Tokyo Art Research Lab(TARL)
Tokyo Art Research Lab は、アートプロジェクトの担い手のためのプラットフォームです。時代に応答したアートプロジェクトをつくる学びの場と、現場の課題やこれから必要な技術について考える研究・開発を「東京アートポイント計画」と連携して行っています。
2019/06/26
「東京プロジェクトスタディ」はどんな学びの場? スタディマネージャーに聞きました。
■脱・“講座”形式? TARLの実践的なプログラム
日本全国でアートプロジェクトや芸術祭が盛んになるにつれ、アートの現場に関わる人のための学びの場も増えています。2010年から東京アートポイント計画と連動してきたアーツカウンシル東京の人材育成事業「Tokyo Art Research Lab」(以下、「TARL」)の「思考と技術と対話の学校」も、アートスクールのひとつ。
そんなTARLが、いわゆる「講座」中心の学びから、実践的な「スタディ」を軸に据えたプログラムに変化しつつあります。昨年度から始まった「東京プロジェクトスタディ」とはどのような学びの場なのでしょうか? なぜそのような転換を図り、具体的にはどんな人材を育てようとしているのでしょうか?
東京プロジェクトスタディで参加者の実践に伴走する「スタディマネージャー」の3名に、ライターの中田がお話を聞きました。
東京プロジェクトスタディのスタディマネージャー。写真左から上地里佳、坂本有理、嘉原妙。東京アートポイント計画のプログラムオフィサー職と兼務で、各スタディの企画運営や参加者とのコミュニケーションを担う。
■「つくること」の本質に向き合う人が増えてほしい
——TARLではこれまで、アートプロジェクト運営を担う人を育てるべく、「技術」や「思考」を学ぶ通年の講座を展開してきました。一方、昨年度からスタートした東京プロジェクトスタディは「つくる」を掲げ、「講師」ではなく「ナビゲーター」ごとのチームで活動するとのこと。具体的には何が違うのでしょうか?
坂本有理:技術の獲得など具体的な学習目標を立てず、固定されたカリキュラムも設定していない点ですね。東京プロジェクトスタディでは、「教える・教わる」の関係ではなく、関わる全員で「わからない」ことに向き合う場をつくり、能動的に動いていくんです。
今年度の東京プロジェクトスタディでは3つのチームで、それぞれ第一線で活躍する「つくり手」が抱くテーマを足がかりに、参加者全員がリサーチや実験に挑みます。TARLがアートプロジェクトの学びの場であることは変わらないのですが、スタディでは特に「つくる」ことそのものに向き合ったり、その大変さを体感することを重視しています。
ただ、今年度のTARLでも、技術や思考に関する短期のレクチャーやディスカッションは開催しますよ。それぞれの興味関心に合わせてプログラムを選んでいただけたらと思います。
東京プロジェクトスタディでは、ナビゲーターと参加者がテーマに沿ってじっくりリサーチを進める。必ずしも具体的な企画に落とす必要はなく、「ゴールがないのが良かった」という参加者も。
——ご自身は、スタディマネージャーであると同時に、TARL 思考と技術と対話の学校の校長でもありますよね。なぜ、学びの形を転換しようと考えたのですか?
坂本:一昨年度までのTARLでは、プロジェクトの運営をする人が「技術」や「思考」、「対話」の力を磨くことに重点を置いてきました。「つくること」と「運営すること」を分けて考えていたんです。けれど、アートプロジェクトは日々更新されていくもの。プロジェクトがあることを前提にするのではなく、生み出されるところから視野にいれねばと思いました。アートマネージャーや表現の伴走者が「つくること」の本質に向き合う機会が必要だと考え、方針を転換したんです。
多くの文化事業は単年度で進めているということもあり、スケジュールに余裕がないことも多く、事前の準備期間も十分でないかたちで、アーティストに「●月●日までに提案してください」と、やや事務的に進めてしまうことも少なくないように思います。でもつくる作業はとても時間と労力がかかるもの。本来は、リサーチや構想にじっくりと向き合える時間をつくるべきですし、モノを買うように、地域に表現を呼び込むことはできない。依頼する側がもっと「つくる」の体験値を高めるべきだと考えました。
2018年度の東京プロジェクトスタディ報告会から。「東京でつくる」(ナビゲーター:石神夏希さん)に向き合ったチームは、最初から最後まで自分自身の「つくる」を問い続けた。
——スタディの参加者はアートプロジェクト運営事務局の方が多いのですか?
坂本:TARLとしては、今までと変わらず、アートプロジェクトの運営事務局やアートマネージャーを志望する方を対象としていますが、スタディをはじめたことでより広い層が参加されていますね。たとえば、昨年度だと表現者、リサーチャー、ライター、さらには福祉の現場で働いている方やお笑い芸人の方などもいらっしゃいました。
皆さん、「アートと“何か”をかけ合わせたもの」をつくろうとしていて、ご自身の生活や仕事の中にアート的なアプローチを取り入れようという積極的な方ばかりです。アートプロジェクトは領域横断的な展開も特徴なので、そういう意味でも参加者の拡張は自然なのかもしれません。
わたしたちは、多様な興味関心を持つ参加者と一緒に、つくることの不自由さに向き合ったり、悩んだりする、そういう状況を複数つくりたいです。それが「東京プロジェクトスタディ」です。
■2019年度の東京プロジェクトスタディのポイントは?
