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アーツカウンシル東京ブログ

アーツカウンシル東京のスタッフや外部ライターなど様々な視点から、多様な事業を展開しているアーツカウンシル東京の姿をお届けします。

DANCE 360 ー 舞踊分野の振興策に関する有識者ヒアリング

今後の舞踊振興に向けた手掛かりを探るため、総勢30名・団体にわたる舞踊分野の多様な関係者や、幅広い社会層の有識者へのヒアリングを実施しました。舞踊芸術をめぐる様々な意見を共有します。

2019/03/29

DANCE 360 ― 舞踊分野の振興策に関する有識者ヒアリング(24)振付家・ダンサー 近藤良平氏

2016年12月から2017年2月までアーツカウンシル東京で実施した、舞踊分野の多様な関係者や幅広い社会層の有識者へのヒアリングをインタビュー形式で掲載します。

振付家・ダンサー 近藤良平氏
インタビュアー:アーツカウンシル東京
宮久保真紀(Dance New Airチーフ・プロデューサー)
林慶一(d-倉庫 制作)

(2017年1月17日)


──全国でダンス活動していて、東京都と他の地域の違いで感じていることなどありますか。

近藤:僕がスポーツ祭東京2013 ※1 (の開会式でのダンスの振付)をやったじゃないですか、開会式で2,500人ぐらいの市民参加型ということになったんですけど、それを、まずどういうふうに集めるかとかすごく難しくて。地方の方が、例えば国体の開会式のために人数を集めるのは簡単で、バレエをやってる人とかちょうどいい人数がいるのでみんなが協力してやれるんですけど、逆に東京で不特定多数2,500人集めるってすごく難しくて、誰を選ぶか、みたいなのが。結果的に何をしたかというと、日本体育大学の先生を知っていたので、大学1年生を1,200名ぐらいなんですけど、相撲部とかいろいろな学生にやってもらうと。それを見ても、一般的にはダンスということに程遠い人はたくさんいると思ったんですよ、そのとき。ダンスに関わりのない人もたくさんいるし、異なるジャンルのダンスの人と繋がることも無いし、というのが東京の現実で、地方の方が狭い地域の中である程度お互いの顔が見えるところがある。だから、東京の「ダンス」というキーワードからの横のつながりは、広がってるようで、そんなに広がってはないなというのが実感です。
…… また違う話にしちゃうと、取材でもよく言ってるけど、テレビやメディアとかの力で動きを共有する、例えばEXILE(のダンス)とか、僕が「てっぱん」 ※2(で)やった(踊り)とか、今で言うと恋ダンス※3 ですけど、そういうメディアを通して、動きというか身体の言語みたいなやつを共有することが、この5〜6年ぐらいで急激に高まりすぎちゃって。(広まるのが)速いし、大きい意味ではよろしい感じもするけど、今、そこの部分が一番流行っちゃうというか、そっちに興味が移行するので。少し前にあった「踊ってみた」とか初音ミクとかね。それも、僕の知っている中では、本当にリアルにあらわれないんですよ、メディアの中でしか踊らない人っているんですよね。要するに、劇場で踊る人でもないし、人前でも踊らなくて、映像の中でしか踊らないみたいな部類の人。非常に価値観が変わってしまっている。それも多分、楽しいんだと思うんだけど、劇場文化とのつながりは微妙ですよね。「踊ってみた」(流行りのダンスを自ら踊ってYouTubeなどに投稿すること)じゃないけど、発表する場がものすごくいろいろなところにあるので、ワークショップというか、練習期間がなくても発表できるという錯覚に、今、ものすごくなっていると思う。

※1:平成25年に「第68回国民体育大会」と「第13回全国障害者スポーツ大会」を一つの祭典として東京都で開催されたスポーツの大会。東京都における国民体育大会(国体)の開催は、冬季大会が平成17年の第60回大会以来、8年ぶり2回目、本大会が昭和34年の第14回大会以来、54年ぶり3回目、全国障害者スポーツ大会は初めての開催となった。平成25年9月28日に味の素スタジアムで行われた第68回国民体育大会の開会式で近藤良平の振付・演出による式典演技『未来からきた手紙』が披露された。
※2:てっぱん:2010年9月27日から2011年4月2日までNHK総合テレビで放送された第83作目の連続テレビ小説。近藤が振付を行ったオープニング映像でのダンスについてNHKのウェブサイトで教則映像が公開され、動画サイトなどに一般の視聴者から当該振付のダンス動画投稿もあった。
※3:恋ダンス:2016年TBS系テレビドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』の主題歌となった『恋』(星野源)のミュージックビデオの振付シーンの通称。MIKIKOが振付し、MVではELEVENPLAYと星野が、ドラマのエンディングロールではドラマ出演者が踊った。YouTube動画再生回数7500万回以上、有名人を含む多くの人々によるカバー動画の全投稿に対する再生回数は8000万回以上となった。

