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アート、音楽、舞台、地域プロジェクト、ワークショップ、シンポジウムなど、アーツカウンシル東京では日々多様なプログラムを展開しています。現場やそこに関わる人々の様子を見て・聞いて・考えて…ライターの若林が特派員となりレポートします!

2016/11/28

“芸術祭”の機能を問いながら──走り出した「東京芸術祭」

2016年は、全国各地で「芸術祭」が目白押しである。回数を重ねてきた「瀬戸内国際芸術祭」(春・夏・秋の3会期)、「京都国際舞台芸術祭」(春・秋の2会期)、「あいちトリエンナーレ」(8/11-10/23)、「みちのおくの芸術祭 山形ビエンナーレ」(9/3-9/25)、「BIWAKOビエンナーレ」(9/17-11/6)。加えて、「茨城県北芸術祭」(9/17-11/20)、「さいたまトリエンナーレ」(9/24-12/11)、「岡山芸術交流|OKAYAMA ART SUMMIT」(10/9-11/27)が初開催されている。勢いは今年にとどまらず、2017年も、「横浜トリエンナーレ」(神奈川県)、「札幌国際芸術祭」(北海道)のほか、新たに「北アルプス国際芸術祭」(長野県)、「Reborn-Art Festival」(宮城県)、「奥能登国際芸術祭」(石川県)、「種子島宇宙芸術祭」(鹿児島県)などが初開催される予定だ。

こうした“地域型芸術祭”の増加をブームと捉え、林立、乱立とみる向きもあるけれど、まだそこまでの状況とも思えない。ようやく木立になったくらいで、乱れるまでもいっていないだろう。数が増えると、切磋琢磨の期待や歓迎よりも、ネガティブに論じられがちなのがアートの世界。その論点はたいていの場合、費用対効果や芸術性、行政の方針のことで、楽しみ、かかわる人々の気持ちの部分は置き去りにされていて、誠にもったいない。人がアートとかかわることについて、全国の多数の事例をもって真正面から考えられる機会はそうそうない。「かくあるべし」の全体論ではなく、それぞれの芸術祭が持つ固有のストーリーや、参加者の個人的な体験や「変化」、思いがけない出来事にも、もっと丁寧に注目したい。

先日、東京・池袋を歩いていると、「東京芸術祭2016」(会期:9月1日〜12月18日)のフラッグに行き当たった。大都市東京といえども、今佇むこの地点は、間違いなく東京ローカルである。ということは、これも地域型芸術祭なのだろうか。今年初開催の東京芸術祭については、知らないこと、わからないことがたくさんある。アーツカウンシル東京広報調整担当課長の森隆一郎さんを訪ねて聞いた。

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──「東京芸術祭」は本年が初開催です。構想はいつ頃からあったのですか?

森 隆一郎(以下、森):2015年3月に東京都が発表した「東京文化ビジョン」に掲げた8つの戦略を実現するためのプロジェクトのひとつとして位置づけられています。東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会はもちろん、その先まで、広く東京の魅力を伝え、新たな価値観をはぐくむ交流と参加の場としての、都市型総合芸術フェスティバルを目指しています。

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アーツカウンシル東京広報調整担当課長 森 隆一郎さん

──素朴な疑問ですが、「フェスティバル/トーキョー(F/T)」が2009年から実施されています。F/T は、200以上の作品を上演して40万以上の観客を動員してきた実績ある舞台芸術祭。フェスティバル/トーキョーという名前のつくりも“東京芸術祭”です。なぜF/Tとは別に東京芸術祭を立ち上げたのでしょうか? 現状は、フェスティバルの入れ子状態のようにも見えるのですが。

森:別の芸術祭を始めたということではないんですね。舞台芸術分野でいえば、国内外の演劇、舞踊や若手の共同制作作品を上演する「フェスティバル/トーキョー(F/T)」、アジアの舞台芸術関係者が人材交流や国際共同制作に取り組む「アジア舞台芸術祭」(今年から「アジア舞台芸術人材育成部門」に名称変更)、国内外の優れた音楽・舞台芸術を上演する「東京芸術劇場の自主事業」などの事業が展開されてきました。
舞台芸術という共通点のあるこれらの事業を、「舞台芸術の祭典」として総合的に横ぐしをさせないか。さらには、ジャンル横断的な都市型総合フェスティバルに段階的に発展させていけないか、と考えたわけです。

──段階的にというのは?

