DANCE 360 ー 舞踊分野の振興策に関する有識者ヒアリング
今後の舞踊振興に向けた手掛かりを探るため、総勢30名・団体にわたる舞踊分野の多様な関係者や、幅広い社会層の有識者へのヒアリングを実施しました。舞踊芸術をめぐる様々な意見を共有します。
2018/07/24
DANCE 360 ― 舞踊分野の振興策に関する有識者ヒアリング(11)東急不動産ホールディングス株式会社 坂東太郎氏/ニューポート法律事務所 齋藤貴弘弁護士
2016年12月から2017年2月までアーツカウンシル東京で実施した、舞踊分野の多様な関係者や幅広い社会層の有識者へのヒアリングをインタビュー形式で掲載します。
DANCE 360 ― 舞踊分野の振興策に関する有識者ヒアリング(11)
東急不動産ホールディングス株式会社 グループ経営企画部 坂東太郎氏
ニューポート法律事務所 齋藤貴弘弁護士
インタビュアー:アーツカウンシル東京 企画室企画助成課、宮久保真紀(Dance New Airチーフ・プロデューサー)
(2016年12月14日)
──街づくりとアートにかかわる体験について教えてください。
坂東:2003年頃ですが、国土交通省さんの地下共同溝という、電気などのインフラを通す施設がありまして、その施設を広く世間に知らせようとする趣旨で、当施設を活用したイベント「東京ジオサイト」※1 というイベントが開催されていました。地下40メートルの深さなのですが、底の部分に到達するまでに、太いパイプなどが壁に沿ってたくさんはっており、(大友克洋の漫画)「AKIRA」に登場するワンシーンのような空間になっていました。その空間を使い、野村萬斎さんを招いて能が演じられるというイベント ※2 で大変衝撃を受けました。
当時はまだ20代で、現在勤めている仕事ではなく、建築や都市計画を企画・設計する仕事に携わっており、趣味の音楽と街づくりが融合された空間をビジネスにできないかと悩んでいた時期でした。
そのイベントはその後何回か開催され、私も企画に少し参画させていただいたりして大変貴重な経験でした。国土交通省さんのような謹直なイメージの行政機関が、こんな「AKIRA」のような施設で遊び半分のような、それでいて文化的なイベントを実施する、というそのイメージギャップが人を惹きつけるのだ、とその時は理解しました。
──あり得ないシチュエーションで、あり得ない演出に魅力を感じるということについて。
坂東:その後も、SNSなどを通じて地下都市研究会なるコミュニティーをつくり、知らない人たちと使われていない地下鉄の駅見学イベントをしたり、情報交換をして「ありえないシチュエーション」の研究にはまりました。重ねて言いますが、当時は20代でいわゆるサラリーマン的な仕事ではありませんでした。
歌舞伎とか能とかというのは、その時代にしてみると、我々でいうもしかしたらクラブみたいなものかもしれないですよね。(坂東)
──今日の芸術文化の現状や課題についてどうお考えですか。
坂東:例えば歌舞伎とか能とかというのは、その時代にしてみると、我々でいうもしかしたらクラブみたいなものかもしれないですよね。それを長く愛し続けられることで伝統芸能になっているのではないかなと思うのです。伝統芸能が衰退しているとは思いません。人口が増えたのはここ100年か200年ぐらいで、グローバル化も進み、多種多様な文化が入り込んだり新しく生まれたりすることで、伝統芸能が相対的に人々からの注目度が薄れているように感じられるだけかもしれません。新しいものから外国のものまである中で、やっぱり日本人としてはこれだな、というものが時代の変化に応じて進化してゆき、深みが増してきたのではないでしょうか。
……基本の大衆文化というか芸能というのは変わらないんだけれども、その時代のスタイルや技術というか、いろんなものが合わさって変化している。例としていいのかわからないですけど、最近では超歌舞伎やフエルサブルータ。いいか悪いかというのは別として、いろいろな試行錯誤がなされていくうちに、また新しいものに変わっていくのかなという感じはします。
