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アーツカウンシル東京ブログ

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Art Support Tohoku-Tokyo

Art Support Tohoku-Tokyo(東京都による芸術文化を活用した被災地支援事業)は、東京都がアーツカウンシル東京と共催し、岩手県、宮城県、福島県のアートNPO等の団体やコーディネーターと連携し、地域の多様な文化環境の復興を支援しています。現場レポートやコラム、イベント情報など本事業の取り組みをお届けします。

2019/05/23

「好奇心」が連鎖する「ぐるぐる」的な瞬間をつくる―「ぐるぐるミックス in 釜石」レポート<前編>

Art Support Tohoku-Tokyo(ASTT)の一環として、2016年度にスタートした「ぐるぐるミックス in 釜石」。本プログラムは、東日本大震災で被災した旧釜石保育園を引き継ぐかたちで2016年に開園したかまいしこども園を舞台に、ファシリテーターを務めるアーティストのきむらとしろうじんじんと大西健太郎が、園の保育士の先生や地元ボランティアスタッフ、そして子供たちと一緒に「あそび」を生み出す創作教室だ。企画・運営を行う一般社団法人谷中のおかってが、台東区の初音幼稚園で開催している「ぐるぐるミックス」の枠組みを活用しながら、通常の園の活動とは異なる体験や出会いの場を生み出すべく、毎年、1年を通じて6回ほど実施されている。3年目となる2018年度は、「ぐるぐるミックス」の通常プログラム以外に、こども園の若い保育士たちが主体となってプログラムの設定から当日のファシリテーションまでを務める「プチぐる(プチぐるぐるミックス)」の回も設け、今後のかまいしこども園に「ぐるぐるミックス」的な時間や活動をどのように手渡すことができるのか、震災から10年を迎える2020年度以降も見据えた試行に取り組んだ1年となった。現地レポートを2回に分けてお届けする。


こども園の先生が主導する「プチぐる」の試み


こども園での打ち合わせ風景

2018年12月11日、翌日の「プチぐる」本番に向けて、きむらとしろうじんじんさんと大西健太郎さんほか、谷中のおかっての渡邉梨恵子さん、アーツカウンシル東京の佐藤李青さんなど、東京からのスタッフが現地入り。東北新幹線を降りて、新花巻駅から釜石駅へ向かう釜石線の車中は、みんなで駅弁を食べながら、自然とミーティングの時間となる。こども園の先生との事前準備の状況、滞在中のスケジュールの確認、次回に向けた打ち合わせや園長先生とのミーティングの議題についてなど、話していると2時間があっという間に過ぎる。釜石駅到着を知らせる車内アナウンスに、「もう着いてしまった」と気が引き締まる思いでつぶやく大西さんに、「(そう感じるのは)仕事をしに来るようになった証拠や」と応じるじんじんさん。
釜石駅では、ASTTのプログラムに協働し現場のコーディネートとサポートを務める、特定非営利活動法人@リアスNPOサポートセンター(以下、リアス)の川原康信さんが出迎えてくれた。リアスはもともと商店街活性化を目的に街づくりの活動を行っていたNPOだが、震災後に緊急支援物資や支援団体の受け入れ窓口の拠点のひとつとなり、ASTTが事業を開始した当初から、現地でお世話になっているパートナーだ(注1)。ぐるぐるミックスがかまいしこども園で行われることになったのも、2011年から釜石と大槌に通い続け、2012年から「きむらとしろうじんじんの『野点』in 釜石・大槌」を毎年行ってきたじんじんさんが、川原さんから震災時の釜石保育園の状況やその後の仮園舎での様子、開園する新しいかまいしこども園の話などを聞いてきたことも大きい(注2)。
16時、かまいしこども園で、明日の「プチぐる」を担当する藤原先生が記入したレジュメシートをもとに、藤原先生と野尻先生、じんじんさん大西さん、渡邉さんで最終の事前打ち合わせ。今回のプログラム「うさぎぐみ探検隊」は、園の外へ子供たちがお出かけし、紙の筒で作った覗き道具「ミルボー」を使って近所を探検するという内容。うさぎ組は2才児の教室で、普段の園の活動でも敷地外へ外出すること自体まだ始めたばかりとのこと。安全第一の徹底と移動時の隊列の組み方、ルートの確認、雨天の場合に園内での探索になる案など、念入りにチェックしていく。谷中のぐるぐるミックスでは4~5才児を対象にしている大西さんは、2才児の反応は未知な部分があり、とても楽しみな様子だ。

