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アーツカウンシル東京ブログ

アーツカウンシル東京のスタッフや外部ライターなど様々な視点から、多様な事業を展開しているアーツカウンシル東京の姿をお届けします。

東京芸術文化創造発信助成【長期助成】活動報告会

アーツカウンシル東京では平成25年度より長期間の活動に対して最長3年間助成するプログラム「東京芸術文化創造発信助成【長期助成】」を実施しています。ここでは、助成対象活動を終了した団体による活動報告会をレポートします。

2018/04/17

第2回「身体を透してみえてくるもの-更新をつづける国際ダンスフェスティバル Dance New Air」(後編)

※第2回「身体を透してみえてくるもの-更新をつづける国際ダンスフェスティバル Dance New Air」(中編)はこちら

面で拡がり、社会にひらく

−−DNAの活動につきましては、2016年のフェスティバルに対しての2年間の長期助成(2015-2016)に続き、本年のフェスティバルに向けた、平成29年度からの2年間の長期助成(2017-2018)もさせていただいている最中です。本年のフェスティバルについて、そのコンセプトやビジョンを教えていただけますか。

宮久保 今年の10月3日から14日を会期として準備を始めています。メイン会場はスパイラルホールということは変わらず、新たに草月会館がパートナーとして加わってくださることになりました。それから前回同様に田町のスタジオ アーキタンツさんも参加してくださいますし、「ダンス保育園!!」のように前回つながった方たちとも活動は続けることになっています。ただ具体的な内容については、助成金の決定もこれからですので、それが落ち着いてから、皆さんにご報告する予定です。
また、今年度はプレ公演として、サイトスペシフィックシリーズの2回目を開催します。『enchaine』というタイトルで、会場は六本木の国際文化会館です。六本木とは思えない静かなところです。建築分野の方にはよく知られている場所ですが、知らない方、入ったことのない方もたくさんいらっしゃるでしょうし、普段入ることのできない場所も使いますので、ぜひ、これをきっかけに訪れていただきたいと思います。この作品は湯浅永麻さんというダンサー・振付家の作品です。湯浅さんはちょうど今、渋谷のシアターコクーンでやっている『プルートゥ PLUTO』にダンサーとして出演中ですが、もともとイリ・キリアンのNDT(ネザーランド・ダンス・シアター)にいらして2015年にフリーになり、今すごく活躍しつつある方です。実は湯浅さんとは、2016年の「Dance New Air」にも参加してくださった向井山朋子さんが同時期にさいたまトリエンナーレで発表された『HOME』に出演していらした関係で知り合いました。とても素晴らしいダンサーで、クリエイティブな考えを持たれていて。その出会いが今回の公演につながりました。この公演では、ダンスとは異なる分野の方々に関わっていただくという試みもしていまして、空間構成には建築家の田根剛さんが、衣裳と美術では、SOMARTAというファッションブランドの廣川玉枝さんがかかわってくださっています。

−−改めてお聞きしたいのですが、今回の長期助成を利用されたうえで、助成金の仕組みや役割、また資金以外の付加価値についてどんなふうにお考えになっていますか。

宮久保 長期助成のプログラムがあるのは、おそらくアーツカウンシル東京くらいだと思いますので、もっとほかにも、長期助成のプログラムがあればいいなと思うことはあります。それからアーツカウンシル東京の場合、単年であっても半年に一回申請ができますので、これもありがたい試みで、どんどん国内に広がってほしいです。また、私たちは2016年に「共催」というかたちではありますが、港区から助成をいただいておりまして、これは全体の予算の3分の2までを助成してくださる仕組みでした。もちろん2分の1でもありがたいのですが、やはり配分が大きいほど助かります。こういうことも、いい形で、仕組みが変わっていくといいなとは思っています。
また、今回の助成をいただく際には、いろいろな事態に合わせて常に相談しやすい立場でいていただいて、ほかにアプライできるような助成金はないか探してくださったりしたこともありますし、今後の活動につながるのではないかという方々、団体をご紹介していただいたこともあります。そういった中で活動が広がってきたなという実感もありますので、これについては大変感謝しています。

