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アーツカウンシル東京ブログ

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東京アートポイント計画通信

東京アートポイント計画は、地域社会を担うNPOとアートプロジェクトを共催することで、無数の「アートポイント」を生み出そうという取り組み。現場レポートやコラムをお届けします。

2018/09/20

ベースを知る夜ー東京アートポイント計画10年目日記(1)

「今年で東京アートポイント計画は10年目です。」そんな枕詞を使う日が増えています。10年史をまとめる本の制作も進行していて、「10年」という単位で振り返ること、あの時、あの場所、あの人がどうしていたかを思い出す日々が続いています。と、同時に「何が成果なのか」と一言で言い尽くせない、おそらく10万字でも言い尽くせないことを問われる日々も続いています。10年を語る本にとって全てを残す必要はないし、そもそもそんなことは不可能。なので、今見える風景からすこしずつ「なんだったのか」を紐解いてみようと思います。


■「ぬぉ」から7年越しの「ぬぅ」

2018年8月25日。千住仲町のアートセンターBUoYで開催された「千住ヤッチャイ大学プレゼンツ足立智美コンサート『ぬぅ』」に行ってきました。作曲家の足立智美さんが千住を舞台に公募で集まった音楽家たちと音楽をつくっていく「ぬ」シリーズの3作目。今回はコントラバス20台のみ(!)という、見たこともない編成。謳い文句は

ぬぅ
Bass in Base
地下で低音《NUu》

会場が地下だけにだじゃれがほとばしってしまうまち、千住。コントラバスは楽曲のまさに“ベース”となる楽器だけに、通常は同時に演奏することがあったとしても、数台。なかなか主役になることのない楽器が繰り出す、豊かな音色、聞いたことのない響き、予想のつかない展開。そしてオーディエンスの喝采。地下の会場に約45分間出現した低音の渦は、20台という数と、「アートアクセスあだち 音まち千住の縁」(以下、音まち)発の縁の成長によってできていました。


「ぬぅ」Bass in Base 地下で低音《NUu》

開演前に足立さんからも解説がありましたが、「ぬ」シリーズは2011年にスタートした「音まち」の初の大型企画、『ぬぉ チューバと自動車と器楽、合唱のための魚市場、ねぎま鍋付』がはじまりです。ゲストアーティストのひとりであった足立さんは5月に区内各所の会場のリサーチをし、足立市場を選定。そして「さまざまなバックグラウンドをもった人たち」との演奏のため「声・楽器・チューバ」の演奏者、合わせて約70名を集めたい、とのオーダー。主催者である事務局、東京藝術大学の学生、足立区の担当者と東京文化発信プロジェクト室(現アーツカウンシル東京)で音まち担当だった私は、会場交渉と演奏者集めに奔走することとなります。音まちが千住のまちと関わる記念すべき第1歩。みんなはじめての経験ながら、七転八倒のアプローチの末なんとか64名の演奏者が集まり、9月には空席となっていた舞台監督に(その後に音まちのディレクターとなる、現トッピングイーストの)清宮陵一さんにも出会うことができ、10月に公演を成功させました。公演の詳細や経緯は足立さんが翌年に書かれた「《ぬぉ》にまつわるさまざまなこと」記録映像に詳しいです。

2012年より足立さんはベルリンに活動基盤が移ることになりますが、「ぬぉ」の担当スタッフや演奏者たちとの間で交流が続きます。演奏や運営などで音まちに関わったプレーヤーたちで組織された有志団体「千住ヤッチャイ大学※1」(以下、ヤ大)の企画として2016年に当時のヤ大の拠点であった古民家アートスペース、「たこテラス」にて19名の演奏家と6時間に及ぶ作品「ぬぇ」を公演。そして2018年、今回の「ぬぅ」。


リハーサルで指揮をとる足立智美さん

■縁を成長させるもの

「ぬ」シリーズで一貫しているのは、「さまざまなバックグラウンドをもった人たち」との演奏であること。今回の公演パンフレットにも「プロアマ問わず、業界問わず、クラシックからジャズから、首都圏のみならず東北地方からも、この日のために集結」とあります。クラシックの方と思しき衣装の方も、コントラバスのボディを叩き、歩きながら演奏し、隣の演奏者のコントラバスを弾いていました。足立さんをはじめ、企画運営するヤ大にとっても、集まった20名のコントラバス奏者にとっても、「挑戦」であるこの作品に真摯に取り組むことが、作品を豊かにする。そのプロセスと経験が、7年前に音まちが蒔いた「種としての縁」を成長させるのではないか? 幕間に思い立った一つの仮説です。

もう一つ。音まちから派生し、引き続き音まち本体とも良好な関係を続けながらゆるやかに組織を維持しつつ、助成金もしっかり獲得して活動を続けているヤ大。それ自体が成果、とも言えますが、ヤ大のような地域に根ざしたチームが、アーティストとの交流を長らく続けている。そこにひとつの「シリーズ」があることで「次はどうしようか」という、先を見るイメージを持つ力が発生する。チームにとってもアーティストにとっても、それはおそらく「わくわくすること」であり、つまり創造する日常がある、ということ。交流が続いて7年。オーディエンスから演奏者へ、または運営チームへ。またあるときはオーディエンスへ。長い月日と企画の継続によって、ひとつの創造的なサイクルができあがっているのではないか、という仮説。市井の人々が即興演奏や先駆的な音楽を「おもしろそう」と、自然なこととして楽しんでいるまち、千住。地下に響いた大きな喝采は、「成長する縁」の成果を示す音なのかもしれない。


さまざまなバックグラウンドをもったコントラバス奏者が20名が集結した。

そんなことを考えながら、会場からの帰路で前職で助手として務めていた東京藝術大学千住キャンパスの前を通る。この場所で東京アートポイント計画の素案となる「市民参加型アートポイント事業構築に向けた実施計画策定研究※2」の研究協力者となる話を受けたのが、ちょうど10年前の8月の終わりのこと。素案では大きなコンセプトのひとつとして「アートプロジェクトで、普段出会うことのない人と出会う仕組みをつくる」を掲げていました。具体的な風景は思い描けてなかったけれども、イメージはどうやらかたちになる。東京アートポイント計画とは何か?と問われた時に10年間言い続けてきたことは、活動が根を張り、続くための「仕組みづくり」と「基盤整備」ということでした。そう、ベースをつくってきたのです。作品が低音だけにだじゃれがほとばしってしまうまち、千住。10年を経ないと得られない実感を得た夜でした(地下で)。

※1
東京アートポイント計画事業「アートアクセスあだち 音まち千住の縁」のサポーターチーム「ヤッチャイ隊」から派生し、有志団体として2013年に発足。それぞれの趣味や関心事の知識を持ちより、誰もが先生になれる場をつくることで千住のまちに新たな人の繋がりを生み出している。

※2
東京藝術大学熊倉純子研究室が東京都及び財団法人東京都歴史文化財団(当時)より受けた受託研究事業。この研究で提案された「千の見世」構想は「市民が主体的に参加すること」「新たな連帯を創出し結びをもたらすこと」をコンセプトに置き、2016年東京オリンピック・パラリンピック招致における文化プログラム「Tokyo Thousands Knot」へと展開した。

画像提供:千住ヤッチャイ大学

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