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アーツカウンシル東京のスタッフや外部ライターなど様々な視点から、多様な事業を展開しているアーツカウンシル東京の姿をお届けします。

アーツアカデミー

アーツカウンシル東京の芸術文化事業を担う人材を育成するプログラムとして、現場調査やテーマに基づいた演習などを中心としたコース、劇場運営の現場を担うプロデューサー育成を目的とするコース等を実施します。

2019/04/04

アーツアカデミー2018 第5回レポート:芸術と社会の関わり方を磨く―芸術文化の社会とのつながりを捉え『接続』を考える―[講師:大澤寅雄さん]

アーツカウンシル東京が2012年から実施している「アーツアカデミー」。芸術文化支援や評価のあり方について考え、創造の現場が抱える問題を共有するアーツアカデミーは、これからの芸術文化の世界を豊かにしてくれる人材を育てるインキュベーター(孵化装置)です。当レポートでは、2018年にリニューアルしたアーツアカデミーの各講座をご紹介していきます。


第5回講座は、「芸術と社会の関わり方を磨く―芸術文化の社会とのつながりを捉え『接続』を考える―」と題し、文化政策がご専門で、官公庁・自治体の政策からアートNPOの活動まで幅広い領域でご活躍されている大澤寅雄さんを講師にお迎えし、実施しました。今回は「1. 文化政策の半世紀を俯瞰する」、「2. 米国NPOにおける劇場経営」、「3. 生態系としての芸術文化と社会」と3つのパートに分かれており、大澤さんの引き出しの多さを感じるとともに、今までの講座とは少し趣が異なる内容となりました。

文化政策の半世紀を俯瞰する

1つ目のパートでは、明治から現代までの日本の文化政策の歴史を振り返りました。明治期は急速な近代化と資本主義経済の推進のもと、富国強兵や脱亜入欧といった方針を強化する一環で、教育に音楽や美術が取り入れられるなどの文化政策が行われていました。大正から昭和初期のいわゆる戦前の時代は、文化・芸術が治安維持の警戒対象として国による検閲が行われる一方、「国威発揚」や愛国心を刺激するためのプロパガンダとして利用するような政策が敷かれました。三谷幸喜の『笑の大学』という作品がまさにこの時代の文化政策を描いている例として挙げられました。戦後になるとガラリとかわり、憲法の前文に出てくる「文化国家」建設にむけて文化政策は「心の豊かさ」を求めるものになり、戦後直後に文部省社会教育局に文化課と芸術課を設け、現代への流れができたそうです。このように文化政策の意味や役割は時代背景によって全く変わることがよくわかり、翻って現在の文化政策はどのような社会背景と結びついているのかと自然と思考が広がります。


図1:講師資料より

90年代の「ハコモノ行政」やNPO法成立による文化の担い手の多様化などを経て、2010年代は文化・芸術の社会への活用や政策評価、事業評価に注目が集まります。まちづくり、福祉、教育、観光、環境といったそれぞれの縦割りの政策に対し文化・芸術がその横串を刺す役割を担うという、従来の文化行政にとらわれないアプローチも提言されました。一方で、「芸術文化が道具になってしまうのではないか」といった意見もあり、文化政策の考え方が問われるところです。

そして、同パートは最後に文化的素養といった個人的資産にかかわる「文化資本」の重要性と地域社会への関わりについて触れ、これからの地域社会で必要なものは、「共生社会に必要な資本」としての文化資本であり、その多様性こそが重要であるというお話で締めくくられました。

「文化資本」と「共生社会」は今日の文化・芸術と社会との関係を考えるうえでの重要なキーワードとなるのではないでしょうか。


図2:講師資料より

米国NPOにおける劇場経営

続いて2パート目は、大澤さんがアメリカのシアトルの劇場KIRKLAND PERFORMANCE CENTER(以降KPC)で研修を行った際に日本との多くの違いを感じた実体験をもとにした、アメリカのNPO型劇場経営についてのお話です。

