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アーツカウンシル東京ブログ

アーツカウンシル東京のスタッフや外部ライターなど様々な視点から、多様な事業を展開しているアーツカウンシル東京の姿をお届けします。

東京アートポイント計画通信

東京アートポイント計画は、地域社会を担うNPOとアートプロジェクトを共催することで、無数の「アートポイント」を生み出そうという取り組み。現場レポートやコラムをお届けします。

2013/11/26

司雑記-5 冬支度。(冬終)

11月24日、晴れ、気温11度。「十和田奥入瀬芸術祭」最終日。冬支度を始めている奥入瀬(おいらせ)への訪れは、特別遊覧船に乗るためだ。プレスバスで巡ったオープニングの9月21日の奥入瀬は、まだ紅葉が始まる頃だった。その時出会ったアーティストmamoruの作品《湖とその遊覧船のためのコンポジション》をもう一度体験する。それが目的の旅だ。十和田湖の朝9時の気温は4度、空は抜けるように青い。天候に恵まれた旅は、それだけで贅沢だ。先週末、三宅島大学の卒業式のために東海汽船で三宅島入りした。その時も天気は味方してくれた。

アートプロジェクトが夏から続き移動が続く。動員数60万人と聞く「あいちトリエンナーレ」、100万人を突破した「瀬戸内国際芸術際」、その他あれこれ。当然、自分の現場「東京アートポイント計画」の事業にも足を運ぶ。そんな訳で訪ねたいプロジェクトの現場全ての日程が取れるわけではない。今日がやはり最終日の「六甲ミーツ・アート芸術散歩2013」は、数度日程を調整しながらも訪ねられず見逃した。

現場に足しげく出向くのは、体験を伴った強度を持った言葉を獲得するためだ。同時に、作家、作品、そして展覧会やプロジェクトそのものと出会うためだ。だが予想だにしなかった出会いが、いつもあるわけじゃない。正直、勝率は低い。大抵何も起きたりしない。カラダが反応しわくわくするようなすばらしい体験ができるのは稀で、それゆえに貴重なのだ。その意味では、「十和田奥入瀬芸術祭 SURVIVE この星の、時間旅行へ」は、ちょっとヤバイ現場だった。参加作家も出品点数も多くないにも関わらず、僕は大いに反応させられ、さらにオープニングの日以来消化不良のままの状態だったからだ。

mamoruとの再会は叶わなかったけれど、作品はきっちりと味わう事ができた。企画段階から関わった船長は、作品を理解し愛おしむように楽日の公演(遊覧)を果たしていた。演じきった船長に拍手しつつ、朝の静寂な湖畔のひと時を満喫した。

午後は、もう一つの目的の場所を訪ねた。咀嚼しきれず消化不良のまま持ち帰っていた作品《水産保養所》を、作家達のガイドで2時間観て過ごした。オープニング時より格段に手が入った会場は、堂々たる作品に変貌していた。空間は明らかになにかで満たされていて、人が関わり続ける事で「場」は力を帯びることを現在させていた。

梅田哲也、コンタクトゴンゾ、志賀理江子の作家ユニットと奥入瀬エリアのキュレーションを担当した服部浩之が投入した膨大なエネルギーは、7年間放置されていたホテルを、なにものかに変容させ、そのありようは作品と呼ぶにふさわしい。彼らは、建築物とその周りの環境とその土地に生活する人々と丁寧に向き合い、場を開いた。

ひたすら開くための作業をし続けてきた彼らとスタッフがクロージングツアー[Long ver.]をオペーレーションする。その脇でコンタクトゴンゾたちは、いまだに新しく何かを造り、最終日の観客群とは関係なくカラダを動かしていた。あれはアナウンスされなかっただけで、見逃してはいけないパフォーマンスだったのだろうか。それとも純粋に彼ら自身が建物としての《水産保養所》と格闘するコラボレーション(対話)を楽しむ仕草だったのか。そのどちらでもあり、どちらでもないかもしれない。しかし、《水産保養所》の産みの親であり住人となった彼らが、その場に存在し、動き、歩き回る姿は、演劇的でありパフォーマティブであり、《水産保養所》にとって必須な存在として感じられた。物に溢れていた「水産保養所」からモノを除去する「引き算」の手法で構築されたその場は、彼らの関与を物語る存在に変容していたからだと思う。ロビー空間に落ち続ける水は関与者の存在を明示する。

明日からの冬支度(冬終)は、それら仕掛けの解体を《水産保養所》に施して閉鎖することだ。長い眠りから目覚めた「水産保養所」は、また暫し眠りにつく。しかし、もう二度と廃墟になることはない。作品になってしまった館は、作品《水産保養所》として静かに再びの来訪者を待つだけだ。

奥入瀬の冬支度の風景は、今期のアートプロジェクトからの収穫がなにであったかを検証し、言葉を紡ぐシーズンの到来を強く意識させられた。強く感化された私は、時間旅行の余韻が鮮明なうちにと、帰路のはやぶさでMacBookに向かって言葉をタイプし始めた。


1. mamoruは、TARL「集中セミナー:運営・記録・評価のサイクルをつくる」(12月13日~15日)のセッション4(3日目10:00〜13:00)「リサーチからプロジェクトを設計する」の講師として美術作家・写真家の下道基行と共に登壇します。

2. 12月14日から1月13日まで「十和田奥入瀬芸術祭 ドキュメント展」が十和田の街中エリアで開催されます。NPO法人アーツイニシアティヴトウキョウ[AIT/エイト]の小澤慶介がキュレーションを担当した十和田奥入瀬芸術祭の十和田市現代美術館展示は、ドキュメント展の開催にあわせて延長されることが決定しました。

3.実はもう一作、志村信裕《Pierce》をもう一度、空間の体験と併せて見ておきたかったが行程上それが適わなかった。約10万本の「待ち針」を刺した筵(むしろ)に、作家本人が撮影した樹齢1100年と言われている「法量のイチョウ」を投影する作品。

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