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アーツカウンシル東京ブログ

アーツカウンシル東京のスタッフや外部ライターなど様々な視点から、多様な事業を展開しているアーツカウンシル東京の姿をお届けします。

東京芸術文化創造発信助成【長期助成】活動報告会

アーツカウンシル東京では平成25年度より長期間の活動に対して最長3年間助成するプログラム「東京芸術文化創造発信助成【長期助成】」を実施しています。ここでは、助成対象活動を終了した団体による活動報告会をレポートします。

2023/05/16

第14回「ろうの映画芸術 - ろう者主導の団体が創る新しい共生社会」(前編)

開催時期:2022年12月21日(水)19:00~21:00
開催場所:アーツカウンシル東京
報告団体名:東京ろう映画祭実行委員会
対象事業:東京ろう映画祭(平成30年度採択事業:3年間)
登壇者[報告者]
牧原依里(東京国際ろう映画祭代表、映画作家)
湯山洋子(東京国際ろう映画祭海外渉外担当、ろう通訳者)
司会:碓井千鶴(企画部助成課 シニア・プログラムオフィサー)
※事業ぺージはこちら


東京ろう映画祭実行委員会による長期助成プロジェクトでは、ろう者の視点からセレクトした映画を上映する映画祭やフォーラムの開催に加え、ろう者による映画制作のワークショップ等の人材育成、海外のろう映画祭とのネットワーキングや東京国際ろう映画祭の観客層の拡大等、ろう映画芸術の発展とろう者・聴者それぞれの独自の文化を映画を通して共有する場の創出を目指し、以下の事業を実施しました。

【1年目】
東京ろう映画祭フォーラム ―ろう映画祭の可能性について考える―
DeafFilmCamp(DFC)講師招聘クローズワークショップ

【2年目】
第2回東京国際ろう映画祭

【3年目】
ろう映画制作ワークショップ
東京国際ろう映画祭フォーラム2021


第一部レポート

ろう者・聴者がスタッフとなって開催する東京国際ろう映画祭。ヨーロッパ、アメリカ、アフリカ、アジアほか世界各国の中編・長編映画を中心に、ろうにまつわる作品をろう者スタッフがセレクトして上映します。また、国内外からゲストを招致したアフタートークやシンポジウム、ワークショップなど幅広い企画も実施。更には情報保障として日本手話、国際手話、アメリカ手話、音声認識アプリを介した多言語対応ほか、多様なアクセシビリティを用意し、2017年の発足以来数多くの観客やメディアから注目を集める映画祭となりました。ろう者の社会や芸術の発展に寄与し、聴者とろう者の相互理解の場を創出する映画祭はどのようにして始まり、社会に影響を与えたのか。長期助成を受けた3年間の活動が報告されました。

登壇者(左から):湯山洋子、牧原依里  撮影:松本和幸

東京ろう映画祭誕生のきっかけ

東京国際ろう映画祭は2年に1回、渋谷にあるユーロライブを借り切り2~4日間かけて開催する映画祭で、ろうにまつわる作品をろう者スタッフがセレクトしている。2017年の第1回は全て自費による運営で12作品を上映。2018年にアーツカウンシル東京の東京芸術文化創造発信助成[長期助成]に採択され、2019年の第2回からは新たな試みとして国内外の公募作品部門を設けるほか31作品を上映し、名称も「東京ろう映画祭」から「東京国際ろう映画祭」へと変更した。そして新型コロナウイルス感染拡大による1年間の延期を経て、2022年の第3回はリアル会場とオンライン配信により国内外30作品の上映が行われた。

絶えずアップデートを重ねる映画祭の代表を務めるのは、ろう者の牧原依里。会社勤めをする傍ら、ろう者の友人たちと共にゼロから映画祭を立ち上げた。
「きっかけは、2012年に観光旅行で訪れたローマでのこと。偶然にもローマ国際ろう映画祭CINEDEAF(主催:ローマろう研究所)が開催中で、とても感動したのです。各国から集まったろうの作品を映画館で上映して、ろう者と聴者が協力しながら運営を行っていました。私は日本で聴者がつくった作品を見ているときにろう者や手話が出てくると、その演出に違和感を覚えることが多かったのですが、ローマで見た作品は言葉が分からなくても伝わるものがあり、国は違えども自身の体験と重なるものを感じました。上映後、壇上にろう者の映画監督が現れたのを見て、『ろう者でも映画がつくれるんだ』と衝撃を受けました」(牧原)

