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アーツカウンシル東京ブログ

アーツカウンシル東京のスタッフや外部ライターなど様々な視点から、多様な事業を展開しているアーツカウンシル東京の姿をお届けします。

アーツアカデミー

アーツカウンシル東京の芸術文化事業を担う人材を育成するプログラムとして、現場調査やテーマに基づいた演習などを中心としたコース、劇場運営の現場を担うプロデューサー育成を目的とするコース等を実施します。

2020/03/05

アーツアカデミー2019 第6回レポート:活動の意義を伝える評価軸を磨く~活動を振り返り、改善・変革していく術を磨く~

アーツカウンシル東京が2012年から実施している「アーツアカデミー」。芸術文化支援や評価のあり方について考え、創造の現場が抱える問題を共有するアーツアカデミーは、これからの芸術文化の世界を豊かにしてくれる人材を育てるインキュベーター(孵化装置)です。当レポートでは、アーツアカデミーの各講座をご紹介していきます。


2019年12月16日(月)に行われた第6回アーツアカデミーは、『活動の意義を伝える自己評価軸を磨く~活動を振り返り、改善・変革していく術を磨く~』のテーマのもと、明治大学公共政策大学院ガバナンス研究科教授で、明治大学プログラム評価研究所代表の源由理子(みなもと・ゆりこ)さんを講師にお迎えしました。今回は、「評価」の意義、手法、効果を学び、評価を使いこなすために有用な「ロジックモデル」の作成を通じて、活動の価値を可視化・言語化していく技術を磨きました。

講師の源由理子さん

評価は「改善のための情報源」

始めに、源さんから、「評価(Evaluation)」の理念や方法論といった理論的な側面を解説いただきました。評価は「物事のメリット、価値、意義を体系的に明らかにすること」と定義され、「事実特定(Factual identification)」と「価値判断(Value determination)」という二つの構成要素から成り立っています。源さんは、中でも「価値判断」が重要で、特に「誰」の価値を基準にして評価するかで結果が大きく変わることを指摘しました。
講座では「プログラム評価」に焦点が当てられました。ここで言う「プログラム」とは、「特定の社会目的を達成するための一連の介入」のことで、芸術文化プロジェクトもその範疇に含まれます。「プログラム評価」では、その実施とアウトカム(社会に起こる望ましい変化)が評価対象となります。源さんが「評価は改善のための情報源」と述べたとおり、評価は、そのプログラムの改善を行っていく上で有効なものであり、過程を評価する「形成的評価」と、最終的な結果を評価する「総括的評価」に分けられます。源さんは、両者が相互補完的であることにも言及しました。
次いで、プログラム・セオリー(プログラム理論)の概念が説明され、目指す成果を得るためには、ブラック・ボックスになりがちな成果への道筋を明確にしていくことの重要性を学びました。プログラム・セオリーを実践していく上で、「ロジックモデル」は不可欠です。活動・実施体制と資源、アウトプット、直接アウトカム、中間アウトカム、最終アウトカムの各段階に分けて、体系的に図示したロジックモデルは、「最終的なゴールへと至るために『どのような作戦』で、『どのようなこと』を戦略的にやっていくか」を可視化したプログラムの見取り図(下図)にあたるものです。講座では、「生活習慣病リスク」などの具体例を交えつつ、解説が進められました。

ロジックモデルは、「評価対象の構造や戦略を可視化する道具」であり、「関係者間の共通言語」でもある。

また、源さんは「参加型評価」にも言及しました。「評価ワークショップ」という対話の場で、関係者同士がプログラムの目指すべき方向を共に決めていくことは、課題やニーズといった現場の暗黙知の可視化と共に、周囲の関係者との相互学習や協働関係の構築にも役立つとのことでした。

作戦を可視化するために―ロジックモデルを作る

後半は、ファシリテーターの小川智紀(おがわ とものり)さんの所属NPO(STスポット横浜)が、事務局として手掛けている横浜市からの受託事業「横浜市芸術文化教育プラットフォーム」を題材に、学校関係者、アーティスト、事務局の立場を考えながら、受講生全員でロジックモデルを作成しました。これは、小川さん、源さんが作成した当事業の概要及び当事業の自己分析シートを読み込んでくる事前課題をもとに取り組みました。
まずは、「最終アウトカム」の決定。実は、「最終アウトカム」から考えることで、目指すべきものが共有され、その後の議論が理論的で建設的なものになるのです。「子供たちの笑顔がみたい」、「子供たちの芸術機械の均等」、「学校関係者や保護者に文化・芸術教育の意義が理解される」といった、様々な視点からの「最終アウトカム」が示されました。次いで、源さんのファシリテーションのもと、出された意見が分類されました。「『一人ひとりを排除しない』と『芸術機会の均等』は似ている」、「『生きる力』と『サバイバル』、『コミュニケーション能力』も似ている」といった意見交換と集約を経て、それぞれの関係性にある手段―目的という因果関係、すなわち、「ロジック」を検討し、構造的な整理を進めていきました。

「最終アウトカム」を書き出す受講生

次に、「横浜市芸術文化教育プラットフォーム」が行っている5つの事業・活動に対して、取り組むべき具体的内容を列挙し、それぞれから導かれる「直接アウトカム(直接的な成果)」を考えました。源さんは、直接アウトカムを考えることで、「自分たちのやっている活動が、本当に直接アウトカムに繋がっているのか、また、直接アウトカムを達成するために、現状の活動で十分かどうか、議論してほしい」と強調されました。

ロジックモデル作成の演習の様子

そして、演習は「中間アウトカム」の検討へと進んでいきました。「中間アウトカム」とは、「直接アウトカム」の総括によってもたらされる中間的成果のことで、冒頭で考えた「最終アウトカム」の実現に貢献するものです。時間の制約からワークショップでは取り上げられませんでしたが、さらに、ロジックモデルを踏まえた定量的・定性的な評価指標の作成と、データの収集へと進んでいくとの解説がありました。
ロジックモデルは、限られた資源のもとで事業がもつ効果を最大化し、改善や見直しをするツールになります。今回の演習を通じて、ロジックモデルの作成は、多様で異なる関係者同士が問題意識や考えについて語り合い、コンセンサスを築くための機会になることも実感できました。それぞれの組織・活動が抱える課題を棚卸する意味でも、ロジックモデルの作成に取り組んでみることは有意義だと思われます。

完成したロジックモデル

次回の講座は、『芸術と社会の関わり方を磨く~社会とのつながりを捉え、「接続」を考える』。大澤寅雄(おおさわ・とらお)さんと本講座のファシリテーター 小川智紀さんを講師に迎えます。芸術文化と社会の関わりを更新し続けていくために、その独自性と普遍性を「文化生態系」という考え方などから紐解いていきます。

文責:大野はな恵
運営:特定非営利活動法人舞台芸術制作者オープンネットワーク(ON-PAM)

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