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アーツカウンシル東京ブログ

アーツカウンシル東京のスタッフや外部ライターなど様々な視点から、多様な事業を展開しているアーツカウンシル東京の姿をお届けします。

「芸術文化による社会支援助成」活動報告会

アーツカウンシル東京では、平成27(2015)年度より、さまざまな社会環境にある人がともに参加し、個性を尊重し合いながら創造性を発揮することのできる芸術活動や、芸術文化の特性やアーティストが持つ力を活かして、さまざまな社会課題に取り組む活動を助成するプログラム「芸術文化による社会支援助成」を実施しています。
ここでは、助成対象活動を終了した団体による活動報告会をレポートします。

2022/07/04

第1回「コロナ禍におけるオンラインの活動継続」(前編):みんなのダンスフィールド

2022年2月21日、「芸術文化による社会支援助成」の意義や効果をあらためて検証し、その成果や今後の課題などを共有する場として、第1回となる活動報告会がオンラインで開催されました。第1部では、過去の助成対象団体の中から、コロナ禍においてオンラインで助成対象事業を実施した「特定非営利活動法人みんなのダンスフィールド」と「特定非営利活動法人東京ソテリア」の2団体による活動報告、第2部では視聴者も交えたラウンドテーブルが行われました。そのレポートを前編、中編、後編に分けてお届けします。


開催時期:2022年2月21日(月)18:30~21:00
開催場所:オンライン(Zoom)
報告団体名:特定非営利活動法人みんなのダンスフィールド、特定非営利活動法人東京ソテリア
ファシリテーター:小川智紀
グラフィックファシリテーター:清水淳子
手話通訳:瀬戸口裕子、加藤裕子
※事業ページはこちら



提供:特定非営利活動法人みんなのダンスフィールド


特定非営利活動法人みんなのダンスフィールド
スピーカー(報告者):西洋子、千葉遥、水村麻理恵


グラフィックレコーディング(制作:清水淳子)
(画像拡大:JPEG版

ダンスを通じて表現したい心とからだを引き出す、「共創」を社会に

みんなのダンスフィールドでは、障害の有無や年齢、性別などにかかわらず多様な人々が集まり、それぞれが自由に思いきり表現して、みんなでつながっていこうとする「インクルーシブダンス」を創造している。子どもたちの自由な表現に惹かれ、障害のある子どもとも身体表現を試みていた西洋子さんが、「障害のある子もない子も、一緒にやれば新しい表現が生まれるかも……」と思い立ち、まだ日本の社会では類を見ない1998年から活動の場を切り開いてきた。さまざまに変容する「個」が共に存在できる「のはら」というフィールドをメタファーとして、最初から振付はなく、踊る人それぞれが自分で表現し、共にダンスを創造する実験的な試みを展開している。まず代表の西さんから、平成27(2015)年度から現在まで「芸術文化による社会支援助成」を受け、どのように活動を膨らませてきたかを振り返った。

平成27(2015)年度は、観客をも包摂するインクルーシブダンスの上演の場を外の世界に求めて、「てあわせバとル・おどる・どるどる」を実施し、「芸術文化による社会支援助成」に採択された。

「てあわせバとル・おどる・どるどる」アサヒ・アートスクエア 2015年

その次年度からはもっと知らないところへ行ってみようと、小学校や特別支援学校での教育ワークショップとボランティア「耕し隊(たがやしたい)」育成ワークショップに踏み出す。そこからインクルーシブダンスの創造過程で生まれる「共創表現の現場」を社会に広めたいという思いが強くなる。2017年には、子どもの頃から活動を続けて大人になったメンバーで「のはらぐみ」という別のユニットを結成して、社会に向けた活動に取り組む。さらに、こうした共にアート表現をつくり合う「共創」とその環境づくりを推進する人材「共創表現ファシリテータ」を育てようと考える。そこで、共創社会と人材の育成を目的に据え、年間を通して都内各所で研究会や創作・発表を繰り広げる「ワーク・イン・プログレス 『共創表現ファシリテーションに挑む』ー研究・創作・社会実践は循環してすすむー」を計画し、令和2(2020)年度第1期「芸術文化による社会支援助成」に採択された。


