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ダンスの芽ー舞踊分野の振興策に関する若手舞踊家・制作者へのヒアリング

今後の舞踊分野における創造環境には何が必要なのか、舞踊の未来を描く新たな発想を得るため、若手アーティストを中心にヒアリングを行いました。都内、海外などを拠点とする振付家・ダンサー、制作者のさまざまな創造活動への取り組みをご紹介いたします。

2021/09/01

ダンスの芽―舞踊分野の振興策に関する若手舞踊家・制作者へのヒアリング(7)仁田晶凱氏(振付家・ダンサー)

2020年12月から2021年1月までアーツカウンシル東京で実施した、舞踊分野の振興策に関する若手舞踊家・制作者へのヒアリングをレポート形式で掲載します。

仁田晶凱氏(にた あきよし/振付家・ダンサー)


2016年にベルギーのP.A.R.T.S.という舞踊学校を卒業して、今5年目になります。基本的には振付家・ダンサーとしてフリーランスで活動しています。大体1年にひとつかふたつくらいのペースで作品制作していて、2020年には自分が今までつくった作品のレパートリーを再演しました。また初めて俳優として台詞があるお芝居にも参加させていただきました。KAATで上演された谷賢一さんの『人類史』という作品です。


撮影:halkuzuya

海外をベースにしていた時、日本人だという意識はなかった気がする

2017年に、アーキタンツ主催の新国立劇場での公演で、ジュリー・アン・スタンザックの作品に参加しました。日本に帰ってきて初めての公演で、新国立劇場の小劇場ということで自分のキャリアの中でも初めての規模で。大きい現場って、学ぶことが本当に多いんだなと思いました。全員がいつもピリピリしていて、そのピリピリしているのって自分の仕事への責任感から来ているんですよね。ただ、自分が振付家としてそこに行くにはちょっとまだ時間がかかるだろうと思ったので、演者として、2019年に〈Co.山田うん〉のオーディションを受けました。ヨーロッパでダンスを学んだバックグラウンドがある僕は、今逆に、すごく日本的なものを山田うんさんから学んでいる気がします。
海外をベースにしていた時、正直に言うと、日本人だという意識はなかった気がします。その理由のひとつとしてP.A.R.T.S.という環境は特殊すぎたんですよね、ユートピアみたいで。もちろん街を歩いているときに差別を感じたこともあったけれど、P.A.R.T.S.は治外法権というか。無意識の中ではみんな何かしら思っているのかもしれません。でも、例えばリリーステクニックをやるときに人種って関係ないなと感じたんです。作品をつくるときに「日本人っぽいね」と言われたこともありますが、意識してやったわけではありません。

目的も着地点もまだ準備ができていない状態から何かが生まれる場所もあって良い

今後、自分の作品や活動をどこに向けてフォーカスしたいかというと、やっぱり欧米に頼らないことかなと思います。これは本当に答えがなくて、まだ自分でもわからないんですけど、日本人として、コンテンポラリーダンスとかモダンダンスという西洋で生まれたものをやっていることの意味、何故あえてそれをやるのかということはずっと考えています。
創作環境について言うと、たまに、セゾン文化財団の森下スタジオで稽古することがあるのですが、ついこの前も敷地理と2人で一緒にスタジオに入ったときに「ここ、きれいだな」と感じました。例えば、中央線沿いにあるような溜まり場というか、アーティストが勝手に手を入れた場所は混沌としているように思います。公演の目標が定まっていて、作品を完成させるための創作の場所はもちろん必要ですが、その前段階の、目的も着地点もまだ準備ができていない状態から何かが生まれるみたいな。そんな場所もあって良いと思います。