小野 これは先ほどのご質問にもあった、プログラムのつくり方にも関わることですが、2002年に始まってからずっと、プログラムディレクターをおかずに、プロデューサーによる合議制でやってきたところが、「ダンスビエンナーレ」から「Dance New Air」までの大きな特徴だと思っています。演劇にしてもダンスにしても、美術にしても、こういう形でプログラムをつくっているところは、なかなかありません。もちろん、ディレクターがその人ならではの視点で作品を選んだり、プログラムを組んでいくということは重要ですが、私たちプロデューサーというのも、社会の視線、社会の肌触りには非常に敏感だと思うのです。それぞれに様々な分野でダンスの仕事をしつつ、それぞれに違った視点でアーティストを見ているということ、そのうえで、たくさんのアーティストの現在地を、社会の現在に結びつけているということが、私たちの特色ではないのかと。
また、パフォーマンスだけではなく、サイトスペシフィックシリーズでは、建築や都市との対比や融和といった視点からものごとをつくってもきています。さらに、青山劇場からスパイラルに広がり、その後イメージフォーラムでの映像プログラムや青山ブックセンターを加えたりしてきたことも、ダンスを多様な視点から捉え、社会に開いていくためのひとつの扉を開けることにつながっているのではないでしょうか。
ですから、私たちも公的助成の持っている役目や意義は十分に認識し、どれだけ社会へ還元していくかということを意識しながらプログラムをつくっている、ということはお伝えしておきたいと思います。

小林 助成金をいただくありがたさというのは、協賛金とは違います。協賛金というのは、協賛者に対してどんなメリットがあるのかということを考えなくてはならないものです。そうするとプログラムがブレてくることがある。われわれのやっているもので協賛をとれるかというと、なかなか難しいですね。だから助成金は非常に重要で、それがないと、協賛金がとれないものはやめていいのかということになってしまうと思うのです。
今、身体表現としてのダンスというのは、世間一般に認められてきています。体育の授業で教えているということもありますし、音楽を聴きながら体を動かしているイメージがそこにあるのかもしれません。ただ、それが、アートとしての身体表現、ダンスという領域になると、世界的にもそれが重要視されている一方で、たとえば協賛者に理解してもらうことも難しい。協賛メリットから考えれば、やっぱりエンターテインメントとしてのダンスの方が、動員にしても1万人来ます、2万人来ますという話ができるわけです。ただ、それだけでいいのかというと、そうではない。小野さんのお話のように、いかに社会にコミットするかということでは、アートとしての身体表現、ダンス表現の方が重要になってくる。それから将来の時代をどうつくっていくのかということにおいても、ダンスは非常に重要なコンテンツだと思います。
こういったものを協賛金とお客様からの入場料、それからかかわっている人たちのお金だけでまかなえるかというと難しい面があります。でも、続けられないからやめればいいということでもない。そこに、継続的に助成金をいただけることの意味があると思います。ですから是非継続していただきたいし、われわれも協賛が集まらないから、お客さんが少ないからやめましょう、ということではないかたちで、文化活動を続けていきたいと考えています。

−−ありがとうございます。フェスティバルには、劇団や個人のアーティスト以上に、ある種の集合体として社会との関係性、接点を意識しなくてはならない部分があり、だからこそ私どももその考えに共感し、サポートさせていただければという思いを持っていました。「Dance New Air」には、結果的に長期助成を2回連続でさせていただいていますが、これは初めての事例になります。継続的な支援の必要性について、これからどのような展開が可能か、私ども自身の目的や目標も見つめつつ、伴走させていただければと思っております。