森:そうですね。まずは演劇を中心とした舞台芸術イベントを再編成し、その後伝統芸能等を加えていこうというものです。その後どのように展開させていくかについては検討中です。さきほど質問があった「F/T」との関係性でいえば、当機構の三好勝則機構長は、東京芸術祭について「F/Tが築いてきた実績が評価されて、さらに発展する契機」と言っています。
逆に、「F/T」はなぜ舞台芸術という言葉を呼称に入れなかったのかを想像してみると、発展の過程で音楽や美術、映像などの他分野も包含して、総合的なフェスティバルに展開していく余地を残していたとも考えられます。思考の過程としては同じなのかもしれませんね。

──構想の背景がわかりました。文化ビジョンにあるような完成型に至るのは、いつ頃なのでしょうか。当然ながら、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の「文化プログラム」は意識されていると思いますが。

森:2020年以降には、都市型総合芸術祭として完成形を目指そうと思っています。

──リオ大会も終了し、2020年東京大会に向けた4年間の文化オリンピック期間(東京2020文化オリンピアード)が10月に始まりました。「東京芸術祭2016」は、文化オリンピアードの幕開けにあわせて、船出したというようにもみえます。

森:芸術祭というのは、計画、仕込みから実行まで普通は少なくとも2年から3年かかります。でも、その仕込みを始められるのが今年だったんですね。ですから、ちゃんとしたラインアップを見せるためには、2018年から東京芸術祭を始めるという考え方もありますが、まず今年は第一段階の「舞台芸術の祭典」のフレームをつくることに着手しました。やりながらつくっていく方式です。初年度の参加事業は、「フェスティバル/トーキョー 16」「芸劇オータムセレクション」「としま国際アート・カルチャー都市発信プログラム」「アジア舞台芸術人材育成部門」の4本です。今後、他の芸術ジャンルにも拡大して他の分野も含めた芸術祭に成長させていきたいと考えてはいますが、今具体的に動き始めているのは舞台芸術分野ということですね。

──なるほど。とにかく走り始めたわけですね。ところで、近年「地域型芸術祭」といわれる芸術祭が、各地に多数誕生しています。東京芸術祭は「都市型総合芸術祭」と銘打っていますが、ローカリティ、地域性は意識されていますか? 都市型総合芸術祭とは具体的にどのようなものなのでしょう。

森:都市型総合芸術祭については、ドイツの首都ベルリンで1951年から開催されてきた「ベルリン芸術祭」と同じような構造をイメージしていました。ベルリン芸術祭の特徴は、年間を通してさまざまなイベントやフェスティバルが開催されることです。また、ベルリン芸術祭という大きな枠のなかに、ジャズフェスや演劇フェスなど、さまざまなフェスティバルが入っていることも特徴です。個々のフェスを束ねたものがベルリン芸術祭というわけです。東京芸術祭も同じような仕組みを構築できないかと考えています。舞台芸術祭のなかに美術や音楽を入れ込むのではなく、多様なジャンルのフェスティバルがあって、それを束ねる枠が東京芸術祭というイメージ。
ただ、それが最善のモデルなのかは、慎重な検討が必要です。東京はベルリンよりもぐっと広く大きいので、果たしてヨーロッパモデルで東京の芸術祭を集約できるのか。また、アジアはアジアなりの方法論があって、東京は東京なりの芸術祭のつくり方が求められるはずです。アジアでは、香港やシンガポールが国際芸術祭を成功させています。それらと肩を並べるような芸術祭を、という声もあります。

