ライブラリー

アーツカウンシル東京ブログ

アーツカウンシル東京のスタッフや外部ライターなど様々な視点から、多様な事業を展開しているアーツカウンシル東京の姿をお届けします。

「芸術文化による社会支援助成」活動報告会

アーツカウンシル東京では、平成27(2015)年度より、さまざまな社会環境にある人がともに参加し、個性を尊重し合いながら創造性を発揮することのできる芸術活動や、芸術文化の特性やアーティストが持つ力を活かして、さまざまな社会課題に取り組む活動を助成するプログラム「芸術文化による社会支援助成」を実施しています。
ここでは、助成対象活動を終了した団体による活動報告会をレポートします。

2023/01/06

第2回「ひとりひとりと向き合う演劇活動の探求〜鑑賞サポートからシニア劇団へ」(後編)

2022年8月25日、「芸術文化による社会支援助成」の効果を検証し、今後の課題やビジョンなどを広く共有する場として、第2回となる活動報告会が初めて対面で開催されました。前編では第1部「特定非営利活動法人(以下、NPO法人)シニア演劇ネットワーク」による活動報告をレポート。後編では第2部の、観客も交えたラウンドテーブルの様子をお伝えします。

第2回「ひとりひとりと向き合う演劇活動の探求〜鑑賞サポートからシニア劇団へ」(前編)はこちら


開催時期:2022年8月25日(木)18:00~20:00
開催場所:アーツカウンシル東京 5階 大会議室
報告団体名:特定非営利活動法人シニア演劇ネットワーク
ファシリテーター:小川智紀
グラフィックファシリテーター:清水淳子
手話通訳:瀬戸口裕子、加藤裕子
※事業ページはこちら



撮影:松本和幸


グラフィックレコーディング(制作:清水淳子)
(画像拡大:JPEG版

活動を見ていてくれるという信頼関係

第2部では、小川智紀さんのファシリテーションで、ざっくばらんに語りあうラウンドテーブルが行われた。鯨さんは先の発表の中で「演劇の実演家って、申請書や報告書のような書類とかけ離れた生活をしているので、堅苦しい書式に夢を乗せることが非常に難しいんですよね。それをアーツカウンシル東京の担当の方が助言してくださるので助かります」と語っていた。それを受けて、小川さんから「お金以外にもアドバイスしてもらったことがあったのですか?」と問いかけた。

鯨:書類を全部チェック、フォローしてくれますし、実際に事業の現場も見に来てくれます。また、事業終了後に報告書を出すだけでなく、担当職員との面談が1、2時間あって、振り返りと今後の活動について話をする時間があるんです。これは、ほかの助成団体にはない経験で、未来が明確になりますね。

小川:視察って、偵察みたいでちょっと嫌な感じになりません?(笑)

鯨:いえいえ。島に来てくださったのは感動しました。三宅島にも大島にも来てくださいましたし、三宅島には2回も。東京で全国大会を開くことを目標に、できるだけ都内でも芝居を見る機会、自ら演じたりする機会が少なそうな地域に行ってシニア劇団を広めようと、これまで大島・三宅島・八丈島・神津島に行きました。(脚注1)

脚注1: シニア演劇ネットワークは、「芸術文化による社会支援助成」のほか、アーツカウンシル東京が東京2020オリンピック・パラリンピックの開催気運を高める一環で実施した助成制度「Tokyo Tokyo FESTIVAL助成(旧:東京文化プログラム助成)」において、「シニア劇団かぶつ・かんじゅく座による東京の島巡演の旅(2017年度 市民創造文化活動支援 第2期)」及び「シニア劇団による東京の島巡演の旅2019(2018年度 市民創造文化活動支援 第2期)」が採択され、伊豆諸島への巡回公演を行った。


三宅島の小学校での公演後
撮影:特定非営利活動法人シニア演劇ネットワーク

小川:アーツカウンシル東京がやってること、僕、すごくいいと思うんですよ。ただ、助成金頼みになってしまうと、次に採択されなかったら事業ができなくなるかもしれない。ぜひお願いしますって感じになるじゃないですか。活動基盤をつくる事業であったら、1年ごとじゃなくて、何年か長期的な支援をしてほしいといった希望はありませんか?

鯨:現在実施中の「芸術関係者のための舞台芸術鑑賞サポート講座」は、確定しているわけじゃないんですが、一応3年間の優先枠の助成となっていて、今はその2年目なので助かっています。長期支援ということでは、アーツカウンシル東京に限らず、団体を継続させるための助成金が少ないのでは?とは思いますね。例えばホームページやSNS、Zoomといったシステムを運用・活用するにはやはり「餅は餅屋」で専門の人を雇いたい。そうした人を恒常的に雇える資金がないのがつらいです。

小川:今の助成制度は、お金を出すから何かプロジェクトをしてくださいということになっているけれども、本当に支援してもらいたいのは、例えば活動継続のための家賃やシステムの増強だったりするわけなんですね。とはいえ、まず現状の助成制度はあってよかったわけですね。

鯨:もちろんです。助成金をどういう使途に用いたいという助成する側の思いも伝わってくるんで、それに応えたい気持ちにもなるんですよね。勇気をもらえて、主催者の孤独が癒される面もあります。自分たちの活動を見ていてくれる人がいるというだけでも救いになる。原資は税金なので、ちゃんと見ていてくださると安心して使えますし。客観的な目線のある相談できる方ってなかなかいないんですよ。


グラフィックレコーディング(制作:清水淳子)
(画像拡大:JPEG版

劇場の垣根を越えて鑑賞サポートを広げたい

小川:ところで、鑑賞サポートを導入していない劇場がいっぱいあることにも気づいたわけですね?

