東京アートポイント計画通信
東京アートポイント計画は、地域社会を担うNPOとアートプロジェクトを共催することで、無数の「アートポイント」を生み出そうという取り組み。現場レポートやコラムをお届けします。
2019/06/11
開催レポート:クロストーク「東京の場所と物語に触れる」(東京ステイ×500年のcommonを考えるプロジェクト「YATO」)
アートプロジェクトから生まれる「気づき」や「悩み」とは? 2019年3月に開催したOpen Room2019「東京アートポイント計画の10年とこれから 2009年→2019年」の一環として、プロジェクトに伴走するプログラムオフィサーと東京アートポイント計画に参加するNPOが、1つのテーマを軸にプロジェクトを展開するなかで生まれた課題や可能性についてクロストーク「東京アートポイント計画の現在〜NPOとの5つの対話〜」を行いました。
クロストークの第1回目は「東京ステイ」の石神夏希さん(NPO法人場所と物語)と「500年のcommonを考えるプロジェクト「YATO」」の齋藤紘良さん(社会福祉法人東香会)が、それぞれの活動の紹介と「東京の場所と物語に触れる」をテーマに対談。モデレーターは東京アートポイント計画プログラムオフィサーの嘉原妙が務めました。
東京ステイとは?
「東京ステイ」は、東京における【ステイ/滞在体験】を検討し、日常に埋もれる物語(場所との関係性)を必然とも感じてしまうような偶然によって発見することを目的としています。また、プロジェクトの一部では「ピルグリム-日常の巡礼」と題したまち歩きの活動を行なっています。ピルグリムでは、通常1時間で移動できる東京都内を6時間以上かけて移動するなどの非日常的な滞在体験を行い、参加者は、旅人のように東京を歩きながら、普段は通りすぎてしまうようなまちの風景や出来事、あるいは時間に対して意識を向けていきます。ピルグリムは、自分自身の身体を通して出会った場所や人と関係性を結ぶ練習のような行為、演劇の稽古のような取り組みです。参加者はピルグリムを重ねていくことで、場所や他者への想像力を鍛え、自らの視点で物語を編む術を身につけていきます。
2018年度は、早朝6時半から夜までの時間をかけて都内を巡る、活動の集大成となるピルグリムを行いました。このピルグリムの活動やその思考プロセスを、ブックレット『日常の巡礼』『巡礼ノート』として発行しました。
それぞれこちらからダウンロード可能です。
ピルグリムの活動やその思考プロセスをまとめたブックレット
左:『日常の巡礼』 右:『巡礼ノート』
石神夏希さん(NPO法人場所と物語)
500年のcommonを考えるプロジェクト「YATO」とは?
YATOとは、東京多摩地域などに連なる丘陵地の地形や、地形によって育まれた営みや生態系を意味する「谷戸」を指しています。この地形は、長い年月をかけて堆積した大地が、川の流れなどによって削り出された地形であり、縄文期から様々な時代において多くの人々が住まう場所であったといいます。自ずと様々な文化が生まれるのだという「谷戸」の地形を利用し、「YATO」は500年後の時代でも持続できる文化伝承の構造を検討、実践しています。
2018年度の活動では、改めて谷戸を知るためのリサーチプロジェクトを開始。500年後に繋がる活動を想像するために、500年前から受け継がれているものをリサーチしました。そうした時、資料などに残る史実や記録よりも、物語や短歌などの抽象的な表現の方が多く残っていることに気づいたそうです。そのため、リサーチでは行政機関が保有する資料だけに頼るのではなく、地域住民からの聞き取りを中心に行い、物語の持続力に着目し、YATOは物語を描く活動を始めています。
その物語は、谷戸の地域住民からの聞き取りを基にし、いつ・誰が・何の目的で描いたのかわからないアノニマス的な体裁をとっており、これによって様々な人や時代にも繋がる日常的な伝承を目指しているといいます。その物語は、『谷戸の物語』と題したポストカードにまとめられ、2018年8月以降「01 水車」、「02 朝の眼、夜の眼」「03 いつものはじまり」を継続して発行されています。
『谷戸の物語』
映像作家 波田野州平さんによる伝承行事のドキュメント『初午の準備』
齋藤紘良さん(社会福祉法人東香会)
場所から物語を生み出す
NPO法人場所と物語が進めるプロジェクト「東京ステイ」は非日常的な行為を軸にし、一方で、「500年のcommonを考えるプロジェクト『YATO』」は日常の営みに対する眼差しを徹底しています。しかし、両プロジェクトは、その対極的な取り組みでありながらもそこから物語(場所との関係性)を生み出す試みであることが共通していました。物語が、社会の中で明確な目的のために行動し、それ以外には意識が及ばなくなっている私たちの現状(身体・意識・感覚)に対して、刺激的で豊かな経験を生み出すキッカケになることを目指しているのだといいます。
東京で物語に触れることについて、石神さんは「場所と関係性を結ぶ、その関係を結ぶ方法を『物語』と私たちは呼んでいる。」「漂流する人たちが集まる東京で、今たまたま出会ったこの風景とどういう風に必然的な関係性を結べるか、その一瞬を作り出そうとしている。」と語り、一方で齋藤さんは「日常の中で語られる些細な物語の中に大きな可能性が秘められている。よりパーソナルな物語の方が、他者にも伝わっていくのかもしれない。」と話し、クロストークは締めくくられました。
(クロストーク撮影・執筆:齋藤 彰英)
*infomation
東京ステイ
2018年度で東京アートポイント計画としての共催を終了しました。これまでのアーカイブは下記のサイトからご覧いただけます。
http://bashomono.com/tokyo-stay
500年のcommonを考えるプロジェクト「YATO」
2019年度のプログラムが進行中です。
>instagramを使ったプログラム「まちだのきろく」を展開中。
クロストーク 開催レポート
>「まちから学ぶ、まちとつくる」(トッピングイースト×ファンタジア!ファンタジア!―生き方がかたちになったまち―)
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