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F/T16 special

フェスティバル/トーキョー(F/T)16 プログラム・コーディネーターで、ドラマトゥルクの横堀応彦が、今年のF/Tの見どころを独自の視点でお伝えする限定ブログ。

2016/10/20

フェスティバル/トーキョー16がいよいよ開幕

国際的な舞台芸術の祭典「フェスティバル/トーキョー(F/T)」が今年も『フェスティバルFUKUSHIMA!@池袋西口公園』で開幕しました! 昨年に引き続き、このブログではフェスティバル/トーキョーの見どころなどをご紹介していきます。

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今回はF/Tのメインプログラムとなるポーランドの巨匠クリスチャン・ルパが演出する『Woodcutters – 伐採 –』 (ヴロツワフ・ポーランド劇場製作、10月21日〜23日東京芸術劇場プレイハウスにて上演)についてご紹介します。

私はこの作品を2015年のアヴィニョン演劇祭で観劇しましたが、何よりもそのスケールの大きさに強い衝撃を受けました。スケールが大きい演劇作品といえばシビウ国際演劇祭で観た『ファウスト』(シルヴィウ・プルカレーテ演出、ルーマニア国立ラドゥ・スタンカ国立劇場製作)が第一に思い出されるのですが、それに匹敵するほどのスケールを感じたのは久しぶりのことでした。『ファウスト』は廃工場で上演されたスペクタクル要素の強い作品でしたが、『Woodcutters – 伐採 -』 は従来の演劇/劇場作品にも関わらず終演後にはただただ圧倒されてしまったのです。

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プルカレーテの作品は東京でも上演された『ルル』などに見られるように観客を巻き込むダイナミックな演出が特徴的です。『ファウスト』も前半と後半では作品のテンポ(緩急)が大きく異なりますが、他方『Woodcutters – 伐採 -』 は前半後半ともに穏やかなテンポで進んでいきます。フランス音楽に例えるなら、前者がサン=サーンスの《交響曲第3番「オルガン付き」》だとすれば、後者はラヴェルの《ボレロ》といったところでしょうか。オルガンが大きな音で鳴り響くような派手さはありませんが、出演俳優と舞台裏を支えるスタッフ全員がルパによって作られた長大な総譜(スコア)を精緻(せいち)に奏でていく4時間半はまさに巨匠の成せる技です。なお公演日によっては、ルパ本人が客席からマイクを通して参加(?)する様子が見られるかも知れませんが、これは一切即興ですのでご留意ください。

演劇大国ポーランドを代表する名俳優たちによる演技、ルパ自身がデザインした舞台美術と照明、複数のプロジェクターから投影される映像など見どころが尽きることはありません。複数の要素が互いを補完するように絡み合い、ルパでしか実現できない演劇の美学が舞台上に立ち上がります。特に2014年に初演された本作はポーランド国内の演劇賞を総なめにしたルパの集大成といえる作品です。先日ポーランドを訪れた際、とある劇場のプロデューサーと話す機会がありましたが、彼女がこの作品のことを「ルパの魅力が全て詰まっていて、1000%ルパだ!」と語っていたのが印象に残っています。

F/T Focusで鴻英良さんが指摘されているように、ポーランドと日本の演劇交流には長い歴史があり、1982年に利賀フェスティバルでタデウシュ・カントルの『死の教室』が上演されたことはいまや伝説として語られます。今回の『Woodcutters – 伐採 -』 もそれに匹敵する歴史的な公演となることでしょう。

昨年のF/Tで上演したスペインの鬼才アンジェリカ・リデルによる『地上に広がる大空(ウェンディ・シンドローム)』は2時間半の作品でしたが、今年のメインプログラムは4時間半(休憩あり)の大作です(ときに2日がかりで上演されることもあるルパの作品の中では標準的な部類に入るのですが…)。日常では決して体験することのできない、フェスティバルならでは特別な時間を体験しにきてください!

なお『Woodcutters – 伐採 -』 をより楽しむための関連企画としてF/Tトーク「トーマス・ベルンハルトとウィーン演劇」「ポーランド演劇の最前線」、さらに公演前のプレトークやクリスチャン・ルパによるスペシャルトークも開催します。こちらにもあわせてお運びください。

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