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アーツカウンシル東京ブログ

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東京アートポイント計画通信

東京アートポイント計画は、地域社会を担うNPOとアートプロジェクトを共催することで、無数の「アートポイント」を生み出そうという取り組み。現場レポートやコラムをお届けします。

2018/04/06

生きる力としての物語の力。わたしたちはどう取り戻すのか。 —石神夏希「東京ステイ」インタビュー〈後篇〉


「東京ステイ」ディレクター・石神夏希(撮影:黒羽政士)

「東京ステイ」は、劇作家の石神夏希さんを中心としたNPO法人「場所と物語」が2016年から取り組んでいるプロジェクト。何気ない普段のまちの光景に対して、私たちはどのように異なる視点、「物語」を見出しうるのか。そんな問いを掲げたこのプロジェクトでは、現在、「巡礼」を意味する“ピルグリム”と呼ばれる実験を通して、そのアプローチを模索しています。

「場所との関係を、自分なりに紡ぎ直していける物語の力に興味がある」と語る石神さん。形成過程のプロジェクトのなかで、彼女はどんなことを感じ、何を考えてきたのか。伴走者である東京アートポイント計画ディレクター・森司との対話から探ります。

〈前篇〉「巡礼から生まれる、「場所」との新しい物語 —石神夏希「東京ステイ」インタビュー」を読む


■ピルグリム=偶然をキャッチする身構えの鍛錬

——「東京の物語にチェックインする」で、メンバー間の違和感が浮き彫りになった「東京ステイ」。そこからはどんな活動をされたのでしょうか?

石神:ひとつは、ゲストを呼んだレクチャー&ディスカッションです。自分たちのフィールドワークの「なんか違うニュアンス」を、先駆者の話から考えようとしました。
たとえば「カレーキャラバン」の加藤文俊さんからは、フィールドワークには自分が移動しないという方法もある、ということを学びました。もうひとつ大きかったのは、NPOで夏に自主的に行った千葉での合宿です。ここで、そのあと実験することになる「ピルグリム」のヒントを掴んだ気がしました。

——というと?

石神:合宿中にいろんなトラブルがあったんです。車が壊れてしまったり、真夜中に来たメンバーに買い出しを頼んだらコンビニがものすごく遠かったり。でも、それが楽しかった。こういう、偶然を受け止めながらあえて遠回りをして集まり、ひとときを共有したあと、日常に還っていくことがしたいと。2017年10月には東京の檜原村で、ピルグリムの実験のための合宿をしたのですが、そこでも現地で何をするかよりも、どう集まり、解散するかの設計を試そうとしました。


東京ステイ「レクチャー&ディスカッション」

——秋に行った檜原村の合宿では、参加した全員に「朝8時には出発して、6時間かけて辿り着くこと」がミッションとして与えられたそうですね。

石神:メンバーは、それぞれが選んだルート上で「一緒に檜原村へ連れてきたかった人」への手紙を書き上げ、その過程をSNS上にテキストや写真で共有しました。遠回りしたり寄り道したりしながら、偶然が起きる状態をどう仕込むか。こう言うと、完成されたピルグリムの手法があるようですが、むしろ自分たちがいま、ピルグリムを通して偶然をキャッチする身構えを稽古しているんです。

:演劇っぽいね(笑)。

石神:そうですね(笑)。偶然を受け入れて思いもよらない展開につなげる身体性は、都市やコミュニティと関わりながら演劇のプロジェクトを立ち上げるなかで、自分も学んできた実感があるんです。アクシデントから何かが生まれる。実際、檜原村でも雨のために予定していたバンガローに泊まれなかったのですが、たまたま寄った喫茶店に泊めてもらえることになって……。


東京ステイ「ピルグリム(巡礼)」。それぞれが目的地までさまざまなルートで向かい、手紙を書き、読み合う。

——千葉の合宿といい、いろいろ起きますね(笑)。

:その日、店番をしていたおばあちゃんの娘さんがバレエをされている方で。私たちが文化の話をしているのが聞こえるわけですよね。それで信頼されたみたいで、「使っていいわよ」と。あの日、雨が降らなければあの場はなかった。偶然が必然を呼び、とても良い場になったんです。合宿ではなくてサバイバル、本当の意味での「東京ステイ」をしたんですよね。

嘉原妙(東京アートポイント計画・プログラムオフィサー):もうひとつ、あの日みんなで書いてきた手紙を読みあったのも大きかったですよね。プロジェクトで集まったメンバーなのですが、あそこでそれぞれ個人の物語を共有した感覚がありました。

石神:そうですね。その場に連れてきたかった人への手紙ということで、私は父に向けて書いたのですが、みんな家族など、それまでお互いに話したことがなかったようなプライベートな関係性について書いていました。

