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アーツカウンシル東京ブログ

アーツカウンシル東京のスタッフや外部ライターなど様々な視点から、多様な事業を展開しているアーツカウンシル東京の姿をお届けします。

ダンスの芽ー舞踊分野の振興策に関する若手舞踊家・制作者へのヒアリング

今後の舞踊分野における創造環境には何が必要なのか、舞踊の未来を描く新たな発想を得るため、若手アーティストを中心にヒアリングを行いました。都内、海外などを拠点とする振付家・ダンサー、制作者のさまざまな創造活動への取り組みをご紹介いたします。

2021/08/11

ダンスの芽―舞踊分野の振興策に関する若手舞踊家・制作者へのヒアリング(5)川村美紀子氏(振付家・ダンサー)

2020年12月から2021年1月までアーツカウンシル東京で実施した、舞踊分野の振興策に関する若手舞踊家・制作者へのヒアリングをレポート形式で掲載します。

川村美紀子氏(かわむら みきこ/振付家・ダンサー)


最近の活動は、花に水をやって、コーヒーを淹れて、ヨガをして、気が向けば友人と出かけ、浜辺で貝などを拾いつつ、海に沈む夕日を眺め、1日が終わるという感じですかね。おかげさまで、のんびりやらせてもらっています。2019年の頭ぐらいから、東京の部屋の契約が終わってしまったので、どこ行こうかなと思って、南房総におうちを見つけてやって来ました。なんかぴょんと来ちゃいました。


©Etsuko Suzuki

色々なところに旅に出て、踊って、日常生活で思ったことなどを書き続けて

生計は、完全に貯蓄ですね。東京であくせく働いていたときにためたお金と、今は、村人からのごちそうとか、お昼をタダで食べさせてもらうかわりに手伝いをしたり、布マスクや水引をつくって売ったり、野菜をもらって、こちらもなにかあげたり。うちの周りってパン屋がないんですよ、でも、パンを買ってきてくれるお姉さんがいて、その人に小さい刺繍の作品をあげたりしました。
私、『短篇集』という本を出していまして。自伝なのですが、自分が海外とか色々なところに旅に出て踊ったことや、日常生活で思ったことなどを書き続けて売っているんです。主に自分の公演のときの物販とかで売るのですが、これを森下スタジオにも置かせていただいています。それを見た演出家の市原佐都子さんが、私に出てもらいたいと声をかけてくださり、『バッコスの信女―ホルスタインの雌』に出演することになりました。あんまり難しいことは考えずに、ぴょんってやってみちゃうから、それを受け入れてくださったスタッフの方々も、共演者の方々も、もちろん市原さんもすばらしい方だなと。
でも、あの作品の全体像を把握するのには、ちょっとまだ時間がかかっています。出演者として出て、日々リハーサルで繰り返しやっていたんですが、それが全体としてどういうふうに作用しているのか。もちろんどういうお話かというのは体に刻まれていますけど、それを自分で客観的に見られないところがありまして、まだ咀嚼中。牛のように、ぐるぐるぐるぐるという感じですね。

自分のやりたいことは、やりたいと思った時点でちょっとやっちゃう

自分の活動の中で、ダンスの位置づけっていうと、今は愛人的という感じ。なんかちょっと危険。夢中になっちゃうし、追えば去るし、逃げればついて来るみたいな。お金をくれる怪しい愛人ですね。
作品は、お話をいただいてつくるということがほとんどなので、それで、相手方がどう考えているのか、イメージしながらつくっていくような感じです。その中でだんだん膨らんでいくといいますか。コンペティションに出たのは、ほとんど間違いのようなもので、人からたまたま出てみればと言われて出てしまった。ただそれで、いろいろな仕事をいただくきっかけになったとは感じます。そうじゃなかったら、たぶん、こんなに色々な人からお声がけいただいて一緒に何かさせていただくというのもできなかったと思います。でもどちらかというと、お話をいただいて踊ったほうが生き生きできるのかなと思ったりもします。d-倉庫の「ダンスがみたい!」には隔年で呼んでいただいて、そういう年月を重ねて育める関係っていいなと思います。
自分のやりたいことは、本当に小さなことですけれど、やりたいと思った時点でちょっとやっちゃうんですよね、「私的トリビュート」という題名をつけて、自分で美しい景色を見つけて、カメラを置き、そこで踊り、詩を書き、音をつくり、映像にしてお届けするというライフワークをやっています。YouTubeで見られる、ただの私のライフワーク。