向井山朋子(オランダ/日本/イタリア)
『La Mode(ラ・モード)』(2016) photo by bozzo

<来場者との質疑応答(抜粋)>

質問者1 私は「ダンスビエンナーレトーキョー」の立ち上げにも少し関わった経験があります。フェスティバルの立ち上げ当初は、高谷さんもご存命で、ダンスのフェスティバルを、青山から国道246号線で横浜まで繋げて展開するという壮大な構想を伺ったことがあります。それはたとえばPARCOや、Bunkamuraや、それから三軒茶屋の世田谷パブリックシアターといった劇場との提携も想定する話でしたから、最初にお話にあった「劇場を稼働させる」ということにもつながるものだったと思います。その一方で、「Dance New Air」が近年、地域プログラム、サイトスペシフックな公演といったものに舵を切ったのは、やはり、こどもの城がなくなって、大箱の招聘公演がなくなったことも踏まえた戦略的なものだという解釈でよろしいんでしょうか。

小野 今、おっしゃった構想は聞いたことがあります。高谷さんと横浜赤レンガ倉庫の石川さんらとそういう話をしていて、それはバニョレのジャパンプラットフォームが東京から横浜に移った流れともリンクしています。ですから、青山と横浜とでコンテンポラリーダンスを盛り上げていこうという構想はあって、それはいろいろな取材の機会にも話されていたことでした。2004年にスパイラルと一緒にやるようになってから、2014年の開催までは、基本的に青山劇場にこだわった形でやっていこうということは決めていました。(閉館後の)2016年の開催の時には、東京全体にエリアを広げるかどうかという話もありましたが、やはり、青山エリアにフォーカスした方がいいのでは、ということになりました。もちろん、大箱を求めてエリアを拡大する選択肢もありましたが、私たちとしては、いろいろな視点を持ったアート施設が集積している青山という場所でダンスを盛り上げ、ダンスをめぐるいろいろな視点を発信していきたいと話し合い、それが今現在のあり方につながっているのだと思います。

質問者2 2002年からフェスティバルを運営なさって、観客層の変遷をお感じになることはあったでしょうか。またそれを踏まえ、広報・宣伝の面で大事にされていること、限られた予算の中でどのような施策を考えていらっしゃるかをお聞きできればと思います。

平岡 観客層については、やはり、いろいろなアートのジャンルの方々とご一緒していますので、ダンスだけを観るのではない方、初めてダンスを観る方が増えてきたという実感はあります。スパイラルホールは来たことがあるけれども、そこでダンスを観るのは初めてといったこともあるでしょうし、2016年には『HAKANAÏ』という作品で、子供たちも一緒に観ていただけるような、親子券もつくったりしましたので、そういう部分でも観客層が広がってきている感じはあります。
広報的なことについては、東京都や港区といった行政も取り組んでおられるように、私たちも、SNSなどでの多言語化の試みを行っています。

宮久保 日本語、英語のほかに、フランス語、韓国語、中国語を試しています。メインのニュースだけですが、ボランティアの方に訳していただいて発信するようにしました。これも、どこまで届いていたかはリサーチできていない状況ですが、今後も継続することが大切だと思いますし、次回も試みたいと思っています。

平岡 2012年、2014年の開催では、広報のスペシャリストの方に委託していましたが、2016年については予算規模の関係で、それができなくなってしまいました。それで、私たち4人だけでなく、サポートスタッフの若い人たちの力を借りて、地道に、ネット環境をどう使うかといった工夫もしながらやっていきました。

宮久保 フェスティバルというのは情報がすごくたくさんあって、チラシひとつにしても、読み解くのが大変だったりします。そのバランスをどうするかということもあって、今回は時期を2回に分けて、2段階で表紙も変え、新たな情報を加えて配布するということをしました。その2回目の段階で、1回目の時は決まっていなかった「ダンス保育園!!」の情報や、新たな協賛企業の名前を入れることもできました。また、最近はポスターもなかなか貼る場所がなくて。青山劇場があった時には、まだ表に掲出できる場所があったのですが、スパイラルホールでは公演当日にしか表にポスターを貼ることはできないというような事情がありました。海外のように道端の壁に貼るということもできず、結局ポスター自体も20枚程度しかつくっていなかったのですが、港区の助成が決まったことで、区内の施設に掲示してくださることになりました。最終的には100枚くらいのポスターを掲示できたというのもすごくよかったことです。