——今年度の東京プロジェクトスタディについて、各チームの特徴を教えてください。それぞれどんな活動をして、どんな方におすすめですか?
嘉原妙:スタディ1「続・東京でつくるということ」では、ナビゲーターの石神夏希さんがディレクションするアートプロジェクトに伴走し、「観察者・記述者」として活動していただきます。アートプロジェクトを動かしたいというよりは、その場に足を踏み入れながら記録・取材するライター・編集的な立場で関わりたい人におすすめです。プロセス重視の表現に興味があったり、文章を書きながら考える人には、学びが多いはず。
石神さんとは「記述することと表現の関わり」、「主観が混じるからこそ残せること」、「参与観察的なアートプロジェクトの綴り方」がキーではないかと話し合っています。リアルタイムで動くプロジェクトと並走していく、刺激的な学びの機会になるはずです。
坂本:スタディ2「東京彫刻計画」では、居間 theater+佐藤慎也 さんをナビゲーターに迎え、「10年に1度東京で開催される芸術祭」というフィクションをつかって、まちの中の「彫刻」についてリサーチし、考えていきます。「彫刻見に行くぞ!」「あれやってみよう!」「これはどうかな?」といった感じで動きながら進んでいくと思うので、まち歩きをいとわないエネルギッシュな人に来ていただきたいです(笑)。
公共彫刻を通して「存在しているのに気づいていないこと」に向き合ったり、「まちと彫刻」について考えることで「まちと自分」を見直したりすることができるのでは。モニュメント、キャラクターなど、さまざまな彫刻に関心のある人が集まることを期待しています!
昨年度のスタディ「2027年ミュンスターへの旅」リサーチの様子。〔撮影:加藤甫〕
上地里佳:スタディ3「‘Home’ in Tokyo」では、映像エスノグラファーの大橋香奈さんをナビゲーターに迎え、‘Home’という感覚に向き合います。「ホーム」、「家族」、「居場所」は、アートプロジェクトにとって欠かせないキーワード。どんな人にも関わりのあるテーマだと思います。
大橋さんはこれまで個人で活動されてきたので、大勢で何かをつくるということ自体、初めてのこと。ナビゲーターにとっても新たな表現の糸口を見出す機会になるかもしれません。共同制作にワクワクする人、映像表現に挑戦したい人にぜひ参加いただきたいです。映像の技術や機材は問いませんので、ぜひどうぞ。
東京の団地で暮らすビバスさん一家がネパールの祭り「ダサイン」を祝う様子(2016年10月11日)〔撮影:大橋香奈〕
■難しさを抱えながら、東京でつくる。
東京では、施設やイベントが続々誕生し、流行は日替わりで消費されていきます。このまちで“小さくてささやかな”アートプロジェクトを実現することは、なかなか難しいのではないか、と感じることも少なくありません。
それでも坂本さんは「こんな時代、東京という場所だからこそ、答えがないものを追求したり、わかりにくいものに向き合ことは大切」と言います。
日常に「つくる」をとりもどす。つくり手と伴走しながら考える。
そんな機会を持つことは、アートプロジェクトに限らず、東京で活動する多くの人にとって貴重な学びかもしれません。7月6日には説明会も開催されますので、関心をお持ちの方は、ぜひご参加ください。
■東京プロジェクトスタディ
・日程|2019年8月~2020年2月
※スタディごとに、活動頻度、期間は異なります。詳細は各スタディのページをご覧ください。
・メイン会場|ROOM302(東京都千代田区外神田6-11-14-302 [3331 Arts Chiyoda 3F])ほか
※スタディにより異なります。
・主催|公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京
・募集人数|各スタディ10名程度
・対象|
-プロジェクトを新たに始めたいと思っている人
-チームでプロジェクトに取り組みたいと思っている人
-アートプロジェクトの経験があり課題に直面している人
-あらためてご自身の活動と向き合ったり、今後の活動のヒントを探ったりしたい人
※アートプロジェクトの現場経験は問いません。
・参加費|一般30,000円 学生20,000円/約6ヶ月
※フィールドワーク等の交通費・飲食費は別途実費となります。
・申込み締め切り|7月21日(日) ※選考あり
▼詳細は公式ウェブページよりご覧ください
https://tarl.jp/school/2019/tps/
「東京プロジェクトスタディへのご参加、お待ちしています!」
*Tokyo Art Research Lab(TARL)からのご案内
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・書籍『これからの文化を「10年単位」で語るために ー 東京アートポイント計画 2009-2018 ー』発売中