──今、モノの価値というのはどのように変わってきているでしょうか。
坂東:私の仕事の一つにメガトレンドを調べて、中期経営計画の前提条件を策定したり、毎月の市況を経営層に報告することがあります。今、ご存知のとおり、以前に比べて物が売れません。それは物がすでに生活の中で充足しているうえに、ハードを頻繁に買い替えたりすることより、ソフトに消費することが増えているからです。CDを買わなくなり、その代わり有料で曲をダウンロードしたり、有料のスマホアプリを利用したりしますね。インターネットを通じて手軽に消費する一方で、プレミアムな体験にはお金をかけます。家族や友達と旅行をしたり、めったに来ない外国人ミュージシャンのライブに高額なチケット料を払ってでかけたり、先ほどの地下イベントや新しいショーイベントを見に行ったりします。今音楽ライブ市場は世界的に右肩上がりで成長しています。モノの消費より、感動体験を求めているのではないでしょうか。健康になることや学習など、自分の成長につながることにもお金をかけています。旅行や音楽ライブ、伝統芸能も、視野を広げたり教養を磨くことができるので自己投資消費とみることができるかもしれません。すぐに飽きてしまうモノの価値より、自分を成長させることができるコトに価値を見出されるようになってきているのだと思います。
──では、場所の価値はいかがでしょうか。
坂東:本来、場の持つ力とコンテンツ提供者、芸能、音楽、観客は一体的な価値を生み出すものなのではないかと思います。現代はダウンロードした音楽をスマホで聞いたり家で聞いたりして、場所と音楽を切り離すことができますが、昔の芸能はそうはいかなったはずです。どこどこの寺で誰々さんが演舞するという話を聞くと、じゃあ、行こうか、というふうに、演舞者と演舞内容だけでなく場所の価値も一緒だったのではないかと思います。
齋藤:コンテンツだけだったら、家で十分に楽しめてしまいます。コンテンツに加え、コンテンツが展開されるシチュエーションや空間に価値が生まれ、その場で得られる体験の面白さに惹かれて人が集まってくる。場といっても立派なハコが必要なわけではなく、いわゆるユニークベニューというのがひとつのトレンドになっています。もちろん、コンテンツがないがしろにされてはならないと思います。コンテンツありきで、そこに場の意外性を掛け合わせていく。コンテンツと場が一体となって面白い体験価値を生んでいくのが、インターネット以降、広がっているように思います。
坂東:例えば美術館とか博物館で何の演出もなく、ただ展示するだけだと、資料を保存しているだけですよね。お客さんはその保存されている資料を見に行くだけになり、その美術館や博物館がどこにあろうと、どのような建築デザインであろうと、関係がなくなってしまいます。そうではなくて、その資料の内容と、場所と、建物のデザイン、雰囲気、建築された背景などの要素が混ざり合い、人の記憶に残り、刺激になるのではないかと思います。演劇や音楽であれば、現代では劇場やホール、ライブハウスやクラブで演奏を聴くことになりますが、クラシックのコンサートを国内のコンサートホールとスペインのサグラダファミリアで聞くのとでは違いますよね。薪能を名のある神社の庭で体験するのとホールで聞くのとは違いますよね。
日本って道の文化だったようです。西洋で言うところの広場が日本での道だったのではないかと思います。だから、道でいつも何か催し物があった。(坂東)
坂東:劇場やホールのような、ハコで演奏を聴くという文化は、もともと西洋の文化ですよね。昔、大学でも研究したことがあるのですが、日本は道の文化だったそうです。西洋で言うところの広場が日本での道だったのではないかと思います。だから、道でいつも何か催し物があった。お祭りや、見世物など、道が広場の役割でした。もちろん人通りの多い道だったはずですが、現代のようにハコで囲われるものがあったわけではなく、町に溶け込んでいたそうです。