20代は、ぶち壊していこうとしか考えてない、今は、それが見えるから、発信できない若い人たちがいると、ちょっとこっちは歯がゆい

──ダンスのつくり手はどういう意識で社会と関わってゆけばよいでしょうか。

近藤:自分も20代のときはそんなふうに余り思わなかったけど、年取って成長したせいか、考えるようになった。20代は、ぶち壊していこうとしか考えてない、今は、それが見えるから、発信できない若い人たちがいると、ちょっとこっちは歯がゆいですよね。今の若いダンサーはコンクールに受かりたがる傾向が強くなっているけれど、だったら、同時に社会性が欲しいですよね、コンクールを受ける時点でね。

盆踊りとかも、民俗学で言えば、かなり「出会い系」の場所で。どこでも出会ってよくて、どこでも出ていいみたいな。自分で行きたいとこに行けるから。ずっとぐるぐるチャンスがあるみたいな、よくできてるなと

──近藤さんからご覧になって、ダンスと社会とのつながりってどういうふうにとらえていらっしゃいますか。

近藤:僕自身は、もともとはそんなにダンスを特別視していなかったんですけど、ほとんどダンスとともに生きているので、僕の生活自体が、そうなると、ここで今、座っているけど、「じゃあ、立って」って言われれば立たせることもできるし、ノリノリになる必要はないけど、それぐらいダンスが非常に身近なところにいて。
…… 僕としては、今40代ですけど、20代のときには20代で、30代、40代、50代の人と接することができるツールだったし、狭い世界ですけどね。今は、自分が40代に上がっていて、30代、20代、もしくは10代、未就学児まで接することのできるツールだし、それは、言葉であらわせられないものとか、そういうことではなくて、もっと具体的に、より体と体がぶつかれるということなので。
…… 何となく、地位とか、障害とかも含めて、そういうことを気にしないで済むように自分がなったというのは大きいんだけども、(ダンスは)そういうのを度外視して接することのできるツール。結構、そこには、(自分が)熟成して、そういうふうにやっと思えるようになって。今は、普通のおじさんと一緒だと思うけど、「マナーがなっていない」と電車の中とかで、あらゆることが気になってくるよね(笑)。「おまえ、ダンス、足りないだろ」みたいに思えてくる。
…… ちゃんと挨拶できないとか、投げやりに物を渡すとか、そういうことでも、もうちょいっと、コミュニケーションになるのかもしれないけど。ふだんはそれを、ワークショップをやったり、行動しているから、あんまり言語化しないけど、取材のときには言語化しているけどね。そういうことの、ちょっとポエティックな作業かもしれないけど、そういうところは大きいと思いますよね。
…… 例えば映画とダンスとか、デザインとダンスとか、そういう異業種の人が、自分の中にダンスを取り込もうと考えてくれているという人は前よりも全然増えているし、そういうところでのきっかけ、キーワードで仕事があるというのも実際だと思います。
…… 盆踊りとかも、民俗学で言えば、かなり「出会い系」の場所で。どこでも出会ってよくて、どこでも出ていいみたいな。自分で行きたいとこに行けるから。ずっとぐるぐるチャンスがあるみたいな、よくできてるなと。
それも、やっぱりコンタクト(身体を通した接触)だし、クラブシーンとかもあるかもしれないけど、盆踊りというのがそこで、人と人ができるだけ接するというのを、「にゅ〜盆踊り」※4 の場合は、否応なく2人組、なりたい人は絶対なるんですけど、2人組に特になりたくない人がなると、「嫌だよー」とか、言いながら、やらせてみたら、実は大事というか。

※4:にゅ~盆踊り:ダンス・カンパニー「コンドルズ」主宰の近藤良平氏による、オリジナル盆踊り。2008年に始まり、池袋の街で毎年夏に開催している。あうるすぽっと(公益財団法人としま未来文化財団)と豊島区の主催。(参照:http://www.owlspot.jp/special/newbonodori/index.html

