ライブラリー

アーツカウンシル東京ブログ

アーツカウンシル東京のスタッフや外部ライターなど様々な視点から、多様な事業を展開しているアーツカウンシル東京の姿をお届けします。

ACT取材ノート

東京都内各所でアーツカウンシル東京が展開する美術や音楽、演劇、伝統文化、地域アートプロジェクト、シンポジウムなど様々なプログラムのレポートをお届けします。

2025/03/26

「表現」の入り口に出会ったり、表現について見つめなおしたりした時間。パフォーマンスキッズ・トーキョー「冒険のはじめ方」レポート(後編)

アーツカウンシル東京(公益財団法人東京都歴史文化財団)が、NPO法人「芸術家と子どもたち」と協働で行っているプログラム「パフォーマンスキッズ・トーキョー(以下、PKT)」。

このプログラムでは、ダンスや演劇、音楽などの分野で活躍するプロの現代アーティストが、都内の学校・ホール・児童養護施設などに通い、子供たちと一緒に10日間程度のワークショップを行います。そのなかで、子供たちが主役のオリジナルの舞台作品をつくり上げていき、最終日の発表公演で、ワークショップの成果をお披露目します。

一見シンプルに見えるこのプログラムですが、その現場では実に様々なチャレンジが行われ、「誰かと協働するとは?」、「いま、ここで、このメンバーでしかつくれないものは?」、などの問いを通して、文字通りかけがえのない瞬間が生まれています。

今回はそのひとつ、ダンサー・振付家の小暮香帆さん・音楽家のよだまりえさんと、15人の子供たちが参加した、ダンスワークショップ及び発表の様子をお届けします。

前編はこちら >>https://www.artscouncil-tokyo.jp/ja/blog/73294/


いよいよ本番! 様々な表現がつまった40分間

2025年2月24日。1月18日からはじまったワークショップはあっという間に最終日を迎え、今日は10日間の活動のお披露目をする日です。

小さめの体育館のような部屋のなか、真ん中にステージエリアがつくられ、その周りをぐるっと囲むように観客席が設置されています。ステージには、グランドピアノ。よださんが登場し、音楽を奏ではじめます。

そこに現れた1人の子供。よださんのささやくような歌声と、きらきらした粒のようなピアノの演奏に合わせて、ステージをぐるりと歩いていきます。そこに、1人、また1人、2人…と子供たちが増えていき、それぞれスキップしたり、手を組んで回ったり、あいさつしあったりと、縦横斜めに、お互いが交差しあいます。まるで小さな町を見ているようです。

ばらばらに動いていた子供たちはいつのまにか集合して、皆で動物や虫のように四つん這いやほふく前進で動き回ったり、イソギンチャクのようにピアノの周りで身体をゆらしたり、植物のように身体を上下させたり…と、次々にシーンが入れ替わっていきます。最後は双眼鏡を覗いて何かを探すような動きをした子供たちがステージに散っていき、練習でも大人気だったオリジナルの<ラジオ体操>が始まりました。3拍子の曲に合わせて、足を上げたり全身を揺らしたりと、背中のキラキラした衣装をはためかせながら踊ります。練習の時に難しそうにしていた、床の上で身体を回転させる動きもクリアしたようです。

その後、1人の子が先頭になって、皆がその動きをマネしてついていくような表現に変わります。子供たちがしゃがみこんだところに、3人のアーティストが登場。軽やかな曲に合わせて、プロによるダンスのパフォーマンスが行われます。
アーティストの動きと連動するように、時にまじりあいながら、子供たちも3人1組でダンスをしていきます。

また子供たちに主役が入れ替わり、1人ひとりがジャンプしてポーズを決めていくシーン。練習の時は、小暮さんの動きを見た直後で緊張しているような様子も感じられましたが、みな堂々とポーズを決めていきます。片足を高く上げたり、ヒーローのような構えをしたり、何かを指さしたり…と個性が溢れます。
1か所に集合しポーズを決めた子供たちの前には、宇宙飛行士のようなキラキラした被り物をした小暮さんとアシスタントダンサーの金子愛帆さんが登場。2人もポーズを決めています。

続いて、名前を呼んでハイタッチをリレーしていく場面や、ペアでじゃんけんをして、片方の動きをマネするという場面を経て、いったん舞台からはけていく子供たち。

ステージの照明が落ち、先ほどまでのにぎやかな雰囲気から、少ししんとした空気になります。よださんと2人の子供が、ゆっくりとステージを歩いて回ります。並んで歩きながら、よださんは、歌でも言葉でもない、声を使った不思議なパフォーマンスをしていきます。

その後、アシスタントダンサーの武藤杏実さん、金子さんのソロパフォーマンスへと移っていきます。

アシスタントダンサーの武藤杏実さんによるソロパフォーマンス。

アシスタントダンサーの金子愛帆さんによるソロパフォーマンス。

暗いステージのなかを、首から下げた懐中電灯の明かりを頼りに、子供たちがゆっくり進んでいきます。その後、大きな銀色の薄いシートのようなものを手に取った子供たちは、そのシートの下に隠れたり、懐中電灯でシートを照らしたりと動いていきます。

