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東京芸術文化創造発信助成【長期助成】活動報告会

アーツカウンシル東京では平成25年度より長期間の活動に対して最長3年間助成するプログラム「東京芸術文化創造発信助成【長期助成】」を実施しています。ここでは、助成対象活動を終了した団体による活動報告会をレポートします。

2017/09/29

第1回「カンパニーデラシネラの若手プロジェクト 3年間を振り返る」(前編)

対象活動:カンパニーデラシネラ「白い劇場」シリーズ(平成26年度採択事業:3年間)
出席者:小野寺修二、藤田桃子(カンパニーデラシネラ)、大庭裕介、崎山莉奈、仁科幸(「白い劇場」シリーズメンバー)


助成対象活動の概要

カンパニーデラシネラが若手メンバーとの協働を通して継続性のある新しい形の創作集団の発展と人材育成を目指した「白い劇場シリーズ」

  • 活動1年目はオーディション、ワークショップの後に都内にて新作『分身』の公演を行う。
  • メンバーの更新を図りながら、小野寺が文化庁文化交流使の任命を受けた2年目は、関連企画としてベトナムとタイでの公演『もう一つの話』と、都内にて新作公演『椿姫』を上演。
  • 3年目は「白い劇場シリーズ」の集大成として、『小品集』と題した小3作公演を都内に新しくオープンした小劇場「浅草九劇」のこけら落とし企画として上演した。

平成26年度の東京芸術文化創造発信助成プログラム(長期助成)に採択され、若手メンバーを交えた「白い劇場」シリーズを展開してきた、カンパニーデラシネラ。7月10日にアーツカウンシル東京で行われた報告会には、主宰の小野寺修二さんと中心メンバーの藤田桃子さんに加え、今回のプロジェクトに参加したメンバーのうち、大庭裕介さん、崎山莉奈さん、仁科幸さんの3名も出席。3年間にわたる活動内容、その成果、課題、今後の展望が語られた。

第1部:自己紹介&自己分析 “なぜ「白い劇場」をやろうと思ったか”
(構成・文:鈴木理映子)
パントマイムのカンパニー「パフォーマンスシアター水と油」で10年間活動した後、カンパニーデラシネラを立ち上げた小野寺と藤田。二人がこの長期助成の募集を知ったのは、活動を始めて約7年が経ち、ふたたび新たな活動のあり方を探り始めた時期のことだったという。「3年単位でものを考えられるって、すごく面白いし、今の私たちに必要なことだなと思ったんです。7年間、いろいろな現場で、違う業界の人たちも含めていろいろな人に出会ってきましたが、その体験を作品ごとに集まったメンバーで共有して終わりにするんじゃなく、キープしながらさらに積み重ねていくことが何よりも贅沢かもしれない。それなら時間をかけてでも一緒に進んでいける若い人を見つけて、新しいカンパニーで活動してみたい。そんな熱い思いを面接の際にもお話しました」(藤田)。「団体で活動することが、だんだん成立しづらくなっている気がしたんです。集団として地道に頑張っていくより、フリーで、たとえばテレビや映画の仕事なんかをしていた方が楽なのかもしれない。でもやっぱり僕は、自分自身が団体として頑張ってきた経験もあり、なんとか、今の世の中でも、一つの色を持ったカンパニーを観に行くという文化を成り立たせたかった。そのためにはどうしても、長い時間をかけて、身体の共通言語を蓄積しなくちゃならないですよね。もしかしたら、その考えを共有できる人と出会うことさえ難しいかもしれないけど、その覚悟も含め、チャレンジしたいと思いました」(小野寺)

2017_blog_long-grant_1「分身」(C)清水俊洋

平成26年7月の採択決定を受け、10月にはオーディションを開催。翌年3月の『分身』(シアターΧ)で「白い劇場」シリーズは、13人のメンバーを乗せ、船出した。俳優とダンサー、活動の軸足の異なる表現者たちが一つのカンパニーとして呼吸し、観客の前に立つまでには、1日8時間×約2カ月間という、今までにない長い稽古時間が費やされたという。「役者さんはそれほど肉体訓練をしたことがなく、ダンサーは一度もせりふをしゃべったことがないという状態で集まっていますから。まずは小野寺の肉体訓練の方法をみんなでやりながら、稽古を進めました。ただ、始まってみると、いい意味でダンサーは役者を、役者はダンサーを意識しながら成長できて、3年経った今ではどちらがどちらというのも分からないくらいになりました。トーンが揃うってこういうことなのかなと思います」(藤田)。