……アフリカからシルクロード沿いの国々の伝統芸能が混ざった伎楽 ※3 というものがありまして、その伎楽を紹介するイベントが2001年ごろ、新宿都庁周辺で開催されていました。都庁周辺を様々な異国の格好をした人たちが演奏をしながら練り歩いてました。これは、すごくおもしろいなと当時刺激を受けました。アジアの伝統芸能はやはり道を舞台とした文化だったのだ、と納得しました。
……だから、昔の人たちは今でいう伝統芸能を、伝統芸能としてみたり聞いたりしていたわけではなくて、その時代の人々の思いなどが、トレンドとして道で踊りと音楽となって表現されていたことを考えると、今の時代で言うところの、ストリートミュージシャンかもしれません。
コンテンツと客層まで考えて計画しないと、エリアの価値は上がらない。(坂東)
坂東:話を戻すと、大きな箱をつくって、たくさんの人を呼ぶために、マス向けの音楽を誘致するということばかりだと、確かに人はたくさん来て、周辺の飲食店などがうるおって、その周辺だけはお店が繁盛して、場の価値が上がったように見えますが、実は価値の質が違うのではないかと思います。
街づくりの手法として、大きな箱を作ればその周辺の賑わいに貢献する、と思われがちですが、コンテンツと客層まで考えて計画しないと、エリアの価値は上がらないと考えています。
齋藤:マスは、どんどん成り立ちにくくなっていくと思います。小さいけど多様な分野が並列的に存在していく。今まで、1000人のコミュニティが1つあったのが、100人のコミュニティが10個になり、さらには10人のコミュニティが100個となっていく。細分化はされていくけど、総量は変わらないんだと思うんですよね。それが全体として多様性で豊かな方向に向かっていけばいいなと思います。そうすると。大きなキャパの会場ありきだと、そこにコンテンツをはめないといけなくなり、だんだんつらくなってくるんですよね。大きく立派なハコもいいんですけれども、もっと身近な空きスペースというのをうまく使ったりするのがマッチするように思います。あとは、たくさんのコンテンツを入れこめるフェスティバルをやったり。表現の場所というのはスケールも含め重要だと思います。
坂東:VR市場も開けてきて、家で音楽とライブを楽しめるようになるのでしょうが、そうなるとますますリアルな場所の持つ価値というのが高まりそうですね。「その場所に行く」、その場所で何を「体験」して誰とどんな「会話」をするのか、がより一層、その時限りの貴重な価値になってくるのだと思います。
──伝統文化と現代文化について、どのように見えますか。
坂東:ニコニコ超会議2016で行われた超歌舞伎 ※4 に限らず、伝統芸能と現代テクノロジーの融合を最近よく見かけます。ここ数年、外国人がたくさん日本を訪れるようになりましたが、外国人の目から見てとても価値がある日本の伝統文化、例えば相撲や歌舞伎、絵画などは、今の若者含めて日本人にも、以前より関心が高まっていると思います。
…… 2016年に東急文化村で開催された国芳展 ※5 を見に行きましたが、単に展示するんじゃなくて、コメント、解説に若者が理解しやすい解釈を加えていました。わかりにくい浮世絵を、現代と共通した言語で結びつけることで、江戸時代の価値観を共有できて、さらにまた新しい表現の仕方が登場してくる、そういうサイクルが必要なのかなと思います。
http://chokabuki.jp/2016/
齋藤:そこの橋渡しが重要だと思います。例えば、古典芸能と、今のエンターテインメントやカルチャーが実は連続している部分は大いにあると思うし、その連続性が歴史ある日本ならではの強みだと思います。ジャンルでも、例えば、コンテンポラリー・ダンス、テクノ・ミュージック、メディアアートは、テクノロジーを介して繋がっていっているように思います。歴史的な文脈だったり、ジャンルのタコつぼを繋げ、再解釈し、キュレーションしていくことは、今とても面白いと思います。
──商業と芸術など、さまざまな分野や価値観などの分断を繋ぐ仕組みが必要ということですね。