──さらに突っ込んで伺いますが、現在検討されている「芸術祭/フェスティバル」とはどのようなものなのでしょうか? 分野や規模ではなく、芸術祭を芸術祭たらしめる要素といいますか。

森:あくまで私個人の考えではありますが、芸術祭というのは、ただ演目を観る、楽しむというだけではなく、「機能」が必要だと思うのです。1つには、「カンファレンス」機能。さまざま関係者が集っていて、多様な議論が行われる場ですね。それから、インターンシップを含む「人材育成」と、世界への橋渡しをする「マーケット」。そして、「まちなかのポップアップイベント」。まちなかで一般の人が芸術祭とふいに出合う場としての機能です。演劇祭、芸術祭はハコの中で行われることが多いので、 “出合い頭”的な機会をつくらないと一般の方々にはなかなか自分のまちで芸術祭をやっていることが周知されません。たとえば、映画祭のレッドカーペットなどはそうした機能でもあるんですよね。そのほかにも、ボランティアなど一般の人が深く参画できる「エンゲージメント」機能、プロ同志が交流するための「ネットワーキング」機能も必要です。こうした「機能としての芸術祭」とは何なのかを、しっかり考える必要があると思います。

──たしかに、主催者がすばらしい作品を並べ、それを人々が鑑賞するというだけなら、あえて芸術祭と言わなくても成立します。こうした「機能」が目的をもってうまく組み込まれて、全体として文字通り機能した時に、はじめて芸術祭、フェスティバルといえるものになると。

森:芸術祭は、極めて20世紀的な仕組みだと思うんです。それを、本格的な21世紀を生きる今、あえてやることの意味を問う必要があります。もう、経済効果の追求とか、まちのにぎやかしだけではいられない。芸術って何だろう、持続的に都市の機能に組み込むにはどうしたらいいんだろう、国際的に開いていくには何が必要なのだろうかと問わねばなりません。その結果、先ほどの「機能」という考えをもちました。

──「国際的」ということについても、もう少しお聞かせください。東京芸術祭は「世界とつながることを目指す」と掲げていますね。

森:国際的な芸術祭というときには、対外的な窓を、国内だけでなく海外に向けても開くこと、国際的に開かれた場であることが重要です。現在東京で開かれている各種のフェスティバル、日本各地の芸術祭は、作品レベルでは海外と交流しています。真に国際的な芸術祭とは、「このラインアップはまさに旬。観に行かねば」と、国際的に評価され海外の関係者が集まってくる、言わば“国際フェスティバルサーキット”にしっかり乗っているものなんだと思います。既に発表済みの作品だけでなく、国際共同制作を仕込んで世界初演もみせていくというようなクオリティも確保していて。東京芸術祭が目指さねばならないのは、そういう国際性だと思います。

──今年の東京芸術祭は池袋を中心に開催していますね。今後、都内で広域に展開していく予定はありますか?

森:初年度の今年は、豊島区・池袋を中心に開催しています。池袋には東京芸術劇場もありますし、F/Tも池袋界隈を中心に展開してきましたので。あうるすぽっと、池袋西口公園、南池袋公園、豊島区役所も芸術祭会場となっています。豊島区は、「国際アート・カルチャー都市構想」を掲げていて、それも大きな後押しとなっています。舞台芸術分野は、そうした背景もあって池袋を中心に開催していますが、今後芸術ジャンルを広げていく過程で、エリア展開はあると思います。ただ、どこでもいいというわけではなくて、その地域でどのような活動を展開してきたかという「文脈」があることが重要だと思います。

──芸術祭をまちなかで開催する意味について、何かお考えはありますか?

