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アーツカウンシル東京のスタッフや外部ライターなど様々な視点から、多様な事業を展開しているアーツカウンシル東京の姿をお届けします。

DANCE 360 ー 舞踊分野の振興策に関する有識者ヒアリング

今後の舞踊振興に向けた手掛かりを探るため、総勢30名・団体にわたる舞踊分野の多様な関係者や、幅広い社会層の有識者へのヒアリングを実施しました。舞踊芸術をめぐる様々な意見を共有します。

2018/10/30

DANCE 360 ― 舞踊分野の振興策に関する有識者ヒアリング(16)五耀會 西川箕乃助氏、藤間蘭黄氏

2016年12月から2017年2月までアーツカウンシル東京で実施した、舞踊分野の多様な関係者や幅広い社会層の有識者へのヒアリングをインタビュー形式で掲載します。

DANCE 360 ― 舞踊分野の振興策に関する有識者ヒアリング(16)
五耀會 西川箕乃助氏、藤間蘭黄氏
インタビュアー:アーツカウンシル東京

(2016年12月7日)


──五耀會の目標と日本舞踊の課題について

箕乃助:我々五耀會 ※1 が最初に立てた目標というのが、日本舞踊に関して、習いごととしてはもう皆さん認知していただいているけれども、日本舞踊を<見る芸術>、<芸能>として認めていただけるような活動をしていきたいということでした。習いごとは習いごととしてよいけれども、そこにプロフェッショナルな何か=<見る芸能>というのがきちっと確立していないと、何かすごく低いレベルの習いごとになってしまうのかなと。目標になるようなものがないとね、と思ったことがありました。

※1:五耀會:日本舞踊界に新しさを巻き起こすべく、同世代の日本舞踊家5人、西川箕乃助、花柳寿楽、花柳基、藤間蘭黄、山村友五郎が流派を超えて集い結成された。(参照:一般社団法人 五耀會公式ウェブ

支援する側がここなら十分に支援できるぞと判断する基準は、踊りのうまさだけじゃないと思うんです。社会に対してどのようにアピールしているのかということだと思います。今=現在という、我々の活動が問われるんだろうなというのをすごく感じています。

蘭黄:日本舞踊のすぐのご先祖様は歌舞伎であって、歌舞伎というのはできた当初からずっと政府からは弾圧されていた芸能なわけです。ですから、ちょっと暴論かもしれませんが、どこかで政府の支援を受けなくても自分たちの力でやっていくんだというDNAみたいなのが、芸能にはある気がします。日本人というものの中にそうした気質がある気がするので、芸術団体を支援する側の行政にも、支援される側の我々にもそこから発生する難しさがあるのではないかという気がするんです。
我々としては、逆に言うと、支援する側がここなら十分に支援できるぞと判断する基準は、踊りのうまさだけじゃないと思うんですよ。踊りのうまさだけでは今は難しい。ではどうするかというと、社会に対してどのようにアピールしているのかということだと思います。今=現在という、我々の活動が問われるんだろうなというのをすごく感じています。
ちょっと前であれば、日本舞踊でも歌舞伎でも、それぞれ目の肥えた評論家の先生方がいらっしゃいました。でも、今はやっぱり日本舞踊というもの自体が社会から隔絶されているだけに、なかなか評論家の先生方の目というのも少なくなっている。レベルが云々じゃなくて、もう絶対数が少ないから、その絶対数が少ない中のちょっとした判断で、ここの上に上がるか、下がるかみたいなことというのは非常に難しい話になってくる。ということは、我々がもっとこういう社会の目の触れるところに行って、マニアックな方々のみではなくて、誰が見ても、これはすごいな、おもしろいな、素晴らしいなと思われることをどんどんやっていかないと、どこがプロで、どこが素人かというのは本当にわかりにくい世界になってしまっていると思います。

箕乃助:要するに、敷居を低くしないと、なかなか普通の方々に見ていただくことは難しいと思っていて、僕らなりにはできる中での仕掛けをしてはいるんですけれどね。それこそ新しい作品をつくったりということです。よく言われるのは、「わかる」ということは実は大事なことだということです。わからないけど素晴らしいという芸術はもちろんあるけれど、日本舞踊でよく言われるのは、何か歌を歌っているけど、何を言っているのかよくわからない。でも、実はそこが本来、日本舞踊の一番の見せどころであったりするんですよね。聞かせどころであったり。でも、それが今の現代の人間にとっては非常にかったるいものに映る。その辺を僕らがどのように解決していくのかは、すごく大きな課題です。

