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アーツアカデミー

アーツカウンシル東京の芸術文化事業を担う人材を育成するプログラムとして、現場調査やテーマに基づいた演習などを中心としたコース、劇場運営の現場を担うプロデューサー育成を目的とするコース等を実施します。

2021/11/24

アーツアカデミー2021「芸術文化創造活動の担い手のためのキャパシティビルディング講座」第3回レポート:芸術文化と社会の関わり方を磨く ~社会とのつながりを捉え、「接続」と「循環」を考える~

芸術文化創造活動の担い手のためのキャパシティビルディング講座」第3回は大澤寅雄さんのレクチャーです。大澤さんは株式会社ニッセイ基礎研究所で官公庁や自治体の文化政策に関する調査研究に携わられると同時に、「文化生態観察」と名乗り活動されています。ご自身で名付けられた実践だそうで、今回の講座では文化と社会の関係を読み解くために、生物の生態系になぞらえ、文化の生態系について論じていきます。

受講生は事前に1990年から2050年までの『自分の年表をつくる』という宿題を提出したうえで参加します。

文化の生態系を読み解くのに重要な『ミーム』とは

「まず、文化伝達の単位となる『ミーム』という概念をお伝えしたい」と始まったレクチャー。後にとても重要になるこの『ミーム』とは、いったいどんなものなのでしょう?

『ミーム』いう言葉を作ったリチャード・ドーキンス(生物学者)は、“文化的伝達は遺伝的伝達と類似している”と説明しています。生物が遺伝的な伝達を行うように、人類の文化は人から人へ伝達され、進化しています。その伝達されていく情報を『ミーム』と呼ぶのですが、大澤さんはわかりやすく、ご自身の体験を例に話してくださいました。

大澤さんはとある囃子保存会に入っていましたが、祭囃子は地域によって少しずつ拍子が異なっていたそうです。「テケテンスク“テレスク”テンスクス」という地域もあれば、「テケテンスク“ステスク”テンスクス」という地域もあり、それぞれの文化となっています。その違いの最小単位が『ミーム』なのだ……とその概念を説明します。私達もまた、同じ時代を生きている人間の間で無意識に『ミーム』を伝え合い、広がっているのではないか。それはつまり、自分の『ミーム』(他の人との小さな違い)が誰かに伝わるということかもしれません。

この『ミーム』という概念を踏まえたうえで、生物の生態系に照らしながら、文化の生態系について見ていきます。

生物の生態系は、表内の赤丸によって循環し成り立っています

植物(生産者)が光合成により有機物を生産し、それを虫など(第一次消費者)が食べ、それをさらに大きな動物(第二次・第三次消費者)が食べ、動物が排泄したり死んだり、植物が枯れたり朽ちたりすれば土やキノコ(分解者)に分解され、そこからまた植物(生産者)が育つという循環があります。この生態系は文化にも置き換えられ、文化事業の営みにより生活最低限の「無機的な生活(食べる・働く・寝る)」以外の「心の有機物(作る・楽しむ・共感するなど)」が生み出され、消費されながら、市民に届いていく……。そうやってさらなる「心の有機物」が生まれるためには、町には文化施設(ホールや美術館)や文化事業が必要になります。その循環があればこそ、文化は持続可能であるはずです。

生物の生態系を、そのまま文化の循環に当てはめることができます

文化施設というのは言い換えれば、生物学における「ビオトープ」なのだと大澤さんは言います。
例えば、水場という環境がなくても地域は循環はするけれど、もし地域の中に川やため池などの水場のようなビオトープがあれば、今までになかった“多様な”生物の関係がうまれ、地域が豊かになるのではないかと考えます。

では、“多様な”とはどういうことなのでしょう。生物の場合、多様性には「(1)遺伝子の多様性<(2)種の多様性<(3)生態系」の3つがあります。例えば、てんとう虫ひとつとってもいろんな遺伝子を持った個体がいます。その てんとう虫は地上の生態系におけるたった1つの種に過ぎませんし、そして生態系もまた海や地域によっていくつも存在します。そうして多様であることで、種は絶滅せずに生き残っているのです。これを文化に置き換えると、それぞれ「(1)表現の多様性<(2)分野の多様性<(3)環境の多様性」となります。音楽ひとつにも多様な表現があり、その音楽とはいくつもの表現分野のひとつであり、そしてそれらが上演される文化施設にはホール・美術館・劇場はたまた公園・カフェなど様々な環境があります。