1つ目は提携事業についてです。KPCは提携事業を行うカンパニーやアーティストがある程度決まっていて、毎年同じ時期に長い期間の公演を行います。外部へ貸し出せる期間が年間1〜2週間という短さのため、劇場で一番多い事業が提携事業、一番少ないものが貸館事業となっています。こうした事業のバランスは日本と異なる点と言えるかもしれません。

もう1つは組織構造とその運営の違いです。劇場オフィスには7〜8人が常勤しており、公演があろうとなかろうと定時になったら帰るという働き方だったそうです。例えば、公演があるときは舞台技術ディレクターが午後3時頃に出勤し終演まで勤務、その他の部門は終演まで立ち会わなくてもよいといったように、ポストごとに無理なく仕事ができるような仕組みになっています。また経営管理を担う理事会の存在も大きく、「方針を策定し使命と目標を達成することを保証する」という大きな責任を負っています。理事自ら寄付も行い、資金調達など経営管理のための直接的な支援も行っています。各部門やポストの役割が明らかになっていることで理事会の機能が明確になり、資金調達に注力できます。

このような組織構造の在り方は、個人が現場管理から事務作業まで分野を跨ぎながら働かざるを得ない日本の文化団体とは異なり参考になることも多いのではないでしょうか。

生態系としての芸術文化と社会

第1・第2パートまでとは一変し、3つ目のパートは、生態系は何から構成されているのかという生物の授業のようなお話から始まりました。生態系は生産者、消費者、分解者によって構成され、それぞれの役割や生態系同士の繋がりによって循環しています。

図3:講師資料より

こうした循環を社会と芸術文化の中にも作れないだろうかという展開には、受講生も新鮮な感覚を覚えたようでした。

また、共生を目指す社会において、「共生」が依存や搾取にならないようにするための理想の姿としてハチドリ(蜂鳥)とラン(蘭)の受粉を例にあげました。

「長い目で、お互いに進化していくということですね、共生という関わりを、一緒に生きていく、水も土も光も風も、いろいろな植物同士も動物達も関わりあっていく、それで共にお互いが進化する」と大澤さんは言います。ハチドリのくちばしが長くなり、ランもハチドリに合わせた形になったように、共に進化していく関係をつくることが持続可能な社会に適応し、生き残っていけるというお話には、生態系の一員として自分も進化し、得意な力を活かすことを考えてみるという大局観が得られたのではないでしょうか。

最後に、自分自身は文化生態系において、生産者か消費者か分解者なのかを考え、発表しあうワークショップを行い、受講生各人が、自分自身の現在の立ち位置を捉えなおし、周囲との共生のあり方を考える機会となりました。


WSの様子

時代によっても国によっても変容する文化・芸術の在り方から、共に進化していく生物たちのお話まで及んだ本講座。芸術文化を取り巻く社会の変化と同時に自分自身も進化することができるという気づきは、山積みの課題を目の前にして固まってしまいがちな頭と心と体をほぐし、新しい思考につながるきっかけとなったのではないでしょうか。

次回はいよいよ5回の講義を受けての集大成となる、課題解決戦略レポートの発表会となります。18人の受講生の発表をお楽しみに。


<講師プロフィール>
大澤寅雄
(株)ニッセイ基礎研究所芸術文化プロジェクト室主任研究員、NPO法人アートNPOリンク理事、NPO法人STスポット横浜監事、九州大学ソーシャルアートラボ・アドバイザー。2003年文化庁新進芸術家海外留学制度により、アメリカ・シアトル近郊で劇場運営の研修を行う。帰国後、NPO法人STスポット横浜の理事および事務局長を経て現職。共著=『これからのアートマネジメント“ソーシャル・シェア”への道』『文化からの復興 市民と震災といわきアリオスと』『文化政策の現在3 文化政策の展望』『ソーシャルアートラボ 地域
と社会をひらく』。

執筆:アーツアカデミー広報担当 山崎奈玲子(特定非営利活動法人舞台芸術制作者オープンネットワーク(ON-PAM))

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