──日本舞踊の本質とは何だとお考えでしょうか。

蘭黄:やはり動きそのもので何か伝えることができるというのは非常に大きな武器だなと思います。これからグローバルな目線を持った場合に、そういう可能性はすごく大きいと思っているんですね。日本舞踊は歌舞伎と違って女の人もやるし、多様な部分を持っていることが良さでもあり、逆に言うと、そこが認知されづらい要因でもある。独自性に欠けるところもあるような気がします。その辺はこれからもっと整理していく、こういうようなことをしていいのかどうかわからないけれど、僕らの課題だとも思っているんですよね。歌舞伎の踊りと言いながらも、日本舞踊独自の表現方法というのはもうここ100年でかなり確立されていますし、その表現方法と世界の舞踊と比べてみると、すごく独自的なものというのがあります。その独自的なものというのは何かというと日本の文化なんですよね。日本の文化として、お茶の世界であり、お花の世界であり、和歌の世界であり、あるいは神仏のそういう宗教行事でありという、そういうもの全部含んでいるものとして、日本文化のデパートみたいなものなのだと思います。今の日本人のメンタル的なもの、動き、何にしても、全ては戦国時代を経て、江戸時代に、かなりいろんなことが確立されている。それが明治維新によって大分否定はされているものの、文化としては色濃く江戸のにおいというか、江戸時代に確立されたものを我々はずっと引きずっていると思うんです。それを伝えていけるのは、この日本舞踊だなと私は思います。

気をつけなければいけないのは、海外での評価というのは、決して本質を見ているわけではなく、その外側の珍しいものに対する評価であることが多いです。それが取っかかりでいいんですけれども、その先まで突き詰めて評価されるように目指さないといけない。

──海外での経験について

蘭黄:日本でやっているだけではなかなか考えもしなかったのですが、海外に行かせていただいたり、海外の文化に触れると改めて考えさせられます。我々がやっている日本舞踊って何だろう。世界中にお扇子持った踊りがあっても、お扇子をキセルにしたり、お扇子をとっくりにしたりして踊るというのは日本舞踊だけですよね。お扇子の踊りはヨーロッパにもありますし、大陸にもありますし。そんなことも考えると、じゃ、それは何だろうというと、やっぱり日本独自の見立ての文化ですしね。日本のためにもそうですけど、世界のためにもこれはとっておかないといけないんじゃないかなと。こういう考え方もあるぞと。

箕乃助:気をつけなければいけないのは、海外での評価というのは、決して本質を見ているわけではなく、その外側の珍しいものに対する評価であることが多いので、それが取っかかりでいいんですけれども、その先までやっぱり突き詰めて評価されるように目指さないといけない。これは日本でも同じで、蘭黄さんが言ったように、もう今は日本の若者にとっても日本の古典芸能というのは外国の方と同じような感覚なんですよね。ですので、国内外問わず、やっていることの理解を促すような仕掛けが必要なんだと思います。

──日本舞踊の観客開発においては、どのような策が有効だと思われますか?

箕乃助:日本舞踊の本質的な素晴らしさを観客にわかってもらうには、繰り返すしかないと思います。1回行って、パッとやったら、珍しいで終わっちゃうんだと思うんですよね。それはやっぱりある程度リピートできるような体制というのをつくっていかないと。先輩方もおっしゃっていたんですが、何とか日本舞踊の長期公演を実現できれば、それこそ興行として回っていくんでしょうけれども、それがなかなか今かなわないものですから。でも僕らは、日本舞踊の中でそういうものの可能性をつくっていかないといけないなと思います。それが我々の世代の役目なのかなと。
それから、メディアの力というのは非常に大きい。歌舞伎がいい例ですが、やっぱり現代的なビジュアルで人気が出たり、コマーシャルに出たり、いろんなことで世間の若い人に認知されて、じゃ、見に行こうかとなる。それはもちろん芸の本質とはまったく違う部分ですが、そういう切り口でお客さんが来るわけですよね。だから、そういうことはやっぱりどこか大事な部分でもあると思います。
我々独自の活動としては、毎月5日にそれぞれの稽古場持ち回りのアトリエ公演みたいな「日本舞踊への誘いby五耀會」というものをやっています。あえてお弟子さんには声をかけずに、ホームページでの申し込みに限っていて、最初は本当に少なかったですが、今は60人の定員もあっという間にいっぱいになるようになりました。なので、何か入り口があればそうやって、お客様を少しずつでも増やすことができる。そうやって見るお客様には、見にくることが好きになってもらえると思います。

助成にしても、今はどちらかというとばらまき系で一点集中じゃない方向です。本当にいいものにはちゃんと出してほしいと思います。中途半端なものに中途半端な支援をしても、結局中途半端なことにしかならない。

──芸術文化の支援について

箕乃助:助成にしても、今はどちらかというとばらまき系で一点集中じゃない方向です。本当にいいものにはちゃんと出してほしいと思います。逆によくわからない評価のものには、まあ、もういいんじゃないのというぐらいのほうが文化は育つような気がします。中途半端なものに中途半端な支援をしても、結局中途半端なことにしかならない。
そして、日本の文化にももっと力を入れて支援してほしいです。大阪の元の市長じゃないけども、民間でちゃんと集客できない、お金を儲けられないようなものは廃れたらいいんだというのとは僕は違うと思います。それももちろん大事なことで、自助努力で何とか一般の人たちに見てもらおうと、もっともっと頑張ってやっていかないといけないというのはありますが、それだけでは賄いきれないところというのを、やはり公的なものでもっと応援していただきたいと思います。「伝統芸能」というくくりでいえば、売れる/売れないだけでない、守っていかないといけないというのもありますので。

