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アーツカウンシル東京ブログ

アーツカウンシル東京のスタッフや外部ライターなど様々な視点から、多様な事業を展開しているアーツカウンシル東京の姿をお届けします。

アーツアカデミー

アーツカウンシル東京の芸術文化事業を担う人材を育成するプログラムとして、現場調査やテーマに基づいた演習などを中心としたコース、劇場運営の現場を担うプロデューサー育成を目的とするコース等を実施します。

2018/12/05

アーツアカデミー2018 第1回レポート:VISION、MISSIONを磨く&課題・目標の設定[講師:山元圭太さん]

アーツカウンシル東京が2012年から実施している「アーツアカデミー」。芸術文化支援や評価のあり方について考え、創造の現場が抱える問題を共有するアーツアカデミーは、これからの芸術文化の世界を豊かにしてくれる人材を育てるインキュベーター(孵化装置)です。当レポートでは、2018年にリニューアルしたアーツアカデミーの各講座をご紹介していきます。


2018年11月12日(月)、2018年度アーツアカデミーの第1回講座を開講しました。これまでのプログラム内容を大幅にリニューアルした2018年度は、全6回の講座を通じて、各受講生がそれぞれの創造活動の現場で向き合っている課題の解決戦略を立案するという目標に向かって構成された実践的なプログラム。この戦略立案の作業を通して、創造活動の担い手のキャパシティビルディング支援とともに芸術文化支援の施策案も模索していこうという事業です。キックオフとなる今回は、現状に閉塞感をもつ受講生の「一歩でも前に進もう」という熱量に溢れた回となりました。

はじめに、シニア・プログラムオフィサー今野より本講座の趣旨説明の後、全6回の講座を伴走してくださるアドバイザーの若林朋子(わかばやし・ともこ)さん、伊藤美歩(いとう・みほ)さんの紹介、続いて受講生の自己紹介プレゼンテーションを駆け足で実施しました。

集まった受講生は18人。自己紹介では、演劇、舞踊、音楽、美術、公共劇場や民間の芸術団体、デベロッパーやアート系ウェブサイト運営の営利企業などジャンルも活動形態も様々な芸術文化業界の実践者達が、趣味・特技といったプライベートな話も交えつつ、それぞれが抱える目標や悩み、課題、それを発展、改善したいという意欲を互いに確認しあい、約半年のプログラムを共にする同志として連帯感がうまれる刺激的な瞬間の連続でした。自己紹介の後は、いよいよ講師の山元圭太(やまもと・けいた)さんの講座が始まります。

講師の山元圭太さん

自分の活動の立ち位置を明らかにする

NPOのファンドレイジングや経営戦略立案等が専門の山元さん(ヤマゲンさん)は、芸術文化業界で活動している受講生に対し自らを「異分子」と位置付け、講座が始まりました。非営利で活動している受講生も多く、経営的な視点はなかなか持ちづらいなか、山元さんのお話は「異分子」だからこその明快さで芸術文化業界の前提を問い直し、漠然とした不安感を取り除いていくような講座でした。また、受講生同士で考えを共有するグループワークの時間をとり、他者の意見と比較しながら自分の現状を整理していく内容となりました。

最初のワークは、「あなたの活動が<エコノミック(経済)>、<ソーシャル(社会)>、<ライフ(生業)>の3つのどれに当てはまるのか、2つ以上にまたがる場合はどういう比率になるのか」という問いかけです。割合を出すことによって自分自身でも意外な結果になることもあり、「同僚やメンバーにもやってほしい」という声が聞こえてきました。

また「ソーシャル」の中でも「(社会)課題解決」型なのか、「価値創造」型なのかという目的の違いで組織のあり方が変わってくるといいます。この問いかけに対し、今回の受講生のほとんどが「価値創造」型に挙手していて、業種や規模も違いますが、同種の悩みを抱えていることがわかりました。事業/活動のヴィジョン・ミッションのフレームに自身の活動を落とし込んで考えてみることで自身の立ち位置や大切にしていることが明確になりました。このようなタイプ別の特性を理解しておくことでそれぞれの活動の課題解決への近道になります。