鯨:私自身も車椅子の方が見に来ることを、実際に難病で車椅子生活をしている女性に出会うまではあまり想定していなかったですね。劇場に行くにはヘルパーを手配して、ヘルパーの交通費やチケット代も払わないといけないし、ハードルがたくさんあるんだということを彼女を通して学びました。

小川:今日、データを用意してきたんです。令和2年度「障害者文化芸術活動推進に向けた劇場・音楽堂等取り組み調査報告書」(全国公立文化施設協会)。国公立2176施設、私立224施設に聞いた結果、「障害者を対象とした事業を行っている」施設が13.5%、「実施していない」施設が86.5%です。実施していない理由を聞いてみると、「具体的にどういう障害者にどういう事業を実施したらいいかわからない」が41.7%、「知識のある人材がいない」が40.1%、「設置者の位置づけ、方針、指針がない」が37.6%です。都立の文化施設は今、インクルーシブ事業を進めていて、アクセシビリティなどいろいろなことを改善しようとしていますが、全国的に見るとまだそんな状況なんですね。

鯨:そうですね。2016年に障害者差別解消法という法律ができても、やはり着手にまで至ってないところの方が多いと思うんですね。障害者はうちの施設には来ないからって。でもそれは逆で、鑑賞サポートがないから行くことができない。

小川:自由記述の回答を読んでみると、「文化芸術に関して障害者を区別する必要性を感じない」という意見まである。

松田:明治座に26年いた間も考える機会がなかったですね。とにかく演劇でご飯が食べられるのはありがたいと、お客さまを大切にしていて、営利企業としても汗かいて努力しているなかで、高齢者向けサービスについては高いレベルのものを提供するのに、障害者に向けて何かサービスをしようということはなかったんですね。

小川:だからこそ、少しずつでも今から変えていかなきゃですね。

鯨:鑑賞サポート講座では、必ず障害当事者の方に来ていただいてお話を伺う時間を作りますが、(障害当事者自身が)たぶん無理だからって諦めちゃうと、施設側は気づけないですね。理想的には、施設にちゃんとサポート体制を整えていただきたいんですけど、その人の生活圏にはその人に似ている人が集まってしまうので、(その圏外に目をやらない限り)気づけないのも無理はない気もします。

私が関わった難病で車椅子生活をしている女性は、同じ難病の車椅子生活の仲間3人で、階段しかないファミリーレストランに通い続けて、必ず店員さんに電動車椅子3台を持ち上げさせていました。そのうちスロープがつくからって。確かに半年以内につきましたけど、彼女たちがそこまでしなければ変わらないことに寂しい気がしました。


グラフィックレコーディング(制作:清水淳子)
(画像拡大:JPEG版

小川:高齢者のお話も少し。令和2年度「東京都福祉保険基礎調査」で「高齢者の生活実態」調査があって、東京都の高齢者4711人、平均年齢75.9歳に「生きがい(喜びや楽しみ)を感じているか」を調査してみたら、「充分感じている」「感じている」「多少感じている」を合わせて8割は生きがいを感じているんですよね。そのなかでほぼ毎日外出する人は45.0%になります。コロナ禍でどうも13ポイントぐらい落ちちゃったみたいなんですよ。

渡部:高齢者、特に持病のある人はやっぱり敏感になりますね。自分はあまり気にしないですけど、カミさんが「どこに行くんですか?」「帰ったら風呂に入れ」とか大変厳しい。

鯨:でもかんじゅく座は、コロナ禍になってからむしろ劇団員が増えたんです。外に出たい、人と交流したいっていう気持ちが強い人はあまり変わらないのかも。


コロナ禍で1年延期になり、2021年6月に開催した「全国シニア演劇大会 in Tokyo」より、かんじゅく座「パリテ!」 町長選挙に挑むシングルママの奮闘記。
撮影:特定非営利活動法人シニア演劇ネットワーク

小川:では、会場の皆さんからご意見やご質問を。劇団銅羅の佐藤文雄さん、鯨さんが鑑賞サポートの取り組みを始める時に、唯一手を挙げたそうですね?

