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アーツカウンシル東京のスタッフや外部ライターなど様々な視点から、多様な事業を展開しているアーツカウンシル東京の姿をお届けします。

アーツアカデミー

アーツカウンシル東京の芸術文化事業を担う人材を育成するプログラムとして、現場調査やテーマに基づいた演習などを中心としたコース、劇場運営の現場を担うプロデューサー育成を目的とするコース等を実施します。

2021/12/22

アーツアカデミー2021「芸術文化創造活動の担い手のためのキャパシティビルディング講座」第7回レポート:活動の意義を伝える評価軸を磨く ~活動を振り返り、改善・変革していく術を磨く~

芸術文化創造活動の担い手のためのキャパシティビルディング講座」第7回のテーマは「評価」です。事業・活動の価値を引き出すための「評価」とはなにか、どうすれば活動の継続的な発展に活かすことができるのか。評価論・社会開発論の専門家である源由理子(みなもと・ゆりこ)さんのレクチャーが始まりました。

源さんは「評価って面白いかも、と思ってほしい」と言います。その源さんが評価に興味を持ったきっかけは、かつて国際協力に関わる現場でケニア共和国のスラム地域での生活改善プロジェクトに参画し、どう評価したら現地でより役立てられるかを考えた末に「評価って価値を明らかにすることだ!」と気づいたことでした。つまり「当事者自身にとってなにが価値になるか、そのためにはどんな改善が必要か」を明らかにしていくこと。その評価付けによって、現場が良い方へと変わっていく面白さを感じたそうです。

どのように「評価」を行えばいいのか

評価とは成績表やランキングをつけることではなく、価値を引き出すこと

今回の講座で取り上げるのは「プログラム評価」と言い、社会的課題の解決や価値創造をめざす事業の評価方法です。評価とは『事実特定(測定)+価値判断』のことだと、源さんは言います。測定したり、指標をはかる『事実特定(測定)』も必要ですが、そこから導き出される数字はあくまで中立です。たとえば「7割」という数字はただの事実でしかありません。それを「7割も」と考えるか「7割しか」と考えるかの『価値判断』をするのが「評価」です。客観的に出た数字データを、良しとするか悪しとするかを主観で判断するのです。主観といっても一人の個人による主観ではなく、関係性のなかで生まれた合意点(間主観性)ですので、その数字がどうなのかを判断するために複数の視点を取り入れるための対話が重要になります。

では各自が事業を進めるにおいて、どのように評価していくと効果的なのでしょう。事業評価のアプローチには、評価の目的によって大きく2種類の方法(総括的評価・形成的評価)があります。

2種類の評価が相互に影響し合うことが大切

たとえば飲食店の場合は、レストランでの食事が「美味しかった」というのは、事業をしたことによってなにが達成されたかという成果の評価(総括的評価)です。一方で、飲食店側が「どうしたら美味しいものができるか」という実施プロセスや「この方法でいいのか」という改善にあたる評価(形成型評価)があります。
この2種類の評価が関係し合うことが重要です。実際の成果を踏まえ、どうすればいいかの実施プロセスに反映し、それによって次の成果がどう変わったか……と双方を行き来することで成長できるのです。

関連して『アウトプット』と『アウトカム』という言葉があります。アウトプットは自らが事業によりコントロールする成果・結果のことで、アウトカムはそれによってもたらされる良い変化・価値のことです。

アウトプット例:道路が何キロ完成したか。アウトカム例:地域や社会にどんな良い影響があったか

道路建設の例の場合、観光客を増やすために道路を作った(アウトプットを出した)としても、実際に必ず観光客が増える(アウトカムがある)とは限りません。自分たちの事業でコントロールできないものがアウトカムであり、それこそが事業・活動がめざす価値です。つまり社会的課題の解決や価値創造はひとつの事業でコントロールできないものの影響が多いのです。自分達でできることは、よりアウトカムを得られるようにアウトプットの実施と見直しをできるだけコントロールすることです。そのために役にたつのが「評価」です。

以上のような流れを明確にしながら、活動をとらえていくためによく使われるのが「ロジックモデル」です。数十種類あるというロジックモデルの中で、源さんは「作戦体系図」を紹介しました。

作戦体系図型のロジックモデル

上から、最終アウトカム→中間アウトカム→直接アウトカム、の順に組み立てることが重要

ロジックモデルは戦略的な思考を促すものです。活動を続けるなかで変化する状況に合わせ、最初の計画を柔軟に軌道修正する必要があります。その時にロジックモデルに立ち返り「このまま続けていいんだろうか?」という問いかけをします。この問いかけこそが「評価」なのです。

本キャパシティビルディング講座に当てはめると、最終アウトカムは「これからの時代の芸術文化の担い手の発掘・育成、(その彼等の活動)基盤や推進力の強化」、中間アウトカムは「各受講生が抱えている課題解決や目標設定に必要な思考力やスキルを、相互学習やフィードバックにより多面的に磨く」、直接アウトカムは「全9回の各講座ごとに狙いとしているもの」に当たるでしょう。それらを実現するためのアウトプットとして、講座の構成や、講師の選定といったコーディネーションは非常に重要になっています。

