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アーツカウンシル東京ブログ

アーツカウンシル東京のスタッフや外部ライターなど様々な視点から、多様な事業を展開しているアーツカウンシル東京の姿をお届けします。

アーツアカデミー

アーツカウンシル東京の芸術文化事業を担う人材を育成するプログラムとして、現場調査やテーマに基づいた演習などを中心としたコース、劇場運営の現場を担うプロデューサー育成を目的とするコース等を実施します。

2019/11/21

アーツアカデミー2019 第3回レポート:活動のためのファンドレイジング力を磨く~ファンドレイジング課題実践(1)~[講師:伊藤美歩さん]

アーツカウンシル東京が2012年から実施している「アーツアカデミー」。芸術文化支援や評価のあり方について考え、創造の現場が抱える問題を共有するアーツアカデミーは、これからの芸術文化の世界を豊かにしてくれる人材を育てるインキュベーター(孵化装置)です。当レポートでは、アーツアカデミーの各講座をご紹介していきます。


非営利団体が活動を続けていく上で、最も気になるトピックのひとつが「資金調達」、つまり「ファンドレイジング」ではないでしょうか。日々の活動だけでなく、より質の高い事業を行っていくためにも資金は必要です。広く一般からの寄付を募る「クラウドファンディング」も含めて、芸術文化関係者の関心は常に高いと思います。2019年10月30日(水)に行われた第3回アーツアカデミーでは、『活動のためのファンドレイジング力を磨く~ファンドレイジング課題実践(1)』というテーマのもと、伊藤美歩(いとう・みほ)さんを講師としてお迎えしました。米国のオーケストラでのファンドレイザーとしての実務経験を端緒に、長らく非営利芸術団体のファンドレイジングに従事されてきた伊藤さんの体験談を交えつつ、ファンドレイジングの理念から支援者の巻き込み方に至る成功の秘訣、失敗の教訓等を教えていただきました。

講師の伊藤美歩さん

アピール・メッセージを用意して、ファンドレイジングを始めよう

冒頭、「皆さんにとって、ファンドレイジングとはどういうイメージですか?」と問いを投げかけた伊藤さん。受講生からは、「大変なイメージ。やりたいけれど、やりたくない」、「人に伝える気持ちの強さが必要。そのために時間も体力もいる」といった声が上がりました。一部の参加者にとって、「ファンドレイジング」とは「労力がかかるもの」というイメージがあるようです。そこで、伊藤さんは、「ただ資金の調達ということだけではなく、聴衆や鑑賞者を増やしていくことと絡めてファンドレイジングについて考えてほしい」と続け、ファンドレイジングに臨むマインドから話を始めました。
伊藤さんが強調したのは、「ファンドレイジング」を「『ファン度』レイジング」と捉えてみること。団体と支援者の関係はポジティブで対等なもので、信頼関係が知人、友達、そして親友へという具合に構築されていくように、支援者との関係性もファンから始まって、熱心な寄付者になっていってもらおうという考え方です。そのために、まず取り組むべきことは、自団体がもつヴィジョン・ミッションや目標、活動を正しく伝え、取り組みへの理解者・共感者を増やしていくこと。そこで今回の講座では、最初に2人1組で、自分の団体の使命や活動について1分間でアピールし、相手からフィードバックをもらうというペアワークが行われました。短い時間にたくさん盛り込みすぎて、終わらない受講生もちらほら。伊藤さんから、アピール・メッセージの作り方のポイントを教えていただきました。

自分の強い想いと共に、社会に提供できる価値をイメージがわく言葉で伝え、共感を集めていくことが大切

その後、日本の寄付市場の状況やファンドレイジングの基礎知識と共に、寄付を募るユニークな取り組みについても紹介いただきました。一口一万円以上の寄付者の名前を積み木に刻印して、館内の壁面に掲示する東京おもちゃ美術館の「一口館長プログラム」から、途上国支援のための企業の寄付つき商品プログラムやスマートフォンを利用した寄付まで、手法は様々ですが、成功事例に共通していたのは、寄付したくなるようなストーリーの存在かも知れません。

周りにいる人々について考える

「ファンドレイジング」を実際に行う「ファンドレイザー」の仕事とは具体的にどのようなものなのでしょうか。後半では、より実践的なノウハウに迫りました。
最初に学んだのは「寄付者ピラミッド」。これは、寄付をする前の潜在的な寄付者から大口の遺贈寄付者まで、寄付者を階層化して考えるツールです。ファンドレイザーの仕事とは、寄付者の心に響く働きかけや不断のコミュニケーションを通じて、一度、寄付してくれた人に継続的な寄付をお願いできるように、三角形の底辺から頂点に向けて、手を引いてステップアップさせていくことなのです。そのためには、寄付を依頼する前に、念入りなプランニングが欠かせないと熱く語った伊藤さん。「寄付依頼」というアクションの前に、事前計画と関係構築の時間を十分にとる。そうすることで、寄付にまで至る確率を上げることができるということでした。

ファンドレイザーには、長期的な視点をもって、支援者の共感を醸成していくことが求められます

また、新たな人たちに出会い、支援の輪を広げていくためには、「潜在寄付者」も把握しておかなければなりません。そこで本講座では、自分の団体や活動の周りにいる人々を洗い出すワークが行われました。受講生からは、「リアルで会う人しか思い浮かばなかった。Twitterのフォロワーなど、バーチャルのファンを増やしていきたい」、「元スタッフは大きな存在。事情を知っている人を内側に巻き込んでいきたい」といった感想が聞かれました。日ごろから関係者・共感者を増やしていくことを心がける必要性を感じました。

自団体の周りにどんな人がいるのかリストアップし、俯瞰してみることで受講生に気づきが生まれました

寄付者との関係を維持・強化するための戦略とは

一方、寄付や支援の協力をしてくれた方々へのフォローを充分に行い、継続的な関係を構築していくことも大事な取り組みです。継続的に支援をしてもらうように、既存支援者の属性(性別、年齢、職業)や友人関係、支援履歴などをデータベースソフトで管理し、きちんと分析をすることで、適正な時期に適正な寄付のお願いをするなど、具体的な計画を立てることが大切であると語った伊藤さん。また、寄付くださった方に感謝の意を伝えることも忘れてはいけません。お礼の手紙やメールだけでなく、お金が何に使われたかといった報告も併せて行うことで、安心感も生まれます。最後には、寄付者に対する特典の例が多数紹介され、自団体のファンドレイジング手法のヒントを得ようとする受講生が多く見られました。
ファンドレイジングの最前線で活動する伊藤さんの話には、ファンドレイジングを考えていく上で忘れてはいけない信頼関係の構築や参考になる理念や手法が多数詰まっていました。ファンドレイジングがいかに人と人の思いを繋ぐ発想に基づいているかを実感する時間となったのではないでしょうか。

ファンドレイジングに必要な心構えから、おさえるべきポイントまで体系的に学びました

次回、第4回は、本講座のファシリテーターでもある若林朋子(わかばやし・ともこ)さんにバトンタッチしてファンドレイジングの第2弾、『活動のためのファンドレイジング力を磨く~ファンドレイジング課題実践(2)』が行われます。文化セクターにおけるファンドレイジングの全体像を踏まえて、実践の在り方や発想の拡張を試み、ファンドレイジングのための言語化力に磨きをかけていきます。

文責:大野はな恵
運営:特定非営利活動法人舞台芸術制作者オープンネットワーク(ON-PAM)

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