:それぞれの人との距離感の話なんです。生々しくもあるけど、他者にはそれが物語になる。また現地へのプロセスも含んでいるので、妙に上演台本っぽいものでしたね。

石神:今日、どうやってここに来たかという内面的な旅の記録でもあった。SNSに上がる文章や写真も、必ずしも直接その人を語っていなくて、聞こえた音や見た風景についてでした。でもそこには、思っているその人の気配がどこか含まれていた気がします。


《hato_pepin “でも私はだれを幸せにするために生まれてきたわけでもないのだと、自分の好きなように幸せにも不幸せにもなっていいのだとわかったから、私はいま檜原村にいます。” #場所と物語 #東京ステイ #ピルグリム》東京ステイ檜原村合宿での石神さんのInstagram投稿。道中の思考と言葉を記録していった。

■当事者と観察者が同居する「あわい」

——「上演台本っぽさ」とも関わりますが、石神さんは劇作家としてもまちに溶け込むような作品を作られている。演劇作品とプロジェクトの関係をどう考えていますか?

石神:もちろん両者の質は違いますが、自分にできることはそんなに多くないから、結果的に似てくる部分もあります。とくに、2017年秋に上演した『青に会う2017.10-11』 は、東京ステイの合宿と時期が重なっていたので、双方に影響があったと思います。これは京都の舞鶴市で2週間のアーティスト・イン・レジデンスを通じたリサーチから生まれた作品で、パフォーマーが演じる架空の人物が、実際に舞鶴のまちで2週間、滞在して生活する様子を演劇としてノンストップで上演し続けるものです。毎日、特設サイトに翌日の戯曲がアップされ、そこに書かれた日時と場所に行くことで観ることができるのですが、上演される内容はスーパーで買い物をするとか、地域の方と待ち合わせして会うとか、ごく普通の出来事で。

『青に会う 2017.10-11』(舞鶴、2017年)(映像:和久井幸一)

——戯曲の存在を知らない人々には、ただの日常の一コマに過ぎないと。

石神:演劇における日常と非日常の反転は、よく考えますね。東京ステイのメンバーの間でも、以前から「住む」ことと、旅など「滞在する」ことの間を考えたいと話していて。東京にはいろんな場所から人が集まりますが、たとえば3年間、東京で暮らすのは、「住む」なのか「滞在する」なのか。根を張るのでも旅するのでもなく、その間がいろいろあっていいんじゃないかと。その間で宙ぶらりんな日常のあり方を探ってみたい。

——当事者(住む)と、観察者(滞在する)の間を行き来するということですか?

:いや、当事者と観察者という二項対立ではないんですよ。そのどちらかの視点になるのは簡単なことで。むしろ、ピルグリムをしているときに起こるのは、立場が入れ替わるのではなく、同じ立場のまま変わっていくこと。当事者のまま観察者に、観察者のまま当事者になる。それらが同居しちゃう状態をいかにつくるかを考えているんです。

——重なり合う「あわい」の部分が大切ということですね。

石神:そうですね。まちで誰かとすれ違ったときに、その人の内側から自分を見る。自分のまなざしがその人を通じて自分に跳ね返ってくる。自分が他者であることに気づくというか、そうしたところに生まれる想像力に関心がある。

:アートポイントでは、石神さん以外にもさまざまな演劇人と仕事をしているのですが、彼女の演劇は、僕の言葉で言うと「1分の1の演劇」。つまり、この実社会における演劇なんです。ただのフィクションではなく、生活のなかに生に出てくる「演じること」と「演じないこと」の区別もつかない小さなあわいを重要にしている。その目線や感性があることが、いまも試行錯誤するこのプロジェクトのエンジンなんです。

■場所と自分の関係を変える物語の力

——最後に、プロジェクトの今後について考えていることを聞かせてください。

石神:いま取り組んでいるのは、イラストレーターの寺本愛さん、編集者の安東嵩史さん、場所と物語メンバーでもあるアートディレクターの小田雄太くんと一緒に、これまで主に言葉で表現してきたピルグリムを、「十牛図」で視覚的に表現するブック制作です。「十牛図」というのは禅の思想を土台にした10コマ漫画のような絵で、悟りを開くプロセスを人(自我)と牛(真の自己)との関係に重ねて描いたもの。牛を追いかけ、苦労してつかまえて、牛を我が物にして家に帰ると、牛のことも自分のことも忘れてありのままの自然が見えてくるという展開なのですが、面白いのは、10コマ目、つまりラストが酒瓶をぶら下げて市井に戻る図なんです。つまり、悟りを開いたら、俗世に戻ってくる。