佐藤:私たちも芸術文化による社会支援助成の3年間の優先枠の助成2年目で、いわゆる生きづらさを抱えている若者たちに向けて演劇ワークショップを行っています。暮らしの中に演劇が溶け込むような活動をしていきたいという理念で、鯨さんの鑑賞サポートのお話を聞いた劇団制作者が、障害のある方々にも見ていただきたいという気持ちで、手を挙げたのだと思います。今日お話を聞いて、銅鑼の活動を振り返ってみても、何かそのやろうとする志、集団なり個人なりの思いや理念が活動を続ける基本じゃないかなと思いました。

小川:ありがとうございます。最近の事業は、課題があってこれを解決するために逆算でこうしたら到達するんだって課題解決型が流行ですね。でも、鯨さんのお話を聞くと、とにかくやってみると、芋づる式にいろんな問題があり、そこに関わったらまた違うものが見えてきてというあり方で。そうやってまた今ある課題に向けて少しずつじわじわと、向き合っていかざるを得ないっていうことなのかしら。

鯨:最近、知的障害者と一緒にお芝居を作ったり、まったく演劇と関わりがなかった人と一緒に小規模な作品を作ったりといった表現活動の事例を見ているんですが、売り上げとかを考えたらたぶんできないような実験を重ねていくんですね。昨年聞いてびっくりしたのは佐賀県の小松原修さんの「ファミリーシアター」。障害者の家を訪問して、その家族に向けてお芝居をする活動なんです。とても楽しそうで勇気をもらいました。目指すところはそういうところなのかと思います。まあ全然お金にはならないですねぇ。

小川:お金にならなくても?

鯨:好きだから。というか出会いたいんですね。そういう物事にも人にも何か出会える、それが嬉しいんです。

なお、アーツカウンシル東京の担当者から、芸術関係者のための「舞台芸術鑑賞サポート講座」(3年計画事業2年目)について「若い方からキャリアのある方まで様々な方が参加し、障害者と接するのが初めての方も『大きな発見がある』、初参加の方も『来年も参加したい』とおっしゃっていて、非常に可能性のあるプロジェクトです」と手応えが語られた。劇団や劇場の垣根を超えた鑑賞サポートチームの活動にも期待していると話す。

また、芸術文化による社会支援助成については、令和3年度から長期的な視点を持った事業を支援する枠組みを立ち上げたり、助成金の上限が100万円だったところを200万円にしたりと少しずつ充実されている。


グラフィックレコーディング(制作:清水淳子)
(画像拡大:JPEG版

前回に続き、活動報告や悩みをシェアし、意見や提案も交わされた報告会。個々の団体とアーツカウンシル東京とのつながりだけでなく、様々な団体同士も横につながり、ともに社会課題に取り組んでいこうとするネットワークづくりの機会でもある。初めて直接顔の見える会になり(マスク越しではあったけれど)、また一歩進んだ印象だ。

(取材・執筆 白坂由里)


シニア演劇ネットワーク
高齢者の演劇活動の支援と、障害者の観劇支援を主な活動とする。2006年任意団体として設立し、2012年に法人化した。現在は全国シニア演劇大会の企画運営や、シニア劇団の運営組織として活動するほか、さまざまな劇団、劇場の演劇公演でバリアフリーサポートを施している。
https://s-engeki.net/

芸術文化による社会支援助成 助成実績

  • 平成27(2015)年度「視覚障がい者向け音声ガイド制作者育成講座」
  • 平成28(2016)年度第2期「シニア劇団かんじゅく座第11回公演『ねこら!2017』
  • 平成29(2017)年度第2期「シニア劇団かんじゅく座第12回公演『みのりの畑』」
  • 令和2(2018)年度第1期「演劇関係者のためのバリアフリー講座『視覚障がい者への観劇サポート』」
  • 令和3年度第1期 「演劇関係者のためのバリアフリー連続講座2021(3年計画事業1年目)
  • 令和4年度第1期「舞台芸術鑑賞サポート講座」(3年計画事業2年目 )

芸術文化による社会支援助成
東京都内で活動する団体を対象に、「社会的な環境により芸術の体験や参加の機会を制限されている人が、鑑賞・創作などの芸術体験を行い、創造性を発揮し、想像力を豊かにすることができる活動」や「自らの問題意識に基づいて社会課題を設定し、さまざまな人や組織と連携・協働を行いながら、長期的視点を持ち、課題解決に取り組む芸術活動」を支援するプログラム。
平成27(2015)年度に開始し、平成28(2016)年度からは年に2回公募を実施。これまでに120件余りの事業を支援してきた。「芸術のための芸術」でもなく、また単に「社会の役に立つ芸術」というだけでもなく、これまでにないやり方で社会と創造活動が不可分の状態にあるような新たな芸術のあり方、いわば「第3の芸術」を提起し具体化していく活動を後押ししようとしている。

>芸術文化による社会支援助成の次回の公募は、令和5年度第1期予定。詳細は後日、ウェブページ【芸術文化による社会支援助成】で公開。

最近の更新記事

月別アーカイブ

2024
2023
2022
2021
2020
2019
2018
2017
2016
2015
2014
2013
2012