そして帰国後に映画制作を学び、2017年にろう者の舞踏家・雫境と共同監督した映画『LISTEN リッスン』(2016年/日本)を全国の劇場で公開した。
「そのときにあらためて、私のような人をもっと増やしてろうの芸術を活性化したいと思い、『LISTEN リッスン』で培った宣伝、配給の知識をもとに日本でろう映画祭を立ち上げました」(牧原)

『LISTEN リッスン』(共同監督:牧原依里・雫境/2016年/日本)

©︎ Deafbirdproduction2016

映画の役割「表現はこの世界のフィードバック」

映画祭の運営にあたり開始当初から気をつけていることがあるという。まずは、ろう者が主導すること。次に、芸術という観点を大切にすること。そしてまた、ろう者だけではなく難聴者、中途失聴者、聴者も含めたひらかれた場所であることにも気を配っている。
「ろうの芸術を守っていくことはもちろん、様々な違いと向き合うこと、認知していない人に向けて発信することも重要です」(牧原)

映画の役割について牧原はこう述べる。「映画は舞台などと違い字幕がつけられる点で、ろう者も聴者も共有しやすい面があります」。

そしてまた、東京ろう映画祭実行委員会が企画したワークショップを通して知り合った映画監督の深田晃司による「表現はこの世界のフィードバックである」という言葉から気付いたことも多くあったという。
「例えば映画にはいろいろな国の人たちが登場します。実際に現地へ行くことは難しいけれど、映画を見ることでそのつくり手の文化や背景などを共有することができます。この世界には様々な人や視点があり、ろう文化もそのひとつです。映画が社会を変えることはできないかもしれないけれど、個人に伝えていく力はあります。その個人が増えていくことで、社会が変わることに繋がるのではないかと思っています」(牧原)

発展に向けた国際化と長期助成の申請

2017年の第1回開催(4月7日~9日)はおよそ1,500人の来場があり成功を収めたが、準備期間中は様々な対応に追われて徹夜が続き、前日まで字幕が出来上がっていない作品もあったというほど追い詰められたと苦笑い。今後の発展に向けて2018年にアーツカウンシル東京の東京芸術文化創造発信助成[長期助成]に申請し、課題と向き合った。

「映画祭を継続するにあたり、ろうにまつわる作品の発掘が課題の1つとしてありました。国内の作品だけでは限りがあるので、海外も対象にしてより多くの作品と向き合う必要性を感じました。作品選定の際に注意していることは、分かりやすく商業性のある作品よりも、ろう者たちも考えさせられる芸術がそこにあるかどうか、東京国際ろう映画祭ならではの作品とは何か。手話を使用するだけであったり、聴者が既に生み出している手段をろう者が真似するということではないのです。ろう者独自の新しい表現方法かどうかを考えるようにしています。また、聴者の作品であっても、手話やろう、難聴などのテーマに対して聴者の視点から興味深いアプローチをしているものは取り上げるようにしています。難聴者、中途失聴者についても同様です。先ほども説明しましたとおり、人それぞれの世界のフィードバックの違いと向き合いながら上映作品をセレクトしています。最終的にはもちろん私が決定しますが、ろう者、聴者のスタッフ全員に意見を聞いて進めています」(牧原)

『事件の前触れ Signs of an Affair』(監督:ルイス・ニースリング/2017年/イギリス) デフジョーク(ろうコミュニティから生まれた文化の1つ)や二重の意味を示す手話などが物語のキーワードになる一作。映画祭スタッフと日本語字幕制作者が協力し、翻訳にも趣向を凝らしている。第2回東京国際ろう映画祭で上映した。

2つめの課題としてあがったのが人材育成について。
「映画祭に関わる宣伝、翻訳、手話通訳コーディネートなどの専門スキルを持ったスタッフの充実はもちろん、海外との渉外など運営構成を見直す必要がありました。それと同時に、ろうの芸術の発展のためには映画制作者の育成も重要だと考えました」。

そして3つめの課題はネットワークについて。
「ろう映画祭は日本だけではなく海外の数十か国で開催されています。中国の上海国際ろう映画祭、アメリカのシアトルろう映画祭などに視察に行きました。各国との情報共有のために、また作品選定、人材育成を進める上でもリサーチは必要です。これらを踏まえて助成を申請し、更なる発展のために国際化に取り組みました」(牧原)

