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東京芸術文化創造発信助成【長期助成】活動報告会

アーツカウンシル東京では平成25年度より長期間の活動に対して最長3年間助成するプログラム「東京芸術文化創造発信助成【長期助成】」を実施しています。ここでは、助成対象活動を終了した団体による活動報告会をレポートします。

2020/09/02

第8回「RE/PLAY Dance Edit に見る、国を越えたダンス共同制作の形」(後編)

演出家・多田淳之介率いる東京デスロックの代表作のひとつ『再/生』を、公演地ごとに異なる背景を持ったダンサーたちとクリエーションする「RE/PLAY Dance Edit」。2012年京都での初演を皮切りに、横浜、シンガポール、プノンペン(カンボジア)、京都、マニラ(フィリピン)と続いたクリエーションでの体験をお聞きした前編に続き、後編では、集大成にあたる東京・吉祥寺シアターでの公演、そして長期助成に採択された期間を含むプロジェクト全体の歩みを振り返っていただきました。

第8回「RE/PLAY Dance Edit に見る、国を越えたダンス共同制作の形」(前編)はこちら


7年の歩み:意義を引き出すチームづくり

−2019年2月の吉祥寺シアターでの上演が、これまでにクリエーションをしたすべての国のダンサーが参加した集大成になりましたね。私はこの公演と、カンボジア公演、それから京都での再演を拝見していますが、いちばん印象に残っているのは、カンボジアの伝統舞踊のダンサーです。古典舞踊しか知らなかった身体が、同じことを繰り返しながら、あるいは多田さんの話を聞きながら、まったく違う身体に生まれ変わっていく、そのきっかけが見えた気がします。そこで、多田さんときたまりさんにお聞きしたいのは、お二人にとって『RE/PLAY Dance Edit』 はどういう経験なのかということです。各国のダンサーたちが、お二人から見てどういうふうに変わっていったのかといったことも含めておうかがいできますか。

多田 吉祥寺シアターでの上演は、初演の京都をのぞけば、全部のバージョンの出演者が揃った公演でした。

きたまり 初演から7年が経っていましたから、ダンサーそれぞれの状況も変わっているんです。初演の8人のうち半分はお休みしていたり。それで初演のメンバーは出ていないんです。

多田 僕は演出家なので、もともといろいろな人と作品をつくるのが特徴の仕事ではあります。それで実際に、子供だったり、市民だったり、俳優と舞台をつくってきました。そんな中でも『RE/PLAY Dance Edit』は、ダンサー、踊りを生業としている人とどういうふうに作品をつくるか、というきっかけになった作品で、僕のアーティストとしての幅を広げてくれたものだと思います。アジアに出ていったことで、身体の違い、エネルギーの違いをすごく感じたんですね。もちろん日本人だけでもできることはいろいろある。ただ、世界や人間を描こうとするうえで、ダンスを通じてアジアの人たちの身体の多様性に気がつけたということは、僕にとっては大きい経験でした。

きたまり 「We dance 京都 2012」の1カ月後に、アーカイブとしてレポートを書きました。その時に、この企画を立ち上げる前提にあった問題点として、ダンスの閉塞感があるということに触れました。身体は非常に豊かな可能性を持ったメディアであるということ、それをどう伝えることができるか、どういろいろなダンサーとシェアすることができるかということを考えていたんです。
この企画を通じて感じたのは、結局、どこの国に行っても、やっぱり「ダンス」にがんじがらめになってしまうということです。どこでも、習いごと文化から入りますから、ダンスは習って踊るものだと。ダンスのコミュニティの中で、もう少し「ダンス」を俯瞰してみることを学び、考える視点があるといいなと思います。『RE/PLAY Dance Edit』に関していえば、多田さんが振付家ではないということは大きい。そういう人と作品を作ること自体が結構大きなチャレンジになっているんだなと感じました。「踊る/踊らない」というテーマは、ダンスへの問いなんですよね。ダンスを続け、それを観劇文化として成り立たせるうえで、問いは欠かせないものです。問いかけ、問い続けることで今の時代にいちばん原始的な身体表現をやる意味、なぜ見る価値があるのかを、伝えなければいけない。それも言葉だけでなく、身体を通して、作品として伝え、出演者なりお客さんなりと共有することで、あらたな未来を描けるようになる。これは、そういうチャレンジだったんだと思います。1回しか出ていないダンサーもいますし、2、3回と出演しているダンサーもいて、関係性はそれぞれに変わってくるんですが、それでも一つの問題意識を共有できた気はしています。ダンスって踊れば活動できますから、習ったことをやればいいってところもあって、ちょっと怖いんです。だから、もちろんそうやって磨かれていく部分もあるけど、それだけじゃないよということを、問いながら楽しんでつくる。それは世代や国を超えてやれることだなというふうにも感じました。

