ライブラリー

アーツカウンシル東京ブログ

アーツカウンシル東京のスタッフや外部ライターなど様々な視点から、多様な事業を展開しているアーツカウンシル東京の姿をお届けします。

ACT取材ノート

東京都内各所でアーツカウンシル東京が展開する美術、音楽、演劇、伝統文化、地域アートプロジェクトなど様々なプログラムを外部ライターが取材し、現場の様子をお届けする取材日記です。

2018/08/31

Music Program TOKYO(1)ワークショップ・リーダー育成プログラム:音楽ワークショップのリーダーを育てる。長期プログラムの修了生インタビュー

2018年7月27日(金)、今回取材チームが訪れたのは、2013年から毎年行われている「ワークショップ・リーダー育成プログラム」。
音楽ワークショップの先駆的存在であるポルトガルの音楽施設「カーザ・ダ・ムジカ」と連携し、ワークショップをリードする人材を育てるプログラムです。

7月下旬の約1週間でカーザ・ダ・ムジカのワークショップ・リーダーによる基礎レッスンを受け、彼らが都内で行うワークショップを見学・参加。8〜11月はグループに分かれてワークショップを制作し、12月にそのワークショップを実際に開催するという流れです。

受講生のなかから選ばれた数名には、翌年1月以降にポルトガルのカーザ・ダ・ムジカで研修を受けられるチャンスも。修了後は東京文化会館でワークショップ・リーダーとして活躍できる機会もあります。

この日は講座5日目の基礎レッスン。来日したカーザ・ダ・ムジカのメンバー5名と約25名の受講生、そして過去の修了生が北区滝野川会館に集まりました。

受講生は現役の音大生、大学で器楽を専攻していた人、オーケストラ楽団員、ダンサーなどさまざま。18歳〜60代と年齢も幅広く、台湾や韓国出身の人もいます。

講座は座学ではなく実践が中心。リズムあそび、楽器や声を使ったアンサンブル、音楽を使ったゲームなど、カーザ・ダ・ムジカのワークショップに実際に取り入れられていたり、8月以降のワークショップ制作に役立つものばかりです。

レッスンとはいえ受講生たちはみんな笑顔で、実際のワークショップさながらの盛り上がり。楽しみながらスキルとコミュニケーション力を磨き、同時にアイデアの引き出しを増やしていきます。

修了生インタビュー

ワークショップ・リーダー育成プログラムでどのようなことを学び、その後どう生かしているのか。本プログラムを受講し、カーザ・ダ・ムジカでの研修生にも選ばれた野口綾子さん(2013年度修了)と、磯野恵美さん(2014年度修了)にお話を伺いました。


磯野恵美さん(左)と野口綾子さん(右)

──受講のきっかけは?

野口綾子さん(以下「野口」):大学時代は音楽学部で、幼稚園や病院で行うコンサートの企画に参加したり、リトミックの講座を受講したりと、音楽教育に関心がありました。卒業後に就職したのはクラシックの音楽事務所。子供向けのワークショップやコンサートの企画の仕事をするなかで、もっとアイデアがほしいと思ったのがワークショップ・リーダー育成プログラムの受講のきっかけです。

磯野恵美さん(以下「磯野」):大学でフルートを専攻していて、授業のひとつにワークショップや参加型コンサートの基礎を学ぶものがあったんです。その授業を通してカーザ・ダ・ムジカの活動を知り、卒業した年にこのプログラムを受講しました。

──基礎レッスン後の流れを教えてください。

磯野:わたしが受講したときは、基礎レッスンの終了後、受講生にそれぞれワークショップ・リーダーとフォローメンバーの役割が与えられ、2つにグループ分けされました。ここで講師陣は一旦帰国し、グループごとに12月の本番に向けてオリジナルのワークシップ創作に入るんです。わたしのグループはお盆明けくらいから、東京文化会館で練習を始めました。台本作りはもちろん、小道具や衣装のアイデアも持ち寄り、それをベースに専門のスタッフさんに製作していただいたり、アドバイスをいただきながら創作します。

野口:本番の1か月前くらいに幼稚園や保育園に行き、子供たちを交えて試験的にワークショップをやってみる機会がありました。そこで見えた改善点を踏まえながら、またブラッシュアップを重ねていくんです。

磯野:本番前にカーザ・ダ・ムジカの面々が再度来日し、創作したワークショップを見てもらいフィードバックをいただきました。

──厳しいことを言われたりもするのですか?

磯野:彼らのフィードバックは一方的な指導や押し付けではなく「これは僕の個人的な意見だけど、こうするとよくなるかもしれないよ」「どんどん試してみて」と任せてくれるスタイルなんです。ワークショップには正解というものがないからなのではないでしょうか。

野口:ただし音楽的な観点では、経験にもとづいた絶対的なヒントを頻繁にくれましたね。知識もスキルも、経験も豊富な彼らのアドバイスは実践的で、どれも役立つものでした。

──12月の発表はいかがでしたか?

