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アーツカウンシル東京ブログ

アーツカウンシル東京のスタッフや外部ライターなど様々な視点から、多様な事業を展開しているアーツカウンシル東京の姿をお届けします。

アーツアカデミー

アーツカウンシル東京の芸術文化事業を担う人材を育成するプログラムとして、現場調査やテーマに基づいた演習などを中心としたコース、劇場運営の現場を担うプロデューサー育成を目的とするコース等を実施します。

2019/10/10

アーツアカデミー2019 第1回レポート:ヴィジョン、ミッションを磨く&課題・目標の設定[講師:山元圭太さん]

アーツカウンシル東京が2012年から実施している「アーツアカデミー」。芸術文化支援や評価のあり方について考え、創造の現場が抱える問題を共有するアーツアカデミーは、これからの芸術文化の世界を豊かにしてくれる人材を育てるインキュベーター(孵化装置)です。当レポートでは、アーツアカデミーの各講座をご紹介していきます。


2019年9月17日(火)、2019年度アーツアカデミー第1回講座が開講されました。本事業は、昨年度から芸術創造活動の担い手のためのキャパシティビルディング講座と銘打ち、それぞれの活動基盤・推進力強化をサポートする目的で取り組んでいます。今年度は全8回に拡大され、うち7回は受講生それぞれの活動における課題解決と目標を達成していくことに有効なスキル、思考力を磨くための座学講座が行われ、最終回には受講生の活動に根差した課題解決戦略レポートの作成、発表が行われる予定です。今回の講座には、演劇、音楽、映画、パントマイム等の様々な活動分野から、アーティストや企画・制作の担当者、財団職員や中間支援組織の実務家まで、幅広いバックグラウンドをもつ総勢11名が集まりました。
本事業担当のシニア・プログラムオフィサーの今野から本講座の趣旨説明が行われた後、和やかな雰囲気の中で、自身の活動や普段感じていること、参加の動機を含めた受講生の自己紹介から始まりました。ファシリテーターで、アドバイザーを務める小川智紀(おがわ・とものり)さんは「周りがどうであろうと好きなことを言っていい。議論する場所にしてほしい」と述べ、若林朋子(わかばやし・ともこ)さんからは「受講生の皆さんそれぞれに動機は違いますが、何かこれを機会に一歩踏み出したいということが分かりました。全力でそれを応援していきたい」という力強くも温かいエールが送られ、講座が幕を開けました!

ファシリテーター・アドバイザーの小川智紀さん(左)と若林朋子さん(右)

自分の活動を見つめ直すことからのスタート

第1回は、『ヴィジョン、ミッションを磨く&課題・目標の設定』と題し、NPO団体のファンド・レイジングや経営戦略立案に造詣の深い山元圭太(やまもと・けいた)さんを講師にお迎えしての講義。まず、事業や活動を、「エコノミック(経済)」「ソーシャル(社会)」「ライフ(生業)」という3つのビジネスタイプから考えることから始まりました。3つのタイプの事業の目的、起点、戦略立案方法、同業者との関係の特徴について学んだ後、受講生それぞれのやりたい事業・活動がどのビジネスタイプにどのくらいの比重を置いているのかについて考え、グループ内で意見を交換しあいました。他の受講生からのフィードバックを得て、自己理解が一層深まった様子で、時に笑い声が聞こえる中で、白熱した議論が展開されました。
グループワーク後、山元さんは、NPOが多く該当する「ソーシャル」を改めて取り上げました。マイナスの状態からゼロの状態を目指す「課題解決型」事業と、マイナスからプラスの状態を目指す「価値創造型」事業の2つに分け、どちらの特色が強いのかを周りのメンバーと共有しておくことが大切なポイントとのことです。

ゲスト講師の山元圭太さん

経営戦略を6つのステップで考える

後半では、ソーシャルビジネスの課題解決型の戦略の立て方について、「1.組織使命」、「2.現状調査」、「3.実現仮説」、「4.成果目標」、「5.財源基盤」、「6.組織基盤」の6ステップから考える方法を教えていただきました。

“経営戦略”というとたじろぎますが、創造活動に置き換えるイメージをふくらませます。

「1. 組織使命(ヴィジョン)」には、本当に実現したいという強い思い、すなわち「入魂度」と、メンバー内におけるヴィジョンの「共有度」の2つが欠かせないとおっしゃっていた山元さん。『やりたいこと』、『誰もがするには難しいこと』、『ニーズがあること』の重なるところにポジショニングを寄せることで「入魂度」を高め、下記のシートを用いて共働するメンバーとヴィジョンを確認し、ベクトルを擦り合わせていくことで「共有度」を高めていく方法が紹介されました。