−コンテンポラリーダンスで、これほど長期のプロジェクトはなかなかないと思います。それもアジア各国をまわり、現地のダンサーをオーディションで選び、一緒に作品をつくるというのは、容易ではないと思いますが、ここまで続けてこられて、あらためて感じられる成果と課題を教えてください。

岡崎 誰もここまで続けるとは思ってなかった。でも、毎回面白くて、次にどうしたらいいのか、どんなことができるかと皆で考えていった。作品自体の強度があるからこそ、そういうエネルギーを持てたと思います。国際共同制作ですから、お金はかかるわけです。だから資金が確保されていなければここまで続かなかったとも思います。やはり国際交流基金アジアセンターの3年間の継続助成があって未来を描くことができ、そこに翌年度からアーツカウンシル東京の長期助成も重なって、環境を整えられたのは大きかったと思います。

−シンガポールではオン・ケンセンのシアターワークス、カンボジアはアムリタ・パフォーミング・アーツ、マニラはシパット・ラウィン・アンサンブル。各地のパートナーはどのように見つけていったんでしょうか。

岡崎 オン・ケンセンは古くからの知り合いで、この作品の意味を理解して、場と資金を提供してくれました。シアターワークスの資金調達能力もあるからですが、シンガポール以外は自国の助成金システムがほとんどないのが実情なんです。となると、あとはコンテンポラリーに対する共通理解を持てるかということです。この作品は、非常に挑戦的で、日本でも全ての人に受け入れられるようなものではないわけです。だからいかにコミットしていただけるかはすごく大事。
マニラの場合、選択肢は二つありました。少し上の世代の方なんですが、若手のダンスショーケースなどのフェスティバルのオーガナイザーもいたんです。一方、シパット・ラウィン・アンサンブルは、20代で多様なジャンルを扱う先鋭的なフェスティバルを主催していて、劇場を超えちゃうみたいな感じがあって、彼らの方が私たちの企画には合っているのではないかと。現地でいろいろリサーチした上で決めました。
また、クリエーションに欠かせない重要なパートナーとして、先ほど話に出た現地ダンサーに加えて、現地在住の日本人の通訳がいます。いわゆる通訳のプロでなく、芸術に何らかの関わりを持つ日本人で、異なる言語や価値観が飛び交うクリエーションの現場で力になってもらいました。プノンペンでは、社会問題をアートとデザインで解決する「ソーシャルコンパス」という日本人チームが通訳と映像記録を担当してくれました。特に短期間のクリエーションではすごく大事ですし、いろいろなルートで現地に関する情報収集を行っています。

−最後に、長期助成だからできたことは何か、また、もっとこういう仕組みがあればよかったんじゃないかといった要望もお聞きしたいと思います。

きたまり 助成一般に言えることですが、本当のところ、3年って長期ではないんです。もちろん、そこまでである種の「結果」は出るんですけど、その次の段階まで、もう一歩持っていくんだとすれば5年は必要なんです。だいたい3年だと、1年目に問題点が出てきて、それをクリアにするための2、3年目がある。だからその先に4年目があれば。3年って、赤子がちょうどしゃべりだすくらいですから。もう少しちゃんと人としてのコミュニケーションを取っていくならやっぱり5歳くらいまではという気持ちは強いです。ですからたとえば5年、8年、10年といった中期、長期の設定があれば、もっと、もっと将来的なことを考えていけるんじゃないかなと思います。

多田 いきなり10年は大変だと思うけど、「継続」というようなオプションもあって最大10年続けられる仕組みみたいなことは考えられますよね。

岡崎 そもそもアーティストの意欲がなければ企画は生まれないし、続かない。『RE/PLAY Dance Edit』はプロデューサー3人いるようなものでしたから。

東京公演/会場:吉祥寺シアター(写真:青木司)

質疑応答

質問者1 この作品には即興が含まれますが、同時に、その対極にある強制性もあり、暴力性を想起させざるをえないところがあると思います。いただいた資料の中に、フィリピンの方の感想で、作品の中に登場する「繰り返し」と、暴力や貧困の問題との関係に触れたものがあって、ピピっとくるものがありました。多田さんは日韓での共同作業もされていますが、各地域が持つ歴史や暴力の様相、強度をどのくらい踏まえて、クリエーションをしましたか。3つの地域の方にコンセプトを説明したということですが、その際に自分たちの文化が持つ暴力性というのもシェアされたんでしょうか。