多様な生物が生きているように、多様な文化も存在しています

では、文化施設が多様な環境を担うとはどういうことか、その公共性について考えてみます。

大澤さんは東日本大震災の後の被災地でヒアリングを行い、「困難な中で集まれる場所がほしかった」という言葉をたくさん耳にしました。そこで改めて「文化的な繋がりを実感できる場所が求められている」「公共の場である公立文化施設はそれを分かち合える場所であれれば良いのでは」と考えたそうです。

しかしそもそも「公共」とはよく聞く言葉ですがいったい何でしょうか。受講生に向けて「パッとなにが思い浮かぶ?」と質問すると、「公共的な場」「公共的な取り組み」「公共料金しか思い浮かびません…」など、改めて具体的な言葉にしようとするとなかなか出てきません。実際には「公共」とつくものには、投資、交通機関、福祉、利益などがあるのですが…。他にも「文化施設について、公共と公立では何が違うのか?」や「“Public”と“Common”は何が違うのか?」などの切り口で、公共について考えてみました。

そのうえで、講座第1回でおこなった「ペストフの三角形」のワークに再度取り組んでみます。前回は「官」「私」「共」の三角形のみで考えましたが、今回はそこに組織的な視点も加えました。


どこに位置するか、自分の名前を配置して考えてみます

グループワーク:共通の『ミーム』を探る

グループワークでは、受講生への宿題であった『年表』を使い、3つのお題についてディスカッションします。

<お題>
(1)他の人と共通の『ミーム』を見つけられるか? 今までに自分が突然変異したきっかけとなった『ミーム』は何か?
(2)自分の『ミーム』をいつ、どこで、誰に伝播させたいのか?
(3)「ペストフの三角形」を生態系として眺めた時に、自分のベストなニッチ(生態的地位)ポジションはどこか?

まず3〜4人のグループに分かれ、1990年から2050年までのみんなの年表を見ながら、お題(1)の共通の『ミーム』を探っていきます。あるグループでは、人生において契機になった事を発表し合うと「海外との接点の中で価値観が揺さぶられる」「芸術祭に参加し視野が広がった」「震災はそれほどダイレクトではなかった」などの共通点が挙げられ、これが『ミーム』ではないかということが見えてきました。

2度目のグループワークでは、再び同じチームで(2)(3)を深めていきます。グループで話し合うことで、客観的に自分について考えられたり、これからどういう方向へアプローチしていったらいいかが具体化していくようでした。

最後に、「今新型コロナウイルスで混乱している中、いろんな場所で撹乱(こうらん)が起きています」と言われています。撹乱とは、生態系や個体の構造を乱し、大きく変化させることで、新たな個体が生息できる場所を生み出すこと。これを文化に置き換えると、コロナによって打撃を受けた文化環境がここから再生していく中で、新しく生育場所を発見することが可能かもしれない、ということです。まさにその渦中にいる受講生達に向け、大澤さんは『雑草はなぜそこに生えているのか』(稲垣栄洋:著)という本を紹介してくれました。雑草は秋には芽吹かない。冬の低温を経験した種が、春の暖かさを感じて芽吹くのだそう。人間もまた、今、経験していることが明日に芽吹くわけではない。すぐかもしれないし、5年後かもしれないけれど、冬の厳しさを経験しているからこそ芽吹くことができるのでは…と、生物生態系になぞらえ温かいエールを送ってくださいました。

講座の後には、希望する受講生はそのまま残ってお話する「もやもやタイム」に突入。大澤さんも参加して「こういうニッチの見つけ方もあるよ」などのアドバイスをくださり、それぞれの仕事や人生の問いをも共有する深い時間が流れました。

次の第4回は、徳永洋子(とくなが・ようこ)さんによる「これからの活動のためのファンドレイジング力を磨く ~ファンドレイジングの理解と実践~」です。ついに、より具体的な現場の取り組みについて学んでいきます。


講師プロフィール
大澤寅雄(おおさわ・とらお)
(株)ニッセイ基礎研究所芸術文化プロジェクト室主任研究員、NPO法人アートNPOリンク理事長、九州大学社会包摂デザイン・イニシアティブのアドバイザー。2003年文化庁新進芸術家海外留学制度により、アメリカ・シアトル近郊で劇場運営の研修を行う。帰国後、NPO法人STスポット横浜の理事および事務局長を経て現職。共著=『これからのアートマネジメント“ソーシャル・シェア”への道』『文化からの復興 市民と震災といわきアリオスと』『文化政策の現在3 文化政策の展望』『ソーシャルアートラボ 地域と社会をひらく』。

執筆:河野桃子(かわの・ももこ)
運営:特定非営利活動法人舞台芸術制作者オープンネットワーク(ON-PAM)

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