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アーツカウンシル東京ブログ

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東京アートポイント計画通信

東京アートポイント計画は、地域社会を担うNPOとアートプロジェクトを共催することで、無数の「アートポイント」を生み出そうという取り組み。現場レポートやコラムをお届けします。

2013/06/25

長尾POレポート プロジェクト日誌(2)

Tokyo Art Research Lab「アートプロジェクトにおける『音』の記録研究」が始まりました。題材は、一昨年度から「音」をテーマに展開しているアートプロジェクト「アートアクセスあだち 音まち千住の縁(通称「音まち」)」。アートプロジェクトの現場で鳴らされた「音」の記録についての考え方や手法を研究する研究・開発プログラムです。

6月14日(金)、東京芸術大学千住キャンパス内で、学生や音まち関係者が集まり、第1回公開研究会が開催されました。この日は、研究スタートにあたり自己紹介を兼ねたプレゼン大会。研究協力者のアサダワタルさん(日常編集家)、須之内元洋さん(札幌市立大学デザイン学部助教)、そして音まちディレクターの清宮陵一さんに、「音」をテーマとしたご自身の活動をお話しいただきました。普段プロジェクトの現場などで会っていても、「音」というテーマに絞った話をまとめて聞く機会はなかなかないもの。三者三様の「音」へのアプローチが、今後この研究を支え推進していくことを予感させる時間でした。

翌15日(土)は、早速、研究者たちでみっちり4時間、芸大ならではの最新鋭の音響設備の備えられたスタジオに籠もって本研究。昨年11月に音まちで開催した「ジョン・ケージ『ミュージサーカス』芸術監督:足立智美」の映像記録を中心に、今ある素材を一度机の上に並べる日となりました。

「ミュージサーカス(Musicircus)」は、アメリカの実験音楽の作曲家ジョン・ケージが考案したパフォーマンス形態。生誕100年でもあった昨年、作曲家/パフォーマーの足立智美氏が芸術監督となり、足立区内の魚市場を舞台に展開しました。当日は総勢300人ほどのパフォーマーたちが、「偶然」によって決められたタイムテーブルで、同時多発的にそれぞれのパフォーマンスを遂行。多種多様な音響の中を、聞き手は思い思いに回遊します。実はこの本番、私は出張のため立ち会うことができませんでした。準備段階は共有し、終了後も皆の感想から、とてもよかったようだとは伝わるのですが、私にとって幻の本番。

このように、二度と同じものはない一回限りの音やそこで体験されたものを、どのように記録し残していくことができるのか。将来的に、当日の「音」を聞かなかった私も、その場の空気も含めどんな追体験、あるいは新しい音の体験ができるのか。個人的にも楽しみな研究です。

研究会での事例共有の中で見た映像は、報道的視点でインタビューも含めまとめられたものや、当日起こった様々なコトが時の推移とともにゆっくり体験されるようなものなど、着眼点によって編集方法は様々でした。

今回、私もいろいろな事例を見たことで、シンプルな気づきがありました。
それは、音の記録において―仮に映像であっても、「絵」としての視点だけでなく―撮影者も「音を聞く」必要があること。例えば、昨年度の「ミュージサーカス」なら、記録者自身も、当日の参加者たちのひとりのように、目ではもちろん、音の空間を耳でも体験してこそ、本当の「音の記録」が撮れるのではないか、ということです。

……こんなことを考え感じさせる、得難い2日間の研究会でした。
7月の研究会から具体的な実践が始動し、年度末には発表会も予定しています。その頃に、どんな視点が生まれているのか。見守っていただければ幸いです。

東京アートポイント計画 プログラムオフィサー 長尾 聡子


6月14日 研究会でのプレゼンテーション

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