多田 日韓で作品をつくるときと東南アジアでつくるときとでは、結構違っています。日韓の歴史を両国のメンバーで一緒に考えることにはすごく意味があるんですが、今回のように東南アジアで、(特にカンボジア以後は)国籍も混じり合った中で共通の歴史を探る方向にいくと、かえってスケールが小さくなっていく印象がありました。それよりは、多国籍、多文化でつくれるものを描こうという思いでやっていました。
繰り返しについていえば、この作品では登場人物が「人間」に見えることもあれば、「身体」に見える時間もあるというのが、僕にとっては大事なことです。演劇では舞台上の「身体」が「人間」に見えるようにと思ってつくっているんですけど、ダンサーの場合、踊ると「人間」というより「身体」になってしまうというのがあるんですよね。で、設定としては、10回繰り返すうちの7回目までは「人間」で、それ以後は「身体」になっているということにしています。ただ、その繰り返しをしている人々の姿が実際どう見えるか、何に見えるかは観る人によって違うと思います。西洋人だけでやるのか、アジアの人が混じっているのか、メンバーによっても違いますしね。たとえばカンボジアなんかは、近い過去に大変な歴史があったりするし、もちろん、アジアと日本の関係において、暴力の問題は切ってもきれない。そういったイメージがあることは強く意識しつつ、何を受け取るかは観客が決めることだと思っています。

質問者2 カンボジアとフィリピンで出会った「きたまりさんみたいな方」との出会いについて具体的にうかがえますか。また、もし長期でこの企画を続けられる場合、具体的にやりたい場所があるのかをお聞きしたいです。

きたまり 現地の状況を理解している人で、現役の舞踊家でもある人ということですね。カンボジアのカティヤ(チェイ・チャンケトヤ)は、アムリタ・パフォーミング・アーツの芸術監督です。ダンサーたちのお姉さん的な存在で、私と同世代で年も近いし、いろいろな企画で司会をしたりもしています。英語も非常に堪能で、何かあったら彼女が聞いて通訳もしてくれるし、もうカティヤにお願いするしかないと。フィリピンの場合は、シパット・ラウィン・アンサンブルがアイサと親しい関係だったんです。アイサは、海外で踊る経験をたくさんしていて、みんなの憧れのダンサーでもあるし、フィリピンのこともよく知っている。本当に縁みたいなものです。シンガポールでは、初めてのことでわけもわからず、そういう相手を見つけられなかったんですが、カンボジアとフィリピンでは、たまたまそういう形になりました。
今後の展望としては、私としては、稽古時間をたとえば2週間にしたら次の展開に持っていけるのかということは考えます。今本番を含めて6日間でできる振付しかしていないんです。「踊る/踊らない」といった考え方も、倍の時間があるとしたら全然違ってくるはずじゃないですか。私が最初にその日数で頼んでしまったからというのもありますし、コンパクトなのはいいんですが、もう少し増やせないかなとは思います。
あとは、出演者8人が全員違う国の出身でもできると思うんです。国民がダンスを踊る頻度も国によって違いますし。たとえば日本人は本当は踊るけどあまりそれを表に出さない。フィリピン人はどんな人でもめちゃめちゃ踊る、みたいなことが気になっています。それから場所でいうと私は今、インドでやってみたい。ただ、こういうことは土地柄だけじゃなく縁の話でもありますから。

岡崎 ソウルとジャカルタはリサーチに行っているので、いつかプロジェクトを実現したいと思っています。

質問者3 助成の期間が終わると同時にこのプロジェクトは終わってしまうんでしょうか。今後の展開、展望があれば教えてください。

多田 3人がそれぞれに『RE/PLAY Dance Edit』という持ち駒を持っていて、それぞれの活動の中で、その持ち駒を使えるタイミングがくるはずだ、という予感を持っています。

質問者4 3人が全員プロデューサーのようだったとおっしゃっていました。資金調達や理解ある協力者、オーガナイザーを見つけることもチャレンジだったと思いますが、そういうプロセスの中で、皆さんはどんな会話をしていたのでしょう。特に、たとえば資金調達のために、それぞれが感じている芸術文化に対する問題点を言語化して、一般にも伝えられるように考えていったというような面があるなら教えてください。

