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アーツカウンシル東京ブログ

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ダンスの芽ー舞踊分野の振興策に関する若手舞踊家・制作者へのヒアリング

今後の舞踊分野における創造環境には何が必要なのか、舞踊の未来を描く新たな発想を得るため、若手アーティストを中心にヒアリングを行いました。都内、海外などを拠点とする振付家・ダンサー、制作者のさまざまな創造活動への取り組みをご紹介いたします。

2021/07/27

ダンスの芽―舞踊分野の振興策に関する若手舞踊家・制作者へのヒアリング(3)下島礼紗氏(振付家・ダンサー・ケダゴロ主宰)

2020年12月から2021年1月までアーツカウンシル東京で実施した、舞踊分野の振興策に関する若手舞踊家・制作者へのヒアリングをレポート形式で掲載します。

下島礼紗氏(しもじま れいさ/振付家・ダンサー・ケダゴロ主宰)



『sky』撮影:bozzo

2011年に自分のカンパニーケダゴロを立ち上げて、色々な場所で作品を発表したり単独公演を行ったりしていました。自分の活動が大きく変わる転機となったのは、2017年の「横浜ダンスコレクション」です。『オムツをはいたサル』というソロ作品を発表したことがきっかけで、色々とチャンスをいただけて、日本国内の国際フェスティバルに参加したり海外公演に招聘されたりすることが多くなりました。

自分の中にこびりついて離れない、やらなきゃ気が済まないみたいな衝動から作品をつくる

この『オムツをはいたサル』と、カンパニーで作った『sky』が今の自分の代表作で、国内外で評価をいただいて、これまで何度も上演してきました。でも、この2作品をつくった作者という印象が強まっていく中で、このまま次の作品をつくることの難しさも感じてきていて。過去の作品のテーマに引きずられて大失敗したこともあり、自分の実体験や知識が伴わないままの創作には限界を感じていたところに、コロナがやってきました。それもあって、この1年はとにかくインプット期間にしようと決めて、自分の創作を1回見直したり今までのことを総括したり勉強したりしていました。
私は生まれてすぐに親の仕事でフランスに行っていて、3歳の時に帰国しました。1995年3月20日、ちょうど羽田空港に帰ってきたその日に、オウム真理教の地下鉄サリン事件が起こったんです。空港のテレビに映っていた霞ヶ関のブルーシートの絵が、ある種の自分の原風景のようになっていました。もちろん当時は、それが何なのかは全然わかっていなかったのですが、その後大学に入って勉強していくなかで「あれってそういう事件だったんだ」と知って、いつか作品にしようと思いました。他にはあちこちに貼ってある過激派組織の指名手配書とかも気になっていて。そういう自分の中にこびりついて離れない、やらなきゃ気が済まないみたいな衝動から、作品をつくっています。
桜美林大学在学中は演劇もやっていたのですが、鐘下辰男さんという劇作家の方の授業で歴史や文学がすごく面白いことを知りました。歴史や文化への関心が、それまでのあまりにヘンテコでエネルギーだけでやっていたダンスに融合したのはこの時です。

私にとってダンスは、世の中を探るための一つの手法です。ダンスを踊るためにダンス作品をつくっているのではなく、世界を知るために、たまたま小さい頃からやっているダンスというスキルを使っています。
作品の特徴は、政治的なものを扱っていることかと思います。舞台という場所は虚構だからこそ、「現実はこうじゃないですか?」と自分なりの提案をしたうえで、見た人が思考してくれるようなきっかけをつくりたい。絶対に賛否両論はあると思っていて、作品を通して議論や論争が起きることが目標です。だから「良かったよ〜お疲れ様〜」ではなくて、好きでも嫌いでも何か人に言ってもらえるようなエネルギーのある作品をつくりたいです。


『sky』撮影:bozzo

色々なフェスティバルにお世話になるなかで、「この作品を嫌だと思う人がいることを、ちゃんとわかってやりなさいね」と教えてもらったように思い、本当に感謝しています。社会と作品が共存するうえで、そのことをわかっていてやるのか、単に「やってしまえ」とやるのかで、とても大きな差があると思うんです。
運営側からは強く止められて、やめた方が良いかなと悩んで、でも発表したら逆に「もっとやれば良かったのに」と観客側から言われることもあります。この間でうまくバランスを取って作品づくりをしていくのが振付家に必要なスキルなのだと思います。未熟だったときは、かなり喧嘩もしました。でもそういった運営側の方との討論を経験していたから、「こういう風に言われたらどう返そうか」と考えていくべきなんだと学ぶことができたし、デモ真っただ中の香港で連合赤軍を扱った『sky』を発表して「これは中国共産党を応援している作品ではないか?」と言われてまずい状態になった時も、「これがアートだ」で終わらせずに対処方法を考えて。交渉や討論によって結果的に思考する状態を生み出せたことも、嬉しく思っています。作品だからといってどこまでも突き進んで良いとは一概には言えないのだと学べたことで、自分の考え方も大きく変わりました。