ろう者がつくる映画祭の運営とは

2019年の第2回開催(5月31日~6月3日)は名称を「東京国際ろう映画祭」に変更し、日本初上映となる海外作品の上映や世界各国からの公募作品部門を設立するほか、来日ゲストも交えたフォーラムや、海外からのゲストの手話に応じた情報アクセシビリティの充実といった国際化を推進。観客動員数は約2,000人に拡大し、より多くの人たちが楽しめる環境づくりを目指していった。

「映画際の実行委員会としては、ろう者が70~80%、聴者が20~30%くらいで、声をかけた友人やスキルを持ったプロの方々と一緒に進めている状況です。主にディレクター、会計・票券、海外渉外、手話通訳、宣伝、字幕制作、会場、情報保障といった役割があります。聴者は手話ができるかどうかは関係なく、文字でのやりとりや、手話通訳を介することでコミュニケーションを円滑にしました。手話通訳費には、アーツカウンシル東京の助成金も充てています。全体のスケジュールは、映画祭会期の1年前から企画の準備を始め、会場となるユーロライブは予約開始となる6ヶ月前に押さえます。チケット販売はどの映画祭もだいたい会期の2~3週間前に始めますが、私たちは3ヶ月前から販売します。ろう者の観客は日本全国各地から集まるため、情報発信の時期は早めに設定しています。ろう者の参加者を集めたい場合には、早めにお声掛けいただけると良いと思います」(牧原)

登壇者(左から):湯山洋子、牧原依里 撮影:松本和幸

第2回から新たに加わった海外渉外担当では、アメリカでの生活や外資系企業勤務の経験があるろう者の湯山洋子が国際化に向けた役割の多くを担った。
「留学先の大学で知り合った後輩のアメリカ人ろう者が2012年にシアトルろう映画祭を立ち上げました。『お涙頂戴』ではなくろうの芸術と向き合った映画祭だったのでずっと応援していたところ、ちょうど日本でもろう者がろう映画祭を立ち上げたと聞いて感銘を受けたのです。ぜひ応援したいと思い、情報提供というかたちでその後輩と牧原さんを繋げていたら、いつの間にか巻き込まれていました。最初は分からないことだらけで大変でしたが、今は2名のスタッフと共に渉外を担当しています」(湯山)

海外渉外では英文に加えて、各国のろう者とやりとりする上でアメリカ手話、そして国際手話も使用する。
「担当内容としては、上映権の交渉、招聘ゲストのビザの申請の手伝い(招待状作成)や宿泊先の予約などのアテンド、宣材物の英語チェックなど企画全般に関わります。また、フランス手話、中国手話など、ゲストが使用する手話の手話通訳者を探すほか、当日のアテンドスタッフとの連絡調整、ゲストを関係各所と繋ぐことも重要な役割です」(湯山)

助成を受けたことで宣伝活動も拡大し、映画祭全体として柱となるブランディングの構築を宣伝チームのほかスタッフ一同で取り組んだ。
「『ろう者=かわいそう』『福祉』という印象は持たれたくありませんでした。その結果、手話やろう者とは何かと考えたときに、視線と身体、人そのものがつくり出す空間だと意見がまとまり、人間そのものを前面に出すブランディングを進めていくことにしました。第2回、第3回の映画祭では、ろう者の親を持つコーダ(CODA)の和田夏実さん(インタープリター)をメインに据えたキービジュアルを作成し、好評を得ました。そして、ろう者に向けた発信で大きな成果をあげたのが、手話動画による告知でした。上映作品の監督や有名なろう者によるメッセージ動画を見た人たちは作品の内容をイメージしやすかったそうです。宣伝チームには、『LISTEN リッスン』で宣伝活動を共にしたろう者を中心に聴者も交えた3~4人がチームとなり、プレスリリースの発信や各種メディアの取材も含めてろう者・聴者の両方の視点から宣伝を展開してもらいました」(牧原)

助成金の使途と情報保障の重要性

アーツカウンシル東京の助成金は主に上映・企画にかかわる費用、人材費、広告宣伝費に用いられたが、一般的な映画祭と比べて東京国際ろう映画祭では情報保障費も多くの比率を占めたという。
「第2回の映画祭では全体予算の約15%を情報保障費が占めました。日本手話、国際手話、アメリカ手話などの通訳者を確保する際に、技術力だけではなく上映作品の背景などをきちんと学習してくれる人を探す必要がありました」(牧原)