共働する仲間たちといかにヴィジョンを共有できるか?がポイント。

使命(ヴィジョン)を明確にすることに続くのが、「2. 現状把握」。特に課題解決型の場合、向き合おうとしている社会課題がどういった構造で生じているのかを分析していくために、多くの当事者の声を集め、状況を上流・中流・下流の三段階で可視化していくことが有効とのことでした。これは、芸術文化領域では多い「価値創造型」の活動にも、置き換えて考えてみるのはいかがでしょう。また、「3. 実現仮説」では、課題の解決に向けて、他のアクターとの役割分担のなかで自分たちの活動をチョイスし、「4. 成果目標」では、ソーシャルビジネスや芸術文化創造の様々な分野では自らが「成果」を定義していくことの重要性が指摘されました。

「愛」と「信頼」を土壌とした組織作り

芸術文化に携わる多くの関係者にとって、確かな財源基盤を持つことは共通する悩みの種になっています。受講生にとっても関心が高い「5.財源基盤」において、ファンドレイジング(資金調達)をフレンド・レイジング(仲間づくり)とみなし、作りたい世界観を共有してくれる仲間を増やしていくという考え方で取り組んでいくことが成功のカギだと山元さんは力説しました。仲間の在り方や参加の仕方が多様な芸術文化の世界。ファンやボランティア、インターン、プロボノといった「仲間」をどうやって増やしていくのかを、ステークホルダーピラミッドを使いながら、自分の組織について確認する作業を行いました。
また、目標を掲げ、アクションを起こし改善するというサイクルをうまく回すための「6.組織基盤」で述べられたのは、その土壌となる「差異を認めながら、お互いをどう活かせるか」という「信頼」と「愛」の必要性。対話の機会を組織文化に織り込んでいくことこそが、それらを育んでいくことにつながるという話に、受講生は納得の表情を浮かべていました。

普段の活動で心がけるべきことを可視化するだけでも改めて気づくことも多い。

本日の学びを終えた最後には、グループごとでのディスカッションが行われました。「うまくいく対話の具体的なコツは?」、「自分が関わっている活動の主催者と自分の間で、価値創造と課題解決の食い違いがあった場合はどうするか?」といった具体的な質問なども寄せられ、全員で今日の気付きを共有する機会となりました。こうして2時間にわたった講義も終了。日頃は意識することの少ない部分を改めて整理する機会を得た受講生にとって、事業・組織のヴィジョンはもとより、価値観や生き方といった本質的な問いにも向き合う時間にもなったのではないでしょうか。

“自分ごと”にインストールしていく大切な作業。

受講生には次回までに、上記のサマリーシートを用いて、自らの団体や活動についてまとめるという宿題が課されました。使命や現状、それらに対してどんなことが有効な解決策になるかは活動ごとに異なってくるでしょう。第2回は、『活動基盤を磨く~芸術文化事業の運営体制の課題とその改善策の深堀り~』のテーマのもと、引き続き山元さんを講師に迎え、みなさんの活動・組織の現状に寄り添いながら、より具体的な形で学びを深めていきます。


【講師プロフィール】
山元圭太(やまもと・けいた)

株式会社Seventh Generation Project代表取締役 / NPO法人日本ファンドレイジング協会理事・認定ファンドレイザー / NPO法人おっちラボ 理事 / 島根県雲南市地方創生総合戦略推進アドバイザー
経営コンサルティングファームで経営コンサルタントとして5年、認定NPO法人かものはしプロジェクトでファンドレイジング担当ディレクターとして5年半のキャリアを経て、非営利組織コンサルタントとして独立。「本当に社会を変えようとするチャンジメーカーの『想い』を『カタチ』にするお手伝い」をするために、キャパシティ・ビルディング支援や講演/セミナー、コーディネートを行ってきた。2015年に株式会社PubliCoを創業して代表取締役COOに就任。
2018年にPubliCoを解散し、故郷の滋賀県草津市で合同会社喜代七を創業。現在は、「地域を育む生態系をつくる」をミッションに掲げ、滋賀県で実践すると共に、全国各地で支援を行なっている。専門分野は、ファンドレイジング、ボランティアマネジメント、組織基盤強化、NPO経営戦略立案など。

文責:大野はな恵
写真:古屋和臣
運営:特定非営利活動法人舞台芸術制作者オープンネットワーク(ON-PAM)

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