野口:一般のお客様が親子連れで参加してくれたのですが、とにかく緊張しました。終わったあと、みんなで控え室に戻って「終わったー!」と床に寝転んでしまったくらい(笑)。でも子供たちは思った以上の反応を見せてくれて、キラキラした目で楽しんでくれたのがとてもうれしかったです。

磯野:わたしは参加者を目の前にしたら「もうやるしかない!」という感じで……始まったらあっという間でした。ワークショップをつくりあげるのは本当に大変でしたが、あのとき本気で頑張った経験がいまにつながっていると感じています。

──ポルトガルでの研修ではどんなことをしましたか?

野口:現地にいたのは1週間ほどでした。カーザ・ダ・ムジカでは施設内やアウトリーチで、毎日、音楽ワークショップを実施しているので、それを見学するのが主です。赤ちゃんから高齢者までいろいろな方を対象にしたプログラムがあって、その多彩さにおどろきました。

磯野:たとえば対象者が経済的、精神的になにか問題を抱えていても、カーザ・ダ・ムジカのメンバーはそれを全部とりはらって音楽を共有できる力をもっていて、ただただ感動しました。ノウハウというよりも、人間性や音楽家としての姿勢が大きな学びになりました。

──おふたりは現在、東京文化会館でのワークショップにワークショップ・リーダーとして参加されています。ふだん心がけていることはなんですか?

磯野:事前にどれほど準備をしても、やってみないことにはわからない部分も大きいので、あまり決めすぎないようにしています。その場に集まった人と楽しめるものをつくっていきたいので、「基本はAプラン、こういうことが起こったらBプラン」のように、できるだけ臨機応変にアレンジできるアイデアと柔軟性をもっていたいです。
そして、その時間がスペシャルになるようにしたい。ワークショップに参加したからといって、なにかのスキルが格段にアップするわけではないかもしれませんが、みんなで一緒に楽しんだ気持ちや音楽は確かにそこにあると思うんです。だから、参加者のみなさんやわたしたちが一番ハッピーになれる時間をつくりたいと常に考えています。

野口:わたしは「参加者に音楽の楽しさを感じてもらいたい」という想いをいつもベースに置いています。ワークショップで使う曲も「みんなが歌ったり演奏したりして楽しめる曲」「“素敵だな”と思ってもらえる曲」という視点で選んでいますね。
そう考えるようになったのは、忘れかけていた音楽の楽しさを育成プログラムで思い出したからです。クラシック、ワールドミュージック、ポップス等いろんなジャンルの音楽を使って、夢中になって歌ったり踊ったり、リズムを奏でたりするという時間がすごく久しぶりでした。上手い、下手に関係なく、誰もが楽しめる音楽の力を再認識できたことは、わたしにとってとても大きなできごとでした。

──ワークショップ・リーダーの醍醐味はなんですか?

磯野:面白さであり難しさでもあるのですが、「チャレンジできるところ」でしょうか。たとえば、参加者があるリズムあそびをクリアできたとして、プッシュしたらもう少しだけ難しいこともできるかもしれない。簡単にできることよりも、少しだけ上のレベルに挑戦できる場になるように、いつも心がけています。

野口:参加者と音楽をつくり上げているときに、みなさんが楽しんでくれているなと感じられる瞬間はほんとうにうれしいです。そしてみんなで、一生懸命なにかを表現しようとするエネルギーが感じられることも喜びのひとつです。

──育成プログラムでの経験は、ワークショップ以外での活動にも生かされていますか?

野口:裏方としてのコンサートやワークショップの企画の仕事ですごく生かされています。企画のアイデアも増えましたし、アーティストに出演をお願いするときは、ワークショップ・リーダーとしての知識と経験にもとづいた相談ができるようになりました。それから、東京文化会館以外の施設などからも、オファーをいただいてワークショップ実施することがあります。

磯野:わたしは大学でワークショップの基礎を学ぶ授業のアシスタントをするほか、実は、野口さんとふたりで「cacoMusica」というユニットも組んでいます。cacoMusicaとしてワークショップを開くこともありますし、野口さんが企画した参加型コンサートに奏者として参加することもあります。

野口:育成プログラムの受講生はそれぞれいろいろな場所で活躍していて、そのつながりを通して新たなチャンスが生まれることも多くあります。たくさんの人との出会いもまた、このプログラムで得た大切なもののひとつですね。


カーザ・ダ・ムジカのジョルジュ・プレンダスさんと。「受講生は、毎年予想以上の力を発揮してくれて驚くことばかりです」とジョルジュさん。

> おふたりも参加した、ミュージック・ワークショップ・フェスタ<夏>のレポートはこちら


ワークショップ・リーダー育成プログラム

  • 日程:2018年7月21日(土)〜12月9日(日)
  • 会場:東京文化会館、北とぴあ、北区滝野川会館、調布市文化会館たづくり ほか
  • 主催:東京都、東京文化会館・アーツカウンシル東京(公益財団法人東京都歴史文化財団)
  • イベントページ:https://www.artscouncil-tokyo.jp/ja/events/27171/
    ※今年度の募集は終了しています。

撮影:鈴木穣蔵
写真提供:東京文化会館(撮影:Mino Inoue)
取材・文:平林理奈

最近の更新記事

月別アーカイブ

2019
2018
2017
2016
2015
2014
2013
2012