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アーツカウンシル東京のスタッフや外部ライターなど様々な視点から、多様な事業を展開しているアーツカウンシル東京の姿をお届けします。

アーツアカデミー

アーツカウンシル東京の芸術文化事業を担う人材を育成するプログラムとして、現場調査やテーマに基づいた演習などを中心としたコース、劇場運営の現場を担うプロデューサー育成を目的とするコース等を実施します。

2021/10/27

アーツアカデミー2021「芸術文化創造活動の担い手のためのキャパシティビルディング講座」第2回レポート:ヴィジョン、ミッションを磨く ~受講生による課題・目標の提起と深堀り、共有機会の設定~

芸術文化創造活動の担い手のためのキャパシティビルディング講座』第2回からは、ゲスト講師を迎えての講座が始まります。
今回のゲストはヤマゲンさんこと山元圭太(やまもと・けいた)さん。「ヴィジョン、ミッションについて考え、言語化していこう」というねらいの講座です。

本題の前には、講座全体のファシリテーター/アドバイザーの小川智紀さんが、最近の舞台芸術に関するトピックをニュース番組風にご紹介。前回講座からの1週間の間にどんなことがあったのかを受講生と共有し、ぐっと距離が縮まったところで山元さんの講座がスタートします。

山元さんはキャパシティビルディング講座を開始した2018年度から”ヴィジョン、ミッションを磨く“をテーマとした回の講師を担当してくださっています。普段はコンサルタントとして主にソーシャルセクターの非営利の組織体の経営支援をおこなっていらっしゃるため、「まったくアート分野の者ではない僕でいいんですか?」と言われるのですが、だからこそ『自分達のやっていることを社会的な視点で見ると?』ということを整理して考えられるきっかけを提示してくださいます。

自分達はいったいどのような事業/活動のタイプなのかを知る

まずは「自分はなにをやりたいのか?」を可視化します。これにより、やりたいことのタイプによってどういう観点でなにをすればいいかが変わってきます。

やりたいことの傾向を把握することで、どうすればいいかを知ります

自分のやりたい事業/活動は『エコノミック(経済)』『ソーシャル(社会)』『ライフ(生業)』の3つの類型に分けるとするとどういう割合なのか。受講生がZoomのチャット欄に各人の事業/活動の配分を書き込んでみると『ソーシャル』が多い結果になりました(過去のキャパビル講座ではずっと『ライフ』が多かったのです)。
しかし、最近は「“ソーシャルの皮をかぶったライフ”が多い」そう。たとえば「お年寄りの居場所になるカフェを作りたい」と考えた場合、お年寄りの支援が目的であれば『ソーシャル』かとも思うのですが、実際のニーズを調べてカフェではない方が効果的だとなった時に「それでもカフェでやりたい」であるならそれは『ライフ(の中にソーシャルの要素が入っている)』と考えられます。

次に「自分の事業/活動はどちらの特色なのか」を2つの型に当てはめて考えます。これにより、組織運営におけるマネジメントの手法が違ってきます。

自分の組織が目指すビジョンの傾向を把握します

『課題解決型』の場合は、今ある明確な課題について「〇〇を解決する」というゴールラインが明確です。この場合、いわゆるPDCAにおいてP=Plan(計画)が大事になります。
『価値創造型』の場合は、誰も実現したことがないゴールを目指します。そのため計画はどうしても曖昧になりますが、進む方角を示しながら都度進路を見直していく、つまりPDCAにおけるC=Check(振り返り)が大事です。

本講座の受講生は、例年に続き『価値創造』が当てはまる人が多い結果になりました。また「『価値創造型』だけれども組織としては『課題解決』が求められることがある」との声も上がりました。

どのように課題と向き合っていくのか?

今日の講座では、価値創造についても意識しながら『課題解決型』についての理解を深めます。実際に、どうやって活動の計画を立てていけば良いのでしょう。ソーシャルビジネスやNPOの経営戦略の6つのステップを例に考えます。

ソーシャルビジネスやNPOの視点で活動計画を学びます

山元さんは、特に“社会を変える計画(インパクトモデル)”といわれるSTEP1~3について説明してくれました(STEP4以降は、今後の講座で触れる予定)。

●STEP1・組織使命──この組織は何のために存在するのか?

組織使命とは、(1)ビジョン(あるべき社会の状態)と(2)ミッション(組織が果たす役割)のこと。この使命設定のために重要な2つの条件が、「入魂度(やる気があるか)」と「共有度(どれだけ関わっている人達にビジョンが共有されているか)」です。とくに非営利組織の場合、「どれだけ何を達成できたか」などがメンバーにとっての大切な指針となるので、とても重要です。ただ、何かを成そうとする時は自分がやりたいことにとらわれがちですが、そうではなく、自分が得意で貢献できることは何か、どういうものが求められているのかを意識し、それらが重なりあっているものが成功しやすくなるというポイントもあります。
また、自分はこれを成そうという『個人使命』と、組織としてこれを目指そうという『組織使命』は、たとえ重なっていてもあくまで別物。「そこを切り分けないと(組織使命を背負う義務感のような)“呪い”にかかるよ」と注意が促されました。

●STEP2・現状把握──どういう現状になっているのか?

次に必要なのが、現状把握です。これを省くと二次的に他の課題を生んでしまう可能性があるので、きちんと調べておく必要があります。

●STEP3・実現仮説──どうすればビジョンが実現できるのか?