──一般の人の身体に対する関心というのが少し高まっているように感じられますか。

近藤:関心自体は、いい意味でうまくだまされているんじゃないですか。
…… いまだに企業のワークショップとかに行くと、「『サラリーマンNEO』※5 のときから見てました」と言われることがあって、そんなずっとやっているわけじゃないんですけど、インパクトはあるね。でも、僕もそのころの方がすごく、そのころと言うのも変ですけど、「てっぱん」とか、「サラリーマンNEO」とかをやっているときの方が、次々と共有してくれる人が増えてくる、何となく、僕の頭の中で、日本じゅうが砂ぼこりになっている感じ、日本地図があって、ざーざー、砂ぼこり上がってる感じがすごいしてたんですよ。
…… あのときの方が、僕もちょっとわからないけど、たまたま震災とかもあったり、そういう横で手をつないでいこうみたいなとこの強さはあった気はする。今は、オリンピックがあると言ったって、そんなつながらないし、そういう空気は余りないよね。

※5:サラリーマンNEO:NHKで2006年から2011まで6シーズンにわたって放送されたバラエティ番組。近藤氏は同番組内で「テレビサラリーマン体操」というコーナーを担当していた。

──コンドルズは「サラリーマンNEO」などもきっかけの一つに、関わってくる対象層がかなり広がって同じダンスでも異なる対象層にリーチして変化したと思いますが、その違いは明確に意識されていらっしゃいますか。

近藤:自分が言うのもあれだけど、どうやってそうなったんだろうなと(笑)。「てっぱん」は、2010年〜11年のときで、(フジテレビの)「ポンキッキ」に関わるようになったのが1995年〜96年で。「ポンキッキ」と接して、テレビでもあったし、人の影響力というのはすごくあるなというのが、「ああ、こうやって人に振りって移っちゃうんだな」と見ていて。だから、コンドルズのことが、どうやってうまく市民に影響を与えたかどうかという、それ自体はよくわからないんですけどね。
…… (コンドルズと)同じような時期に(伊藤)キムさんや、イデビアン(・クルー)、あとキノコ(珍しいキノコ舞踊団)とかいたんですけど、キムさんは、東京以外の場所にワークショップに行った開拓者ですよね。それまでは地方は大きく言うとバレエの教室どまりで、あと地元に根づいたモダンダンス(があるぐらいで)、コンテンポラリーや、あるいは舞踏のような名を持つものが地方でワークショップするときに、僕も途中からちょっと責任感を感じるようになった。全くない、未開拓みたいなところに行って、ワークショップをやったら、即、影響がありますから。それで、「また来年来てください」と言われたら、小さな村をつくったようなもので。随分、地図が変わっていった、日本列島自体の地図のあり方が。

──現在は様々な活動をされながら、依頼を受けるお仕事もたくさんあると思いますが、ご自身の活動や仕事の信条や目的意識はどのようなものですか。

近藤:僕は楽しいからやるんですけど、基本的に自分が楽しいと思っていることが、世の中に接するためのことなので、自分が嫌なことは、人には共有しないじゃないですか、僕個人で言ったら。コンドルズを通すことも、コンドルズは楽しいと思っているから、「ぜひぜひお金を出しても見に来てください」と言えるので、そこへ、おれの恥ずかしい姿を見せたいとは思わないわけで(笑)。今、悩んでいるおれを見せたいなんて、絶対思わないわけで。
…… みんなにダンスを見てほしいとか、実は、そういうくくりはあんまりない。個人的にはそういうことよりも、ダンス的な発想をしてくれたらうれしい。僕も、どちらかというと舞台の人なので、今、「発想」と言ったけど、発想自体はすごく好きなので、例えば楽しいつり革の持ち方とか、本当に「サラリーマンNEO」じゃないけど、そういう生活を豊かにするための、こうすると1日が楽しくなるということを共有すること、多分、根本はそれだと思うけどね。
…… 身体の行動が変わっていくということ自体は、「ポケモンGO」とかも、僕はやってないけど、やっぱりすごいなと思いましたよ。外に人を連れ出したというツールがすごいと思って、新聞とかを読んでも。これは、やっぱり体を費やすという作業と、欲求を自分の中に手に入れるみたいな、ああ、すごいなと。(コンドルズもNHKエデュケーショナルと一緒に)「遊育」というやつをやっていて、LINEが協賛してくれているんですけど、LINEの上の人たちも、LINEというツールを、アナログ的なツールにどれぐらい落とし込めるかというのを本当は探していきたいから、一緒にやっているみたいな(ところがあって、それに近いです)。

