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アーツカウンシル東京ブログ

アーツカウンシル東京のスタッフや外部ライターなど様々な視点から、多様な事業を展開しているアーツカウンシル東京の姿をお届けします。

東京アートポイント計画通信

東京アートポイント計画は、地域社会を担うNPOとアートプロジェクトを共催することで、無数の「アートポイント」を生み出そうという取り組み。現場レポートやコラムをお届けします。

2013/05/27

長尾POレポート プロジェクト日誌(1)

「曳舟湯怪」(ひきふねゆかい)は、「墨東まち見世2012」の100日プロジェクトでアーティスト新里碧さんが、墨東エリア銭湯を舞台に展開した作品です。曳舟駅前の再開発に伴い、昨年6月、約80年の歴史を終えた「曳舟湯」のタイルや木材などを素材に、湯の妖怪「湯怪」を制作しました。一軒ずつ丁寧な交渉を重ね、墨東エリア14か所の銭湯で平成24年11月4日(日)~26日(月)まで展示しました。
 曳舟湯とともに長い年月を過ごしてきた廃材が、「夢瓢箪」「迎狸」「美人おかめ」といったストーリーのある「湯怪」となり、新たな湯を求めて曳舟湯から地元の銭湯へ散らばる、というコンセプト。会期終了後の現在も、一部の湯怪は銭湯で展示されています。

 現在、そのアーカイヴス展が、墨田区立ひきふね図書館4階で開かれています。曳舟駅前に今春オープンしたばかりの同館は、かつて曳舟湯があった場所のちょうど向かい側の建物の中にあります。書架の間に点々とある展示ケースで、「曳舟湯怪」の記録を制作の過程も含めてふりかえる展示が展開されています。
 例えば「河童狐」のコーナーには、頭に丸い皿(タイル)をのせた小動物。タイルは、曳舟湯の湯船の底に敷き詰められていたもの。展示会場となった銭湯の地図や、展示の様子の写真とともに、ちょこんと置かれた河童狐から、吹き出しでそのコンセプトが説明されています。本を読む人、勉強する人。そういった静かな通常の図書館ユーザーに混ざって、本棚の隣に湯怪が展示されているのは、初めて見る光景。アートの文脈でつくられたものが、「アーカイヴ」という図書館機能と接点を持ったことで生まれた状況。そもそも墨東エリアでは、日常生活と地続きで展開されるプロジェクトが多いのが特徴のひとつですが、今回はまた違った面での「日常」に接続しています。
 アーカイヴス展は、9月半ばまでの約6か月間、本を借りに足を運んだ人たちの目にどのように飛び込むのでしょうか。これを見て、今もなお展示中の湯怪を見つけに、銭湯まで実際に足をのばしてくださる方が生まれたら素敵なこと!

 4年間の「墨東まち見世」を通して、墨東に蒔かれた種が、さまざまな人たちの手で育てられ、芽を出し伸びています。そのような場面が数多く散りばめられている、と思わせる魅力が墨東エリアにはあります。今年も墨東の担当プログラムオフィサーとして、日々展開される活動に立ち会って行けることを楽しみにしています。

曳舟湯怪アーカイヴス展
曳舟湯怪アーカイヴス展 入口 (ひきふね図書館)

*本展示は、ひきふね図書館が主催しています。「曳舟湯怪」の展示を聞きつけた図書館からのお声掛けで、NPO法人向島学会「墨東まち見世部会」が窓口となって実現しました。

■「墨東まち見世」アートプラットフォーム(2013年度事業)
■ 墨東まち見世2012 100日プロジェクト 新里碧「曳舟湯怪」

東京アートポイント計画 プログラムオフィサー  長尾 聡子

プロフィール
東京芸術大学大学院音楽文化学専攻芸術環境創造分野修了。在学中に、取手アートプロジェクト、art-Link上野—谷中にインターン、スタッフとして参加。2008年より横浜市立泉区民文化センターテアトルフォンテに勤務し、2012年より現職。

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