現状を踏まえ、実際に動くにあたってどうすればよいのかを『上流』『中流』『下流』にわけて考えます。たとえば、石につまづいてケガをした子がいる場合、上流=そもそもの石をどかしておく、中流=絆創膏を貼る、下流=絆創膏は貼れなかったけれど化膿した傷の処置をする、と当てはめられます。しかし、目指すものの規模が大きくなるほど自分達だけですべてに対応するのは難しいもの。そうした時に「できることからコツコツやろう」とするのか、「できないことは別の人に協力してもらって一緒にやろう」とするのかなど、実現のためにやるべきことが見えてくるのです。

その後、STEP4以降を簡潔に説明し、約80分の講座が終了しました。休憩5分をはさみ、山元さんから、進化し続けている組織観について知るために、書籍『Teal組織』(著:フレデリック・ラルー)が紹介されます。また、受講生がチャットに「Teal組織については実は懐疑的に感じています」という率直な質問を投げかけると、山元さんからは「そのとおり、Teal組織は作ろうと思って作られる組織ではない、なぜかというと個を活かす多中心的な営みであることが肝だから…」といった具体的なアドバイスが示される等、とても実論的な時間となりました。

後半はヴィジョン、ミッションを言語化してみるワークショップ。講座の学びを実際に自分の活動に落とし込んでみます。それぞれの活動や組織を「●●が」「××な」「△△をつくる」に当てはめ、書き込んでいきます。

自分の場合は…?枠内を具体的に埋めていきます

山元さんからは「対象は“みんな”としても良いですが、絞れば絞るほど事業としては強くなる」とのこと。そのため「選ぶことは、ほかの選択肢を捨てるということではないか」と悩む受講生もいましたが、山元さんは「選ばないということは、捨てないということではないです。決めることによって、その先にある新たな可能性、深みにリーチすることになります」とアドバイスがありました。

記入後は、Zoomのブレイクアウトルーム(少人数でのミーティング)にわかれ、それぞれの内容についてシェアしていきます。あるルームでは「これはどのくらいの規模?」と追求しあったり、「共有度を高めるにはどういうところが難しい?」と具体的な行動をイメージしたり、質問し合うことでそれぞれの考えが少しずつ明確になっていくようでした。

裏テーマは「“呪い”をコントロールする」

最後に、ふたたび全員でのZoom画面に戻ると、受講生からも山元さんに向けて積極的に質問が飛び交います。「企業が社会的な責任として芸術文化に支援すべきでは、という考えは通じますか?」という質問には「企業によります」と答えつつ、「『エコノミック』『ソーシャル』『ライフ』の区分はゆるやかに統合されつつあります」と、そもそも企業のあり方が変容しているという所感を語ります。また、「女性が育児や介護を担い、仕事を辞めていくことを解決するにはどうすればいいのか?」との質問には、「迷ったら当事者の声を聞くこと。当事者とは『エコノミック』なら顧客、『ソーシャル』なら自分が力になりたい受益者、『ライフ』なら自分」と、やりたいことのタイプに合わせて回答してくれます。その後も「ではどのように当事者の声を聞けばいいのか」など実践的な方法を説明してくれました。

最後に裏テーマとして「“呪い”に気づき、コントロールしよう」があることが示されました。「自分や自分の団体は、どういったクセを持っているのか。枠にとらわれてはいないか。自分たちの活動/事業を客観的に分類することで、コントロールするための手がかりにしていくことをお伝えしたい」との言葉で締められました。

山元さんのアドバイスは、終始、具体的でした。その視点は“非営利の組織がどう考え、行動したらいいのか”という組織経営の基礎を学べるものでした。

次の第3回は、大澤寅雄(おおさわ・とらお)さんによる「芸術文化と社会の関わり方を磨く ~社会とのつながりを捉え、「接続」と「循環」を考える~」がテーマです。第2回で得たことをさらに発展させていけそうな内容で、待ち遠しいです!

※文中のスライド画像の著作権は講師に帰属します。


講師プロフィール
山元圭太(やまもと・けいた)
合同会社喜代七 代表 / 株式会社 Seventh Generation Project 取締役 / NPO 法人日本ファンドレイジング協会理事・ 認定ファンドレイザー / 島根県雲南市地方創生アドバイザー
経営コンサルティングファームで経営コンサルタントとして5年、認定NPO法人かものはしプロジェクトでファンドレイジング担当ディレクターとして5年半のキャリアを経て、非営利組織コンサルタントとして独立。「本当に社会を変えようとするチャンジメーカーの『想い』を『カタチ』にするお手伝い」をするために、キャパシティ・ビルディング支援や講演/セミナー、コーディネートを行ってきた。2015年に株式会社PubliCoを創業して代表取締役COOに就任。
2018年にPubliCoを解散し、故郷の滋賀県草津市で合同会社喜代七を創業。現在は、「地域を育む生態系をつくる」をミッションに掲げ、滋賀県で実践すると共に、全国各地で支援を行なっている。専門分野は、ファンドレイジング、ボランティアマネジメント、組織基盤強化、NPO経営戦略立案など。

執筆:河野桃子(かわの・ももこ)
運営:特定非営利活動法人舞台芸術制作者オープンネットワーク(ON-PAM)

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