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アーツカウンシル東京ブログ

アーツカウンシル東京のスタッフや外部ライターなど様々な視点から、多様な事業を展開しているアーツカウンシル東京の姿をお届けします。

アーツアカデミー

アーツカウンシル東京の芸術文化事業を担う人材を育成するプログラムとして、現場調査やテーマに基づいた演習などを中心としたコース、劇場運営の現場を担うプロデューサー育成を目的とするコース等を実施します。

2020/11/25

アーツアカデミー2020 第1回レポート:つくりたいものをつくり続けるために ~思考と実践~ [講師:深田晃司さん]

2020年10月5日、令和2年度アーツアカデミーが開講しました。今年は新型コロナウイルスの世界的流行という大きな出来事があり、いまだ収束したとは言えない状況です。そんな中で開講された今年度のアーツアカデミーは、2018年度からの「芸術文化創造活動の課題解決及び目標達成に必要な思考力やスキルを多面的に磨くキャパシティビルディング」という趣旨はそのままに、「私たちはいかに創造し続けていけるか」という視点が加わった全8回のプログラムが組まれました。

もう一つの特徴は、ZOOMを使用したオンライン開催となったことです。本講座の醍醐味の一つである、グループに分かれて行う受講者同士のディスカッションやワークショップを、オンラインでどのように実施するか、検討を重ねて第1回目を迎えました。また、受講生のニーズに応じ手話通訳、UDトークを利用した文字支援も導入し、今回で3年目となる本プログラムにとって、新たな1ページとなりました。

昨年度までは東京の会場へ通える方に限られていましたが、今回はオンライン講座のため、遠方からの参加もしやすくなり、応募者数、受講生ともに過去最多となりました。また、対面だと勇気がいるけれど、オンラインだから参加できたという声もあり、リアルでは出会えなかった受講生との新たな交流の機会となりそうです。

当日は、アーツカウンシル東京のシニア・プログラムオフィサー今野真理子(こんの・まりこ)より本プログラムの趣旨説明の後、全8回を伴走してくださるファシリテーター/アドバイザーの若林朋子(わかばやし・ともこ)さん、小川智紀(おがわ・とものり)さんのご紹介、続いて20人の受講生の自己紹介を行い、第1回の前半が終了、いよいよ講座が始まります。

受講生、ゲスト講師、運営チームがオンライン上に集結

私たちが生きる社会と芸術文化の置かれた環境を俯瞰する

第1回は「つくりたいものをつくり続けるために ~思考と実践~」というタイトルで、まずは、ファシリテーター/アドバイザーの小川さんより「私たちが生きる社会と芸術文化の置かれた環境を俯瞰する」というイントロダクションから始まりました。
菅首相の政策理念としても掲げられている「自助、共助、公助」について、改めてその意味をおさらいしつつ、この社会の仕組みを芸術文化に置き換えてみました。自助にあたる芸術活動は個人で活動しているアーティストや民間企業なので「私」、共助はコミュニティでの活動になるので「共」、公助は行政の枠組みの活動とし「官」と置き換えて、3つを三角形の頂点に置き、その三角形の中のどの位置に自分の活動主体があるのかそれぞれが考えます。
今までのアーツアカデミーでは、ここでグループワークが入り、受講生同士が対面で話し合いながら考えていくのですが、オンライン講座の今回はGoogle Jamboardというツールを使い、受講生が自分の活動の位置を考えてオンラインのファイル上で共有しました。

講座資料より:Google Jamboadを使い自分の活動がどの位置にあるのか可視化してみる作業

結果を見てみると、三角形の中央付近に多くの受講生が集まっていました。そこは非政府で、非営利で、公認、第三セクターと言われたりもする位置であり、「官」「民」「共」それぞれ3つの場所のルールの影響を受けながら活動しているということがわかりました。
この3つの領域を意識してみると、これ以降の講座の捉え方も変わります。受講生にとってまずは自分の活動の位置がどこにあるのか確認してから講座に取り組める良い機会となりました。

ファシリテーター/アドバイザーの小川智紀さん

映画のお金の集め方

休憩を挟み、映画監督の深田晃司(ふかだ・こうじ)さんの講義です。日本の映画業界と、映画製作の成り立ちを分析することでその仕組みを明らかにしていきます。
まず映画を作るためのお金をどのように集めたらよいのか。
その方法は、「映画製作会社などからの出資、金融機関からの融資」「公的機関からの助成金」「民間からの寄付・協賛」の3つに分けられます。深田さんは、ご自身の経験から、作家性の強いインディペンデント映画を作るには「公的機関からの助成金」があることによって創作の自由度があがると言います。
さらに、海外の状況と比較すると、国の文化予算や制度の違いによって各資金源の割合も異なります。例えばアメリカが国の文化予算よりも「民間からの寄付・協賛」が多いのは、税金控除の仕組みにより、寄付協賛を集めやすい環境だと言えます。
日本は「公的機関からの助成金」が他の先進国に比して圧倒的に少なく、かつアメリカのような寄付の文化とも違い、映画製作のための資金集めの課題について話されました。

