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アーツカウンシル東京ブログ

アーツカウンシル東京のスタッフや外部ライターなど様々な視点から、多様な事業を展開しているアーツカウンシル東京の姿をお届けします。

アーツアカデミー

アーツカウンシル東京の芸術文化事業を担う人材を育成するプログラムとして、現場調査やテーマに基づいた演習などを中心としたコース、劇場運営の現場を担うプロデューサー育成を目的とするコース等を実施します。

2021/03/31

アーツアカデミー2020 第5回レポート:活動を持続させるための発想力を磨く ~持続可能性と創造的実践の多様性を知る~[講師:近藤ヒデノリ]

全8回アーツアカデミー講座の折返しとなる第5回は「活動を持続させるための発想力を磨く ~持続可能性と創造的実践の多様性を知る~」というテーマで、博報堂でCMプランナー、クリエイティブディレクターとしての活動を経て、現在はUNIVERSITY OF CREATIVITY(UoC)サステナビリティフィールド・ディレクターの近藤ヒデノリさんを講師にお迎えしました。今回はこれまでの学びとはまた違う大きい視点で社会をとらえ、ひらめきのヒントを得られる回となりました。

UNIVERSITY OF CREATIVITYから講義を行う講師の近藤さん

まずは「『サステナブルな社会』をつくる創造性と発想の転換」というテーマで、人口増加、森林火災、平均気温の上昇など地球規模で現在起こっている問題を学んでいきます。持続可能な開発目標(SDGs)の認知が広がり、新型コロナウィルスの感染拡大という世界規模で起こった出来事を前に、生活スタイルや、考え方、価値観を変えていくことが必要に迫られている状況にあると感じている方も多いかと思います。そうした変化をどのように受け入れ、そして自ら行動していくためにも地球でどんなことが起きているかを知るよい機会となりました。
近藤さんからは、人口増加、それに対する野生動物の少なさ、森林火災と牛の家畜の数、異常気象、平均気温の上昇などのお話がありました。こうした地球に現れている変化というものは、今まで世界が人間中心に回りすぎていたからではないかと近藤さんは言います。地球のことや、人間以外の他の生命のこと、日本人以外のことを考えずに生きていくことが限界に来ているのでは?と感じているそうです。
そして、これからの世界観として「文明と文化、理性と感性、生態系とのバランス・全体性を取り戻したサステナブルな社会」の提案がありました。文明、理性、メディア、循環経済といった左脳的なことだけではなく、芸術、文化、生活、ウェルビーイング、コモンズといったことが大事になってくるというお話に、まさに自身の活動が重なるという受講生も多く、志やミッションを改めて確認できる機会になった人も多かったのではないでしょうか。

近藤さんが提案する「これからの世界観」

また、これからの世界観に適応し、実践できるものとして、パーマカルチャーの紹介もありました。パーマカルチャーとは、自然の摂理をもとにしたデザイン体系で、パーマネント(永続性)と農業(アグリカルチャー)、そして文化(カルチャー)が組み合わさった言葉であり、「持続可能な文化を作るデザイン体系、関係性のデザインとも言われている」とのこと。
パーマカルチャーには、「1. 地球に対する配慮、2. 人に対する配慮、3. 余剰物の共有」という3つの理念があり、さらに10の原則があるのですが、今回はそのうち「多様性を活かす」「つながりをもたせる」「多機能性をもたせる」「境界を活かす」「循環させる」の5つをピックアップしたお話がありました。
トマトとバジルを一緒に植えるとお互いの害虫をよけあい農薬がいらなくなるという例や、宿泊、入浴、食事を1箇所ではなく同じ地域にあるそれぞれの機能を持つ場を活用・共用する「まちぐるみ旅館」という仕組みが紹介されました。まちの機能が繋がることによって、1つの場所で担う負担を軽減し、持続可能なまちづくりの実現を目指す事例や、人や物が交わる接点を増やすことで創造性が高く、サステナブルな循環が生まれるというお話もありました。

パーマカルチャーの原則の1つ「境界を生かす」

続いて、グループワークでは、「私(自分の活動)は、サステナブルな社会・活動のために何ができるか?」というテーマでディスカッションが行われました。そこではミツバチがテーマの作品を上演した際には養蜂をやってみたという経験や、ジビエを芝居の中で食べた事例など、文化、芸術に携わってきた受講生ならではのアイデアも出てきました。また、能楽に携わる活動を行っている受講生の対話から、伝統芸能は何百年と続くサステナブルな文化であることの気づきなど、新たな発見もあったようです。また、アーティスト活動をしている受講生からは自分の表現と観た人の感覚との循環を感じるという話もありました。サステナブルであることと芸術文化の活動の関係や相性について、様々な角度から意見交換を行い、発想が展開するグループワークとなりました。少し手探りで自分の活動をサステナブルな社会に位置付けて捉えていた受講生でしたが、近藤さんからのフィードバックでより具体的に考えることができたようです。

グループワークの発表を行う受講生

普段は自身の活動で精一杯で、手の届く範囲で物事を考えてしまいがちですが、今回の講座で、より大きな視点で活動のことも考えられる回となりました。地球で起きている変化に合わせて、新しい世界観の中で生きていく勇気をもらえたとともに、大きなスケールから考える発想力が磨かれた受講生でした。
次回は「芸術文化と社会の関わり方を磨く ~社会とのつながりを捉え、『接続』と『循環』を考える~」というテーマで片山正夫さんを講師にお迎えします。


講師プロフィール
近藤ヒデノリ

UNIVERSITY OF CREATIVITY(UoC)サステナビリティフィールド・ディレクター
博報堂ブランドイノベーションデザイン局クリエイティブプロデューサー。
CMプランナーとして勤務後、NYU/国際写真センター(ICP)修士課程で現代美術を学び、9.11直前に復職。以降「サステナブルデザイン」を軸に企業や自治体のブランディング、CMやメディア・商品開発、イベント企画他、地域共生の家「KYODO HOUSE」を主宰。広告・アート・パーマカルチャー等領域を越えて持続可能な文化創造のために活動中。2019年よりグッドデザイン賞審査員(地域社会のデザイン・仕組み・活動・ビジネスモデル部門)。編著に『INNOVATION DESIGN—博報堂流イノベーションのつくり方』『URBAN PERMACULTURE GUIDE—都会からはじまる新しい生き方のデザイン』等多数。

執筆:アーツアカデミー広報担当 山崎奈玲子(やまざき・なおこ)
運営:特定非営利活動法人舞台芸術制作者オープンネットワーク(ON-PAM)

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