『未来へのまなざし』ダンス&アーカイブ―子どもたちはインクルーシブダンスで対話するー(2019年)
提供:特定非営利活動法人みんなのダンスフィールド

ところが、その矢先にコロナ禍に突入し、対面でのワークショップが不可能に。「そこで、かねてから交流のあった石巻の方たちと短い動画や写真をオンラインで送り合うことを始めてみたんです」と西さんは語る。「まだ不安を抱えたコロナ禍初期の頃でしたが、身近な自然や生活の中につながりを見つけて表現を創造し、動画や写真で送り合って映像作品に編集したんですね。それぞれの人が持つ素の感性がより覚醒して、新しい表現が生まれるかも、私たちのからだはいつだって表現しているよね、と確認し合う機会になりました」。


石巻・東京「てあわせレター」(2020年4月~5月)
提供:特定非営利活動法人みんなのダンスフィールド

「共創表現ファシリテータ」の育成という当初の目的のもと、コロナ禍でもできることを検討した結果、シンポジウムやパフォーマンスの実施は取りやめ、2020年7月から2021年4月の間に、「共創表現ファシリテーション」の公開研究会を計4回オンラインで実施した。今後の展望として「20年を超える実践から得た共創表現の手法を、多様な現場や上演に向けた創作に活かせるものとして理論化すると共に、人材育成に力を入れていく」と西さんは語る。

言葉も生活も大切。「共創表現ファシリテーション」の実践

次に共創表現のファシリテータを目指す2人が、自身のファシリテーションの研究と実践に挑んだ実例を報告した。研究会やオンラインを含むワークショップなどを通じて、ファシリテーションされる側であった若手メンバーが、ファシリテーションする側になり、自身と向き合う機会にもなった。

英国留学中にインクルーシブダンスと出会い、2020年に「みんなのダンスフィールド」のメンバーとなった水村麻理恵さんは「自由な世界が生まれる言葉がけに挑む」というテーマで発表した。水村さんが「言葉」に注目したのは「初めて西先生のワークショップに参加したときに、その言葉の〈広さ〉と、そこから生まれる表現の〈自由さ〉に驚いたから」だと言う。例えば、一般的なレッスンでは腕をきれいに伸ばすために「腕を大きく広げて上に伸びてください」と言うところ、西さんのワークショップでは、「空に向かってうーんと伸びてみよう」と言葉をかける。「そうすると、天井や壁という現実の空間から世界が広がり、からだの特性で上に伸びることができない方も、空であればどこにでも伸びていくことができるんです」。


グラフィックレコーディング(制作:清水淳子)

(画像拡大:JPEG版

しかし、水村さん自身がファシリテータになったワークショップでは、「ジャンプ」「はねる」「手をたたく」といった動作を直接表す言葉や、からだの部位を指定するような言葉になりがちだったという。とはいえ、準備し過ぎるとプランに参加者を追随させる形になってしまったり、即興に委ねると、自分の内側から言葉が湧き出ないこともあったりして難しい。「ワークショップの現場は生きもので、みんながそれぞれに違って、動いて、表現し続けるので、心で感じたものをストレートに伝えることに挑戦し続けていきたい」と意欲を語った。


オンラインによる個人ワークショップの様子
提供:特定非営利活動法人みんなのダンスフィールド

幼い頃から「みんなのダンスフィールド」に参加している千葉遥さんは「生活における共創表現ファシリテーションに挑む~これまでの人々とのかかわりを通して~」と題して発表した。千葉さんは生まれつき骨形成不全症のため車椅子で生活し、現在はヘルパーの手を借りながらひとり暮らしをしている。昨年はファシリテータとして、自身の通所施設であるどろんこ作業所およびどろんこ作業所手づくり山で表現ワークショップを実施した。