撮影:大洞博靖

何か結果を残したいというのが、レジデンシーに参加するときのモチベーション

レジデンスと言えば、香港のジョセフ・リー(Joseph Lee)という僕と同い年くらいの振付家に声をかけて一緒に作品をつくりました。1回目は、彼が日本に来たタイミングで、ちょっと滞在延長してもらって日本でつくって、2回目は僕が香港に行くタイミングに、やはり少し期間を延長して彼と一緒に1週間レジデンスして、CCDC Dance Centerのお金もちょっといただいて。結果的に2回実現できました。1週間は短いけれど、2回やれたというのはすごく大きいです。この作品は、2017年に香港でスタジオパフォーマンスのような形で発表しました。でもあまり満足できる出来ではなくて。その後、お互い腹を割って「お互いの力不足だったかもね」ということを話しました。心を開くというレベルでもそうだし、そもそもコラボレーションって何なんだろうというところを自分の中でもあまり考えられてなかったかもしれない。僕の性格もあると思うんですけど、1回会ったら捨てたくないというか、たとえ微妙な結果になったとしても、今回が微妙だっただけで、もうちょっと自分が成長してコラボレーションしたら何か起きるだろうと期待しているんです。だから彼とは、3回目をぜひやりたいです。

コラボレーションは魅力的だし、一緒にできる人、やりたい人がいれば取り組みたいですが、今は自分の作品をつくりたいです。2021年3月に東京から離れて長野の上田にレジデンスに行って、自分のソロ作品をパートナーの町田妙子と一緒につくります。集中してやれる良い環境ですね。日当、交通費を負担いただき、宿泊施設も提供していただく形になるので、責任感を感じています。せっかくこれだけサポートをいただくのだから、何か結果を残したい、やってやるぞというのが、僕のレジデンシーというものに参加するときのモチベーションです。
作品をつくったその先のこと、つまり発表する場が確保されているかどうかじゃなく、とにかくつくるということが大事。「自分の中でこう思った」「次はこうしよう」というふうな積み重ねでしか、つくるモチベーションは維持できないと思います。自分の体の外にモチベーションを求めていたら、もう欲の塊ですよね、そんなことで作品はつくれない。

抽象的な何かを求めていったときに、過去になかったすごいものができ上がるはず

ウィーンのダンスフェスティバル「ImPuls Tanz」に参加したときに僕が一番感動したのは、ブックレットです。結構厚くて、アーティストがABC順に並んでいるんですよね。例えば〈Rosas〉とか〈Ultima Vez〉といった世界的に有名なカンパニーもいれば、学校を卒業したてで初めてフェスティバルに作品を出したみたいな人もいて、その全員に2ページずつが割り当てられている。同じ、全員同じなんですよ。乱暴に全部平等にしているところが、すごいなと思って。普通はヒエラルキーが生まれると思うんですけど、「ImPuls Tanz」は大胆で、すごく愛があるなと感じましたね。ブックレットってフェスティバルの表明でもあるから、そういうふうにパフォーマンスしているのはすごいなと。

何かビジョンや大きい目標を持って、場や劇場、コミュニティをつくるという活動にしていくのも、重要なモチベーションだと思います。ただ、例えばポスト・モダンダンスのときに起きたムーブメント、ジャドソン・チャーチとかは、自然発生的にいつの間にかできていったものに、後から名前をつけたわけです。理想に向かって走っていくだけだと、それしか追えなくなっていって、やっぱり過去のものという「参照」に縛られてしまう。それがうまく繰り返されるわけでもないですしね。それよりも、何か違うもっとふんわりしたもの、抽象的な何かを求めていったときに、過去になかったすごいものができ上がるはずだと思っています。そういう意味でも、今、やることをしっかり忙しくするというほうがいいんじゃないかなと思います。場をつくりたいと思ってしまうと、場しかつくれなくなってしまう。僕はそれがちょっと怖いですね。

インタビュアー・編集:呉宮百合香・溝端俊夫(NPO法人ダンスアーカイヴ構想)、アーツカウンシル東京


今後の活動予定


撮影:松本和幸

仁田晶凱(にた あきよし)
振付家・ダンサー
日本大学芸術学部を中退後、ベルギー・ブリュッセルにあるコンテンポラリーダンス専門学校P.A.R.T.S.にて振付を学ぶ。現在は東京を拠点に、フリーランスの振付家/ダンサーとして舞台、映像、イベント等に幅広く出演している。2019年よりコンテンポラリーダンスカンパニー〈Co.山田うん〉に所属。
https://www.akiyoshinita.com/

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