『sky』撮影:bozzo

「評価できないもの」に対するコンペティション、それが参加する一番のモチベーション

コンペティションに関して、なぜ芸術を競わせるのかという議論がありますが、評価するというよりも、争わせることで作品が面白くなるという根本的な意図があるんじゃないかと思っています。やっぱり人って争い事が好きなので。「評価できないもの」に対するコンペティション、それが参加する一番のモチベーションです。あとは、いつもの照明さんや音響さんではない方とディスカッションしながら一緒に作品をつくっていくのも私は大好きですし、フェスティバルディレクターの方など、自分ひとりでは絶対に出会えなかったであろう人たちと知り合って話せるのも、面白さのひとつだと思います。事件が起こりやすいコンペティションですが、私みたいな作品をつくっていると、なお起こるので、それがまた楽しいというか、非日常の経験がたくさんで。
コンペティションやフェスティバルに出ると、作品上演のチャンス以外にも、振付のチャンスやディスカッションのチャンスなど、とにかく色々なチャンスがあります。国内外のフェスティバルのディレクターが連携し、プラットフォームを形成していたりすると、その繋がりでも広がっていって。2021年に韓国国立現代舞踊団の振付をさせていただくのですが、それも芸術監督のナム・ジョンホさんが数年前に日本国内のフェスティバルで私の作品を見てくださっていたから得られたチャンスなんです。賞に限らず、こうして参加することで舞い込んだチャンスが、今の活動のほとんどを形成している感じだと思います。
賞というものを自分にとってどういう風に活用するかは、もう少し考えた方が良いですよね。「あの人がまた取ったよ」と卑屈な方に向かわずに、「同時代の中でなぜあの作品が取ったのか」という思考の方に変えていければ、賞はとても有意義で、活用できるひとつの基準になると思います。

カンパニーを作ったのは、コミュニティを作りたかったから

カンパニーを作ったのは、コミュニティを作りたかったから。ダンスを踊るための団体を作ってダンスの発表をしたいわけではなく、コミュニティのような色々な意見が錯綜する場所がほしいという欲求がすごくあったんです。今になってみれば、カンパニーがあるからこそ、メンバーたちを裏切れないと思って頑張れているエネルギーが圧倒的にあります。たとえばソロで評価されたら、次は絶対にカンパニーも連れて行く、というような目標ができます。
私は、60〜70年代に寺山修司さんたちがつくった「天井桟敷館」みたいなものに憧れていて、地下に劇場があって、喫茶店や事務所、稽古場、宿舎や託児所みたいなものもある、コミュニティタワーのようなものを作りたいという夢を持っています。壮大ですが、本当に叶えたいです。そこに行くと何かが変わるような場所。海外からも「日本に行ったら、下島のとこの劇場あるよ」という風になったら、最高ですね。
ダンスを使って、世の中のポンプになるような活動ができると思うんです。世の中が大きく変わるのは、ショッキングなことや革命が起きたとき。だから私は、人々が無関心でいられない、考えた方が良いんだって気付けるような何かを出していけるアーティストでありたいです。コンテンポラリー界のゲバラになりたいんですよ、変なことを言っているかもしれないですけれど。自分が生きている時代を活発にしたいです。
コミュニティタワーを作るためには、人脈を広げて、自分の作品を見てもらうことが重要なので、まずはとにかく作品を持って国内外を回るのが目標です。中東とかアメリカとか、まだ行ったことのない国にもチャンスがあればどんどん行きたいです。自分の作品に対してどういう意見があるのかのリサーチをしつつ、その土地その土地で人に出会い文化を知り、コミュニティを広げていって、最終的には日本でポンプになるような拠点を持つことを目指していきたいです。

インタビュアー・編集:呉宮百合香・溝端俊夫(NPO法人ダンスアーカイヴ構想)、アーツカウンシル東京


『オムツをはいたサル』撮影:bozzo



撮影:佐藤瑞季

下島礼紗(しもじま れいさ)
振付家・ダンサー・ケダゴロ主宰
1992年、鹿児島県出身。7歳からよさこい踊りを中心に活動。桜美林大学にてコンテンポラリーダンスを木佐貫邦子に師事。2013年にダンスカンパニー〈ケダゴロ〉を結成し、全作品の振付・演出を行なっている。「ダンス」とは「世の中を探る為の手法」であるという理念の元、作品創作を通して、人と出会い・世の中を学び・自らの考えを生むことを目的に活動。代表作『オムツをはいたサル』『sky』は、国内外多数のフェスティバルで上演。第8回エルスール財団コンテンポラリーダンス部門新人賞などを受賞。
https://kedagoro.wixsite.com/kedagoro

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