今、10代、20代でチームをつくってほしいですけどね。チームの知恵を働かせたほうが、1人で背負いすぎること自体どうかなと思う

──若いアーティストが育って、きちんと活動が継続できるために、今、何が必要だと思いますか。

近藤:コンテンポラリー(ダンス)のことで言うと、自分自身のためにダンスをする人もいるだろうけど、ただ、振り付けというのが新しいものでなくてもいいんだけれども、振付家的な考え方というのも強く持ってほしいんですよ。強く持ってほしいというのは、それが、さっき僕が言った、異業種との仕事につながるんですよね。コンテンポラリーの人たちが一番その可能性が高いはずなので。
……要は、コンクールで賞をもらって、賞金をもらったら嬉しいけど、さくっと言えないけど、このCMの振り付けができますよというような、この監督と一緒に組む可能性があるとかとなると、すごく新しくないですか、何て言うんだろうな、もっと糸口がふえていく。例えば、僕も今、三池崇史監督とかかわっているけど、三池監督は広く大衆性があって、その三池監督自体がダンスが必要だと思っている。僕は三池塾の中でダンスのワークショップを役者さん向けにやっているんだけど、それって、三池さん自身が、もしかすると、いつでも、よりダンス的な志向の人を待っている可能性があるわけで、そことつなげたいんですよね。社会と共有する言語みたいな意味で振付があると思っています。
…… フェスやパーティーのような、(若手が)集まらざるを得ない状況をつくるといいんじゃないかと思う。要するに交流したいということと、その人たちが自分の作品をつくったりしてることのプレゼンテーションはもちろん大事なことだとは思うけど、それは、1つ当たり前なことなんで、それよりは、その人が得意か不得意かは別として、何か題目があって、それを年寄りに見せるとか。要は、自分の作品を背負いすぎないで、こういう新しい題材のもの、これぐらい用意しといてあげて、そこでやってもらって。
…… 僕は、どっちかというと、今、10代、20代でチームをつくってほしいですけどね。チームの知恵を働かせたほうが、1人で背負いすぎること自体どうかなと思うので。

──コンドルズの若手メンバーの育成についてはどのようにしていますか。

近藤:僕自体は、それぞれ最初から自分で稼げというスタンスなので、別にこっちが養っていくというつもりは毛頭なくて。もちろん出演した分のギャラは払いますが。要するに、公演に対して働いた分はお金を絶対払うよ、額が小さかろうが払うよというスタンスは必ずあります。
ただ、そこだけで食っていくとなると、それこそ、多分、(熊川哲也さんの)Kバレエとかの方が、育成に関しては、若手がちゃんと教えられるシステムをつくるとか、そういうものはもっと進んでいると思います。うちらは、コンテンポラリーの中では、どちらかというと、ただ単純に少し売れているカンパニーだから、お金の準備がいいというぐらいな程度で。ただ、僕たちは僕たちで広げた分の、まだまだ狭い世界だけど、こうやって知ってるものをいっぱい提供ができるので、繋げていくことは、「ここにチャレンジしてみれば」っていっぱい言えるし、あるいは「僕のかわりに行って」というのもある。そういうことはしてますけどね。

──稽古場に関する支援については。

近藤:多分、みんなそうだと思うんだけど、バレエの人たちと違って、コンテンポラリーの人は寒かろうが場所さえあればいい話。前、誰かと話してたんだけど、例えばJRAとかで、週末しか使わないような場所とかいっぱいあるらしいの、月火水木金まで空いてるのに。そういう場所が普通に使えたりとか(するとありがたいし)、東京にはそういう場所がいっぱいあると。僕も、今は、何とかやりくりしているけど、確かに、もうちょい前のときなんかは、本当に稽古場あったらいいなと(思っていたし)、今も思ってるっちゃ思ってるし。要するに、老朽化する場所に対して、どうそれを、劇場としてまで使えなくても、だって、老朽化する場所は幾らでもあるんだから。
…… そのシステムと、それの利用価値は、我々にとっては非常に大きいから。僕らがそれをつなげていって、誰かそこに管理人がついてもらって、そうしたら大人の児童館をいっぱい増やしてほしいですね。



写真:HARU

近藤 良平

振付家・ダンサー、コンドルズ主宰。NHK「サラリーマンNEO」、「からだであそぼ」などに振付出演。同「てっぱん」オープニングの振付も担当。第四回朝日舞台芸術賞寺山修司賞受賞。第67回文化庁芸術選奨文部科学大臣賞受賞。第67回横浜文化賞受賞。女子美術大学、立教大学などで非常勤講師としてダンスの指導にあたる。コンドルズは2016年に20周年記念となるNHKホール公演を敢行、前売り券即日完売、追加公演を行う。現在、NHKエデュケーショナルと共に0歳児からの子ども向け観客参加型公演「コンドルズの遊育計画」や埼玉県と組んで行う「近藤良平と障害者によるダンス公演」ハンドルズ公演など、多様なアプローチでコンテンポラリーダンスの社会貢献に取り組んでいる。ペルー、チリ、アルゼンチン育ち。愛犬家。

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