源さんは専門家として、ロジックモデルを各団体と共につくり、継続的に評価を行う活動をされています。「『評価』は事業を継続的に改善することが目的なので、事業を一緒にやって汗を流す人がやるものです。可能なら、異なる視点をもっている人から「この価値を出すならもっとこうしたら」と建設的な議論を言ってもらうことも重要です」。
またロジックモデルを作成するには「現場で実践している人達の持っている知見」が重要だと言います。これらはいわゆる“暗黙知”として、表に出ていないことが多いです。そういった現場の人の知見や実践値を、ロジックモデルという道具を通して可視化していくのが大切です。源さんは「とくに人と人とのやり取りの中には質的なエビデンスとして確認できるものがあると思います。自分一人の思い込みではなく、議論と対話を通して納得した地点があるはず。そういったお互いが持つ暗黙知や実践値を相互に学び合って、活動に反映しましょう」。

ロジックモデルを作ってみよう(演習)

後半は、4つのグループに分かれ『アウトカムを考える』というワークを行います。グループごとに一人の受講生の構想ワークシート(※前回講座参照)をもとに、ロジックモデルを作成していきます。時間が限られているので、完成させることが目的ではありません。ロジックモデルは思考のための道具なので作成にあたりどういうところが難しく、どんな発見があったかなどを共有することが重要です。

ポイントとなるのは、以下の4点です。

  • 最終アウトカムから議論すること
  • 中間アウトカムはプログラムの作戦目的であること
  • 変化を起こしたいグループは誰か/何かを考えること(主語を考えることが重要!)
  • 多様な、異なる意見を尊重すること

20分のワーク後、4グループそれぞれのディスカッション内容を発表しました。実際に複数人でロジックモデルを考えたところ、ほとんどのグループが「主語をどうするのか」で悩んだようでした。「なにを主語にすれば自分のやりたいことが実現できるのかが難しい」「主語が大きくなるとぼやけてしまう」という声に、源さんは「自分達のリソースを用いて、どういう人達に何をどうすれば効果的かを考える。そのためには誰のどのような課題やニーズに取り組もうとしているのかを考えることが大事」とアドバイスがありました。
「スパンで考えればうまくいくのかもしれない」という案には、源さんから「ロジックモデルに時間はありません。課題に対してどう行動するかが軸で、初期、中期、長期と計画を立てるのはフローです」と解説。長期間にわたって活動する際には状況が変わってくるので、定期的にロジックモデルを見直すことで対応していく必要性が話されました。
また「ミッションがそのまま最終アウトカムにならないことの方が多いです。組織の存在意義を確認しながら、それに近づくためにいくつかの作戦(ロジックモデル)を具体的に考えていきましょう」と、視野を広げてくださいます。

質疑応答では、評価の重要性を感じながらもなかなか現場に取り入れられない芸術文化領域の現状を受け、「より正確で客観的な評価をあまりお金をかけないで行う方法がありますか?」との質問がありました。しかし、評価が実装されないのは芸術文化だけではないと、源さんは言います。「日本は評価にお金がついていない国です。助成金の中でもいいから評価に対して予算をつけてもらえるよう働きかけるとともに、より正確で客観的な評価を行うためには、アウトカムの設定を明確にすると、組織外の人に向けた評価の手法のひとつとして活用されるアンケート項目も明確になります」。そして繰り返し言われる「活動過程で行う形成的評価については現場の人が一番詳しいので、それを記録しておくことが大切です」というお話は、現場で活動する受講生の活動を尊重するとともに、すぐにでも取り組んだ方がいいという後押しでもありました。

最後に、 参考文献として『学芸員がミュージアムを変える! 公共文化施設の地域力』 、『新しい広場をつくる 市民芸術概論綱要』 、『参加型評価 改善と変革のための評価の実践』 、『プログラム評価ハンドブック』 、ファシリテーターの若林朋子さんとともに特別寄稿している『アートプロジェクトのピアレビュー: 対話と支え合いの評価手法』 を紹介し、講座は終了しました。

次の第8回は、片山正夫(かたやま・まさお)さんによる「社会における芸術文化の必要性を考える ~芸術文化支援を鍵に、自立の在り方等を考える~」です。公益財団法人セゾン文化財団理事長としての知見から、「なぜ、社会にとって芸術文化が必要か」という問いについて考え、芸術文化支援の選択肢や自立・自走の在り方を探求します。受講生にとって、身近で実践的な講義になるのではと期待します!

※文中のスライド画像の著作権は講師に帰属します。


講師プロフィール
源由理子(みなもと・ゆりこ)

明治大学公共政策大学院ガバナンス研究科・教授
明治大学プログラム評価研究所・代表
国際協力機構(JICA)等を経て現職。専門は、評価論、社会開発論。改善・変革のための評価の活用をテーマとし、政策・事業の評価手法、評価制度構築、参加型・協働型評価に関する研究・実践を積む。最近は、評価の過程におけるステークホルダー間の「対話」と価値創造、それを可能にする評価ファシリテーションの機能に注目している。プログラム評価研究所では自治体、NPO、財団、企業のCSR等の評価実践現場を支援。国際基督教大学卒、東京工業大学大学院社会理工学研究科博士後期課程修了、博士(学術)。

執筆:河野桃子(かわの・ももこ)
運営:特定非営利活動法人舞台芸術制作者オープンネットワーク(ON-PAM)

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