※注1 「岩手県釜石市 川原康信(NPO法人@リアスNPOサポートセンター理事)」『6年目の風景をきく―東北に生きる人々と重ねた月日』(2016年9月30日発行)に詳しい(ASTTサイトにてPDF閲覧可能)。

※注2 釜石と大槌での「野点」の経緯などは「きむらとしろうじんじんさんにきく 名付けられる側に回り続ける」『FIELD RECORDING』(vol.2、2018年12月27日発行)に詳しい(ASTTサイトにてPDF閲覧可能)。

「好奇心」が連鎖する「ぐるぐる」的な瞬間

12月12日、スタッフは9時にこども園入り。朝からあいにくの雨となり、園内を探検するプランに変更して、10時少し前から「プチぐる」本番の開始。上靴を履いてうさぎ組の教室からホールに出てきた子供たちが、じんじんさんと大西さん、川原さんらその他のスタッフと対面する。藤原先生が、事前の活動でミルボーを作ったことを子供たちと振り返り、一人ひとりに手渡してから今日の活動について説明し、ホールでの探検が始まった。ミルボーを覗きながら、クリスマスツリーの飾りを眺めたり、いつものホールにはないぬいぐるみを見つけたり、子供同士や大人と顔を見合ったり。中にはまだミルボーを上手に使えない子もいるが、「何だろう? みーっけた!」と声を上げるじんじんさんに刺激され、歓声を上げながら後ろについて真似をする子もいる。そして、誰もが広い空間で自由に動き回れることを楽しんでいることが伝わってくる。遊びが子供の好奇心を刺激し、動き出すアクションがまわりの子供へと波及していく、何とも「ぐるぐる」的な瞬間だ。


ミルボーを首から下げてホールを見て回る


ミルボーで給食室を観察する

仕事の様子をガラス越しに見ることができる給食室をミルボーで観察したあとは、ぱんだ組(3才児)、きりん組(4才児)の教室を訪ねて、お兄さんお姉さんたちの邪魔をしないように、でも近づきながら観察。ふと窓から外を見ると、いつの間にか雨はやんでいた。30分ほどで探検は終了し、上靴と靴下を脱いでうさぎ組の教室に戻ってから、藤原先生が今日どこで何を見つけたのかを子供たちに質問していく。
大人も子供たちと一緒にお昼ご飯を食べたあと(この頃にはみな外部スタッフにもすっかり打ち解けていた)、休憩を挟んで、先生たちとじんじんさん、大西さん、渡邉さんとでこの日の「プチぐる」について振り返りの場を持った。参加した3人の先生からは、子供たちの「探す好奇心」「見つける達成感」、そして、最初は少し静かだったが、途中から「開放感」も感じられたと、遊びのねらいが的中した感触を得たようだ。一方で、園の外部の大人が来たことが子供たちにとって良い刺激になったが、興奮しすぎて落ち着きがなくなった面もあったこと。見つけることよりもホールを走り回る欲求が強い場面があったこと。「ミルボー」の使用がはじめてだったので、事前に一度使い方を練習しておけばもっと活用できたかもしれないといった反省も。それでも、「プチぐる」を通して、子供たちの個々の性格が出た(認められた)。普段の活動では見過ごしていた発見や気付きがあった。今度は晴れの日に、ぐるぐるミックスとしてではなく園の中の活動でもミルボーを持って外出してみたい。といったさまざまな感想や意見が聞かれた。
じんじんさんと大西さんは、最初に自分の作ったミルボーを受け取って首にかけた瞬間の、子供たちの喜びの予感に満ちた表情が印象的で、「今回のひとつの山場だった」と話す。事前の園の活動とぐるぐるの時間とが結びついていたことも嬉しかったようだ。また、他の組の教室を訪れるという設定が、「教室で見られている子供側の戸惑いも含めて、とても良かった(ぐるぐるらしい)」と評価。2才児でも想像していたより遊べていたので、粘土を使った遊びなど他にも可能なプログラムが思い浮かび、手応えを感じたようだ。