森:まちなかでの開催は「入口」をつくることだと思うんです。演劇を例にとると、人気作品だからとか、有名人が出ているという理由で芝居を観る方も多いと思います。今後は、「芸術祭で盛り上がっているから」とか、「観ておかないとまずいんじゃないか」というくらいになったらいいなと思いますね。そのためには、出くわすための「入口」をつくっていくことですね。一般の方々に、もっと頻繁に、実際に芸術祭に出合ってもらいたいです。

──「出くわす状況づくり」は、多くの共感を得て芸術祭を成長させていくためにも不可欠ですね。特定の層だけで芸術祭を囲い込まずに、一般の人々の視界にも入るような設定をいかに仕込むか。出くわして、思いもかけない化学反応が起きてこそ、芸術祭は持続的に更新されるのでしょうね。

森:まちなか劇場ということですね(笑)。フェスティバルを楽しむことができる要素として、自分のまちでいっぺんに観られるという、圧縮した感じを出していくことも大事です。

──あれこれ楽しめる物理的・時間的な動線づくりも大切ですね。
それでは最後に、このブログ記事に出くわした方々に向けて、「東京芸術祭2016」の楽しみ方を教えていただけますか?

森:ちょうど「まちなかパフォーマンスシリーズ」と題した作品があります。「ふくちゃんねる」は10月27日〜30日に南池袋公園で、「うたの木」は11月10日・11日に豊島区庁舎10階 豊島の森で実施されました。「ドキュントメント:となり街の知らない踊り子」は12月1日〜4日にあうるすぽっとホワイエで、「チェルフィッチュ:あなたが彼女にしてあげられることは何もない」は12月に池袋東口某所で開催予定です。全部まちなかで展開しています。

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「ふくちゃんねる」
Photo: Ryohei Tomita

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「うたの木」
左 ©青木司

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ドキュントメント「となり街の知らない踊り子」
Photo:鈴木竜一朗

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「あなたが彼女にしてあげられることは何もない」
©おおいたトイレンナーレ実行委員会
photo:Yasunori Takeuchi

11月5日(土)に南池袋公園・グリーン大通り・としまセンタースクエア(豊島区庁舎1階)で行われた「大田楽 いけぶくろ絵巻」も100名以上が参加した賑やかなまちなかパレードでした。田楽って、平安時代から室町時代に大流行して忽然と消えてしまった芸能なんです。それをひもといて、狂言師の野村耕介さんが舞踊家や音楽家、俳優、学者らと協働でつくりあげました。

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「フィラデルフィア大田楽」より
photo:赤坂久美

芸術祭のラストを飾る「ノイズの海」も必見です。ロンドンパラリンピックの開会式にも出演したダンスアーティストの南村千里さんがアーティスティック・ディレクターを務め、ライゾマティクスの映像デバイスとともに、新たな次元をつくりあげます。12月15日〜18日にあうるすぽっとで上演します。

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「ノイズの海」

「F/T」のマレーシア特集も、今勢いのある国の一面が見られるのではないかと思います。

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──出くわしたくなるラインアップですね。「東京芸術祭」が2020年にどのようなものになるのか、今後の展開を一都民として見守っています。今日はありがとうございました。

取材・文・一部写真:若林朋子 


東京芸術祭2016

  • 会期:2016年9月1日(木)〜12月18日(日)109日間
  • 会場:東京芸術劇場、あうるすぽっと(豊島区立舞台芸術交流センター)、にしすがも創造舎、池袋西口公園ほか
  • 参加事業:フェスティバル/トーキョー16、芸劇オータムセレクション、としま国際アート・カルチャー都市発信プログラム、アジア舞台芸術人材育成部門
  • 主催:東京芸術祭組織委員会 [アーツカウンシル東京・東京芸術劇場(公益財団法人東京都歴史文化財団)、豊島区、公益財団法人としま未来文化財団、フェスティバル/トーキョー実行委員会、アジア舞台芸術祭実行委員会]
  • URL:https://www.artscouncil-tokyo.jp/ja/what-we-do/support/activity/hub-formation/11455/

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