──若手の育成や支援について

若手を育てるのだったら、育てるほうの人をちゃんとしたほうがいいと思うんです。そういう意味で、人間国宝のシステムは面白くて、人間国宝というのは、その人が素晴らしいから年金が出るというのではなくて、どれだけの人を育てているかというところにおいてお金が出るわけです。

箕乃助:その人がどういう志を持って、そのものを目指しているのかということをちゃんとリサーチして面接した上で、支援するかどうか判断した方がいい。助成金の申請書を書くことも大事だと思うけれど、書いたものだけで判断してはダメだと思います。その人を見極めるという作業はすごく手間のかかることだと思いますが、ちゃんとしていかないと、何となく、はい、適当にやっといてみたいな感じだと、なかなか本当の意味で若手は育たないと思います。

蘭黄:これは私の個人的な考えですけど、若手を育てるのだったら、育てるほうの人をちゃんとしたほうがいいと思うんです。そういう意味で、人間国宝のシステムは面白くて、人間国宝というのは、その人が素晴らしいから年金が出るというのではなくて、どれだけの人を育てているかというところにおいてお金が出るわけです。だから、人を育てるためにこのお金を使いなさいよ、という意味合いだと思うんですよ。ということは、私はやっぱり次の世代を育てるということになるのかなと。結局その人を育てるのはその人のお師匠さんなので。

プロフェッショナルとアマチュアというのを明確に分ける作業というのをこれからちゃんとしていかないといけない。
才能がある人間をやっぱりピックアップして、そこにお金なり、経験をさせていくことが必要です。必要な支援を投下できるような仕組みというのを、つくっていかないとだめなのかもしれません。

箕乃助:日本のほとんどの身体の芸能はそうですが、プロフェッショナルとアマチュアというのを明確に分ける作業というのをこれからちゃんとしていかないといけない。裾野というのはやっぱりアマチュアの部分で広がる部分ですが、そこから優秀な人間が100人のうちの1人でも、2人でも3人でも出て、プロフェッショナルの道に入るというふうなことになっていかないと、玉石混交で、結局どこを育てればいいのみたいな話になってしまいます。才能がある人間をやっぱりピックアップして、そこにお金なり、経験をさせていくことが必要です。必要な支援を投下できるような仕組みというのを、つくっていかないとだめなのかもしれません。

──大学での舞踊教育について

箕乃助:日本の教育機関は、大学では一般教養をしたり何かと色々な要素が多くて、専門なんて本当に4年間のうちちょっとじゃないですか。でも、もし本当に大学機関の中でこういうパフォーミングアーツ系の専門的な教育をやるのであれば、肉体表現のことに時間を割く分量をもっとふやさないといけないと思います。そうでないと、そういう意味での海外のアカデミーと同じようなことにはならないと思います。海外では、ヨーロッパのバレエ学校にしても韓国の舞踊学校にしても中国の京劇にしても、小学校の年代から専門的にずっとやっていきますからね。日本は民間の習いごとが充実しているがゆえに成立しているこの現状ということでもあるのですが。



©篠山紀信

西川箕乃助

西川流十世宗家西川扇藏(人間国宝)の長男として生まれる。国際化の時代と日本舞踊の将来のためにロンドン大学SOASへ留学、ついでラバンセンターに入学し、モダンダンス・バレエ・舞踊理論を専攻するという異色の経歴を持つ。平成5年より日本大学藝術学部演劇学科非常勤講師に就任。同年、五代目西川箕乃助を襲名。主宰する「西川箕乃助の会」は15回を数える。伝統を継承しながらも、外国人を対象にした舞踊講習を行い、NHK大河ドラマや映画「陰陽師」などの所作指導にもたずさわる。宝塚歌劇やOSK等、舞台の振り付けも多数手掛けている。芸術選奨文部科学大臣賞、花柳壽應賞新人賞、松尾芸能賞新人賞を受賞。
https://nishikawaryu.jp/ja/


©篠山紀信

藤間蘭黄

日本舞踊家藤間蘭景の長男として生まれる。人間国宝である祖母・藤間藤子、母・蘭景の手ほどきを受ける。昭和43年、第20回「紫紅会」にて初舞台。同53年。「藤間蘭黄」の名を許される。平成4年より毎年、「蘭黄の会」を主宰する。アメリカ、ヨーロッパ、アジア、中東など国内外の舞踊公演を精力的にこなすかたわら、NHKドラマ「利家とまつ」「オトコマエ!」、「JIN—仁—」など、テレビの所作指導にも手腕を発揮している。また、国内外の舞踊コンクールの審査員を務めている。平成28年度文化庁文化交流使に任命され10か国14都市で活動する。芸術選奨文部科学大臣賞、文化庁芸術祭新人賞、花柳壽應賞新人賞、舞踊批評家協会新人賞、松尾芸能賞新人賞を受賞。
http://www.daichi-fjm.com/

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