岡崎 「3人がプロデューサー」というのは、3人でビジョンをつくりあげたという意味です。多田さんやきたまりさんと語り合ったことは本当にたくさんあって、彼らのメッセージを伝えるようにしていました(リーフレットやウェブサイトのアーカイブ参照)。日本において、国際交流プロジェクトに対する資金助成は本当に少ないんです。だから国際交流基金アジアセンターとアーツカウンシル東京の資金助成がなければこの企画はできなかったと思います。本当は日本のお金だけではなく、両国で資金を持ち寄って実現できたらいいのですが、シンガポール以外は難しいというのが現実です。

質問者5 アジアセンターの助成とも関連して、東南アジアが主な活動の場になっていたのだと思います。また、今後についても、インドネシア、インドと、アジア方面に関心を向けられていますが、たとえば、もし資金調達や作品の発展の可能性が見出せれば、東欧とか西洋諸国でやるようなことも考えうるのでしょうか。

岡崎 欧米での展開は可能性があると思っていて、提案をしたことはありました。でも、二人ともすげない返事だった(笑)。

きたまり やりたくないわけではないんです。世界のどこにだってダンスはあるし、可能性はある。アジアだってダンスのメソッドはずいぶん西洋化しているところもありますし。ただ、だからこそ、もっと想像がつかない場面に出くわしたいという欲求が強くなって、ちょっと大変そうなところに手を出しちゃうのかもしれない、というのはあります。

多田 ダンスに限らず、舞台芸術、芸術に対する「悩み方」が、アジアの場合は、ある程度共通している気がします。西洋とは文化も歴史も違うというのがまずある。それでアジアで活動することに興味を持っているということはあります。もちろん、西洋でやりたくないわけでもないですし、やってみないとわからないですけどね。

(構成:鈴木理映子)


プロジェクト概要:https://www.artscouncil-tokyo.jp/ja/what-we-do/support/program/13404/

RE/PLAY Dance Edit
オリジナルは、多田淳之介率いる東京デスロックが2011年に発表した『再/生』。反復する身体を通して、再生に向かっていこうとする人間を描き出した演劇作品を、本作では、俳優を振付家・ダンサーに置き換えて、リ・クリエーションする。
ダンスバーションは、きたまりがプログラムディレクターを務めた「We dance 京都2012」にて初演。2015年にはシンガポールのシアターワークスをパートナーに初の国際コラボレーションとして始動。翌年同プロジェクトを推進する「RE/PLAY Dance Edit実行委員会」を発足し、アジア各国にて活動を展開。
http://www.wedance.jp/replay/

多田淳之介
1976年生まれ。演出家。東京デスロック主宰。古典から現代戯曲、小説、詩、ネット上のテキストなど様々な題材から俳優の身体、観客の存在を通じて現代を生きる人々の当事者性をフォーカスしアクチュアルに作品を立ち上げる。ダンサー、ミュージシャンとのコラボレーション、全国の学校や文化施設でのワークショップ、創作、人材育成も数多く手掛け、韓国、東南アジアとの国際共同製作も多数。2014年韓国の第50回東亜演劇賞演出賞を外国人として初受賞。APAF(アジアパフォーミングアーツファーム)ディレクター、東京芸術祭プランニングチームメンバー。四国学院大学、女子美術大学非常勤講師。2010年〜2019年富士見市民文化会館キラリふじみ芸術監督。2015年度より横浜ダンスコレクションコンペティションⅠの審査員も務める。

きたまり
振付家・ダンサー、京都市在住。17歳より舞踏家・由良部正美の元で踊り始め、2003 年より自身のダンスカンパニーKIKIKIKIKIKI主宰。2006年京都造形芸術大学 映像・舞台芸術学科卒業。近年はマーラー全交響曲を振付するプロジェクトを開始し、2作目『夜の歌』で文化庁芸術祭新人賞(2016年度)を受賞。また長唄を使用し60分間ソロで見せる木ノ下歌舞伎『娘道成寺』、国指定重要無形文化財・嵯峨大念佛狂言のお囃子との共演『あたご』など、日本の伝統芸能を素材にした創作や、「We dance京都2012」「Dance Fanfare Kyoto」プログラムディレクターなど、ジャンルを越境した多岐にわたる活動を展開している。

岡崎松恵
舞台芸術プロデューサー。STスポット(1987-2004)、BankART 1929(2004-2006)の館長を経て、2008年NPO法人Offsite Dance Projectを設立。横浜を拠点に、国内外の都市空間でアクセシビリティの高いパフォーマンスプロジェクトを企画・制作。主な活動に、アーティストランのダンス・コミュニティ・フォーラム「We dance」、借景の概念を用いた「Borrowed Landscape Project」、トラックを用いたモバイルの「DANCE TRUCK」等がある。
http://offsite-dance.jp/

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