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アーツカウンシル東京ブログ

アーツカウンシル東京のスタッフや外部ライターなど様々な視点から、多様な事業を展開しているアーツカウンシル東京の姿をお届けします。

アーツアカデミー

アーツカウンシル東京の芸術文化事業を担う人材を育成するプログラムとして、現場調査やテーマに基づいた演習などを中心としたコース、劇場運営の現場を担うプロデューサー育成を目的とするコース等を実施します。

2021/03/31

アーツアカデミー2020 第6回レポート:社会における芸術文化の必要性を考える ~芸術文化支援を鍵に、自立の在り方等を考える~[講師:片山正夫]

第6回のアーツアカデミーは片山正夫(かたやま まさお)さんを講師に迎え、「社会における芸術文化の必要性を考える ~芸術文化支援を鍵に、自立の在り方等を考える~」というテーマの回です。最初に片山さんより2つの投げかけがありました。
(1)社会における芸術文化の必要性
(2)芸術文化活動の自立の在り方
この2つの問いから、どのような講座が展開されるでしょうか?今回は、コロナ禍で芸術文化が社会に本当に必要とされているか疑問に思ったり、活動を続けていくことへ不安を抱えていた受講生にとって原点に立ち返るような回となりました。

ご自宅から講義をする片山さん

まず、「そもそも、どうなれば『自立した』といえるのだろうか?」という問いについて考えます。受講生からは、活動を継続できていること、収入と支出のバランスがよいこと、事業の決定などを自由に行えること、という意見がでました。やはり、資金面の要素は大きそうです。片山さんからは、続けて「あなたにとって理想的な収入比率(ポートフォリオ)は?」という問いかけがありました。
収入を「事業収入」、「民間(個人)からの寄付」、「政府系支援」の3つに分け、自身の活動において理想の比率を考えてみることになりました。若林朋子さんが講師の第4回でも触れられていましたが、活動にあった収入比率(ポートフォリオ)を作ることは自身の活動を見つめ直すことにもなります。この3つの収入はそれぞれ特徴があり、寄付や支援は使い方の制約があることや、出資元からの要求が存在することもあります。「事業収入」は対価性があるのでマーケットの要求に答える必要があり、「民間(個人)からの寄付」は使いみちの自由度は高いが寄付者との関係性が大事になり、「政府系支援」は財源が税金なので社会への必要性を述べ説得することが必要になります。アメリカでは、3つがバランスが取れている状態が理想の収入比率とされているとのことで、置かれている環境によって良い形は変わってきそうです。国の制度、時代背景などから考えることは第1回の深田さんのお話にも通じる部分もあり、理想を描き、現状を把握することの大切さをしみじみ感じた受講生。継続性や自己決定の保証がされた「自立」を目指して、考える自分の理想の収入比率(ポートフォリオ)は、それ自体が活動の指針になりそうです。

アメリカのNPOの収入比率(ポートフォリオ)グラフ

続いてグループワークに移ります。今回のグループディスカッションは「あなたなら、自分の活動の社会への貢献を他者にどう伝えるか?」がテーマです。テーマが発表されたあとに片山さんから「『他者』とは、哲学用語だと自分の思い通りにならない人という含意があります」という補足があり、気合が入る受講生。今回はグループの代表者ではなく、一人ひとりが自身の活動について発表し、片山さんからコメントをいただくという貴重な時間が設けられました。自ら表現活動をしている受講生からは、自分自身が社会に存在していることで貢献を表しているという言葉もありました。また、小さな活動から大きな社会問題へと広げて考える受講生の発表には、片山さんからも面白い、説得力があるというコメントをいただけました。また、片山さんからは、こんな補足もありました。「どこかで既に言われているような手垢のついた言葉を使わないようにしてください。」受講生自身の活動の社会貢献として、伝統芸能は何百年も変わらない普遍的なものを描いていて、そうした知恵をつたえること、変な人でも面白がれるという懐の深い演劇という装置を広めて人間を好きになれるという人を増やすこと、劣等感を持っていたことを踊ることで自己肯定ができ、それを体現することで見る人の自己肯定感にもつなるがるのではないか、といった発表がありました。 芸術文化の社会貢献についてよく使われる言葉として、心の豊かさ、まちおこし、社会包摂、多様性、生きがいというものも紹介されましたが、今回の受講生からはオリジナリティーが光るたくさんのアイデアが詰まった発表となりました。

寄付税制を活用した芸術支援を行った場合の例

最後に法人制度と、寄付税制を活用した芸術支援のお話がありました。社会的信頼は、稼いではいるが何をしているのか全くわからないということや、社会のルールからはみ出しているということがあると得られません。金銭的なものだけではなく、信頼性という面からも自立は問われています。そういった意味でも、法人格を持って情報を開示するということは信頼性が担保され、自立への手段の1つと言えるとのこと。例えば、認定NPO法人や公益法人への寄付は、所得税や住民税の控除の対象になるという制度があります。このような制度を活用できる法人であれば、理想のポートフォリオに近づくこともできるかもしれません。
また、コロナ禍における様々な補助事業が出ている現状を受け、望ましいサポートはどういうものか?という問いも投げかけられました。政府や自治体が税金を集め、市民やアーティストに分配していくべきか、寄付に対して税金控除の特典をつけることで間接的な支援をすべきか、どちらがよいのでしょうか?制度を受動的に活用するだけでなく、制度の仕組みそのものを考えてみることも自立の近道かもしれません。

今回は、芸術文化創造の本質を問うような回だったように思います、今までの講師のみなさんのお話にも通じるところもあり、振り返りにもなりました。次回は「芸術文化と社会の関わり方を磨く ~社会とのつながりを捉え、「接続」と「循環」を考える~」をテーマに大澤寅雄(おおさわ とらお)さんをお迎えし、2020年度アーツアカデミー最後の講座になります。お楽しみに。


講師プロフィール
片山正夫(かたやま まさお)

公益財団法人セゾン文化財団理事長
1958年兵庫県生まれ。1987年、セゾン文化財団の設立時より運営に携わる。常務理事を経て2018年より現職。1994~95年、米国ジョンズホプキンス大学フェローとして芸術助成の評価を調査。現在、(公財)公益法人協会理事、(公財)助成財団センター理事等を務める。アーツカウンシル東京カウンシルボード委員。慶應義塾大学大学院、明治学院大学非常勤講師。著書に「セゾン文化財団の挑戦」共著に「民間助成イノベーション」等。

執筆:アーツアカデミー広報担当 山崎奈玲子(やまざき・なおこ)
運営:特定非営利活動法人舞台芸術制作者オープンネットワーク(ON-PAM)

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