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アーツカウンシル東京ブログ

アーツカウンシル東京のスタッフや外部ライターなど様々な視点から、多様な事業を展開しているアーツカウンシル東京の姿をお届けします。

Art Support Tohoku-Tokyo

Art Support Tohoku-Tokyo(東京都による芸術文化を活用した被災地支援事業)は、東京都がアーツカウンシル東京と共催し、岩手県、宮城県、福島県のアートNPO等の団体やコーディネーターと連携し、地域の多様な文化環境の復興を支援しています。現場レポートやコラム、イベント情報など本事業の取り組みをお届けします。

2017/07/11

「被災地支援」を再定義する ― Art Support Tohoku-Tokyo 7年目の風景(1)

シリーズ「7年目の風景」はArt Support Tohoku-Tokyoを担当するプログラムオフィサーのコラム、レポートや寄稿を毎月11日に更新します。今日は東日本大震災から6年4ヶ月です。今回の執筆は佐藤李青(アーツカウンシル東京 Art Support Tohoku-Tokyo担当)。事業の詳細はウェブサイトをご覧ください。http://asttr.jp/


※このたびの九州北部豪雨で、被災された皆さまに心よりお見舞い申し上げます。現在も被害状況の把握や避難所での生活が続いておりますが、皆さまの安全と1日も早い復興を衷心よりお祈りいたします。


「被災地支援」を再定義する

正式名称は「東京都による芸術文化を活用した被災地支援事業」、通称が「Art Support Tohoku-Tokyo」、略称は「ASTT」という。書面上で決まった正式名称に対して、通称は2011年7月の事業立ち上げとともに考えた名前だった。他にも候補はいくつかあった。復興を想起する「Re」という言葉をいれようと苦心したことを覚えている。だが、結果的には最もシンプルでフラットな現在の名称となった。

東北(Tohoku)を先に置き、東京(Tokyo)を横並びの一本線(-)でつなぐこと。東京から既存の事業を持ち込むのではなく、現地の状況に応じた事業を展開するという姿勢が、この名称には込められている。改めて過去のデータを探ってみると、2011年9月に「Art Support Tohoku-Tokyo」という水色の文字が入った名刺を制作していた。それから、この名刺と東京文化発信プロジェクト室(※)の肩書きが記載された名刺の2枚をもって東北へ通った。

※ 当時の所属組織名/2015年にアーツカウンシル東京と組織統合

「はじめまして、こんにちは。東京文化発信プロジェクト室の佐藤と申します。東京都の芸術文化による被災地支援事業の担当をしています。東京都は東日本大震災の発生を受け、さまざまな分野で東北の支援に取り組んでいます。たとえば警察や消防の方々がこちらに派遣されていたと思いますが、それと同様に芸術文化の分野で何らかの支援ができないかと、ここに来ています」

事業を説明するときは意識的に正式名称を使うようにしてきた。「被災地」という眼差し、「支援」という態度。いかに水平的な関係であろうとしても、この事業が不可避にもってしまう力関係を意識する。通称の分かりやすさは、それを無自覚に覆い隠してしまうこともあるだろう。現地の状況に寄り添いつつも、事業の役割を果たすために踏み込むこと。そうした逡巡を繰り返してきた。

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Art Support Tohoku-Tokyo 名刺(デザイン:福岡泰隆)。データの日付は2011年9月22日。裏面には事業趣旨が記載されている。

2011年12月16日。仙台で「震災ケア・アートサロン」の現場に立ち会った。「ケアする人のためのケアプログラム」として子育て中のお母さんや保育士の方々を対象としたプログラムだ。数名の参加者がひとつのテーブルを囲んで手を動かす作業をしていた。その場で自己紹介をすることになった。いつものように事業の説明をしようとして、思わず口ごもってしまった。事業名を語ることが、目の前の人々を「被災者」として「支援」されるべき人たちだとラベルを貼ってしまうような感覚をもったからだった。

参加者は仙台市内の中心部に住む方々が多かった。おそらく津波は経験していない。いわゆる「沿岸」と「内陸」という区分でいえば、内陸の人たちだ。震災以降のさまざまな線引きは「被災」を見えにくくする。だからこそ、言葉のもつ分断に捉われず、ときには個人の微細な「被災」を掬うような実践が求められた。東北に赴き、人に会い、事業をする。そうして現地の日常のなかに無数に存在する「被災」の解像度を上げていった。