——日常と違うレイヤーに行って、日常に戻ってくる。

石神:私たちもピルグリムを通じて、そこにいない誰かに向かって手紙を書く、いわば「生霊を道連れに都市をさまよう」ような非日常的な時間を過ごして、だけど最後には全員が集合してご飯を食べながら手紙や体験を共有し、日常に還る。でもその日常は、すでにピルグリムをする前の日常とは変わってしまっている。もう元には戻れないんです。以前、メンバーの馬場さんから、「この活動に対して、(いい意味で)一貫したアウェイ感を感じている」と言われました。それはとても大事なことだと思っていて。普段はビジネスをバリバリしている人たちが、時間を贅沢に無駄遣いしてモヤモヤしたまま帰る。そうやって持ち帰ったモヤモヤが、それぞれの現場に少しずつ影響を及ぼしていく。このプロジェクトが、そんな場所になればと思うんです。


『東京ステイ 日常の巡礼 まちと出会いなおす10のステップ』ブックの詳細についてはこちらの記事に詳しい。

:さっき言った石神さんの持つ日常への感性、このプロジェクトを通して見つけようとしている能力は、これからとても必要なものだと思っています。大きな変化のなかでサバイバルして、そこをすり抜ける術。とくに2020年の東京オリンピック後の東京において。

石神:「場所と物語」というテーマになぜ自分は取り組みたいのか。それは、選べない場所や状況のなかで生きている人たちも、生まれてきたことを肯定できる世界であってほしいということなんです。そのとき大切なのが、自分がどうしてそこにいるのか、つまり、場所との関係を自分なりに紡ぐことができる物語の力だと思う。それは、受け入れがたい事態を変えていったり、次の場所へ進んでいく力にもなると思うんです。

——現実はひとつだけど、どう解釈するかで向き合い方は変えていける。

石神:自分と場所との関係性、つまり物語を編み直す力は、誰もが無意識に使っている「生きる力」だと思いますが、普段は見えづらいし、その必要性を切実に感じることは少ないかもしれません。だけど今後、だんだんと人口が減り、活気がなくなったり、貧しくなっていく社会ではなおのこと、その力が必要になるし、なければ本当の危機になってしまうと思う。このプロジェクトで考えたいことは、そんな物語の力を一人ひとりがどう取り戻すかなんじゃないかと思っています。


Profile

石神夏希(いしがみ・なつき)

劇作家/ペピン結構設計/NPO場所と物語 理事長/The CAVE 取締役
高校卒業と同時に劇団・ペピン結構設計を結成。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。近年は横浜を拠点に国内外に滞在し、都市やコミュニティを素材にサイトスペシフィックな演劇やアートプロジェクトを手がける。またNPO場所と物語 理事長、遊休不動産を活用したクリエイティブ拠点「The CAVE」の立ち上げおよびプログラムディレクション、住宅・都市系シンクタンクでの研究執筆、株式会社ロフトワークへの参加など、さまざまな領域を行き来して劇作家として活動している。
主な作品に『花嫁』(横浜・黄金町、2013年)、『Fantastic Arcade Project』(北九州、2013~2015年)、『パラダイス仏生山』(高松、2014~2016年)、『ギブ・ミー・チョコレート!』(横浜・本牧、メルボルン、マニラ、2015~2017年)、『青に会う 2017.10-11』(舞鶴、2017年)、共著に『Sensuous City―官能都市』(Home’s総研、2015年)など。
http://pepin.jp/

NPO法人場所と物語

2016年6月設立。不動産、建築、アート、デザイン、メディア、まちづくりなど領域横断的に活動するメンバーで構成される。「物語」という手段を通じて「場所」に潜在する価値や個性を発見し、表現し、発信することを目指している。
「物語」は人が世界と関係性を結び、今ここで生きる意義を見出す手段であり、人間に備わる根源的な力である。またあらゆる場所の価値はひとつの大きな声ではなく、さまざまな人の声によって物語られることでより豊かになると考えている。
http://bashomono.com/

東京ステイ

東京都、アーツカウンシル東京、NPO法人場所と物語によるアートプロジェクト(2016年7月〜)。
「東京ステイ」の「ステイ」とは、宿泊だけでなく「住むこと」と「旅すること」の間を揺らぎ続ける暮らし方や、立ち止まること・佇むことも含む。さらに2017年からは「共居性(きょうきょせい)」という言葉を手がかりに、自己と他者とが共に居ること・居場所を立ち上げることに向き合っている。
『ピルグリム(巡礼)』は、2017年から本プロジェクトで実験中の都市の歩き方。目的地に向かって合理的に/効率的に/最短距離で歩きがちな東京で、旅人のようにまちと出会い直すこと。そして、まちに対する消費的な態度を避け自ら何かをつくり出す感受性・身体性を取り戻すことを目指している。
http://bashomono.com/tokyo-stay


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