どろんこ作業所 手づくり山での個人ワークショップの様子
提供:特定非営利活動法人みんなのダンスフィールド

「外出が難しい所員さんだけでなく、職員さんも参加していただき、なかなかできない体験だったと喜んでいただけたのはよかったです。けれど、私ができたことは楽しい〈表現〉ではなく、楽しい〈表情〉をつくり出したにとどまり、ダンスフィールドで創り出される〈生き生きとした表現〉には至ってなかったのではないかと思いました」と省みる千葉さん。


グラフィックレコーディング(制作:清水淳子)
(画像拡大:JPEG版

共創ファシリテーションの考え方は、生き方につながる。「普段の生活では障害があるから、時間がないからと言いわけをして、物事を諦めることが多い自分に気づいた」と言うのだ。「今後は、誰かと行動するときに相手に寄り添う姿勢や言葉がけに気をつけたり、そのときの言動を見返す習慣をつけたりするなど、日常生活でも実践しながら本当の意味での共創につなげていきたい」と決意を語った。それに対し、今回の報告会のファシリテーター・小川智紀さんから「発表準備の過程で気づくことが多かった。そのこと自体、充分よかったと思いますよ」と激励の言葉がかけられた。

続いて小川さんや視聴者から「ファシリテータは難しい?」という質問。
「共創には正解がないので、簡単なようで難しい。でも、だからこそ挑戦するのが面白いし、誰もがファシリテータになり得ます」と答える西さん。


あそびから自由な表現が生まれる
提供:特定非営利活動法人みんなのダンスフィールド

西さんは「からだで感じる自由って、からだが動く/動かない、上手/下手は関係ない。世界が広がっていく感じとか、逆に自分にうーんと戻ってくる感じとか。そのときにあなたがいて、初めて私の世界が広がったり、自分の中に戻ってきたり、何か変化が起きたり、常に誰もがやっていることなんですよね。そこで自分がいきいきできる、そこがアートの大切なところだと思うんです」と結んだ。

(取材・執筆 白坂由里)


特定非営利活動法人みんなのダンスフィールド
1998年、身体表現論や舞踊学を専門とする代表の西洋子と6名の子どもたちにより設立。性別や年齢・障害の有無を超えて、互いの個性を尊重し、共に楽しむことのできる身体表現活動を通じ、包容力のあるインクルーシブな社会の実現を目指して活動している。設立20周年の2020年より、表現を共に創り合う「共創表現ファシリテータ」の人材育成に力を注いでいる。
https://www.inclusive-dance.org/


グラフィックレコーディング(制作:清水淳子)
(画像拡大:JPEG版

芸術文化による社会支援助成 助成実績

  • 平成27(2015)年度「てあわせバとル・おどる・どるどる」
  • 平成28(2016)年度第2期「インクルーシブ・ダンスの上演をコアとする連続的な「共創」のアートプログラム開発」
  • 平成29(2017)年度第2期「新しいインクルーシブ・ダンス -ひらかれたアート交流による「共創」を目指して-」
  • 平成30(2018)年度第2期「『未来へのまなざし』ダンス&アーカイブ ―子どもたちはインクルーシブ・ダンスで対話するー」
  • 令和2(2020)年度第1期「ワーク・イン・プログレス『共創表現ファシリテーションに挑む』-研究・創作・社会実践は循環してすすむ-

芸術文化による社会支援助成
東京都内で活動する団体を対象に、「社会的な環境により芸術の体験や参加の機会を制限されている人が、鑑賞・創作などの芸術体験を行い、創造性を発揮し、想像力を豊かにすることができる活動」や「自らの問題意識に基づいて社会課題を設定し、さまざまな人や組織と連携・協働を行いながら、長期的視点を持ち、課題解決に取り組む芸術活動」を支援するプログラム。
平成27(2015)年度に開始し、平成28(2016)年度からは年に2回公募を実施。これまでに100件余りの事業を支援してきた。「芸術のための芸術」でもなく、また単に「社会の役に立つ芸術」というだけでもなく、これまでにないやり方で社会と創造活動が不可分の状態にあるような新たな芸術のあり方、いわば「第3の芸術」を提起し具体化していく活動を後押ししようとしている。

第1回「コロナ禍におけるオンラインの活動継続」(中編):東京ソテリアに続く

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