こども園の「通常」の活動に、どう取り込むか

今回の「プチぐる」では、他にも嬉しいことがあった。それは子供たちの反応とは別に、先生たちに見られた主体的な取り組みの姿勢だ。実はじんじんさんや大西さん、そしてリアスの川原さんも、これまでのぐるぐるミックスの活動の中で、若い先生たちから自発的な意見が活発には出ていない状況に歯がゆさを感じていた。このことは、ぐるぐるミックスをかまいしこども園で実施するASTTの事業の根幹に関わる問題ともいえる。先生たちがぐるぐる的な時間に魅力を感じていて、本番の現場を楽しんで大西さんたちと協働してはいても、ぐるぐるミックスをあくまで外からアーティストがやってきて受け入れるものとして捉え続けているなら、アーティストが来なくなれば一瞬で意味のないものになるからだ。もちろん、通常の園の業務で手一杯で、ぐるぐるの活動を考えることまで回らないという側面もあるだろう。しかし、むしろ先生たちがぐるぐるミックスを利用し、普段の園の枠組みではできないことを試したりチャレンジしたりする場として機能するようになれば、その経験を日頃の園の活動へフィードバックさせることができるかもしれない。そして、そのような取り組みは、主に2016年にかまいしこども園が開園してから働き始めた若い先生たちと、2011年の震災時に旧釜石保育園で園児を避難させた経験ももつベテランの先生たちのスキルや経験値の差を埋める、もしくは橋渡しする契機にもなるのではないか。そんな期待も「プチぐる」には込められている。その意味で、今日の「プチぐる」と振り返りでの様子は、これからの期待を抱かせるものだった。
じんじんさんが、「今日はこれまでと見違えるように素晴らしかった」と、この日の様子を園長先生とのミーティングで伝えると、今回の本番を迎えるまでに、実は若い先生とベテランの先生の間で何度もコミュニケーションが図られ、プログラム案が練られていたということが園長先生から明かされた。普段は置いていないぬいぐるみがホールに仕込まれていたのも、室内での実施と決まってからベテランの澤田先生が藤原先生にアドバイスしたものだったという。この日は、最後に次回2月のぐるぐるミックスを実施するぞう組(5才児)担任の東先生と打ち合わせを行い、こども園をあとにした。

継続が生んだ、充実した「ぐるぐる」の時間


ファシリテーターの大西健太郎さん(撮影:miho kakuta)

2019年2月12日、今年度最後の「ぐるぐるミックス in 釜石」は、春から小学校に上がるぞう組(5才児)を対象にして、「ぐるぐるピクニック」を行った。年長さんは昨年もぐるぐるミックスを体験しているだけあって、園のホールで準備をしているじんじんさんや大西さんを見かけるだけで、もう嬉しそうだ。
今日の「ぐるぐるピクニック」は、ホールにあらかじめ配置されたテーブルや構造物、教室から持ってきた自分の椅子と、ロール紙や巻きダンボール、紙テープなどの素材でつくる柱や屋根を組み合わせながら、自分の居場所を作ってみよう!というもの。教室の自分の机で工作をするのとは違って、素材を大胆に使って作業する楽しさを味わったり、自分が作った空間で過ごしておやつを食べたり、他の友だちの居場所を見て回ったりして、普段の教室で過ごすのとは少し異なった「ぐるぐる」的な時間を体験してもらうことがねらいだ。
9時半過ぎ、教室からホールに出てきた子供たちを集めて、じんじんさんの「お名前呼び」からスタート。続く大西さんの「導入」では、子供たちに今日やることを説明しながら、素材の扱い方や道具の使い方、居場所の作り方を実演していく。身体を丸めてテーブルの下にもぐったり、巻きダンボールの使い方ひとつで壁にも屋根にも柱にもなることを示したりして、作業がもつ魅力を独特のフォームで伝えていくのは大西さんならではだ。集中して話を聞いている子供たちは、ときにおかしな動きに笑いながら、期待に胸を膨らませて理解していく。
10時、ホールの中で好きな場所を決め、道具箱を載せた自分の椅子を置いたのを起点に作業開始。じんじんさん、大西さん、リアスの川原さんと上野さん、担任の東先生はじめこども園の先生たちが見守りつつ、ときに作業のサポートをしながら、思い思いの空間を作っていく。友だちと一緒に大きな部屋を作ったり、だんだん侵食してきた隣の子の空間とつなげたり、壁に見立てた巻きダンボールを切り抜いて窓にしたり、玄関のチャイムやテレビまで作ったり。それぞれが手と身体を動かしながら、1時間ほどで、秘密基地のような空間がいくつも立ち上がった。
お昼と午後の教室での活動を挟み、15時前に再びホールに集まった子供たちは、大西さんを先頭に「ピクニック」に出かける。みんなで午前中に作った居場所を順番に見て回りながら、作った子に大西さんが質問をして、どんな特徴がある場所なのか教えてもらっている。聞いてみないとわからない、その子ならではのこだわりが随所にあって興味深い。最後に、今日作ったそれぞれのとっておきの居場所に戻って、給食室から運ばれたできたてのおやつを食べて、この日のぐるぐるミックスが終了した。


以上3点 撮影:miho kakuta

後編「7年かけて築いた「具体的な」関係性。事業を超えて広がる出会い―「ぐるぐるミックス in 釜石」レポート<後編>」


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