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アーツカウンシル東京ブログ

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ダンスの芽ー舞踊分野の振興策に関する若手舞踊家・制作者へのヒアリング

今後の舞踊分野における創造環境には何が必要なのか、舞踊の未来を描く新たな発想を得るため、若手アーティストを中心にヒアリングを行いました。都内、海外などを拠点とする振付家・ダンサー、制作者のさまざまな創造活動への取り組みをご紹介いたします。

2021/07/07

ダンスの芽―舞踊分野の振興策に関する若手舞踊家・制作者へのヒアリング(2)中川絢音氏(振付家・ダンサー・水中めがね∞主宰)

2020年12月から2021年1月までアーツカウンシル東京で実施した、舞踊分野の振興策に関する若手舞踊家・制作者へのヒアリングをレポート形式で掲載します。

中川絢音氏(なかがわ あやね/振付家・ダンサー・水中めがね∞主宰)


水中めがね∞は、桜美林大学在学中の2011年に立ち上げたカンパニーです。立ち上げ当初からダンスか演劇かはあまり定めておらず、大学生の頃は演劇作品も多くつくっていました。言葉が入ることもあり、映像作品になることもありで、フレキシブルな作品をつくっていけたらと考えています。
クリエーションのときは、とにかく最初に全て言葉にしてみて、そこから言葉以上のものになるよう心がけて振りをつくっていきます。言葉で説明されるよりも感覚で納得してしまうことってありますよね。それをダンサーとお客さんが実感する瞬間を舞台上でつくりあげることを一番大事にしています。


『my choice, my body,』 
撮影:Kaneko Manaho

情報や悩みを共有できる同世代のダンサーと出会いたい

韓国で滞在制作した時に、現地のクリエーターやディレクターの方に「あなたの作品は感覚でつくられていて、振付の基礎についての知識がとても少ない」と言われました。それまで、他の人の作品を見たりクリエーションの現場に立ち会ったりしながら感じ取って、つくり方は自分で考えて、と手探りでやってきていたので、振付の基礎なんてあるのかと驚いて。でも確かに、土台があれば、迷った時にも「じゃあこっちに振ってみようかな?」と応用が効くけれど、今の手探り状態では、行き詰まった時にボキャブラリー不足で逃げ場がなくなってしまう。その意味で、日本にクリエーションを学べる場があると良いなと思うようになりました。
同世代との間で、ドラマトゥルクやメンターが話題になったことがありました。メンターに入ってもらって良かったという体験談を聞いて、興味を持っているのですが、まだ「良いなぁ」で終わっていて、導入には至っていません。
1991」という企画を立ち上げたのには、いくつかの想いがあります。まず、情報や悩みを共有できる同世代のダンサーと出会いたいという切実な動機がありました。そして、お互い作品について言い合えるような関係性にしたくて、上演する全作品の振付家・出演者、舞台スタッフ、製作者の全メンバーが立ち会うリハーサルの後に皆で話し合いをする機会を設けました。それ以来、「1回通しするから見てくれない?」と本番前に作品を見せ合える関係が生まれてきていて、やって良かったなと思います。また、協力しあってお客さんを増やしたいという共通の動機もありました。誰かを目当てに見にきたお客さんが、もしかしたらこの企画での出会いがきっかけとなって、別の誰かのお客さんにもなってくれるかもしれない。その時に、ただ雑多に並べられているよりは、公演全体の楽しみ方が提示されている方が興味を持ってもらいやすいかもしれないと思って、音楽のコンピレーションアルバムを参考に、「全員同い年」というコンセプトにしました。

※:1991年生まれの若手振付家によるオムニバス公演

自分の活動を継続するためにも、ダンス界全体を良くしていくことを考える

プロデュース公演をやるモチベーションは、作品をベストな形で発表し、お客さんに見てもらうことにあります。一晩ものとか長尺の作品を海外に持っていくことは私たちにとっては遠い話で、できて10〜20分の短編作品です。それも、コンペティション等に出さないかぎり、なかなかチャンスがありません。そのコンペティションに応募するためには、短編作品の映像を提出する必要があるのですが、そもそも短編を発表できる既存の場は限られているので、皆似たり寄ったりの映像になってしまうんですよね。かといって、20分の作品を発表するために単独公演をするのも、現実的ではありません。どういう形で発表するのが作品にとってのベストで、お客さんにも楽しんでもらえるかと考えた時に、オムニバスという形式が良いのではないかという結論に自ずと至りました。結果的にそれで人との繋がりもできて、今のところ結構手応えがあるので、継続できています。
もともと私は、自分が踊ることや作品をつくること以上に、ダンスの世界が大好きなんです。桜美林大学を選んだのも、ダンサーが授業を受けているのを間近で感じつつスタッフワークを学べるから。自分がダンサーになれなくても、舞台に関わる仕事について、ダンス界をサポートしていきたいと思っていました。
在学中に自分の活動を始めて少ししてから、そもそも自分が活動を継続するためにも、創作環境や発表の場といったダンス界全体を良くしていくことを考えなくてはいけないことに気づきました。直接的には、作品に出演するダンサーにお金を払いたいということが作品以外のことを考えるきっかけになりました。良い作品をつくるには、たくさん稽古したいし、そのためにはダンサーに十分なお金を払う必要がある。お金を払うためには、助成金を取ったりお客さんをたくさん呼んだりしないといけない。結果的に全てが繋がっているのです。