そのほかにも、文字での情報保障(日英)としてトーク中の音声をリアルタイムで書き起こして表示するUDトークを使用。中国の古い歴史を紐解いた『手話時代』(共同監督:蘇青、米娜/2010年/中国)では高齢のろう者の中には字幕を読んでも意味をつかめない人が多いため、ろう者と映画を楽しむ会の協力を仰いで手話活弁士付き上映を実施した。また、ヘレン・ケラーをテーマにした『渦巻』(共同監督:ケイト・バクスター、エリザベス・ディクソン/2017年/イギリス)では、視覚障害者・盲ろう者の観客にも対応できるように音声ガイドの制作を依頼した(協力:シティ・ライツ)。

「聴者からは、情報保障にそんなにお金をかけなくても良いのではないかと言われることもありますが、聴者がマジョリティであるこの社会で生きていくためには、私たちろう者には情報保障が常に必要です。例えば、私たちは聴者の大学に入学したらまず情報保障の費用はどうするか、という課題が立ちはだかるのです。聴者もまた、音声による情報保障がなければ、ろう者の世界を知ることができません」(牧原)
「社会には情報保障のための助成金がたくさんあります。そのことを聴者の方々にも知ってもらい、活用してもらえたらと思います。通訳はボランティアの方にお願いすれば良いと考える人もいますが、きちんとプロの通訳者に依頼するということ、通訳にはろう文化や映画芸術への理解も重要であることを知っていただけたらと思います」(湯山)

第2回東京国際ろう映画祭の様子 提供:東京ろう映画祭実行委員会

人材育成とワークショップ

映画祭の企画・運営と並行して行われた人材育成事業としては、2018年に「DeafFilmCamp(DFC)講師招聘クローズワークショップ」、2019年にアーツカウンシル東京等が主催したTURNフェス5での「ろう学生のための映画制作ワークショップ」(助成対象外)、2021年に「ろう映画制作ワークショップ(オンライン)」を実施した。
「ろうの映画芸術を広げていくためには映画制作者の育成もやはり重要です。日本にはろう者を対象にした映画制作ワークショップがなかったため、それなら自分たちで企画しようと話し合いました。初めの1年間はまずは自分たちが映画制作ワークショップについて学ぶ期間に、そして2年目、3年目を実践の期間としました」(湯山)

2018年はリサーチの年として、毎年アメリカで開催されるDeafFilmCamp(DFC)の講師を日本に招聘した。受講生となったのは映画祭のスタッフたち。通常は、ワークショップの対象に設定された年齢の子供たちが2週間かけて映画制作を学び、ときに遊び、最後に保護者たちと共に発表会を行うプログラムである。講師には映画制作関係のろう者が就き、進行は通訳を介するかたちでアメリカ手話と日本手話で行われた。
「私たちスタッフがワークショップを受けることはできるのかというところからDeafFilmCampに相談をしました。そして私たちがアメリカに行くのではなく講師が日本に来て教えた方が効率が良いのではないかということになり、幸運にも講師は日本が大好きだったこともあり、日本で数日間の模擬ワークショップを実施していただきました。とても勉強になりました」(湯山)
「ワークショップを担当するスタッフは、映画をつくる技術があるだけではなく、人に教える能力も大事なんだと仰っていたことが印象に残っています。彼らは人々を活気づけたり、人を惹きつけるエネルギーのある人たちでした。みんなが楽しくなって一緒に盛り上がれる環境づくりがありました」(牧原)
「アメリカでは、ワークショップの講師たちの多くが映画業界で活躍しています。マーベル・スタジオの大作映画『エターナルズ』(監督:クロエ・ジャオ/2020年/アメリカ)でメインキャストを務めたろうの俳優ローレン・リドロフさんもスタッフの1人でした。国籍を問わず、芸術や教育と向き合っているプロたちなど、質の高いろう者の講師を招聘するという考え方でした」(湯山)

2年目は実践として、東京国際ろう映画祭スタッフが講師となりTURNフェス5での「ろう学生のための映画制作ワークショップ」(助成対象外)を実施。中高生のろう者、難聴者を対象に、DeafFilmCampで学んだことと日本のろう文化を掛け合わせて進めていく中で、多くの気づきがあったという。
「ろう者、難聴者といっても一人一人が異なる背景を持っています。日本手話や日本語など第一言語も人それぞれです。そのため、参加者同士がコミュニケーションをとることが大変だということが分かりました。ただ、それらを含めてとても良い経験になりました。進め⽅についても、絵コンテを効果的に使ったりと、ろう者ならではの⽅法を参加者たちが自主的に⾒つけていくなど、言語や背景が異なるからこそ生まれる彼らの取り組みが興味深かったです」(湯山)