齋藤:そのような仕組みがメディア求められているように思います。タワーレコードの社長だった伏谷博之さん(現「タイムアウト東京」代表取締役)から、当時、タワレコの売場を作るとき、各音楽ジャンルのタコつぼをどう接続し、動線を作るかということを考えていたという話を聞いたことがあります。例えば、ある作品を入り口にして、そのルーツとなるような作品へ、あるいはメジャーな作品から派生するマニアックな世界に入っていけるような動線をひいていく。CDの時代が終わり、今は、CDショップから街にフィールドを移し、タイムアウト東京というシティガイドを使って、街を舞台にコンテンツや体験をつなげていっているんだと思います。
わざわざ見に行くのであれば、その場所の意味とダンスの意味が掛け合わさって違う価値になったものを見に行く。(坂東)
──今、様々な芸術表現がある中でのダンス分野を、どのよう見ていますか。
坂東:ピコ太郎さんのように、踊っている内容が云々ということではなくて、キャッチーで、人の心を捉えるものは、メディアを通して一瞬で広まります。先ほどの話を引用すると、昔は“道がメディア”と例えられるならば、“よさこい”などを道で見て、自分も踊ってみようとなったのだと想像します。それが、今はYouTubeであったり、インターネットメディアが“道”になっているのだと思います。YouTubeで流れているダンスや踊りの映像はピコ太郎に限らず拡散力が高いですよね。ダンスや踊りは、人を魅了したり、心をつかむことについて昔から不変なのではないでしょうか。現代は家や通勤電車の中でも、いつでも見ることができてしまう。どこかに見に行くのであれば、その場所に行くことの理由が必要になってきています。そういうことから、先ほどの「場の持つ力」とダンスが掛け合わされた価値が、YouTubeでは得られない価値としてとらえられるようになってきているのではないでしょうか。だから、単なるホールに見に行くのであれば、YouTubeで見ればいい、というふうになってしまう。わざわざ見に行くのであれば、その場所の意味とダンスの意味が掛け合わさって違う価値になったものを見に行きたいですよね。
──(瀬戸内国際芸術祭について)不便ということが、逆に価値になるという。わざわざ行きにくいところに行く、そういう差別化もありますね。
齋藤:これは、ビジネス的には理解しにくい話なのかもしれません。でも、G1文化研究会(G1サミット2014)で、福武さん ※6 のことが話題に出たのですが、国際的な会議やパーティなどで、日本でかなり稼いでる人たちを飛ばして、福武さんの元に、多くの著名人が集まるらしいんですよね。つまり、ビジネスより、アートという観点で圧倒的に知名度が高まっている。企業としての信用度とか認知度とかはお金じゃ買えないですけれども、アートにより圧倒的な人気や信頼を得ている。ビジネスに成功している人たちよりも知名度が高いというのは面白いと思いました。
宮久保:もともと直島の町長だった方が、人を育てるために文化的なものを取り入れようということで、あの場所を福武さんと何か一緒にできないか、それに建築という要素を入れてという発想が、30~40年前の昭和40年代にすでにあったそうです。2016年の瀬戸内芸術祭で発表されていました。まちづくり、人づくりに、教育面とか、社会が求めているような視点を組み込む必要性を、その時代の人も持っていて実現していたんだなって。やっぱり、数年で結果を出そうって、どうしても慌ててしまうんですけど、10年、20年、30年先ぐらいのことを考えながらということが大事だなと。
──新しい文化を生み出すための投資についてどのようにお考えでしょうか。
齋藤:アソビシステム ※7 は、今すごく勢いがあり、クラブ業界が落ち込んでいるなか、クラブイベントもすごく集客がある。でも、それは別に、アソビシステムだから、きゃりーぱみゅぱみゅが流行ったからとか、中田ヤスタカという才能が突然出てきたからではなく、かなり時間をかけて、若いDJやアーティストを育て、さらには10代の子でも遊べるような場所を昼間の時間帯でつくったりしてお客さんも育てて生きている。一発屋ではなく、地に足がついた投資や取り組みを継続しているがゆえの強さだと思います。
