『現在地』『地面と床』に続き、2011年の東日本大震災後の社会背景を主題としつつ、社会での断絶が生じる以前の個々人の心の葛藤や恣意的な感情をきわめて細密に見つめ、拡張した『部屋に流れる時間の旅』。
震災直後の人々にわき起こった想いのなかには、哀しみや不安だけではなく「世の中が良くなる」という希望も混ざっていた。そのような未来への希みを持ったまま死を迎えた幽霊が紡ぐ純粋な希望の言葉に、もはや希望を持つことなど不可能に思える今を生き続ける生者は苛まれ、耳を塞ぎ目を背けたくなる。こうした不可視の心の葛藤や苦しみが、これまで以上に強度を増した岡田の言葉と俳優の身体を通して、現代美術家 久門剛史による微細な気配のにじむ音・空間と緊密かつ多層的な関係を結び、まるで感情を聴き手に取ることができるかのような情景として表れ、観る者を揺さぶる。
【チェルフィッチュ】
岡田利規が全作品の脚本と演出を務める演劇カンパニーとして1997年に設立。独特な言葉と身体の関係性を用いた手法が評価され、現代を代表する演劇カンパニーとして国内外で高い注目を集める。2007年『三月の5日間』(第49回岸田國士戯曲賞受賞作品)にて国外進出を果たして以降、世界70都市での上演歴を持つ。近年は、海外のフェスティバルによる委託作品製作の機会も増えており、活動の幅をさらに広げている。
一般社団法人チェルフィッチュ
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シアタートラム(東京都世田谷区)
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