「被災」は3月11日を起点に持続する震災後の日常のなかにあった。余震が続く。住まいを変える。新たな人間関係を築く。生活の変化は身体的に、精神的にも負荷をかける。そうした「被災」の状況にある土地で何ができるのか。「被災地支援事業」として、震災後の状況に応答してきた。必要なものは、震災直後の緊急支援的な取り組みから、次第に地域の持続的な活動へと変化していった。そして、この数年で、ゆっくりと、しかし着実に震災直後以来の大きな変化を迎えている。そう感じるようになった。

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「震災ケア・アートサロン」(仙台・子どもセンター、2011年12月16日)。子供に関わる大人の心の安定を目的に、ものづくりなどの作業を介する「アートサロン」を実施することから、震災の体験や子育ての悩みなどを語り合いやすくする場づくりを行った。震災直後から「絵本」「おもちゃ」「文房具」「あそび」を子供に届ける活動を行った「こどもとあゆむネットワーク」と共催で実施。

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2011年12月16日には仙台市の「あすと長町仮設住宅」も訪れた。戸数は市内最大の233戸。2011年4月に建設され、2016年12月に解体が完了している。

「潮目が変わった。5年目に来ると思っていたものが、いま来ている」。2017年5月中旬に岩手県釜石市を訪れたとき、特定非営利活動法人@リアスNPOサポートセンターの川原康信さんが繰り返し語っていた。5年とは地域外からの支援の「節目」を指す。節目は意識していたことで乗り越えられたが、実際の変化は時間差で起こっているのかもしれない。

節目は3年目と5年目にあった。実際に支援は減少したが、それによって事業の担い手は、その地域で暮らし続ける人々が中心となった。議論は自ずと震災への応答だけではなく、現在の地点から地域の未来を構想するものへと変化していった。震災を忘れるのではない。むしろ、「地域」の議論に震災は否応なく刻印されている。未来を語ることは、来るべき過去の経験に触れることになるのだ。

行政の窓口だった担当者が異動する。震災後から活動を続けてきた人が地域を離れる。そうした人々の減少は震災の経験を前提した物事のやりとりを難しくしていった。それは震災を共有していない人と、その経験をいかに共有していくのか、という問題意識とも繋がっている。釜石では一昨年度「かまいしこども園」が完成したが、園児は誰も震災を経験していない。

沿岸部では大規模な造成が行われ、次第に家も建ち始めた。風景は安定してきた。一方で震災の経験を継承するための切実さは変わらない。むしろ、強くなってすらいるのかもしれない。だが、それを実践する人々は背負いすぎてしまっていないだろうか。そう問いかけることや、その問題意識を地域内外の人々と分かちもつことが、いま必要なのではないだろうか。

この頃は「Art Support Tohoku-Tokyo」という通称を意識的に使うようになった。それは「被災地支援」の意味が変化しているように感じるからだ。本事業が各地域で紡いだ線のような関係性を解きほぐし、東北の地で網のように繋ぎなおす。改めて東北と東京がもちうるものを交換するような関係をつくる。いまは、そうした「東京」から東北の「支援」を行う時機なのではないだろうか。それが「被災」に対する現在の応答となるのではないだろうか。それは震災の経験が生んだ東北の地の実践の勁(つよ)さを現すことにも繋がっていくのではないかと思う。

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釜石市の風景(宿泊先のホテルから、2017年5月16日)。手前の新しい建物は復興公営住宅。中央には今年秋に完成予定で建設中の釜石市民ホール(仮称)が見える。

今後の予定

・8月19日に仙台市でトークセッションを開催します。

宮城県の松島湾と福島県の会津地域で活動を続けてきたゲストが出会います。ゲストの実践を会場のみなさんと共有し、これからの実践の方法を考えます。Art Support Tohoku-Tokyo トークセッション #02「土地の記憶を紡ぐ術(アート)――東北の海と森の実践から」の情報は以下をご覧ください。
https://www.artscouncil-tokyo.jp/ja/events/20990/

・各地で事業が進行しています。

釜石市では2016年度から一般社団法人谷中のおかってのメンバーが「かまいしこども園」と連携し、「ぐるぐるミックス in 釜石」を始めています。東京で実践を重ねたプログラムを、釜石の現状に落とし込もうと、互いに学び合いながら進行しています。こちらの様子は後日改めてレポート記事にてお届けします。

・ドキュメント制作を準備しています。

東北の現在とこれからの動きを探るためのドキュメント制作を計画しています。2016年度は現地で事業のパートナーとなった方々へのインタビューを収録した『6年目の風景をきく――東北に生きる人々と重ねた月日』を発行しました。以下のリンク先にてPDFダウンロードが可能です。
http://asttr.jp/book/


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