©bozzo

世界最小の「川村ダンスコレクション」を開催したんです

「裏企画」もありますね。2014年に「ダンコレ裏企画」というのを、あれはもう本当にやりたいと思って、衝動でやりました。アジア最大のダンスフェスティバル「横浜ダンスコレクション」が開催されているその横で、世界最小の「川村ダンスコレクション」を開催したんです。一番小さなダンスコレクション、出演者も私だけ、本家の「横浜ダンスコレクション」と同日同時刻に開催しました。まずは横浜赤レンガ倉庫の敷地内で開催し、その後転々と、6日間ぐらいかけて。20分、20分、20分とか、全部、出演者は私ですけど。衝動で、これは私はやる、やりたいと思った。ただ、その衝動が実社会のシステムにそぐわなかったことを、その開催後に知りました。期間中に横浜ダンスコレクションの事務局にお伺いして、「ちょっとお話いいですか」と丁寧に私の企画を理解してもらおうとしたのですが、結果的に怒られちゃいました。なぜこういうことが難しいのかが、当時、私はよく理解できなかった、意味がわからなかったんですね。地球上に細かく線を引っ張って、その中には所有者がいて、動いている人間たちがたくさんいて、お伺いを立てなければ踊ってはいけないという謎の決まりを、見に来てくれたお巡りさんが教えてくれました。それで、転々として、桜木町の駅まで来て、そこでも通報されて、最後はここならいいんじゃないって公園に行き着いて。ダンコレを盛り上げようとしていたんですけどね。「一緒に頑張ろうよ!大なり小なり」って。
表に出ていないものだと、2018年の年末年始に、年末カウントダウンを山手線の電車の中でやろうと思って、12月31日の夜11時59分に乗車している人たちに、スピーカーを持って「明けましておめでとうございますー!」と言って、それで、酔っ払って寝てる人の前で踊って、スピーカーを鳴らして、「今年もよろしくお願いします!」と言って踊った。そういうこともしています。


©bozzo

人の暮らしにそれとなくバグを仕込むことをやってみたい

「最近のダンス界、どう思う」「今のダンス界、どう思う」って、すごい私に言う人が多いのですが、何で私に聞くのか。自分で見て決めればいいのにと思いました。私もそんなわからないし。ただ、技術スタッフさんのことはすごく心配。勝手に私が心配しているだけなんですけど、いざ舞台ができるような状況にもしなったとして、この期間に作品を創作してそれをやろうと思っても、技術スタッフさんがいなかったら本末転倒というか、できない。「技術スタッフさん、どうしているのかな」とずっと思ったりしていますね。ダンサーの人は勝手にやるでしょうから、そんなに心配しないです。
私、テレビとかウェブとか全然見ないんです。ダンスと全然関係ない人と関わることが日常的に増えたのですが、そういう人に「ダンス、やっているんだ」と言うと、「じゃあ、テレビ、出たことある?」「YouTubeの再生回数、どれくらいあるの?」「『香水』のミュージックビデオ、どう思う?」「舞台、有名な人?」「芸能人の友達とかいる?」みたいな。そんな感じで言われると、何も言えないですよね。関係ない人たちは消費者なわけですから、知らないほうが平和なのかもしれないけど、無知ゆえの破壊力というか、とんでもなく一辺倒なことを直球で投げてきますよね、そういう人。
そういう人たちと一緒に過ごして、今、4年ぐらい経ちます。私がダンスをやっていることを知っている村人たちと。ようやくここ最近、色々な人が、私があまりにもこんな感じで、いきなりスーパーとかで「ああっ」とかやりだすので、世の人の方が「何となくわかってきた、大丈夫」みたいな感じに。なんか良い感じに馴染みました。そういうところから、メタすぎるレベル、つまりメディアとか電波とか天から与えられるダンスの情報じゃなくて、日常の人と人レベルで、人の暮らしにそれとなくバグを仕込むというか。そういう感じのことをちょっとやってみたいです。

インタビュアー・編集:呉宮百合香・溝端俊夫(NPO法人ダンスアーカイヴ構想)、アーツカウンシル東京


今後の活動予定:http://kawamuramikiko.com/schedule-dance/


©bozzo

川村美紀子(かわむら みきこ)
振付家・ダンサー
1990年生まれ。16歳からダンスを始め、2011年より国内外で作品上演を重ねている。「どこからかの惑星から落下してきたようなダンス界のアンファン・テリブル」(Dance New Air 2014/石井達朗氏)とも紹介されるその活動は、劇場にとどまらず屋外やライブイベントでのパフォーマンス、映像・音楽制作、アクセサリー製作など多彩に展開。日本女子体育大学 舞踊学専攻卒。2013-16年度セゾン文化財団ジュニア・フェロー。2014年初演『インナーマミー』で、トヨタ コレオグラフィーアワード 2014「次代を担う振付家賞」及び「オーディエンス賞」、横浜ダンスコレクションEX2015「審査員賞」及び「若手振付家のための在日フランス大使館賞」受賞後、渡仏。フランス国立ダンスセンターおよびCCN/Rを拠点に、パリ、リヨン、グルノーブル、マルセイユ、ル・アーブルにて半年間のレジデンスを行い、『地獄に咲く花 (LA FLEUR ÉCLÔT EN ENFER)』を発表。2019年より南房総へ移住。

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