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アーツカウンシル東京ブログ

アーツカウンシル東京のスタッフや外部ライターなど様々な視点から、多様な事業を展開しているアーツカウンシル東京の姿をお届けします。

アーツアカデミー

アーツカウンシル東京の芸術文化事業を担う人材を育成するプログラムとして、現場調査やテーマに基づいた演習などを中心としたコース、劇場運営の現場を担うプロデューサー育成を目的とするコース等を実施します。

2018/02/02

アーツアカデミー2017レポート第5回:アートのリサーチ、その実践的手法を考える [ゲスト:稲村太郎さん]

アーツカウンシル東京が2012年から実施している「アーツアカデミー」。

1年を通してアートをめぐるリサーチを行いながら、東京都の文化政策や助成制度を知り、芸術文化活動の評価のあり方について考え、創造の現場が抱える問題を共有するアーツアカデミーは、これからのアートの世界を豊かにしてくれる人材を育てるインキュベーター(孵化装置)です。

当レポートでは、アーツアカデミーの1年をご紹介していきます。



今回のゲストは、1回目の研究会にお招きした林立騎さんと同じく当アーツアカデミーのOB、稲村太郎さんです。稲村さんは、前回の研究会のゲスト片山正夫さんが理事を務めるセゾン文化財団で、滞在型創作活動を支援する〈アーティスト・イン・レジデンス〉の仕事や海外のアーツマネージャーを招いて日本の舞台芸術を紹介する仕事などを行うとともに、シンクタンクのニッセイ基礎研究所では文化政策に関するさまざまな調査・研究に携わっています。

国や地方自治体、劇場からの依頼で、今後の事業を考える材料になるようなリサーチをされている稲村さんからは、調査・研究の進め方について、具体的なアドバイスをもらえそうです。

走りはじめる前にゴールをイメージすること

アーツアカデミーの活動期間は約半年。調査研究員はこの間に自分で設定したテーマについて調査・研究をし、最後にプレゼンテーションを行うことになっています。

「テーマの幅が広すぎたり、到達地点がある程度イメージできていないと、研究は成立しません。研究期間には限りがあるので、テーマを考える際は、まず〈リサーチ・クエスチョン〉に落としこんでいくのがいいと思います」

リサーチ・クエスチョンとは、What(なにを)、How(どうやって)、Why(なぜ)といった、研究テーマに対する〈問い〉のこと。この問いに答えられるテーマを設定できないと「悪夢を見ることになる」と稲村さんは言います。

先行する類似調査を知っておくことも重要です。自分の扱いたいエリアですでに多くの研究がなされている場合と未開拓の分野である場合とで、調査の手法やデータ収集の方法も変わってくるからです。インタビューやアンケート、文献調査、観察調査など、自分の研究にフィットする方法を探り、実際にデータを集め、出てきたデータを分析する……。稲村さんは、この一連の作業をプレゼンのひと月前には終えておいた方がいいと言います。というのも、そのあとの作業がアーツアカデミーの〈肝〉だからです。

「研究のゴールは各自が設定すると思いますが、プレゼンの相手がいるということは、その研究の背景にはアカデミーのねらいがあるはずです。アーツカウンシル東京の場合は、新しい支援の方法について考え、提案するということなので、最終的には〈提言〉をつくることを目指すのがいいと思う。ここが重要な部分になるので、じっくり取り組んでほしいですね」

各人がそれぞれの立場で、さまざまな問題意識をもって参加しているアーツアカデミー。調査研究員個々人の研究は、これからどう〈提言〉とリンクしていくのでしょうか。稲村さんは「最後のプレゼンはResearch Process(調査過程)ではなくFindings(発見)重視で。調査の流れを長々と説明しても、飽きてしまいますから」と、聞いてもらえるプレゼンのテクニックも教えてくれました。

新しいアイディアと実現可能性の間で

調査研究員たちは、いま、自分の研究したいテーマについてゲストや他の調査研究員に説明し、さまざまなリアクションをもらいながら、試行錯誤を重ねている最中です。

セッションの後半は、それぞれの研究テーマについて、なぜそのテーマを選んだのか、いまどのあたりまで進んでいるのか、なにに迷っているのか、順番に話してもらいながらディスカッションを行うことにしました。「みなさんはこのテーマについてどう思います?」参加者全員にそう投げかけながら、稲村さんはアドバイスを挟んでいきます。

調査研究員:「実現できる可能性が低そうな提案だと、単なるアイディアで終わってしまう気がしていて」

稲村:「もちろん実現不可能な提案はよしたほうがいい。でも、あまりリアルにしすぎると、提案される側も同じようなことをすでに考えている可能性がありますよね。たとえば東京都の文化政策を考えるとき、直近の戦略を考えることもあれば、10年後を見据えたヴィジョンを考えたり、いろいろなフレームワークがある。2~3年では変わらないようなことなら、10年後の東京の姿がどうなっているかをイメージしたビッグアイディアを提案するのもありかな」

調査研究員:「いろいろなジャンルのアーティストが出会って、新しい企画が立ち上がってくるような場を生みだすこと、そしてアート関係者じゃない人たちも巻き込んで、コミュニティの活性化につながるような〈場づくりプロジェクト〉ができないか」

稲村:「それならビジネスプランをつくるというやり方もあるかもしれない。モデルになるような事業をリサーチした上で事業計画を立て、そのプランからどんなことが起きるのか、ストーリーをつくって、実現可能性を検証するというやり方。数年前に新しいフェスティバルを立ち上げるための事業計画書をつくるという調査研究があったので、参考になるかも」

この会議室からなにかが生まれようとしている?! ……そんなエキサイティングな予感が充満するなか、予定を大幅に延長して行われたセッションは、「個別に質問してきてくれたら相談に乗りますよ」という稲村さんの心強い言葉でようやく幕を下ろしました。

これまでのセッションを受けて調査研究員たちの研究もだんだんと焦点が絞られてきたようです。次回のレポートでは、各人の研究テーマとリサーチの進み具合について、最終プレゼンに向けた中間研究発表会の模様をお届けします。どうぞお楽しみに。


<ゲスト>
稲村太郎(いなむらたろう)
株式会社ニッセイ基礎研究所芸術文化プロジェクト室准主任研究員/公益財団法人セゾン文化財団プログラム・オフィサー
1976年生まれ。高校生の時に見た「人間の条件展」(スパイラル)に衝撃を受けて、アートの世界に興味を持つ。大学では芸術学を専攻する傍ら、都内クラブでDJとしてイベントをオーガナイズする。民間の文化施設で現代美術展の企画・制作に携わり、その後、渡英。英国ではトニー・ブレア政権以降の文化政策の推移や評価、クリエイティブ産業の経営学について研究する。

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