続いて3年目は、多くの要望を受けて大人のろう者、難聴者を対象にした「ろう映画制作ワークショップ(オンライン)」を実施。新型コロナウイルス感染拡大のため2020年の実施は延期し、2021年に初のオンライン開催となった。
「アメリカのジェイソン・ロバーツ監督(2019年公募作品部門観客賞受賞作『ヘディとハイジ-生き別れた姉妹-』)に講師をお願いし、また、ろう者の映画監督の今井ミカさん(監督作『あだ名ゲーム』を第2回で、『虹色の朝が来るまで』、『ジンジャーミルク』を第3回で上映)と俳優の今井彰人さん(監督・出演作『父』を第1回で上映)も参加していただけることになりました。ジェイソン・ロバーツ監督には演出と脚本について、今井ミカさんには編集、今井彰人さんには撮影というかたちでそれぞれ講師をご担当いただきました。リアル開催ではなくても素晴らしい講座となり、更なる可能性が広がったことをうれしく思っています」(湯山)

そして、2021年のワークショップで制作された作品は第3回東京国際ろう映画祭のフォーラムにてお披露目となった。
「つくるだけではなくて、誰かに見てもらう。観客からのフィードバックや反応を受けながらどんどん自分の表現を磨いていく。そしてその表現を見た人が自分にもできるかもしれないと感じて挑戦してみる…というように、1回で終わるのではなく、お互いに良い影響を与え、それがまた次へと繋がり、その物事がさらに連鎖していくような流れをつくることを心がけています」(湯山)

CINEDEAF  ルカ・デス・ドリデス氏 提供:東京ろう映画祭実行委員会

国内外に向けたネットワーキング

ろうの映画芸術の共有のためにネットワーキングにも力を入れ、ゲストを招いたシンポジウムを開催した。
「2018年は世界のろう映画祭の状況を紹介、2019年は実際にシアトルろう映画祭のフェスティバルディレクターや、CINEDEAF(ローマ国際ろう映画祭)創設メンバーといったゲストたちを招聘し、各国のろう映画祭の現在と未来などを語り合いました。2021年は東京国際ろう映画祭がこれまで重ねてきた活動の実績を発表しました。また、都外の地域では、フランスのカンヌ市と姉妹都市である静岡市がカンヌ国際映画祭に合わせて開催するイベント『シズカンウィーク』と提携しており、毎年5月に静岡市でろうの映画を上映しています」(牧原)

海外とのネットワーキングについては、まずは主に牧原と湯山が現地へ視察に向かうという。
「これまでに、シアトルろう映画祭(アメリカ)、CINEDEAF(イタリア)、上海国際ろう映画祭(中国)に行きました。先ほどのDeafFilmCampで出会った講師たちからも映画関係者を紹介していただき、各地での出会いから交流へと発展させ、協力関係を築くことを大切にしています。彼らからも、東京国際ろう映画祭の情報を発信していただき、また私たちは海外の情報を日本で発信するなど協力し合いながら、世界のろう者との関係を積み上げています」(湯山)

忘れられない思い出

活動実績を振り返る報告会の中で、牧原は忘れられない思い出を1つ語った。
「第2回開催の最終日に、聴者の高齢の女性が『今日は来て本当によかった』と言いに来てくれました。彼女はTBSテレビのニュース番組で放映された映画祭の紹介をたまたま目にして、わざわざ来てくれたそうです。教職に就いていたという彼女は中国のろう者を映した『手話時代』という作品を鑑賞して、『中国のろう者について今まで知る機会がなかったけれど、映画を見ることで初めて知ることができました』と感動を伝えてくれました。本当に見てもらえてよかったと思いました。また、SNSなどでも多くの方々が感想を語り合っていることも嬉しいですし、私たちの活力になっています」(牧原)

映画で社会を一気に変えることはできないかもしれないが、個人を動かしていく力はある。その個人が広がっていくことで、社会が変わることに繋がるのではないか。映画祭の役割の一端が垣間見られるエピソードが印象深かった。

(構成・文:大久保渉)

第14回「ろうの映画芸術 -ろう者主導の団体が創る新しい共生社会」(後編)に続く

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