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アーツカウンシル東京ブログ

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ACT取材ノート

東京都内各所でアーツカウンシル東京が展開する美術や音楽、演劇、伝統文化、地域アートプロジェクト、シンポジウムなど様々なプログラムのレポートをお届けします。

2019/10/18

あなたの街にオーケストラがやってくる。「プレミアムコンサート〜未来へのハーモニー〜」

「プレミアムコンサート〜未来へのハーモニー〜」は、東京都交響楽団が多摩地区や島しょ部でコンサートを開くプログラムです。オーケストラ公演とアンサンブル公演があり、入場料はすべて無料。地元で気軽にクラシック音楽を楽しむことができます。

2019年9月22日(日)、東京都東大和市にある東大和市民会館ハミングホール 大ホールでオーケストラ公演が開催されました。

開演前、小ホールで行われていたのは楽器体験。プロの演奏家がヴァイオリンやチェロを教えてくれるコーナーです。
参加者は子供から大人までさまざま。家族連れも多く見られました。

参加者の多くが弦楽器初心者。弓のつくりや楽器の構え方をマンツーマンで教えてくれます。
最初は緊張気味だった人も、音が鳴ると思わず笑顔になっていたのが印象的でした。


講師の江口心一さん(都響チェロ奏者)が丁寧に指導してくれました。

筆者もチェロを初体験! 弓を当てる角度や力加減によって音色が大きく変わり、きれいな音を出すのが想像以上に難しかったです。
それでも、手取り足取り教えてもらううちに、なんとかそれらしい音が出るように。身体のなかに響くような感覚が心地よく、ずっと弾いていたいと思いました。

大盛況のまま楽器体験が終わり、いよいよコンサートの開演時間になりました。

会場は約700名の観客でいっぱい。ステージに指揮者の梅田俊明さんが登場し、最初に披露されたのは「オリンピック・マーチ」です。1964年の東京オリンピックのために作られた曲で、開会式の選手入場の際に演奏されました。
はつらつとした音に、観客は一気に引き込まれていきます。

1曲目が終わり、司会の西山琴恵さんが登場。次に演奏する「交響詩《中央アジアの草原にて》」について紹介してくれました。

エキゾチックな旋律とロシア民謡が交差し、広大な草原をイメージさせるこの曲では、弦を指で弾くピツィカートなど、奏法のバリエーションも楽しむことができました。

続いては、指揮体験のコーナーです。
ステージに上がり、「ハンガリー舞曲第5番」の一節を指揮できるという貴重な機会! 観客のなかから立候補して選ばれた3名が、三者三様のパフォーマンスを披露してくれました。
途中でテンポや曲調が大きく変わるこの曲。自由に動きまわる指揮棒にもきっちりと合わせる演奏者の技術にもおどろきました。


指揮体験に参加した3名と、司会の西山琴恵さん(左から2人目)、指揮者の梅田俊明さん(左から4人目)。

70分間の公演の最後に披露されたのは、シューベルト作曲の「交響曲第7番 ロ短調 D759《未完成》」です。

通常、交響曲は4楽章から成りますが、この曲は第2楽章までしかありません。なぜシューベルトが途中で作るのをやめてしまったのか、いまだにわかっていないといいます。
喜怒哀楽を豊かに表現した音が会場を満たし、拍手に包まれながらコンサートは幕を下ろしました。

事業担当者インタビュー

プレミアムコンサートで演奏する曲のセレクトや、体験コーナーの企画はどのように進められているのでしょうか。終演後、東京都交響楽団の村田美土さんとアーツカウンシル東京の森昭子さんに話を伺いました。

──「プレミアムコンサート」はどのような目的で開催されているのでしょうか?