『うつをみ』

日本舞踊という自分のルーツを探って身体性を磨き、築いていきたい

コンテンポラリーダンスの観客を増やすために、まずは日本舞踊やバレエのようなダンスに触れている人たちに見てもらえるようにしたいです。その次に、別ジャンルのアートに触れている人たち、さらにはアートに馴染みがない人たちと、段階的に広げていくのが現実的であるように考えています。
今、日本舞踊家さんとのコラボレーションのプロジェクトを進めています。本当は2020年7月に公演予定だったのですが、コロナで延期になり、今年の7月(2021年7月8日〜11日)に発表予定です。日本舞踊家の古典作品、普段やっている通りの水中めがね∞の作品、そしてコラボレーション作品を組み合わせる構想を描いています。コンテンポラリーダンスのお客さんに日本舞踊を、日本舞踊のお客さんにコンテンポラリーダンスを見てもらい、その後ふたつを合わせた作品を提示するという流れにすることで、コラボレーションに向けて気持ちを高めていきながら他の作品も楽しんでもらう状況をつくることを意図しています。またつくり手にとっても、普段とは異なるお客さんの反応に触れるのは良い経験になります。
コラボレーションの作品をやりたいことが企画の発端になった今回の例のように、ある作品をつくりたいからプロデュース企画が立ち上がるという面があり、それがモチベーションの維持にも繋がっているように思います。


水中めがね∞ × 日本舞踊家 コラボレーション企画「しき」
チラシビジュアル

私は4歳の頃から坂東流の日本舞踊をやってきました。しかし高校生の時にふと、このまま続けていっても世界が広がらないのではないかと思うようになりました。同時にバレエもやっていたのですが、日本舞踊とは全く別ルートという感じでお客さんも分断されていて、「うん?」と疑問を感じたのです。このまま日本舞踊一直線で行くのではなく、別ジャンルを経てからまた日本舞踊に帰ってこようという気持ちが芽生えたのはたぶんこの時で、大学に入ってからも、帰るタイミングはいつだろうかと思考の中にあり続けてきました。
あるところで「独自の身体性をもう少し磨いた方が良い」と言われて考え直した時に、腰を落とした体幹や手の動かし方の癖など、日本舞踊の身体性を無意識に使っていたことに気がついて、それを意識的に取り出してみる作業をやりたいと思うようになりました。もともとは30歳を過ぎてから取り組んでみようと思っていたのですが、もう今から動き出した方が良いのではないかと思うきっかけがあって、着手しました。そのきっかけは「ダンスがみたい!」の企画で韓国のサムルノリについて調べていた時に出会った、キム・ドクスの本です。その中に、韓国のトップクラスのブレイクダンサーが、自分たちの独自性を磨くためにサムルノリの動きを学びたいと彼のもとに習いに来た、という話があって。その土地が持つ独自のものを利用するという点が印象に残りました。
海外での活動を意識した時に、水中めがね∞にしか出せない身体性を持たないと戦っていけないだろうと思います。そのためにも、日本舞踊という自分のルーツを探って身体性を磨き、築いていきたいです。今進めているコラボレーション企画の1回目では、日本舞踊家さんと私だけで作品をつくっていますが、カンパニーダンサーにも稽古に付き添ってもらっています。稽古を見ながらとにかく日本舞踊の癖を細かく抽出してもらい、2回目以降の公演でそれをカンパニー作品の中にも落とし込んでいこうと計画中です。すぐに面白い作品になるかはわからないですが、1本のプロジェクトとしてずっと続けていきたいと思っています。

インタビュアー・編集:呉宮百合香・溝端俊夫(NPO法人ダンスアーカイヴ構想)、アーツカウンシル東京



撮影:gnta

中川絢音(なかがわ あやね)
振付家・ダンサー・水中めがね∞主宰
幼少時よりクラシックバレエ、日本舞踊を学び、足袋とトゥシューズの狭間で思春期を過ごす。桜美林大学にて演劇を学び始め、在学中に〈水中めがね∞〉を立ち上げ、作品創作を開始する。現在は、ダンスフェスティバルや自主公演などで自身の作品を発表しつつ、ミュージカル・音楽ライブ・ミュージックビデオ・実験映像などへの振付提供も行う。

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