アーツアカデミー
アーツカウンシル東京の芸術文化事業を担う人材を育成するプログラムとして、現場調査やテーマに基づいた演習などを中心としたコース、劇場運営の現場を担うプロデューサー育成を目的とするコース等を実施します。
2019/12/25
アーツアカデミー2019 第4回レポート:活動のためのファンドレイジング力を磨く~ファンドレイジング課題実践(2)~[講師:若林朋子さん]
アーツカウンシル東京が2012年から実施している「アーツアカデミー」。芸術文化支援や評価のあり方について考え、創造の現場が抱える問題を共有するアーツアカデミーは、これからの芸術文化の世界を豊かにしてくれる人材を育てるインキュベーター(孵化装置)です。当レポートでは、アーツアカデミーの各講座をご紹介していきます。
2019年11月11日(月)、本講座でファシリテーターも務める 若林朋子(わかばやし・ともこ)さんを講師にお迎えして、アーツアカデミー2019第4回『活動のためのファンドレイジング力を磨く~ファンドレイジング課題実践(2)~』が開催されました。若林さんは、プロジェクト・コーディネーターとして、文化活動や芸術支援にまつわる環境整備に尽力されると共に、立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科の特任准教授も務めていらっしゃいます。今年度、2回連続プログラムとして増強したファンドレイジング講座の2回目では、文化セクターにおけるファンドレイジングの全体像から財源のマッピング、そして助成金・協賛金等の活用方法について学びを深めました。
講師の若林朋子さん
新しいファンドレイジングに繋がる発想術-「いかにパイを広げるか?」
講座は、まず、日本の芸術文化支援に関連する予算の概観から動向を紐解くことからスタート。文化庁や芸術文化振興基金、地方自治体による芸術文化支援の予算や、メセナ活動に代表される企業からの文化支援の状況を、「数字」と共に学びました。芸術文化活動への支援は、依然、限られており、こうした厳しい芸術文化支援の状況の下では、「限られたパイ=資金源の取り合いではなく、パイをいかに広げるのかという発想転換が必要だ」と強く語った若林さん。具体的な策として、「民から民への資金の流れを創ること」、「文化以外の分野にも目を向け、幅広い財源からの資金調達を考えること」の二つが提案されました。後者について、若林さんは、下の図を示しながら文化・アートと社会との関わりを説明しました。具体的な支援プログラムを探す上で、「文化」や「アート」といったキーワードのみならず、下図に挙げられたような隣接する領域でも検索することが有益であるとの言葉に、多くの受講生が、改めて文化のもつ幅広い可能性に気づいた様子でした。
「文化」や「アート」と社会との接点の例示
芸術文化活動を支援してもらう手法には、多くの種類があります。例えば、「助成」や「協賛」、「寄付」、「事業委託」、「補助」といった名称をよく目にしますが、そこには、一体、どのような違いがあるのでしょうか。芸術文化活動といっても、その活動規模や性質、ヴィジョン・ミッションは様々であり、一概に全ての資金調達の手段が自分たちの活動に相応しいわけではありません。その一つひとつについて、違いを解説いただき理解を深めました。また、資金支援と並んで重要なのが、非資金支援。最近では、「プロボノ」という言葉を耳にする機会も増えてきました。そこで本講座では、「具体的にどのような非資金支援があるのか?」というテーマでグループワークが行われました。「公演の場所を提供してもらった」、「プロのカメラマンにプロフィール写真を撮ってもらった」等、受講生の経験に基づいた事例やアイディアが飛び出し、活発な意見交換が見られました。資金提供に留まらない支援の可能性を探ることもまた、充実した芸術文化活動には不可欠なのではないでしょうか。
非資金支援の具体例を考えました
グループワークの成果を、「人」、「もの」、「場」、「その他」の4つのカテゴリーから発表しました
ファンドレイジングに取り組む前に―ポートフォリオ作成のすすめ
休憩を挟んで行われた後半戦では、「財源のマッピング」に取り組みました。「助成金・補助金」、「会費・寄付金」、「受託事業収入・協賛金」、「自主事業収入」という4つの資金源は、財源が内発的か外発的かという観点と、支援性なのか事業性なのかという観点で、全く異なった位置を占めています。財源毎に、自分の現状と具体的な数値目標を記入することで、「財源のマッピング」というべきポートフォリオを作成していきました。若林さん曰く、ポートフォリオの作成に当たっては、「4つの資金源のどこに財源基盤を置くのか?」と「望ましい資金源のバランス」を意識することが必要とのこと。やみくもにファンドレイジングをするのではなく、「資金源の全体像を描き、将来設計をしたうえで、始めることが大切」を説く若林さんの声に、受講生は真剣に耳を傾けていました。
「現状」と「目標」を併記した資金源のポートフォリオを作ることで全体を俯瞰する
続いて行われたのが、その名も「財源100本ノック」。現状の財源以外の「新たな財源」を積極的に考えるために行われたグループワークです。「エキストラとして出演してもらい、エキストラ参加費として資金提供を受ける」、「異業種コラボによるワークショップを実施する」、「旅館や会社へアート作品を貸与する」、「外国人観光客に向けた夜公演を実施する」、「企業と協働し、企業の製品やプログラムを活用してワークショップを行う」等々、次々に発表されたアイディアから、受講生の熱気を感じました。
「新たな財源」の例示
申請書は読み手の気持ちを想像して
講座の最後には、助成金・協賛金の活用方法や助成申請者の作成のポイントについても教えていただきました。申請書を作成する上では、自分の活動・団体を端的に表現する「3行コピー」が重要で、「感動的な文言ではなく、むしろ誰にでも伝わる簡潔で要領を得た言葉・表現でまとめるほうが良い」というアドバイスがありました。同時に、その活動が「市場原理になじむ『エンターテインメント系のアート』なのか、市場経済の本質的になじまない『非営利系のアート』なのか」を踏まえ、助成金が必要な「理由」を言語化することも必要です。こうした準備を通じて初めて筋の通った骨太な申請書ができるとのこと。若林さんは、「申請書には読み手がいる」ということを繰り返し強調しました。書きたいことを書くのではなく、読み手を想像し、相手が聞きたいことに答えることの大切さを感じる時間となったのではないでしょうか。
次回は、セゾン文化財団の理事長である片山正夫(かたや・まさお)さんをお迎えして、『芸術文化の必要性を考える~芸術文化支援を鍵に、自立の在り方を考える』のテーマのもと、「なぜ、社会にとって芸術文化が必要か」という問いを考えていきます。創造活動を取り巻く環境を相対的にとらえ、活動の価値を客観的に説明する力を磨きつつ、自立の在り方を探求していきます。
文責:大野はな恵
運営:特定非営利活動法人舞台芸術制作者オープンネットワーク(ON-PAM)