森昭子さん(以下「森」):多摩地域や島しょ部のみなさんに、本格的なクラシック音楽に親しんでもらいたいという思いから始まりました。クラシックのコンサートは都心で開かれることが多いため、遠方にお住まいの方だとなかなか足を運ぶのが難しい。そこで、地域のホールなどで家族や友達と気軽に「本物の音」を聴いていただけたらと考え、2011年度から毎年開催しています。
それから、来年の東京2020オリンピック・パラリンピックを、スポーツだけではなく文化の面からも盛り上げていくという使命もあります。

村田美土さん(以下「村田」):東京都交響楽団は、実は1964年の東京オリンピックの際に記念文化事業として設立されたものなんです。そういう経緯があるなかで、プレミアムコンサートに東京都交響楽団が出演させていただいているのは、すごく意義が深いと捉えています。

──体験プログラムは、楽器体験や指揮体験のほかにも行っていますか?

村田:昨年度は終演後に「ステージ体験」を実施しました。ついさっきまで楽員が演奏していたステージにお客さまに上がっていただき、本番の照明やステージ上から客席がどのように見えるか体感していただきました。終演後に、楽団芸術主幹と指揮者によるアフタートークを開催したこともあります。今後もなるべくふだんできないことをご案内できればと思っています。

──曲目はどのような視点で決めているのでしょうか?

村田:オーケストラ公演では、誰もが聴いたことのあるような耳馴染みのある曲を含む、バラエティ豊かな選曲を心がけています。その一方で、ここ数年重視しているのは「クラシックを聴いた!」という満足感が得られるような名曲を入れ込むこと。今日披露した《未完成》のように、演奏時間がそれほど長くない交響曲や組曲を意欲的に入れるようにしています。アンサンブル公演では、クラシックだけでなくポップスや映画音楽、大河ドラマの曲なども入れ込み、より親しんでもらいやすいよう工夫を図っています。

──公演の際には、アンケートを通して来場者からさまざまな声が寄せられると思います。これまでに印象的なものはありますか?

村田:初めていらしたお客様からは、クラシックをとても身近に感じたと言っていただけることがすごく多いですね。日頃、介護や育児で忙しかったり、闘病されている方からは「悩みやつらさから離れてリラックスした時間を過ごせた」と感想をいただいたことも。島しょ部では、芸術鑑賞の機会があまり多くない環境のなかで一流の音楽が聴けることは、お子さんの情操教育にもすごく有意義だというご意見もいただきました。
個人的にすごく印象的なのは「よい音楽に触れて、幸せな時間を体験することで、世の中の事件とか犯罪は減るんじゃないか」というご意見。人間にとって音楽は、新鮮な空気や自然と同じように不可欠なもので、我々が思っている以上の力をもっていると思うんです。だから、そう言っていただけてすごくありがたかったですし、共感しました。

──2011年度から公演を続けるなかで、変わったこと、変わらないことはなんですか?

村田:オーケストラ公演の来場者の居住地を見ると、アンサンブル公演を毎年行ってきた街にお住まいの方が増えている気がするんです。もしかしたら、アンサンブル公演を観た方が、より大きなオーケストラ公演に足を運んでみようかなと思ってくださったのかもしれません。もしそうだとしたらすごくうれしいことです。
変わらないこととしては、演奏者の演奏に対する姿勢でしょうか。楽団の定期公演であれ、プレミアムコンサートであれ、一切手を抜かず真摯に取り組むというところは変わりません。

──今後の展開について教えてください。

森:オーケストラ公演のチケットは抽選制なのですが、毎年応募数が増えており、会場によっては定員の3倍以上の応募があることも。そういったデータからも、毎年のイベントとしてそれぞれの街に浸透してきているんだなと感じます。すごく意義のある事業だと思っているので、できる限り継続していきたいです。

村田:オーケストラ初心者の方には、まずいらしていただいて、生のオーケストラの響きを肩肘張らずに体験してもらいたい。そのためにも、初めていらっしゃる方、そうでない方、どなたにも楽しんでもらえる企画を考えていきたいです。


今後も公演が控えているプレミアムコンサート。
現在、12月1日(日)に小平で行われるオーケストラ公演の来場者を募集中です〔10月25日(金)締め切り〕。
また、11月17日(日)に檜原村、12月15日(日)に奥多摩町でアンサンブル公演を開催予定。こちらは事前申し込み不要です。お近くにお住まいの方は、ぜひ足を運んでみてください。


プレミアムコンサート~未来へのハーモニー~ 東大和公演

撮影:鈴木穣蔵
取材・文:平林理奈

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