シートをくしゃくしゃとまとめて、そのシートのひだの間に懐中電灯を入れると、シート全体が光を発し、まるで岩の間に宝石が光っているようなオブジェができあがりました。

オブジェを囲んだ子供たちの視線の先には、よださんの姿が。よださんの発する声に、子供たちがやまびこのように応答していき、「ひまの歌」という曲を一緒に歌います。その曲に合わせて、小暮さんがソロパフォーマンスを行います。

音楽家のよだまりえさんと子供たち。

小暮香帆さんによるソロパフォーマンス。

小暮さんに続いて1列になった子供たちに、小暮さんが「最後の曲だ!がんばろう」と声をかけます。最後は、全員によるダンスのパフォーマンスでフィニッシュ。会場は大きな拍手に包まれました。

終演後、パフォーマンスに触発されたのか、見ていた子供たちが会場内で踊る様子も見られました。

無事に終了! 「楽しかった」があふれたお別れ会

終了後、参加した子供たちとその保護者の方々、そしてアーティストの皆さんと、お別れ会が行われました。子供たちとアーティスト、皆やり切った表情で、一言ずつ感想を言っていきます。「楽しかった」、「思いっきり踊れた」、「『ひまの歌』を歌えてうれしかった」という子供たちに続いて、アーティストからのコメントです。

「楽しかった。その気持ちを忘れないようにしたいな、と思いました」と金子さん。同じく武藤さんも、「楽しく踊る姿を見て、楽しい気持ちを守っていきたいなと思いました」と話し、踊る楽しさという原点を感じられたようでした。よださんは「お客さんを感動させることができたと思う。自分の歌で踊ってくれたのが嬉しかった」とコメント。小暮さんからも「感動しました!」の声が上がりました。

お別れ会の最後、なんと子供たちからアーティストの皆さんへサプライズが! 本番でも披露したオリジナルダンス<ラジオ体操>を、アーティストの目の前で踊りはじめました。「ありがとうございました」と挨拶をする姿に、周囲からはまたまた大拍手。会場は最後まであたたかい空気に包まれていました。

どんな冒険がはじまったのか。 子供たちの声をきく

子供たちにとって、この10日間はどんな時間だったのでしょう?「一番楽しかったこと」、「頑張ったこと」、「新しく始めたいことややってみたいこと」などについて、4人の声をきいてみました。

まずは、過去にPKTに参加したことがある方から。今回の参加は3回目だそうです。これまでと比べて、今回はどんな時間になったのでしょうか。

「一番楽しかったことは、オリジナルダンスの<ラジオ体操>。あとは、一番最後の全員で踊るダンスを頑張った。これまでよりも、自分がレベルアップできたと思った。新しく始めたいことは特に思いつかないけど、ダンスは続けたいと思う。」

次に、きょうだいで参加していたお二人です。習い事としてバレエを習っているというお二人ですが、PKTのようなプログラムはどうだったのでしょうか。

「ワークショップで、皆のアイディアをきいて作品をつくっていったのが楽しかった。皆で仲良く、協力し合えると、色々やれることがあるんだなと思った。パフォーマンスでは、動き方とか、呼吸のし方とかに気をつけた。普段、バレエをやってるから、動きのタイミングとかは慣れていて分かるけど、こういう平場のステージでやるのは初めてで、新鮮だった。」

最後に、やはりダンスを習っているという方。今回の時間は、気づきのあるとても新鮮な経験だったようです。

「先生たちの振りが上手ですごかった。10回のワークショップのなかで、「表現」というものに興味がわいた。いままではただ「踊る」って感じだったけど、表現するということを知れた。楽しく踊るということが体験できた。振付を覚えるダンスばかりだったので、楽しむというのが新鮮だった。これから、自分の表現をもっと良くしていきたい。」

濃密な10日間のワークショップと本番を駆け抜けた、アーティストの皆さんと子供たち。同じ空間と時間を共有するなかで、たくさんの「はじめて」や発見、普段の学校生活等とはちょっと違う「学び」の体験、アーティストと子供たちが触発し合ったり実験をし合ったりできるような場、がつくられていたのだと思います。言葉になる想いも、まだ言葉にならない想いも、きっと身体に残って、いつか何かの背中を押すきっかけになるかもしれない。そう思うと、とてもわくわくする気持ちになりました。


パフォーマンスキッズ・トーキョー「冒険のはじめ方」

アーティスト:
小暮香帆(こぐれかほ)/ダンサー・振付家
よだまりえ/音楽家

実施日程:
【ワークショップ】
2025年1月18日(土)、19日(日)、25日(土)、26日(日)、2月8日(土)、9日(日)、11日(火・祝)、22日(土)23日(日)
【発表】
2025年2月24日(月・振)
会場:S&Dたまぐーセンター[青梅市文化交流センター]
主催:アーツカウンシル東京(公益財団法人東京都歴史文化財団)、特定非営利活動法人 芸術家と子どもたち
共催:青梅市教育委員会
助成・協力:東京都

イベントページ
事業ページ


撮影:中山裕貴
取材・文:岡野恵未子

最近の更新記事

月別アーカイブ

2025
2024
2023
2022
2021
2020
2019
2018
2017
2016
2015
2014
2013
2012