グループワークの様子

組織使命は「入魂度」と「共有度」

自分の団体・活動の特徴を理解した上で、いよいよ経営戦略にとりかかることができると話すヤマゲンさん。経営戦略の6つのステップとして「1.組織使命」「2.現状調査」「3.実現仮説」「4.成果目標」「5.財源基盤」「6.組織基盤」が挙げられました。営利目的の活動では1〜4のステップはなく5、6のみで戦略を立てることもできますが、非営利の活動においては1〜4までのステップを踏むことが必須となります。この4つのステップのお話の中で印象的だったのが「組織使命」の条件が「入魂度」と「共有度」という点です。企画や事業に魂が入っていて、それをステークホルダーとも共有できることがヴィジョンには大事なのだそうです。こうしたヴィジョンステートメントを組織全体で共有し、日々意識することが重要で、定款の目的にあるような長いものではなく、メンバーの誰もが覚えられる、わかりやすいステートメントをつくることが推奨されました。また、4つ目のステップ「4.成果目標」では、非営利組織ならではの大変な作業と認識しながらも、「成果の定義を自分で決める」ことについてお話がありました。特に「価値創造」型の組織は正解がないことに挑戦しているので、成果の定義を自ら決めて、その成果を周りに伝える努力が必要であること、またヴィジョンとソーシャルインパクトの両輪を明確にすることで、活動しやすい組織になるのだそう。身の丈にあったものでよいから成果の定義を決め、それを追求する体質作りが非営利組織には必要!とのことでした。ヴィジョンを設定すること、成果を他者に説明する難しさを身にしみて感じている受講生にとって、誰かが作った定義に当てはめるのではなく、成果を自身で決めて良いのだ!という自信につながりました。

山元さんのレクチャー資料

山元さんのレクチャー資料

ファンドレイジングはフレンド・レイジング(仲間づくり)

後半の「5.財源基盤」「6.組織基盤」のステップでは、ファンドレイジングについて受講生の関心が集まりました。芸術文化業界においてはつきものの課題として資金調達や、少ない資金のなかで人と協働していくことのジレンマについて触れられました。ファンドレイジング=お金集めというイメージではなく「なんでもお金で解決しない」ことがむしろ大事であるというお話。実現したいヴィジョンにはどれくらいの資金が必要か、支出計画を立てるところから始まり、必要金額のためにどこから資金調達をしていくのかを考えるというプロセスが、収益目標から計画する営利企業とは異なる点といいます。そして、寄付者や協賛企業などのステークホルダーとの関係作りにおいて既存、過去、新規など、それぞれが期待することを的確にとらえたコミュニケーションをすることによって、寄付や協賛もしくはボランティア活動につなげていくことを総合してファンドレイジングだといいます。つまりファンド・レイジングはフレンド・レイジング(仲間づくり)であるというお話には目から鱗の受講生もいたのではないでしょうか。

最後に今回の講座のまとめであり、次回講座につながる宿題が出されました。

上記のワークシートを埋めることによってヴィジョンとミッションを明確にするという内容です。自身の活動や団体ですでにあるヴィジョン、ミッションと比べてどのような変化があるのか、自分達の活動を見直す機会になりそうです。

非営利でかつアート、芸術創造を主軸にして活動をしている組織やアーティストにとって、世に出ている経営本を読んでも当てはまらないそれぞれの課題を抱え、戦略を立てられず挫折することが多々あるなかで、ヤマゲンさんの講座は目から鱗、かゆいところに手が届くようなヒントが沢山あり、課題解決戦略のための立案に向けて確実な一歩となりました。

次回のテーマは、「活動基盤を磨く~芸術文化事業の運営体制の課題とその改善策の深堀り~」…第1回の学びをもとに、それぞれの活動のセルフアセスメント作業を行い、具体的な改善策を浮き彫りにしていきます!


<講師プロフィール>
山元圭太
NPO法人日本ファンドレイジング協会理事/認定ファンドレイザー/NPO法人国際協力NGOセンター(JANIC)理事/NPO法人おっちラボ理事/島根県雲南市地方創生総合戦略推進アドバイザー

経営コンサルティングファームで経営コンサルタントとして5年、認定NPO法人かものはしプロジェクトでファンドレイジング担当ディレクターとして5年半のキャリアを経て、非営利組織コンサルタントとして独立。「本当に社会を変えようとするチャンジメーカーの『想い』を『カタチ』にするお手伝い」をするために、キャパシティ・ビルディング支援や講演/セミナー、コーディネートを行ってきた。2015年に株式会社PubliCoを創業して代表取締役COOに就任。2018年にPubliCoを解散し、故郷の滋賀県草津市で合同会社喜代七を創業。現在は、「地域を育む生態系をつくる」をミッションに掲げ、滋賀県で実践すると共に、全国各地で支援を行なっている。専門分野は、ファンドレイジング、ボランティアマネジメント、組織基盤強化、NPO経営戦略立案など。

執筆:アーツアカデミー広報担当 山崎奈玲子(特定非営利活動法人舞台芸術制作者オープンネットワーク(ON-PAM))

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