アートだと投資に対するリターンが見えにくのかもしれません。この点で、Night Mayor Summit ※8 に行った際、ヨーロッパのクラブシーンの人たちは、見えにくい価値を言語化しているのが印象的でした。例えばクラブの売り上げ自体は、数字としては大したことはないのかもしれない。では、何を自分たちの価値として捉えているかというと、そこに来た人たちに何かインスピレーションを与える。そこは、ファッションでもITでも建築でもデザインでも、要はクリエイティブ産業に携わる人たちが集まって、音楽を介して、また様々な人が交わることで刺激を受ける。ドリンクの売り上げが重要なのではなく、そのインスピレーションを与えることで、各人が自分の仕事を面白くしていく、ひいてはクリエイティブ産業全体を面白くしていくことに価値がある。クリエイティブ産業全体の生態系的な価値という意味で、シーン・エコノミーという言葉で価値を語っていました。
坂東:私の仕事の一つに新規事業の企画や支援をすることもあるのですが、事業創造のプロセスは、アートと共通点が多いと思います。なぜなら、それが成功するかどうかわからないということと、お客さんなどの受け手側に、発信側の提供する新しい価値を認めてもらう必要があるからです。ただしアートは、受け手側に認められなくてもよい、自分の表現したいものを表現するだけということもありますから、まったく同じではありませんね。
価値を見出すことができれば、エリア全体の価値向上に資するものとして、不動産投資として面白いのかもしれない。(齋藤)
──ビジネス分野の新規事業などで、これは本当にクリエイティブで新たな価値をつくったと言えるものはありますか。
坂東:2014年に高架の有料高速自転車道というものを企画 ※9 して、様々な行政機関に提案したことがあります。有料なので自転車道の入場料と、不動産賃貸業を組み合わせたビジネスモデルですが、もちろん過去の事例がないこと、多くの地権者や自治体と協力をしないといけないということにおいてハードルが高すぎました。しかし案をきけば「いいね」と言わない人はいませんでした。ハードルが高いことは初めからわかっていましたので、このチャレンジはある意味アート活動に近かったと思います。もちろん実現できず、ドリームプランとなりました。
齋藤:B to C的な自転車の入場料収入というより、都市の新しいインフラとして、B to B的な幅広い価値がありそうな気がします。移動手段という意味でも、ライフスタイルという意味でも、自転車は今のトレンドにマッチしています。そのような価値があるインフラがあることで、様々なエリアが繋がり、人が流れやすくすることで消費も刺激し、また文化的な向上も見込まれるかもしれない。そこに価値を見出すことができれば、エリア全体の価値向上に資するものとして、不動産投資として面白いのかもしれない。エンターテインメントや文化の活用の仕方としても、券売や物販というB to Cモデルより、そのエリアの価値を向上させたり、周辺経済への波及効果を大きくする方が可能性を感じます。
坂東:東急グループでは、今、「エンターテイメントシティ」をコンセプトに渋谷の街を大改造していて、クリエイターやイノベーターが集まる街にしようとしています。新しくできるビルはもちろん、古いビルも活用してベンチャー企業を誘致したりなどしています。2017年からは弊社グループや渋谷の街とのシナジーを見込めるベンチャー企業に出資するプログラムも組成しました。渋谷はもともと、遊ぶスポットも働く場所も、住む場所もカオティックに混在する街で、かつ東急グループが文化を創出してきた歴史もあります。そうした、すでに地のある街に対してさらなるエリア価値を高める施策として、こうした取り組みを行っているのです。ベンチャー企業はまだそこまで高い収益をあげているわけではありませんので、当然、不動産オーナーとしての立場では、賃料収入が低いベンチャー企業よりも、賃料収入が安定する大企業を誘致したいはずですが、クリエイティビティの高いベンチャー企業をたくさん誘致することで、エリアの価値向上につながると考えているのです。
https://www.youtube.com/watch?v=txl3NYR4nTw&feature=youtu.be