講座資料から:3つのお金の集め方にわけられます

続いて、映画市場に関するお話では、製作費の算出方法について説明していただきました。例えば、製作委員会を作るときには、この映画にお客さんがどのくらい入りそうかという市場規模から逆算して予算を組み、委員会を作ります。日本国内のインディペンデント映画の市場規模はどのくらいかというと、映画市場全体の約2割しかなく、残りの8割は主に東宝、東映、松竹の3つが占めているという状況。さらに、この大手3社は、製作、配給、興行すべてを行う垂直統合型の構造になっています。市場原理主義の中でインディペンデントな活動をしようとするときに、まずは市場の仕組みを理解しなければ、戦略も練られないという当たり前のことに気付かされました。
また、フランスと韓国の事例として、健全な市場を守るための制度や、文化を守る仕組みについて紹介されました。しかし、こうした海外の文化予算や制度は、実は芸術文化に携わる人々の運動によって勝ち取られたもので、日本は圧倒的にこうした運動が不足しているのだそうです。作品をつくり続けていくために、目の前の課題だけではなく、国や政策への働きかけが必要不可欠だと感じました。

ゲスト講師の深田晃司さん

そもそも、なぜ多様性は重要なのか

市場を広げる、助成金・寄付金など外から資金を得ることで結果的に多様性を確保できることにもつながると深田さんは言います。その流れで「なぜ多様性は重要なのか。多様性とは何か?」という問いが深田さんから投げられ、グループに分かれてディスカッションを行いました。受講生はこの大きな問いに困惑しながらも、グループごとに話し合いました。「多様性は、人間らしく生きていくために必要」、「面白みにつながる」、「新たな価値が作られる」、「社会に強度を持たせるために必要だ」という各グループの発表の後、深田さんの講義に戻ります。
深田さんは、「映画(表現)は世界へのフィードバックだ」と言います。世界がその人にとってどのように見えているのかを表現していると、その表現する人が多様であれば、多様な世界のフィードバックができます。

世界がどのようにみえているかのフィードバックの図

最後に映画業界だけでなくアート業界にも影響があった、深田さん自身が発表されたハラスメントに対するステイトメントについてお話がありました。映画の現場で日常的に行われていたハラスメントについて、自分も誰かを傷つけないために、そして映画の仕事が安全な場所だということを自分たちで証明すべきだと思い発表したそうです。

実践に基づいたお話は説得力があり、業界が違っていても自分の活動に置き換えて考えられるお話ばかりでした。社会の決まりに沿って活動するのではなく、その状況に課題があるのであれば、それを自ら改善していくべしという力強いエールをもらったような講座となりました。

次回は、「ヴィジョン、ミッションを磨く」というテーマで、山元圭太(やまもと・けいた)さんの講師の回となります。


講師プロフィール

小川智紀(おがわ・とものり)
認定NPO法人STスポット横浜 理事長
1999年より芸術普及活動の企画制作に携わる。2004年、STスポット横浜の地域連携事業立ち上げに参画。2014年より現職。現在、アートの現場と学校現場をつなぐ横浜市芸術文化教育プラットフォーム事務局、民間の芸術文化活動を支援するヨコハマアートサイト事務局を行政などと協働で担当し、福祉事業のネットワーク化を模索している。NPO法人ジャパン・コンテンポラリーダンス・ネットワーク理事、NPO法人アートNPOリンク理事・事務局長、愛知大学文学部非常勤講師。

深田晃司(ふかだ・こうじ)
映画監督
1980年生まれ、東京都出身。2006年にアニメーション映画「ざくろ屋敷」、2008年に長編『東京人間喜劇』、2010年に『歓待』を監督し東京国際映画祭日本映画『ある視点』部門作品賞受賞。2013年には二階堂ふみを主演に迎えた『ほとりの朔子』を公開、ナント三大陸映画祭にてグランプリ受賞。2015年、平田オリザの演劇を映画化した『さようなら』を発表する。浅野忠信が主演を務めた2016年の『淵に立つ』で、第69回カンヌ国際映画祭ある視点部門の審査委員賞を受賞。最新作『本気のしるし・劇場版』が2020年度カンヌ国際映画祭オフィシャルセレクションに選出。2020年10月9日より全国公開。

執筆:アーツアカデミー広報担当 山崎奈玲子(やまざき・なおこ)
写真:古屋和臣(ふるや・かずおみ)
運営:特定非営利活動法人舞台芸術制作者オープンネットワーク(ON-PAM)

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