シンプルな舞台空間で、それぞれに異なる身体が息を合わせ織りなすアンサンブル。そのうねりが、物語に豊かな陰影をもたらす「白い劇場」。以後、同シリーズは、カンパニーデラシネラの活動の核とも言える存在へと成長していく。平成28年1月にはベトナム、タイでの海外公演『もう一つの話』を敢行、続く3月には『椿姫』を上演、舞台芸術の口コミサイト「CoRich舞台芸術!」の企画(CoRich舞台芸術!まつり第9回(2016))でグランプリも受賞した。

2017_blog_long-grant_2「椿姫」(C)伊藤華織

「それまではデラシネラでも、アジアに対してはあまり目が向いていなかったと思います。でも、この時のハノイでの公演とワークショップをきっかけに、今年の9月にはKAAT神奈川芸術劇場で(日越のダンサーが共演する)『WITHOUT SIGNAL!信号がない!』という作品を発表することにもなり、少しずつ、活動の場所も視野も広がってきました」(藤田)。「僕と藤田だけじゃなく、メンバーとみんなで行こうという判断があったからこそ、今があると思うんです。また、そうやって、自分の中にはなかった、あったとしてもなんとなくの興味でしかなかったことが、形を持って、継続するものに育つのはとても嬉しいことです」(小野寺)

公演のたびにオーディションが行われるため、いわゆる固定の、所属メンバーはいない。それでも「白い劇場」が、単なるシリーズ名ではなく、自他共に「カンパニー」と呼ばれて違和感がないのは、一人ひとり自立した表現者たちが活動を共にする場、あるいは、そうした理想を可能にするための機能を持った場としての充実を深めてきたからだろう。長期助成対象であった第1作の『分身』から間を置かずして参加した六本木アートナイト2015での『ある夜の出来事』には、5人の俳優、ダンサーが続けて出演。以後、瀬戸内国際芸術祭での『URA-SHIMA』(平成27年10月)、高知県立美術館『ドン・キホーテ』(平成29年3月)などのクリエーションにも「白い劇場」のメンバーが参加している。

2017_blog_long-grant_3「URA-SHIMA」

また、小野寺が振付を担当する舞台作品へのアンサンブルとしての出演、振付助手としての参加の機会も多数あり、若手の自立を助けることにつながっている。さらに3年目からは文化庁の巡回公演事業(文化芸術による子供の育成事業)にも参加するなど、その活動は、アーツカウンシル東京の助成対象となった活動にとどまらぬ広がりを見せている。本年6月の新国立劇場での『ふしぎの国のアリス』は「白い劇場シリーズ」の若手に興味を持ってもらえたことがキャスティングの発端であり、来年公開予定の映画(監督:滝田洋二郎)にも劇中舞台に出演する予定だ。「最初に2か月の集中稽古をした時に、いざ、始まってみるとみんなが夜中にバイトをしていたということがあって。それ以来、どういうふうにカンパニーのメンバーが食べていくかということも大きな課題になったんです」(藤田)。「ただ、今のような活動をどう持続するのか、発展させられるのかに関しては、いまだに試行錯誤しているんです。この3年は、生活していくこともちゃんと踏まえたうえで、どういうスタンスを持って表現に取り組むか。経験する場所を増やすことを試そうという時間でもありました」(小野寺)

平成29年3月の『小品集』(浅草九劇)をもって、「白い劇場」は、長期助成プログラムの対象としての活動をすべて終え、いったんの区切りを迎えた。だが、その活動は今後も継続されるという。振り返れば、今回の報告は、3年間の活動の紹介のみならず、集団創作のあり方や若い表現者の生活の問題など、舞台芸術をとりまく環境の課題発見と解決への試みを示した貴重なプレゼンテーションともなっていた。彼らが今後、どのように発展を続けるか。助成の意義を自ら掘り起こし、活動を発展させたロールモデルの一つとして、その行方にも注目していきたい。

2017_blog_long-grant_4「小品集」(C)伊藤華織

第2部:深堀りインタビュー“どんな変化が起きたか?”

