息子、娘、そしてその娘の私まで、写真を足がかりに、人生の断片を繋げていきます。私から見たらほぼ他人であるけれど、それでも他人とはいえない曾祖父について思いを巡らせながら作品を作りました。
【島田芽依】
今年83歳を迎える私の祖母は、20歳前後に束ねた一冊の「家族アルバム」を持っています。写真やテキスト、剥がされた跡を辿り、記述する過程で、祖母の人生を想起する手がかりとなるものにいくつも出会いました。本展では、孫である私が執筆したテキストを織り込み、制作した本を発表します。祖母、母、そして亡くなってしまった曽祖父や曽祖母。目に見えない家族の縁をつなぐ、記憶のよすがであると同時に、遠くの誰かと重なる瞬間が訪れることを願って。
【田中有加莉】
昨年の5月、福島県の東日本大震災・原子力災害伝承館に行き、そこでお聞きした一つの声をもとに制作を始めました。受け取ったその思いと、私のおそるおそる近づいていこうとするさまを同じ場に置くことで、当事者ではない立場の緊張や揺れを表したいと思います。
【宮田恵】
炭鉱業で栄えた福岡・筑豊にまつわるいくつかの記録を小さな箱におさめました。箱の中には私が筑豊に出会った日々の日記、森崎和江さんによる女性坑夫からの聞き書き、そして筑豊で少年時代を過ごした祖父からの聞き書きと、それを元に描いた挿絵が入っています。ある場所の記憶を人々が語るとき、そこに生まれる厚みや重なりしろについて考えながらつくりました。併せて、修士研究で取り組んだ長崎の被爆と復興の語りをめぐる作品も展示します。
【向井天一】
被災から14年、復興後の東北、宮城県仙台市と石巻市の映像・写真記録と、2024年年始に発生した能登半島地震による被害を受けた能登半島の映像・写真記録を比較し重ね合わせることで、見えてくるものを探る。
【ワン・イチェン】
急速な都市人口増加期を経て現在、大島四丁目団地の住民構成も大きく変化しました。2021年に住み始めて、団地の暮らしや風景を楽しく記録していくうちに、団地建設以前に、前身の大島製鋼所で1920~1930年に労働争議やストライキが何度も起こっていたことも分かりました。また、1923年に関東大震災が発生した際には、この地域で亀戸事件や大島事件が発生しています。今回は団地内で撮影された映像作品と、見つかった大島製鋼所の労働争議に関する資料の一部を展示し、また亀戸事件で亡くなった労働運動家・劇作家平澤計七の話も紹介します。
展示期間中には、以下の関連イベントを開催予定です。
会場はすべて「Studio 04(東京都江東区大島4-1 大島四丁目団地1号棟1階106)」となります。
展覧会とあわせて、ぜひご参加ください。
ギャラリートーク&座談会
本展参加者が作品のテーマや制作過程について紹介しながら、会場をご案内します。またギャラリートークのあとは観覧に来た方々と展示参加者との間でお話をする座談会を企画します。
日程:2025年2月22日(土)
ギャラリートーク 14:00~
座談会「『記録から表現する』ことのおもしろさ、むずかしさ」 15:00~
入場料:無料
※予約は不要です。直接会場へお越しください。
トークイベント「マレーシアとわたし」
本展参加者の大瀧芽衣が、作品でも取り上げるマレーシアに関するレクチャーをおこないます。
《参加者コメント(大瀧芽衣)》
学生時代に留学して好きになったマレーシア。あるとき被爆者の方から掛けられた言葉がきっかけで、太平洋戦争中に日本が現在のマレーシアを占領していた時代に関心を持ちました。そして会社員生活を送るようになってからも、言語を勉強したり歴史の本を読んだりしながら自分なりにマレーシアと向き合う日々を続けてきました。今回は、わたしがこれまで個人的にリサーチしてきたマレーシアについて、皆さんとお話ししたいと思います。
日程:2025年2月24日(月・祝) 16:00~18:00
話す人:大瀧芽衣 聞く人:ワン・イチェン
入場料:無料
定員:20名(先着順)
申込方法:こちらのフォームをご記入のうえ、お申し込みください。
申込締切:2月22日(土)
*お申込み受付は先着順のため、定員になり次第、締め切ります。
てつがくカフェ04 テーマ 「災禍との『間合い』とは?」
本展参加者の田中有加莉が発表する作品の関連企画として、てつがくカフェをおこないます。テーマは「災禍との『間合い』とは?」。ファシリテーターには哲学者の永井玲衣さんをお迎えします。
《参加者コメント(田中有加莉)》
何かに対して間合いをとることは、自らの心身を守ったり、考えを整理したりするための一手段だと思います。間合いにはその人の内面や相手への配慮、対話の過程などが表れます。
災禍との間合いについて考えるとき、それはより繊細に扱う必要があるように感じます。離れた距離に心苦しさや近づけない歯がゆさを感じている人がいたり、線引きすることで心身を守っている人がいたり。外側からは分からない思いや事情がきっとたくさんあるでしょう。
今回のてつがくカフェでは、「災禍との『間合い』とは?」というテーマで、集まった人たちと対話しながら、自分が感じたことや考えたことをゆっくりと言葉にしていけたらと思 っています。
《てつがくカフェとは》
私たちが普段あたり前だと思っていることや、最近気になることについて、集まった人と一緒に語り合い、考える場です。お茶を飲みながらゆっくり、自分の考えをあらためて言葉にしたり、相手の話を聞いたりして、対話によって自分の考えを深めていきます。
日程:2025年3月1日(土) 15:00~17:00
ファシリテーター:永井玲衣(哲学者)
入場料:無料
定員:20名(先着順)
申込方法:こちらのフォームをご記入のうえ、お申し込みください
申込締切:2月27日(木)
*お申込み受付は先着順のため、定員になり次第、締め切ります。
一般社団法人NOOK
E-mail:karoku.nook@gmail.com
2025年2月18日(火)~3月2日(日)
※火・金・土・日・祝のみオープン
火・金 13:00~20:00
土・日・祝 11:00~18:00
開室カレンダー
Studio 04
〒136-0072 東京都江東区大島4-1 大島四丁目団地1号棟1階106
Google Map