第2回の活動報告会では、Dance New Airの設立の背景から現在進行形の活動を通して、フェスティバルという集合体が向き合うビジョンと数々の言葉を共有させていただきました。また、受益者の観点から浮き彫りとなった協賛金とは異なる公的助成・支援の意味や機能についても、再認識する機会となりました。この気づきや学びをプログラム運営にも生かしていきたいと思います。
第3回は、平成26年度から3年間助成した庭劇団ペニノ「新たな『はこぶね』プロジェクト」(演劇分野)の報告会をレポートします。どうぞご期待ください!


一般社団法人ダンス・ニッポン・アソシエイツ
http://dancenewair.tokyo/
東京・青山エリアを中心に2002年から開催してきた国際ダンスフェスティバル「ダンスビエンナーレトーキョー」を発展的に継承し、14年秋より隔年開催のフェスティバル「Dance New Air」を運営する団体。15年に実行委員会から一般社団法人に組織改編し、体制強化を図った。

宮久保真紀
1997年〜2015年、青山の文化複合施設スパイラルに勤務。パフォーミングアーツを担当する他、スパイラル内外の現代美術の展覧会やイベント企画に携わる。主なプロデュース作品は、安藤洋子振付・出演「Largo」(10)、田畑真希振付・出演「ワタシヲ サスラウ ウタ」(12)、黒田育世出演・笠井叡振付「うみの音が見える日」(12)、上村なおか・森下真樹出演・黒沢美香振付「駈ける女」(13)など。15年8月より一般社団法人ダンス・ニッポン・アソシエイツ 代表理事。18年4月より(公財)地域創造/公共ホール現代ダンス活性化事業コーディネーター。

平岡久美
1990年代後半より主にコンテンポラリーダンスの制作・コーディネーターとして活動。黒沢美香、関かおりをはじめ多くのアーティストの公演やワークショップ、青山劇場・青山円形劇場、地域創造公共ホール現代ダンス活性化事業、トヨタ コレオグラフィーアワード、TPAM(国際舞台芸術ミーティング in 横浜)などの制作に参加。篠原聖一・下村由理恵、キミホ・ハルバートなどバレエ公演の制作も手がけている。「Dance New Air」には02年のDANCE BIENNALE TOKYOから携わっている。

小野晋司
青山劇場・青山円形劇場において多彩なダンスプログラムや国際的なダンスフェスティバル「DANCE BIENNALE TOKYO」「DANCE TRIENNALE TOKYO」「Dance New Air」等をプロデュースし、国内外のアーティスト・制作者・劇場やフェスティバルと協働。横浜の街そのものを舞台に繰り広げる3年に一度のダンスの祭典「Dance Dance Dance @ YOKOHAMA」事務局長。今年で23回目を迎える「横浜ダンスコレクション」をプロデュース。(公財)横浜市芸術文化振興財団 チーフプロデューサー、横浜赤レンガ倉庫 1号館館長、(一社)ダンス・ニッポン・アソシエイツ理事、日本ダンスフォーラム(JaDaFo)メンバー、文化庁芸術祭執行委員会委員。

小林裕幸
スパイラル館長、株式会社ワコールアートセンター代表取締役社長。シニアプロデューサー。早稲田大学卒業後、流通系の会社を経て1989年株式会社ワコールアートセンター入社。伝統芸能からコンテンポラリーダンスまで幅広い舞台芸術を紹介。「聲明コンサートシリーズ」(98〜16)、伝承芸能の担い手を紹介する「花方」(13〜)、上村なおか出演の「Wonder Girl」(04)、安藤洋子出演の「moiré」(06)、森山未來出演の「SAL – Dance and Music Installation – By Ella Rothschild and Mirai Moriyama」(16)。04年より青山劇場と共に「DANCE BIENNALE TOKYO」「DANCE TRIENNALE TOKYO」「Dance New Air」のプロデューサーとして参画している。

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