報告会の後半では、アーツカウンシル東京の助成業務を担うプログラム・オフィサーを司会に、3年間の活動について、より詳細な内容、成果について聞くインタビューも行われた。新たな出会いを求めて始まった集団の3年間には、どのような喜び、悩みがあったのか。アーティストの生の声を紐解く。

―――若い人たちと新しいカンパニーをつくり、公演回数を増やしつつ、経験値を高めていきたい、というのが今回の長期助成に伴う「白い劇場」シリーズの活動の原点とお聞きしました。それはまた、鑑賞の機会を増やし、ご自身の作品、ひいては舞台芸術を、より多くの人にとって身近なものにしたいという願いでもあったと思います。このシリーズでは実際に、チケット料金を安価にするといった工夫もしつつ、新しい観客の開拓にも挑まれたわけですが、その手ごたえはいかがでしたか。

小野寺 値段を下げたことで、どんな変化がどのくらい起こっているか、僕は(制作面の)詳細については分からない部分もありますが、少なくとも負荷を減らして敷居を少し下げることはできたんじゃないかと思います。安いからって来てもらえるわけではないんですが、高いと来ないという人もいますよね。カンパニーのメンバーからも、このくらい(一般前売3,000〜3,500円)の金額だと「来て」と紹介しやすいと喜ばれました。

2017_blog_long-grant_5小野寺修二さん

藤田 1年目は「プレビュー」の日を1日設けて、2,000円という値段設定をしてみました。ただ、それは安すぎたような気がするんです。値段を下げたからといって、すごく販売状況が動くということでもないなという実感がありました。3年間、ほぼ同じメンバーで活動し、お客さんの反応を見て、値段の設定については、むしろ「安ければ安いほどいいというものではない」とも感じるようになりました。

―――以前から聴覚障害の人々とのワークショップや公演に取り組んでこられたデラシネラですが、2年目の『椿姫』では、そういった方々も多く来場されたそうですね。開演前にストーリーを説明したテキストを読んでいただいたりといった工夫も交え、楽しんでいただけたとの報告を受けました。ほかにも、中高生チケットの設定など、裾野を広げる工夫はされていたと思いますが、新たなお客様が増えていると感じたり、あるいはリピーターを生んでいるといった実感はありましたか。

藤田 いろいろなことで「結果が出た」というまでには至っていないのが正直なところです。特に中高生にはもっと観てもらいたいという気持ちを持っていますが、開拓しきれていないので、これからもチャレンジは続けたいと思います。
小野寺もちろん、僕らが(創作面で)頑張るというのが第一条件だとは思います。でも、より期待を持ってもらいたいし、そのための宣伝をしていく必要があるだろうと。特に、生で観る喜びをうまく伝えられたらいいなということは、この企画に限らず、常に考えていることです。

カンパニーづくりを通し、表現者の価値を高めたい

―――助成をさせていただいたのは「白い劇場」の都内、海外での公演活動のみですが、そこから派生する形で、同プロジェクトのメンバーと、文化庁の学校巡回プログラムを始められました。

小野寺 小中学校を対象に、去年は14校、今年はつい先日まで、21校でワークショップをしました。今年のワークショップは大庭さんに中心となって回ってもらいましたがどうでしたか?
大庭 僕らの創作の様子を紹介しつつマイムを経験するというようなプログラムなんですが、面白ければ食いついてくるし、つまらなければ一気に離れていくというような、小・中学生のならではの素直な感覚と触れ合えることは、僕らにとってもすごくいい経験になっています。学校の先生たちには「こういうところで、本物のパフォーマンスをできる人と会えるのはすごくうれしいです」というふうに言っていただくことが多いですね。そういう期待に応えられるような公演をしなきゃという想いと同時に、やはり僕らが行かないと観られない環境にいる人もたくさんいることも実感しました。やっぱり「劇場でやるから来てください」というだけじゃなくて、僕らが行かないといけない。舞台に立つ者として、「もっと外に出て行かなくちゃ」という意識が生まれた気がします。

