本作のモチーフの『ヨブ記』は「義人の苦難」をテーマにした、旧約聖書に含まれる書物である。
非の打ちどころなく善く生きてきた人間が、神から比類ない受難を与えられ、信仰を問われるという、理不尽な内容だ。だがその非常な理不尽こそが、全ての存在に対する掛け値なしの肯定を実現する方法であるとは言えないだろうか。 現代の高度資本主義社会においては、あらゆる価値が「計量されるもの」、「等価のものと交換可能なもの」とされてしまっている。しかしプラスを勝ち得ていくことでしか自分の価値を示すことの出来ない世界は、苦しい。成果主義や独立採算制、自己責任といった言葉が、弱者への不寛容を強める方向に働いてしまっている現代において、本作品を通じて「ただ存在すること」それ自体の価値を問い直す。

作・演出：西尾佳織
出演：武井翔子、浅井浩介(わっしょいハウス)、黒岩三佳(キリンバズウカ)、鳥島明(はえぎわ)、山科圭太