(東京は)世界をもっとハッピーにする役割を演じるべきではないかと思います。強権的なアジアのリーダーではなく、どの国の人々からも愛され、世界の平和にもっと貢献できる。(坂東)
──街の中での芸術の役割としてどういったものがあると思われますか。
坂東:冒頭に、日本は道の文化の話をしましたが、道は舞台であり、広場であり、交流の場でもあります。かつての商人は道で大道芸や出店を出すことで本店に人を呼び寄せました。それが文化となっていたのだと考えられますし、それは現代も同じです。渋谷でもスクランブル交差点を起点にしてハロウィンイベントなどが開催されて、それがYouTubeで広まって、さらに人が集まって、企業はそれを広告に利用したりします。芸術と企業広告は昔から切っても切り離せないものだったと考えると、街における芸術の役割はとても重要だと思います。逆に芸術やアートが感じられない街は無味乾燥で、とてもシステマティックな社会という感じがします。そのような街は不動産価値が低く、デベロッパーとしても積極的に芸術やアート、遊びの要素を取り入れた街づくりをするべきだと考えていますし、そうしていると思います。リチャード・フロリダ氏「クリエイティブ都市論」 ※10 によると、クリエイティブな人が集まる都市はほかの都市に比べて競争力が高く、更なるクリエイティブ・クラスを集めるということだそうですが、そのような考え方に同感します。
──日本全国の中の東京というものの役割はどのようなものでしょうか。
坂東:東京はすでに日本の中の東京というより、世界の中の東京としての役割を担っていると感じています。日本全体としては、人口は縮小し、世界の中で経済的な位置は中国にも抜かれてしまっていますが、成熟度は高まっていて、文化の面では逆に世界をリードしていると思います。それは日本食であったり、アニメや技術力だけではなく、日本人の精神であったり生活習慣が外国人に見直されています。その中でも、様々な文化を発信する東京のブランド力は高く、世界中の人が多く訪れています。初めて東京を訪れた外国人たちは、入り口となる東京で日本の文化に触れ、日本の文化をもっと知りたいと思って地方へ広がってゆく、東京は日本文化の入り口としての役割があると思います。東京はアニメや先端技術の宝庫というブランドイメージがありますが、そういった立場を利用して世界をもっとハッピーにする役割を演じることができるんじゃないでしょうか。強権的なアジアのリーダーではなく、どの国の人々からも愛され、世界の平和にもっと貢献できると思います。今、シリアやイエメンでは戦争と貧困で大変なことになっていますが、ポケモンGOを利用して子供達が世界の人たちに助けを求めていることが話題になっています。自国の経済を豊かにすることだけを考える時代はもう終わっていて、これからは、技術や文化で世界の人たちを幸せにすることに注力するべきだと思います。東京は世界から見た日本の入り口としての役割であるのと同時に、日本から世界へ発信するハブでもあり、世界の中でも、もっとリーダーシップを発揮できると考えます。
坂東太郎
東急不動産ホールディングス株式会社 グループ経営企画部
大学で建築を学び、その後建築設計事務所や商業施設コンサルティング会社、不動産投資会社を経験。2007年から東急不動産に勤務。商業施設の開発・運営や財務を経験後、現在の経営企画では新規事業企画、M&A、アライアンス等を担当する。
東急不動産ホールディングス株式会社:http://www.tokyu-fudosan-hd.co.jp/
写真:平間至
齋藤貴弘
弁護士
2006年に弁護士登録の後、勤務弁護士を経て、2013年に独立し、業務拡大に伴い2016年にニューポート法律事務所を開設する。
幅広い企業クライアントの法律業務を取り扱うとともに、近年は、ダンスやナイトエンターテインメントを規制する風営法改正をリードするほか、外国人の就労ビザ規制緩和などにもかかわり、各種規制緩和を含む各種ルールメイキング、さらには規制緩和に伴う新規事業支援にも注力している。
https://newport-law.com/