2017_blog_long-grant_7「URA-SHIMA」

―――小中学校での公演のほかに瀬戸内海の犬島での野外公演(『URA-SHIMA』)もされていますね。実際に劇場とは異なる場所に「行く」ことで見えてきたことはありますか。

小野寺 先ほどの値段設定の話もそうですが、知らず知らずのうちに当たり前になってしまっていることを踏襲しているようなことって多いんです。たとえば、犬島の海辺では波音や風でせりふが全然伝わらない。で、マイクを使うんだけど、そこにも風の音は入っちゃう。それから小学校でのプログラムの場合は体育館が会場ですけど、そこだって立派な照明も音響もないから、ただ、その場でひたすらやるだけ。そこで重要なのは、すごく、役者自身の身も心もさらされてしまうことだと僕は思います。どんなところでもいきなりバッと立たされて、そこでちゃんと立っていられるっていうのが、そもそもの舞台、役者なんだけど、劇場でいろいろな効果が補足してくれると、なんとなく立てちゃったりもする。ところが、なんの飾りもなく、小学生の前でパフォーマンスをさせられて、「つまんない」と言われちゃったりすると、「あ、俺、つまんないんだな」って、僕自身も含めて、改めて気がつかされる。普段、劇場の舞台の上で「なんでお客さん来てくれないのかな」とか、「この照明もお金かかるよね」とか言ってるんだけど、そういうのもよくよく考えたら勝手な話で、お客さんには関係がないんですよね。そういうことにも気がつかずに、当たり前のように公演をしちゃってきたということが、この3年ですごく見えてきたと思います。

―――それはとても貴重な体験ですね。この「白い劇場」シリーズを始める際にも、舞台装置や効果については、できるだけそぎ落としていきたいとお話しされていました。何かのテクノロジーを使って視覚的なインパクトを提供し、驚かせるのではなく、どれくらい身体の修練を重ねていくかということですよね。実際に1年目には2か月にわたる集中稽古もされています。そうした密度の高い訓練、創作の時間が、今おっしゃったような野外や学校への巡回公演での発見につながっているのではないかとも思います。また、先ほどのチケット料金の話、そして学校公演のことなど、創作と同様に、作品の届け方についての試行錯誤をされていたことも、「白い劇場」のカンパニーとしてのあり方を探るのに、重要な役割を果たしたのではないかなと感じました。

小野寺 「白い劇場」という名前を持って、いろいろなことを試し、形にしていくなかで、新しい舞台のあり方や、役者やダンサーが存在できる可能性というものも見つけられました。たとえば、コンテンポラリーダンスって、集客の問題もあって、1か月かけてつくっても、公演回数は4、5回ということが多いんです。それでまたしばらくして、また1か月つくって4、5回……。つまり年2回公演するとして、8〜10回しか本番の舞台に立てていない。それでお金をもらって「プロです」というのは、僕は「ちょっとなくない?」という気が、ずっとしていたんですね。それで、とにかく人前に出たらいいというか、出ることで強くなれるかもしれないということで、「白い劇場」のメンバーには、外部の舞台のアンサンブルや振付の仕事にも参加してもらうようにしました。だから、今日ここに来ている崎山、それから今日はいませんが、王下(貴司)の二人は、去年、年間100ステージ、3日に1度は舞台に立っていました。やっぱり、そういう経験をしないとわからないこと、気づけないこともあると思うんです。
これはもう、被害妄想に近いんですが、舞台なんて誰でも出られるといえば出られるし、今どきのワークショップでは「みんなでやりましょう」というようなものが多いでしょう。だからどこか、憧れられていない気がする。でもやっぱり、僕自身が「やりたい!」と思った時のように、「うわ、すげえ、こういうのやってみたい」って思われる団体、そういう活動をしていきたいと思うんです。それこそ誰にでもできることじゃないし、だからこそ続けていきたい活動になるんじゃないか。そうすればきっと、誰かがワクワクして、憧れてくれるかもしれない。最初にこのアーツカウンシル東京に来て、プロジェクトについてお話にした時にも、そういうことを熱く語った気がします。

※後編はこちら

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